今年のフェスは暗闇の中で、映画館の静謐を打ち破る音楽5曲

2021年8月16日 / 18:00

今年のフェスは暗闇の中で、映画館の静謐を打ち破る音楽5曲 (okmusic UP's)

骨身を削り、心血を注ぎ、魂を焦がしたイベントやライヴハウスが続々と潰され、毎年触れることのできていた“夏らしさ”を奪われ、自分なりの“ニューノーマル”を築くための一歩を踏み出すには過去の思い出があまりにも甘美に肩を掴んで引き止める、令和3年の8月。暴れてはいけない、マスク越しでも叫んではいけないのなら、今年の夏は大人しく孤独を噛み締めて、椅子に座って映画の楽曲に耳をそば立てよう。世界がいかに歪んでも音楽は必ず存在して、どれだけ距離を隔てても、見上げる空の色は違っても、カルチャーだけは平等に降り注ぐから。また、絶対に、笑って再会しよう。
「I Want to Take You Higher」 (’69)/Sly & The Family Stone

1969年、『Woodstock Music and Art Festival』から約160キロ離れた場所で開催された幻の音楽フェス『Harlem Cultural Festival』に陽を当てたドキュメンタリー映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』。予告編でSly & the Family Stoneが「もっと高い所へ行こう」とオーディエンスを鼓舞する姿からは、当時の、そして現代にも通ずる黒人社会を巡る情勢が垣間見える。ゴスペルとファンクロックが共振する「I Want to Take You Higher」の燃焼し続ける狂熱と祝祭の包容力、時間と国を隔てても瞬く間に“生”の躍動と高揚を瑞々しく弾けさせる音楽の魔法は解けることなく私たちの血を動かしていく。
「夜に数えて」(’19)/MOROHA

浪曲師の玉川太福、落語家の瀧川鯉八、春風亭昇々、立川吉笑からなる創作話芸ユニット“ソーゾーシー”の全国ツアーと舞台裏の姿をとらえた『劇場版 高座から愛を込めて』には、誰からも愛でられることのなかった昨春の桜も、目に留めるゆとりがなかった昨夏の向日葵も、マスクが必要なかった時代の笑顔も全て記録されている。MOROHAの「夜に数えて」は、YouTubeで期間限定公開されていた試作版の主題歌。これ以上は裸になりようがないほど剥き出しのままぶつかってくる葛藤、迷い、決意が心臓に爪を立てるMC、伸びて滑る影にも似たやさしさを打ち、寄り添うギターは、高座の上では“究極の個人芸”で勝負しながらも、かたく約束されたバトンリレーをつなぎ続ける4人の気迫、真摯さ、親愛の情と呼応する。
「ヤングリーフ」(’16) /やけのはら×ロンリー

2016年に発表されたやけのはらとロンリーのコラボレーション楽曲「ヤングリーフ」は、伊藤万理華主演の青春群像劇『サマーフィルムにのって』の挿入歌。やけのはらのフロウとリリックが眩しく煌びやかな情景のモザイクを軽やかに展開し、ロンリーのノスタルジーと逃げ水の感じさせるシンプルな残光が揺らぐ演奏が、忘れそうになっていた季節の記憶を体の奥底や裏側から呼び覚ます。与えられた時間と自由とエネルギーの全てを自分の好きなことだけに投じることができる宝物のひと夏を描いた映画の登場人物たち、彼らと共鳴する観客たちの胸の高鳴りをそのまま音楽として結晶化させたサマーアンセム。
「Rock’N’Roll Suicide」(’72) /David Bowie

まだ世界に知られておらず、カルチャーアイコンとしての地位を確立する前の若きデヴィッド・ボウイの葛藤と、アルバム『ジギー・スターダスト』の誕生を描く映画『スターダスト』。アルバムのクライマックスを飾る「Rock’N’Roll Suicide」の歌詞は、まるで映画のあらすじを綴ったように内省的で自問自答にも似て、絶望が立ち込めるカーテンを開けると、他の誰かを救い上げるスターの手が空への梯子をかける。語りかけるようなか細い歌声が咆哮と絶唱へ、ギターの和音のみのシンプルな演奏に重厚なホーン、荘厳なコーラスが合わさり、ソリッドな幕引きへと導かれていく。品とロマンチシズムに満ちた生涯を送った彼に相応しい、ドラマ性に溢れた一曲。
「Telefon」(’21)/LAUSBUB

実際に起きた殺人事件を映画化し、世界各国で上映禁止となり、昨年に約37年の時を経て日本初公開された『アングスト/不安』。実験的で斬新なカメラワーク、寒色のトーンに包まれながら正常/異常の間が揺らぐ演出と構成は非常に甘やかで美しく、自分にとって人生の包帯のような作品である。同作のクラウス・シュルツによる劇版に影響を受けて制作されたというLAUSBUBの「Telefon」は、関わりたくても関われないじれったを彩り豊かに詰め合わせたトイボックス。砂糖菓子のようにグッドチープでニューウェイビーなトラックの中で酩酊感を煽るギターと鼻にかかった逸る歌声の奔放さがもたらす快感が堪らない。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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