『25』G・ハーボ(Album Review)

2021年7月12日 / 18:00

 G・ハーボ(G Herbo)は、米イリノイ州シカゴ出身のラッパー。現時点ではメジャーといえるようなヒット曲はないが、軽いタッチでポップに媚びを売るようなヌルさがなく、ヒップホップ・フォロワーからの支持は厚い。

 16歳のとき高校を中退し、同郷のリル・ビビーとコラボした「Kill Shit」(2012年)を発表。この曲が高ストリーミングを記録して注目を集め、その勢いに乗せ2014年2月には同曲を収録した初のミックステープ『Welcometo Fazoland』を完成させた。同年12月には早々に2作目『Pistol P Project』を、翌15年に『Ballin Like I’m Kobe』、16年には『Strictly 4 My Fans』をコンスタントにリリースし、4作のミックステープで自信を蓄えた後、2017年9月に念願のデビュー・アルバム『Humble Beast』を発表した。

 『Humble Beast』は、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で21位、R&B/ヒップホップ・アルバム・チャートで14位、そしてラップ・アルバム・チャートでは10位にTOP10入りし、知名度が上昇。2ndアルバム『Still Swervin』(2019年)では1stのインパクトを超えられなかったが、2020年2月にリリースした3rdアルバム『PTSD』は、タイトル曲がソング・チャート“Hot 100”で38位に初ランクインし、本作もBillboard 200で7位、R&B/ヒップホップ・アルバム・チャートで4位、ラップ・アルバム・チャートでは3位とチャートの貢献も含め、高い人気と評価を獲得した。

 本作『25』は、その『PTSD』から約1年で完成させた通算4枚目のスタジオ・アルバム。タイトルの『25』には、昨年の10月に迎えた25歳という自身の年齢と、バースデーの1週間前に亡くなった友人への追悼が込められているのだそう。25年の人生・キャリアを振り返った曲や、25歳現在に抱える鬱々しさや世情など、内容にも直結する。トラックは、自身の代名詞であるシカゴ産ドリル/トラップが満載。オープニング・チューン「I Don’t Wanna Die」から、シカゴ・サウンドらしい強烈なドリル・ビートを炸裂させ、オープニング・コーラスでは子供たちの合唱を起用してイノセントに満ち溢れた死への恐怖心を煽る。

 「I Don’t Wanna Die」を手掛けたのは、ドイツのプロダクション・デュオ=キュービーツとサウスサイド。両者は、13曲目に収録されたヘヴィ級のヒップホップ「Demands」もプロデュースしている。2018年にリリースした『Swervo』(全米15位)でコラボレーションしたサウスサイドは、その他「Trenches Know My Name」、「Pray 4 My Enemies」、そして1stシングルの「Statement」も担当した。「Statement」は、ザ・ディプロマッツのデビュー作『ディプロマティック・イミュニティ』(2003年)から「I Really Mean It」をネタ使いしたハードコア(寄りの)硬派なヒップホップで、ドスの利いた声質~高いラップスキル、ド派手なネックレスとスポーツカーを見せびらかしたMV等、ラップ・ファンが絶賛する理由も納得できるクオリティ。

 同郷米シカゴのポロGと21サヴェージは、前作『PTSD』に続き今作にも参加。ポロGは、今年の4月に「Rapstar」がソング・チャート“Hot 100”で1位を獲得し、同曲が収録された3rdアルバム『ホール・オブ・フェイム』も先月No.1デビューを果たす等、目覚ましい活躍を遂げている。そのポロGが参加した「Cry No More」には、2月に「Calling My Phone feat. 6LACK」で初のTOP3入りを果たしたリル・ティージェイもフィーチャーされている。メロディックなピアノのバック・サウンドが悲愴感を漂わすトラックに、過去のトラウマやパンデミックによる変化等を示したメッセージを乗せ、3者共クールな表情をみせた。

 21サヴェージとコラボレーションした「T.O.P.」は、G・ハーボの強烈なラップと21サヴェージの滑らかなボーカルが対比効果を生むローファイ・サウンド(風味の)傑作で、本作の中では特に人気の高い一曲。宗教を糾弾するような表現もあり、攻めの姿勢が伺えた。ゲストが参加したタイトルでは、その他オーストラリア出身の若手ラッパー/シンガー=ザ・キッド・ラロイとガンナをフィーチャーした「You Can’t」と、米ブルックリンのギャング集団GS9のメンバー=ロウディ・レベル参加の「Drill」がある。

 「You Can’t」は、ガンナのプロデューサーとして活躍するターボが手掛けたメロウ・チューンで、ザ・キッド・ラロイの滑らかなコーラスとガンナの柔らかい声質が落ち着いたトーンを創り上げる至高の一曲。メロウでは、アトランティック・スターの「Let’s Get Closer」(1982年)をサンプリングしたアーバンな雰囲気の「No Jail Time」、25歳現在の信念と成長を示したジェイク・ワン(プロデュース)らしいジャジーな雰囲気の「Loyalty」もすばらしい。

 00年代初期のジェイ・Zや、初期のカニエ・ウェストを彷彿させる亡き友人への想いを歌った「Stand the Rain」、テイ・キースがプロデュースした3rdシングルの「Really Like That」~「2 Chains」、2018年に誕生した息子との会話が使用されている「Cold World」、ドン・キャノンがプロデュースした冷静と情熱を持ち合わせる「Whole Hearts」、深刻な問題について強力なビートとラップで打ち立てる「Turning 25」~ギャングらしいミュージック・ビデオ含め純度100%のヒップホップ「Break Yoself」等、何れもコアなファンが頷く傑作揃い。

 前述にもあるように、生い立ちや失ったもの、自ら抱えるトラブル~ラップ・シーンにおける彼是等、25歳を迎えて自身を深く掘り下げた内容が満載。他のラッパーと類似されたくないと公言するだけのオリジナリティもあり、90年~00年代に一世を風靡したトップ・スターへのリスペクトも感じられるアルバムだった。本作は、最新の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”で5位に初登場し、『PTSD』を上回る自己最高位を更新している。 

Text: 本家 一成


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