<ライブレポート>ずっと真夜中でいいのに。ライブから感じた観客と“持ちつ持たれつな関係”

2021年6月24日 / 18:00

 ずっと真夜中でいいのに。が2021年5月15日・16日に幕張メッセ幕張イベントホールでワンマンライブ【CLEANING LABO「温れ落ち度」】を開催した。

 “ヌクレオチド”は、糖・リン酸・塩基で構成される物質だ。それが“温れ落ち度”と表記されるだけで、温水によって汚れが落ちる度数とも読み取れる。実際、50度ほどのお湯のほうが、冷水より汚れを落としやすく、洗濯に適していると言われている。まさにクリーニング(洗濯)に相応しい造語だ。

 しかしこの言葉は、ACAねにとって、“温れ”と“落ち度”の2つの単語を意味していた。誰もが優しさや包容力がある一方、欠点を持ち合わせているのも事実。それを悲観し、悪用することなく、クリーニング(受け入れる)とラボ(挑戦する)を繰り返して成長していくことを誓う、ACAねの意思表示とも取れるライブ・タイトルだ。

 ステージには、お世辞にも“白く清潔に洗い上げられた”とは言えない衣類が吊るされ、またカラカラと音をたてながら洗濯機も回っていた。どこかディストピアの雰囲気に包まれた世界観は、昨年8月に配信された【オンラインライブ NIWA TO NIRA (有料)】と似ている。

 ペインターがスプレー缶でニコちゃんマークを描き終え、Zutomayo Mart(ずとまよマート)のドアをノックすると、バンドメンバーがステージに現れ、そのまま本番がスタート。開場時間も本番の一部であるかのような扱いはなんとも面白い。言葉を発さないこのメンバーたちの“音楽を奏でることしか知らない”と思わせるような、どこか野性的な動作ひとつひとつが、よりこのライブのストーリーに色を添えていた。

 錆びついた光のない世界観は配信ライブでも表現されていたが、それが立体的に、静かに存在するのを目にした瞬間、思わず驚きが漏れた。人気のない廃れた建物の中にポツリと不自然にある研究室(ラボ)から怪しげな光が発し、試験管やビーカーからは煙が上がっていた。攻撃的なステージ・ライティングから一転、暖色系の照明がステージを照らすと、そうした細部が見えたり、シーンがガラリと変わったりして、見ていて非常に面白かった。また、オープンリールや電子楽器に対抗するストリングスや鍵盤ハーモニカや和楽器、プロットも電子レンジや洗濯機という家電に対して、しゃもじや新聞という、アナログとデジタルをミックスしたパフォーマンスは、まさに音楽的実験を試みるずとまよを象徴していて、新しくも懐かしもあるこの融合は、いつ見ても聞いても新鮮である。

 声を出せない代わりに、ACAねの指揮にオーディエンスがツアーグッズの「ファイトTHEしゃもじ」を使って呼応するのも、愉快で微笑ましい場面だった。こうしたアクションが、確かにずとまよとオーディエンスを繋いでいた。この公演が本番を迎えるまで、ずとまよは2度のツアー中止を余儀なくされた。彼女たちには、この1年間、様々な声が届いていたことだろう。多くのことに保証ができないこの時期に、無事この日を迎えることができたことの喜びに満ち溢れていたのか、表情は見えなくても、言葉数は少なくても、ACAねが終始、口元を緩めていたことは感じ取れた。圧倒的な世界観とパフォーマンスでオーディエンスを魅了したことは間違いないが、ずとまよもまた、久々にオーディエンスに直接パフォーマンスを届け、そして彼らのキラキラと輝く表情を見たことで、これからも続くであろう不安定な時期を乗り越えるための元気と勇気を得たかもしれない。ライブは決してお客を楽しませるだけのものでもなく、逆にアーティストの自己満足のためだけのものでもない。持ちつ持たれつな関係が垣間見られた素晴らしいライブであった。

 ライブ終演後には、当時は劇場公開前だった映画『キャラクター』の特別映像が流れるサプライズも。Yaffleがプロデュースし、ACAねの透き通ったボーカルとRin音の尖ったラップが競い合う主題歌「Character」が猟奇的な登場人物とストーリーへの期待感を何倍も増幅させ、終演直後の興奮が冷めやらぬなか、観客の視線を一瞬にして掴んだことは間違いない。ライブ2日目には、6月18日に配信された新曲「あいつら全員同窓会」が、1か月も早く、しかも生演奏でパフォーマンスされたというのだから、ファンはその日から新曲のリリースを、首を長くして待っていたことだろう。オンラインRPG『PSO2 ニュージェネシス』のコラボ楽曲である本曲は、ACAねが出演するSpotifyのCMソングにも使われている。また、16日の模様が来る6月27日にWOWOWで放送。今回やむを得ず参加できなかったファンも、当日ライブに行ったファンにとっても、客席から目視できなかったステージの細部やこだわりを画面いっぱいに確認できる、またとないチャンスだ。発信を止めることなく、勢いを増し続けているずとまよの活動に今後も目が離せない。

Text by Mariko Ikitake
Photos by 鳥居洋介

◎公演情報
【CLEANING LABO「温れ落ち度」】
2021年5月15日(土)・16日(日)
千葉・幕張メッセ幕張イベントホール

◎番組情報
『ずっと真夜中でいいのに。CLEANING LABO「温れ落ち度」』
2021年6月27日(日)20:15~、WOWOWライブで放送&WOWOWオンデマンドで配信


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