YUKIの堂々たるソロ宣言!実力派アーティストたちと共に作り上げた『PRISMIC』

2021年4月28日 / 18:30

YUKIが2年2カ月振りとなるのニューアルバム『Terminal』を4月28日にリリースした。過去、さまざまなアーティストとのコラボレーションによって作品を作り上げてきた彼女だが、そのスタンスは今作にも引き継がれているようで、今回は奥野真哉(ソウル・フラワー・ユニオン)、今井了介、LASTorder等、初顔合わせもあるとのこと。“YUKIワールド”はさらなる広がりを見せているようだ。当コラムではその原点とも言えるデビュー作『PRISMIC』を紹介する。
やはりデビュー作にはすべてがある

この『PRISMIC』に関してあれこれ書こうと準備しながら、“このアルバムにもまた“デビュー作にはそのアーティストの全てがある”という説が当てはまるかもしれん…。って、その説は誰が提唱したんだっけな?”と、勢いでググってみたら、藤井フミヤのデビュー作『エンジェル』を紹介した当コラムが上位に来てちょっとびっくりした。調べてみたら、そもそも“デビュー作には…”なんてフレーズはなく、“処女作には、その作家の全てが表れる”が原文に近いもののようで(?)、それは文筆家を指して使用されるものだということが分かった。あと、誰が最初に言ったのかははっきりとしないらしいということも分かった。にもかかわらず、それを音楽に引用した己の適当さを今になって恥じるところではあるけれども、その一昨年の拙文を読み返してみて、とはいえ、そう的外れでもないことを書いているとも思ったので、掟破りにも引用してみようと思う。以下の[]が引用である。

[“デビュー作にはそのアーティストの全てがある”とはよく聞く話で、アルバム毎に音楽性を変化させたと指摘されるThe BeatlesにしてもDavid Bowieにしてもそれは当てはまるようだ。(中略)バンドから離れてソロ活動に転じた時のデビューアルバムとなると、さらにそのアーティストの方向性が明確に出ると思う。それもまたThe Beatlesを例に取るのが分かりやすいだろう。John Lennonは自らの人間性を露呈し、Paul McCartneyはメロディーメーカーとしての職人的資質を推し進めたと言われている]。

――以下、CAROLと矢沢永吉、BOØWYと氷室京介・布袋寅泰、そのコラムの主題である藤井フミヤの話と続いていくのだが、ここでの本題はYUKIの『PRISMIC』なので、話をそちらへシフトする(もし少しでもご興味を持っていただけたなら先のコラムもお読みいただければ幸いである)。
上記拙文にて指摘したことが『PRISMIC』にも当てはまるように思う。本作を意識してちゃんと聴いたのはたぶん今回が初めてではあるが、彼女がソロアーティストになったことを生々しく描写したというか、暴露にも近いドキュメンタリー作品であるようにも感じた。

筆者のようなJUDY AND MARYを聴き続けて来なかった輩でも、明らかにバンドと違うことをやろうとしていることがありありと分かるし、そればかりか、少し乱暴に言うならば、過渡期であることをある意味で開き直っているかのような感触さえある。誤解を恐れずに言えば、少し取っ散らかっていると言っていいと思うし、それを理解しつつも整合性を図ろうとしていない気配もする。どこまで自覚的だったか分からないけれど、収録曲がバラエティーに富むことによって、シンガーとしてのポテンシャルが浮き彫りになることを感じ取っていたのかもしれない。

本稿作成にあたってYUKI作品を全て聴くことは適わなかったので、以下はほぼ伝聞となってしまっていることをご容赦いただきたいが、2ndアルバム以降は、ポップさが前面に出たり、ダンサブルになったり、メッセージ性が強くなったりと、作品毎の変化はあったそうだが、近作9thアルバム『forme』では様々なアーティストから楽曲提供を受けるスタイルとなったと聞く。

こうした傾向をとらえても、彼女は自身のシンガーとしての方向性を模索しながら作品を作り続けてきたことが想像できるし、20年近く経って原点回帰したとも考えられる。その意味で、『PRISMIC』はアーティストの全てがあるデビュー作だったと言ってもいいのではないだろうか。手前みそながら、そう思う。
インパクトの強い多彩な楽曲群

勢い余って結論めいたものを書いてしまったが、話を戻して、ここからは『PRISMIC』収録曲を個別に見ていきながら、そのバラエティーさを検証していこう。オープニングはM1「眠り姫」。音も比較的地味目でシンプルなバンドサウンドではあるものの、“眠り姫”どころか、何か滾っているような、迸っているような空気感がそこにある。これは編曲クレジットに名を連ねるSEAGULL SCREAMING KISS HER KISS HERの日暮愛葉のテイストが発揮されたのだろう。JUDY AND MARYとは明らかに感触は異なるものの、これもまた間違いなくロック。バンド解散後の初の音源の1曲目として、インパクトを示すには十分過ぎるほどだったと思う。

続く、M2「the end of shite」も日暮が手掛けたナンバー(こちらは同氏が作詞、作曲も担当)。パンチの効いたオルタナ系のバンドサウンドで、勢いもあるし、M1以上に攻めている印象がある。歌詞はまとめて後述するが、M2は歌詞を含めて剥き出し感も強い。これを1stシングルとして先行カットした辺りにソロ活動に臨む心意気も感じるところだ。ちなみに、ファンの中にはそのことをご存知の方も多いだろうが、「the end of shite」のMVは内容がかなり過激で物議を醸した。

当時、MVのオンエアを見送る局が多かったとも聞く。現在もオフィシャルでは公開はされていないようなので、気になった人は自力で調べてみてね…くらいのアドバイスしかできないけれど、その過激なパフォーマンスからも当時のYUKIの力の入れ具合をうかがえる。M3「66db」は、後に3rdシングルにもなったミドルテンポのナンバー。メロディアスで十分にポップではあるものの、サイケというかアシッドというか、サウンド面ではどこか実験的な要素も感じられる。2番からはビートも効いているが、M1、M2に比べれば所謂バンドっぽさは薄い。

だが、それゆえに、作品としての幅の広さ、引いてはアーティストの懐の深さも十二分に感じさせるところで、『PRISMIC』はこのM1~3で掴みはバッチリだったと言えると思う。シャッフルのR&Rナンバー、M4「サヨナラダンス」は再びベーシックなバンドサウンドで、続くM5「惑星に乗れ」はデジタルを前面に打ち出したかのようなスペイシーなテイストと、それぞれタイプは異なるものの、共にメロディーが親しみやすく、バンド時代のYUKIを彷彿させるところを感じる。この辺はどこまで意識的だったのか分からないけれど、ファンにしてみれば安心したのかもしれないとも想像した。また、M4はCarole Kingの未発表音源のカバーで、アレンジには會田茂一が参加。M5はクラムボンのミトが編曲を担当と、名立たるアーティストとのコラボレーションが成功していることもよく分かる。
多彩な音楽家とのコラボ

6曲目以降の楽曲ではさらにバンド時代とは違うYUKIを魅せる。M6「Rainbow st.」はディスコティックなナンバーだ。サビでノイジーなギターを聴かせるバンドサウンドもカッコ良く、モロにディスコというよりもミクスチャーといった感じ(ラップも入っているし)。M7「I U Mee Him」で聴かせるバイオリンが絡んだロックサウンドも新鮮だ。ヴォーカルテイクがどこか幻想的で、洋楽っぽい印象もある。これも日暮愛葉が手掛けた楽曲であり、YUKI本人が彼女とのコラボレーションを熱望したというのもよく分かるし、M1、M2と同様、M7もその試みが極めてうまくハマったことを物語っているとも言えるだろう。

The Jon Spencer Blues Explosionのドラマー、Russell Siminsがアレンジに参加したM8「忘れる唄」はブルース~ソウルの匂い。ヴォーカルはラップ調……とは言っても、いわゆる“ハーコー”ではなく、日本で言えばスチャダラパー辺りの緩めな感じで、同じくラップの入ったM6とは別の赴きを見せている。M9「愛に生きて」は童謡や唱歌っぽい柔らかいメロディーが印象的なナンバーで、スピッツが演奏を担当している。そういった質の旋律だからスピッツを起用したのかどうか分からないけれど、スピッツを少しでも知る人ならM9のイントロを聴いただけでこれがスピッツの演奏だと分かるほどに、どうしようもなく、彼らの音である。その意味でも、ソロとなったことを示すには格好のナンバーと考えられなくもないが、それは半分冗談としても、ソロであるからあらゆる意味で自由に音楽制作が出来るといった表明であったと見ることはできるだろうか。

M10「プリズム」は米国のパワーポップバンド、JellyfishのAndy Sturmerの作曲。フォーキーなメロディーで、それに合わせたかたちなのだろう、サウンドはピアノやストリングスを配したさわやかな仕様になっている。歌詞も含めてファンにとって名曲認定されているようで、タイトルからしてもアルバムの中心と言っていい楽曲であろう。アルバムのラストはバラード2曲で括られる。アレンジャー、亀田誠治のベースラインも印象的なM11「ふるえて眠れ」は、シンプルに聴こえるものの、実にしっかりと構築されたアンサンブルで、亀田誠治のうまさがいぶし銀のように光る。一方、M12「呪い」はオルタナ系のギターサウンドで迫るフィナーレに相応しい大作。構成、展開に派手さはなく、メロディーが循環していくようなタイプながら飽きずに聴けるのは、スリリングな演奏が手伝っていることは間違いなく、この辺は編曲の會田茂一の確かな手腕によるものでもあろう。

…と、ザっと全曲を解説してみたが、これだけでも全12曲がそれぞれに特徴的であることが分かっていただけると思う。この時点でのやりたいこと、やれることを全力でやっている感じがとにかく伝わってくる。
ソロならではの前向きを垣間見る

歌詞からも容赦なく熱情が感じられる。当時のインタビューで“大事なものは愛”といった発言をしていたことを紹介するまでもなく、いずれの歌詞においてもさまざまに表現した“愛”があふれており、それを音楽やバンドに重ねることもできるが、それよりも何よりも言葉にすることを躊躇していない感じが清々しい。

《私の闇を 振り払うその手は/ここには もう いない/生きている誇りもなく 誰かが言う/「ただのわがままの果て」》《私の髪を なでる愛しい手は/ここにはもう いない いないよ/残されて腐ってゆく 私は言う/「終わらない愛なんて」》(M1「眠り姫」)。

《ねえ見て もっと触れてみてよ/知ってる あたしの奥の方までずっと/好きにしていいの》(M2「the end of shite」)。(※作詞は日暮愛葉)

《間違いや 後悔はすぐ 恥ずかしい想い出になる/もっと、そばに おいでよ》(M5「惑星に乗れ」)。

《本当のことを 知りたい/うそでもいいから 知りたーーーーーーい!》(M8「忘れる唄」)。

《ゆっくりと大事に育てましょう/脳みその中まで踊るほどに幸せなの/そのしぐさのひとつひとつが私を/とりかえて/新しく》(M9「愛に生きて」)。

《花咲く丘まで 口笛吹いてこう》《いじわるな人が とやかく言うけれど/私は、どこかで まちがえたかしら?/今はわからない/答えは 空の上》《見たことのない場所へと まだ/歩いていけると 思ったんだ》(M10「プリズム」)。

これまた、本人がどこまで意識していたのか分からないけれど、ソロ活動をスタートさせるにあたって、自分の中のリミッターを外した印象はあるし、それによって視界がクリアーになったというか、思考がポジティブになった部分があったようにも見える。不安な部分も垣間見えるが、それも含めて表に出しているということは、総体的には前向きであったととらえてよかろう。ソロデビュー作として実に堂々としたアルバムと見ることもできる。
TEXT:帆苅智之
アルバム『PRISMIC』
2002年発表作品

<収録曲>

1.眠り姫

2.the end of shite

3.66db

4.サヨナラダンス

5.惑星に乗れ

6.Rainbow st.

7.I U Mee Him

8.忘れる唄

9.愛に生きて

10.プリズム

11.ふるえて眠れ

12.呪い


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