ゴダイゴの初期傑作『DEAD END』に見る汎用性の高いメロディーと充実のアレンジ力

2021年4月14日 / 18:00

昨年5月に逝去した浅野孝已がゴダイゴ楽曲をセルフカバーしたナンバーを、アコギ、エレキそれぞれのに分けたセレクションCD、『ACOUSTIC COVERS OF GODIEGO BEST SELECTION』と『GUITAR COVERS OF GODIEGO BEST SELECTION』とがリリースされた。国民的な人気を誇ったバンド、ゴダイゴの偉大なギタリストを偲んで、今週はそのゴダイゴの実質的な1stアルバム『DEAD END』を取り上げてみた。大ヒット曲とは少し手触りが違う作品としてコアなファンには今も人気の高い本作だが、のちに大ブレイクを果たすスーパーバンドのポテンシャルを十分に感じることができる、これも名盤である。
1970年代の最重要バンド

“勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし”という言葉がある。肥前国第9代平戸藩主・松浦清が家督を息子に譲った後、松浦静山の名で執筆した剣術書にある言葉だそうで、南海、ヤクルト、阪神、楽天の監督を歴任した野村克也氏が広めたと言われる名言だ。言うまでもなく、その意味は、どうして勝ったのか分からない勝利がある一方で、負けた時にはそこに必ず敗因があるということ。ひいては、勝った場合でもそこには負ける要因があったかもしれないので、勝利に奢って、その要因を見逃してはならないという注意喚起も含まれた言葉である。この言葉は武道、スポーツに限らず、さまざまな分野でも当てはまると言われる。

確かに、音楽、エンタメ業界においても“不思議の負けなし”という事例はあるように思う。例えば──自分は制作サイドの人間ではないので、そこに具体的な何があったのかは分からないけれども、一発屋には一発屋になる要因があったのだろうし、鳴り物入りでデビューしつつも鳴かず飛ばずなんてケースも何らかしらの敗因が潜んでいたのだろう。それでは、“不思議の勝ち”はどうだろうか? まったくないことではないだろうが、案外その事例は少ない。もしくはあってもそれが持続することはほとんどないような気がする。例えば…と、ここで具体名を挙げるのは流石に控えるが──いや、というよりも、実例が即座に思い浮かばないし、頭を絞り出して名前を上げてみたとしても多くの読者はそれを認識できないかもしれない。それこそが不思議の勝ちがそれほど多くない証拠ではなかろうか。

先に挙げた一発屋と呼ばれる人たちの一部には不思議の勝ちがあったかもしれないが、その人たちがそれ以後、二発、三発と続かなかったこともそうであろう。つまり、音楽、エンタメ業界においては“勝ちに不思議の勝ちなし”と言えるのかもしれない。もっと簡単に言えば、俗に“売れた”と言われる人たちには、それを裏付けることができるだけの要因が必ずあったとも言えるはずである。これも具体名は避けるが、メジャーとインディーズを行き来しながらもシーンからフェードアウトすることなく、長年活動を続けているアーティストには、それができるだけの要因が間違いなくあるのであろう。また、それまで鳴かず飛ばず…とまでは行かないまでも、今ひとつ伸び悩んでいたバンドがちょっとしたきっかけで一気にブレイクを果たし、その後シーンに欠かせない存在になった…なんて事例にも、必ずやその勝因があると言える。

“ある”がないとか“ない”があるとか、自分で書いてて訳が分からなくなってきたので、この辺で話題を、本題であるところのゴダイゴ『DEAD END』へと移させていただく。これまた説明するまでもなかろうが、1978年から1979年にかけて、シングル「ガンダーラ」「Monkey Magic」「ビューティフル・ネーム」「銀河鉄道999」とヒットを連発して絶大なる人気を誇ったバンドである。当時の人気もさることながら、1990年代半ばに小沢健二がゴダイゴへのリスペクトを公言したり、2000年代にはその影響をモロに受けたバンド、MONKEY MAJIKが登場し、EXILEが「銀河鉄道999」をカバーして今や彼らの代表曲になっていたりと、後年へ及ぼした影響も計り知れない、邦楽史における重要バンドである。

全盛期の国民的人気がどんなものであったのかは、以前、当コラムで『西遊記』を取り上げた際に書かせてもらったので、そちらをぜひご参照いただければ幸いであるけれども、そこでも書いた通り、1975年結成のゴダイゴはデビューして即座にブレイクしたわけではない。「ガンダーラ」、「Monkey Magic」までは3年かかっている。わずか3年と思う人がいるかもしれないが、彼らはデビューから全編英語詞にこだわっていたこともあり、業界内で一定の評判はあってCMや映画でその音楽が重宝されていたものの、当初は今ひとつパッとしなかったと聞く。いわゆるチャート上で流行曲と闘えるほどの状況にはなかったのである。それがドラマ『西遊記』とのコラボレーションによって一変(そこら辺の顛末も以前のコラムをご参照いただきたい)。それにはドラマのプロデューサーの慧眼があったことは疑うまでもないけれど、実質的にゴダイゴの1stアルバムである『DEAD END』を聴き返してみると、“見る人は見てるんだなぁ”というか、世界的なヒットドラマを制作したスタッフだけあって、ゴダイゴというバンドの本質を的確に見抜いていたのだろうと思わざるを得ないのである。自分の場合は、今となってそう思う…という完全なる後付けだけれども、『DEAD END』にはのちに国民的な人気を獲得することになる“勝因”が確実にあることが分かる。
ポピュラリティの高いメロディー

まず、何と言ってもタケカワユキヒデ(Vo)の作るメロディーライン、そのポピュラリティの高さである。M1「MILLIONS OF YEARS(時の落し子)」からして隠しようのないメロディアスさが全開。サウンドはストリングスのみで、そこに彼のメインヴォーカルが乗り、彼自身のコーラスが重なるという構成は、本作がコンセプトアルバム的な作品であって、そのオープニングナンバーであるというポジションに関係しているのかもしれないが、こうしたシンプルなサウンドであることで、メロディーの強さが際立っている印象だ(メロディーが強いからこそ、こういうサウンドに仕上げたのかもしれない)。M2「IN THE CITY(イン・ザ・シティ)」とM3「STOP & LOOK AROUND(サムの息子)」とはミッキー吉野(Key)の作曲で、ヴォーカルの主旋律はキャッチーではあるものの、どちらかと言えば全体にはロック的なカタルシスを求めている感じがある。

また、M4「DEAD END~LOVE FLOWERS PROPHECY(デッド・エンド〜ラヴ・フラワーズ・プロフェシー)」は、2曲を一曲にまとめたナンバーで前者がタケカワの作曲で、これも十分にキャッチーなのだが、ソウルミュージック感が若干前に出ている雰囲気ではある。それらの楽曲を経て辿り着くM5「THE LAST HOUR(ラスト・アワー)」が、これまたメロディアス。M1とは違って、こちらはロックバンドのサウンドではあって、やや重めでありつつ、サイケデリックさも加味されてはいるものの、唱歌のような大らかさというか、記憶の奥底に訴えかけてくるような本能的な親しみやすさがあるように思う。それをPaul McCartney的と形容する人もいるようだ。いずれにしても、このM5はアナログ盤で言えばA面の終わり(本作が発表された時は当然LP盤しかなかった)。M1で始まりM5で終わるというのは、否応なしに、ゴダイゴの持つメロディーラインの大衆性を感じさせるところである。

B面は特にそれが分かりやすい。M6「PANIC~IMAGES(パニック〜イメージ)」は、これも2曲を一曲にまとめたナンバーで、M4以上に“ニコイチ”感が強い。前者が吉野、後者がタケカワの作曲で、ハードロックからフォークソングに展開するような組曲的な作りなので、余計に両者が作るメロディーの質の違いがはっきりと分かって面白い。前半(つまり「PANIC」)はサイケでありハードロックであり…ということはプログレ的というか、ある種、実験的なサウンドが放たれる一方で、後半そこから一転、いきなりと言っていいほどにアコースティックギターの音色に乗ったCarpentersのような美麗なメロディーが飛び出す。キレのいいリズムとギターのカッティングが心地良いM7「UNDER UNDERGROUND(アンダー・アンダーグラウンド)」は、Steve Fox(Ba)のヴォーカルも入ってファンクサウンドが前に出ているからか、そこまで歌の主旋律に耳が取られない感じではあるが、続くM8「A FACE IN THE CROWD(孤独な面影)」で、再び柔らかくも力強いメロディーラインを聴かせてくれる。

M9「(CRIME IS) THE SIGN OF THE TIMES(血塗られた街)」はキャッチーはキャッチーだが、大らかさ柔らかさは薄く、本作のタケカワ作曲ナンバーでは唯一印象が異なる感じ。M9は中盤くらいから変拍子的なリフレインにリバース音が重なったり、シャウトが入ったり、かと思えば、ドラムソロが続いたりと、プログレッシブというか、どこかインスト的な要素もあるので、歌が目立たないのは止む無し(?)といったところだろうか。ラストのM10「MIKUNI(御国)」は吉野が作曲したドラマチックなミディアムバラード。これも緩やかで大らかなイメージではあるが、明らかにタケカワのナンバーとは雰囲気が異なる。さっきPaul McCartneyの名前を挙げたので、こちらをJohn Lennon的とするのは安易ではあろうが、そんな違いはあるのかもしれない。まぁ、それは冗談半分としても、M2もそうだったのだが、少なくとも本作での吉野メロディーはブラックミュージックのフィーリングが強いかもしれない。一方で、タケカワの旋律はクラシカルというか古典的というか、いい意味でルーツや背景を感じさせないものではあろう。どちらが良いとか悪いとかではなく、タケカワの旋律のほうが大衆的とは言えるだろう。それは汎用性にもつながっていく。前述したのちのゴダイゴのヒット曲は全てタケカワが手掛けたものだ。その萌芽は確実に『DEAD END』にあり、それは今もはっきりと確認することができる。
ミッキー吉野のアレンジの妙味

また、本作も全編英語詞で、そのタケカワのメロディーと英語との相性が絶妙なのである。個人的にはM6、つまり「IMAGES」が白眉だと思う。流れるような言葉の乗り方がメロディーの抑揚を損ねていないばかりか、旋律のふくよかさを助長しているかのようである。件のヒット曲、全編英語詞の「Monkey Magic」以外も、「ガンダーラ」も「ビューティフル・ネーム」も「銀河鉄道999」も、サビは全て英語である。この辺はゴダイゴの最大の特徴であるメロディーの良さと、歌詞とのマッチングの絶妙さとをちゃんと汲み取った結果であっただろう。そうしたこともまた『DEAD END』で確認できるところである。

それでは、タケカワのメロディー以外にゴダイゴには魅力がなかったのかと言ったら、もちろんそんなことはない。そのサウンドの多彩さというか、縦横無尽さと言ったものが、高レベルで発揮されていることが本作からもうかがえる。ディズニー映画の劇伴のようなM1から始まって、ブギー、ソウルと続き、前述したようにM6でプログレ、M7でファンクと、バラエティーに富んだサウンド、バンドアンサンブルを聴ける。M8「A FACE IN THE CROWD(孤独な面影)」を“柔らかくも力強いメロディーライン”と書いたが、サウンドはややスリリングな印象がある。とりわけキーボードが不穏な雰囲気を醸し出しており、歌の主旋律だけのイメージでは語ることができない複雑な世界観がそこにあるように思う。“吉野メロディーはブラックミュージックのフィーリングが強い”と書いたが、M10が若干ゴスペルチックなのはその辺の関係があったのかもしれない。いずれにしても、どの楽曲も編曲担当のミッキー吉野が大車輪の活躍をしていることが分かる。ニコイチのM4やM6もアレンジの妙味があったのだろう。個人的にはキーボードがやや前に出すぎかも…と思わないこともないけれど、それにしてもシンセによってそれまで他になかったサウンドを作ろうとした結果だったと考えることができるし、好意的に受け取れる。本作は[終わりの見えない社会状況をテーマにしたアルバムである。そのため全アルバム中、最も暗く渾沌としており、ロック色も最も強い]と言われており、それはリーダーである吉野が強く意識したものであったようだが、実際そういう手触りになっているのだから、事の良し悪しはともかくとして、その試みが成功したと言えるであろう([]はWikipediaからの引用)。

また、この時すでにゴダイゴは映画やドラマの音楽も手掛けていたわけで、そのキャリアも十分であったが、『DEAD END』の充実っぷりからもさまざまなサウンドを司るに足るバンドであったことはよく分かる。『西遊記』のスタッフもその辺を見抜いたのだろうか。実際のところは分からないが、『DEAD END』に宿るメロディー、サウンドからは、バンドのポテンシャルを充分にうかがい知ることができたと思う。“勝因”はばっちりあったと言えるし、“勝ちに不思議の勝ちなし”なのであったのである。…ここまで書いて、音楽、エンタメ業界では“不思議な勝ち”なないことは何となく分かったが、とすると“不思議の負け”があるのかもしれない。それも調べてみたいところではあるが、それは別の講釈で──。
TEXT:帆苅智之
アルバム『DEAD END』
1977年発表作品

<収録曲>

1.MILLIONS OF YEARS(時の落し子)

2.IN THE CITY(イン・ザ・シティ)

3.STOP & LOOK AROUND(サムの息子)

4.DEAD END~LOVE FLOWERS PROPHECY(デッド・エンド〜ラヴ・フラワーズ・プロフェシー)

5.THE LAST HOUR(ラスト・アワー)

6.PANIC~IMAGES(パニック〜イメージ)

7.UNDER UNDERGROUND(アンダー・アンダーグラウンド)

8.A FACE IN THE CROWD(孤独な面影)

9.(CRIME IS) THE SIGN OF THE TIMES(血塗られた街)

10.MIKUNI(御国)


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