<ライブレポート>いきものがかり15周年記念ライブ、今こそ響かせたい普遍的なポップ・ミュージック

2021年3月17日 / 18:00

 いきものがかりが3月14日、翌日に控えたデビュー15周年を記念したライブ【いきものがかり デビュー15周年だよ!!! ~会いにいくよ~特別配信ライブ】を開催。無観客の神奈川・横浜アリーナで約2時間のパフォーマンスを行い、その様子を配信した。

 ショーが始まり、画面に映し出されたのは、スタンドの客席エリアにスタンバイした吉岡聖恵(Vo)、水野良樹(Gt)、山下穂尊(Gt/Hmc)の3人。「お久しぶりです。今日は一緒に楽しんでいきましょう」と挨拶の言葉に続き、始まったオープナーは「会いにいくよ」。公演のタイトルにも据えられたこの曲は、セットリストの“0曲目”として記載された、いわば本公演のイントロダクション。そして同時に、本来ならば同じ空間でアニバーサリーを祝いたかったはずのリスナーに対して、メンバーが真っ先に伝えたかったであろうステートメントでもあったのではないか。<いつか悲しみが闇を連れ 世界を閉ざしてしまったとしても/僕は歌うよ いつもの この場所 この空 君が帰るまで>という社会的な時勢ともリンクする歌を、吉岡はハンドマイクを持たず、アリーナのがらんどうの空間を一心に見つめながら放っていく。

 続いては、リハーサルや打ち合わせ、会場の設営風景などを捉えたオープニング映像。BGMは初めてメンバー3人が共作した「太陽」だ。そのままメンバーとサポートの面々が円陣を組み、ステージに向かっていく様子が映し出されると、いよいよライブがスタート。「配信ライブにはなっちゃったけど、それも楽しさに変えていけたら」と水野が話せば、生感のあるアコースティックな音色で組み立てた1曲目「笑顔」が始まる。後方のスクリーンに映し出されたのは、ともに歌いコーラスを奏でるファンの映像で、ステージ上のハピネスに華を添える演出だ。さらに2曲目「茜色の約束」は、夕焼けを思わせる背景の前でパフォーマンス。視聴デバイスがスマホだろうがPCだろうが、こちらから見えるステージは画面の中なのだが、それでもアリーナレベルの大会場ならではのスペクタクルがそこにはあったように思う。

 「画面の向こうに(お客さんが)いるんだなって思うだけで、やっぱり空気が違うよね」。そう言って水野が「ツアーではないんですけど、あれはやっておきたい」と話し、メンバーが一人ずつ「みなさん、こんにつあー!!」と定番の挨拶をする流れに。続けて、「普段のライブだと長い時間やるから、だんだんと階段を作って、最初のMCのあとはわりと重めの曲をやるんですけど、今日は配信なので、みんなすぐ欲しいでしょ?」と煽れば、小気味よいドラムの導入から「気まぐれロマンティック」がスタート。ぴょんぴょんと飛び跳ね、所狭しとステージを練り歩き、手を振り、サビではお決まりのダンスを踊る吉岡。山下のハーモニカと水野のギターもそれぞれ見せ場を決める。水野の宣言通り、序盤からいきなり急転直下のジェットコースター的なショー運びなのだが、そこに熟練プレイヤーたちの手腕と余裕が垣間見える。

 <こころよ 自由になれ>と高らかに歌う「アイデンティティ」は、吉岡が最後にポツリと呟いた「一緒に頑張ろう」という言葉も含めてどこまでもポジティブだったし、続く「KIRA★KIRA★TRAIN」で歌われる旅立ちのノスタルジアは、逆説的に私たちに帰るべき場所があることを思い出させてくれる。社会の混迷でメンタルヘルスを損ないやすい今日だからこそ、様々な形で心の拠り所となってくれるいきものがかりの音楽は最高の精神カンフル剤だ。Nコン課題曲として制作された「YELL」は、別れの戸惑いや孤独を肯定してくれる応援歌で、卒業ソングのスタンダードとして愛されてきたナンバーでもあるが、吉岡いわく今年は「特別な春」になったからこそ「みんなと大切に育てていきたい曲」としてプレイ。演奏がクライマックスに近づくと、白い光の柱がステージを覆うように差し込み、演者の頭上で交差する様も美しかった。

 そこから一転、サウンドの緊張感を解き、軽快なホーンを躍らせながら、メンバー3人が代わる代わるにヴォーカルを担ういきものがかり流のレゲエ・ポップ「夏・コイ」を挟み、VTRのコーナーへ。バンドのデビュー前に始まったラジオ番組『寄り切り!押し出し!!上手投げ!!!』を復活させ、FM yokohamaのラジオブースから3人がトークをお届けするという趣向で、番組名の由来が水野と同姓同名の力士だったこと、当時ディレクターにラジオの基本を教わったこと、そして3月31日リリースのニュー・アルバム『WHO?』収録の「からくり」を2005年の初回放送時にオンエアしていたことなど、3人はラフな雰囲気で昔話に花を咲かせた。

 そんな番組の締めの挨拶として「15年間の感謝の気持ちを込めて、この曲をお送りしたいと思います」とコメントし、画面が再びステージに切り替わると、披露されたのは「ありがとう」。続けて、ドラマ『未解決の女 警視庁文書捜査官』主題歌の「きらきらにひかる」、アニメ『BORUTO-ボルト- NARUTO NEXT GENERATIONS』オープニングテーマの「BAKU」と、アルバム『WHO?』の期待感を高めるシングル表題曲を続けると、やがてショーはクライマックスへ。「みんな、どこにいるー? ここに来てー!」「タオルを回して! 声を聞かせて!」と煽る吉岡は、「じょいふる」でバイタリティを炸裂、最後は「15周年だから」と15回ジャンプを敢行してパフォーマンスを締めくくった。そしてラストは「15年の始まりの曲を」「この曲を歌うと当時の空気を思い出すし、また頑張ろうと思える」と、2006年のメジャー・デビュー曲「SAKURA」を披露。オリジナルに忠実に寄ったバンド・アレンジ、その中でステージに立つ3人はたしかに15年を歩んだ3人で、これまでのバンドの歴史に想いを馳せずにはいられない一幕になった。

 アンコール・パートが始まると「ニュースがあります」と水野。お知らせは二つで、一つは4月にキックオフ予定のツアーに追加公演が決まったこと、もう一つはアルバム『WHO?』に収録される新曲「TSUZUKU」が映画『100日間生きたワニ』に起用されることだ。そしてこの日、その「TSUZUKU」を初お披露目することも発表。「この1年間、本当に色んなことがあって、それぞれに大変な物語があって、“続く”ということがめちゃくちゃ難しい1年間だった」「これからもたぶんその困難は続くと思うけど、だからこそ自分の感情を大切にしたり、目の前の日々を大切することが、すごく難しいけどすごく大事」「僕らも続けていきたいと思っている」と楽曲に込めた意思を語ったのち、いきものがかり印のグッド・メロディとミドルテンポが心地よい「TSUZUKU」の初パフォーマンスを披露した。

 この日、最後の最後を飾ったのは「風が吹いている」。『NHKロンドンオリンピック・パラリンピック』のテーマソングという、一つの時代を象徴的に切り取ったこの曲はつまり、世代や価値観やコミュニティの境界線を越える普遍的なポップ・ミュージックへの挑戦であり、その探求が「TSUZUKU」として新たな結実を迎えたことを思うと、やはり15年間の歩みに感慨を覚えずにはいられない、そんなフィナーレだった。

Text by Takuto Ueda
Photo by 岸田哲平/TEPPEI KISHIDA

◎公演情報
【いきものがかり デビュー15周年だよ!!! ~会いにいくよ~特別配信ライブ】
2021年3月14日(日)
<セットリスト>
0. 会いにいくよ
1. 笑顔
2. 茜色の約束
3. 気まぐれロマンティック
4. アイデンティティ
5. KIRA★KIRA★TRAIN
6. YELL
7. 夏・コイ
8. ありがとう
9. きらきらにひかる
10. BAKU
11. じょいふる
12. SAKURA
ENCORE
13. TSUZUKU
14. 風が吹いている

見逃し配信:~2021年03月21日(日)16:59
チケット販売期間:~03月21日(日)12:00
チケット料金:3,915円(税込)※サンキュー15周年価格
視聴プラットフォーム:Streaming+ / Stagecrowd


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