<ライブレポート>桑田佳祐が配信ライブで体現した、音楽という“生きる糧”の素晴らしさ

2021年3月9日 / 18:00

 2021年3月7日に、桑田佳祐が無観客配信ライブ【静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~】を開催した。

 2020年には、サザンオールスターズで2度にわたる配信ライブを行った桑田佳祐。ソロとしては初となる配信ライブの舞台となったのは、これまた初出演となるBlue Note Tokyoだった。ライブは生配信ではなく、事前収録された映像が19時より2時間にわたり配信された。

 Blue Note Tokyoがある東京は緊急事態宣言が延長される中で“静かな春”を迎えようとしていて、未だ出口の見えそうで見えない新型コロナウィルスと暗闘中。そうした状況下であろうとなかろうと、ライブで観る桑田佳祐は常に絶対最高なのだが、65歳を迎えたアーティストのあくなき音楽への情熱、ライブステージに懸ける思いと覚悟を、改めてこのライブで知ることとなった。

 軽やかに“戯れ”と呼ぶにはあまりにもかっこよすぎる。ライブのオープニングを飾ったティン・パン・アレーのカバー「ソバカスのある少女」でアコースティック・ギターを鳴らして歌い出した瞬間、部屋の中があっという間にBlue Note Tokyoになったような気がしたほどだ。配信でもそれぐらい臨場感のある、なんと張りがあって艶のある歌声なのだろう。サザンのライブではどんな時期のどんな大きな会場でも、桑田の第一声にグググッと心を掴まれてきた。世界的なアーティストたちが出演してきたBlue Note Tokyoの素晴らしくクリアな音響で、ますますその歌声の魅力が伝わってきたのだから、こんな贅沢なライブはない。有観客だとしたらチケットはプレミア化するだろうし、配信という形でPC最前列でこのライブを観れることに感謝である。

 「Blue Note Tokyoに上がれるというのは、私にとって憧れでして」、「ライブハウスの殿堂です」と、MCからも伺えるように、桑田佳祐は音楽文化への憧憬と敬畏を深く抱いているアーティストだ。そして、誰よりも熱心に音楽への興味を探求してきたミュージシャンだと思う。初期サザンで顕著に表れていたブルース、ジャズ、歌謡曲的なアプローチは、彼の音楽ルーツの一端をはっきりと示していたし、前半で披露された4ビートの「こんな僕で良かったら」、サイケでブルージーな「愛のささくれ~Nobody loves me」等のソロ曲は、サザン楽曲とはまたひと味違った、よりパーソナルな音楽センスを垣間見せるものだった。それがBlue Note Tokyoのステージにピタリとハマっていた。

 桑田はそうした自身のルーツを核に持ちつつ、時代ごとの音楽トレンドに敏感に反応して先鋭的な楽曲を発表してきた。それでいて、これまでもことあるごとに様々な形で、自身を形成してきた音楽への感謝の念、リスペクトを表現してきた稀有なアーティストだ。それはこの日のカバー曲を織り交ぜたスペシャルなセットリストにも表れていた。Blue Note Tokyoという場所柄、シブい洋楽カバーが飛び出すかと思いきや、浅川マキ「かもめ」、加藤登紀子&長谷川きよし「灰色の瞳」という、ひと癖もふた癖もある情念が籠った選曲。それが「東京」へと繋がっていく流れは、鬱屈した都会のムードを表すには十分すぎる、震えるほどの迫力で、この日のハイライトとなっていた。ライブ終盤では大人なライブハウスにピッタリなセクシーな大ヒット・ナンバー「スキップ・ビート(SKIPPED BEAT)」(KUWATA BAND)でスタッフも巻き込んでコール&レスポンス、「真夜中のダンディー」では間奏で自らギターソロを取り、洋楽の名曲のメロディを弾いてみせたり。アンコールではドクター・ジョンの「Iko Iko」のカバーでセカンドラインのビートからそのまま「ヨシ子さん」に突入したり、ジュリーこと沢田研二の「君をのせて」をしっとりと歌い上げてから「悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)」に繋げたりと、世代も国もまたいだ音楽の楽しさ、面白さをサポート・ミュージシャンたちの卓越した演奏に乗せて、サービス精神たっぷりに届けてくれた。そしてそれは、楽しいとき、苦しいとき、悲しいとき、どんな状況下であろうとも、音楽は人々の生活を彩るのに欠かせないものであることを体現していた。

 後半、「アスリートはもちろん、みなさんに、我々のエールが届きますように」とのMCで「SMILE~晴れ渡る空のように~」がライブ初披露された。さわやかなメロディとまさに晴れ渡る空のようなサウンドは、配信を通して多くの人の胸を爽快にさせたことだろう。「我々は歌うことしかできないけど、歌うことでみなさんと繋がっていたいと思う」(桑田)。この日の配信ライブからは、ファンのみならず、音楽を届ける様々な仕事に携わる多くの人が勇気をもらえたと思う。どんなときでも、音楽は生きる糧になる。その素晴らしさを教えてもらった夜だった。いつかBlue Note Tokyoに足を運んで桑田佳祐のライブを観れる日が来ることを楽しみにして、明日を生きようと思う。

Text by 岡本貴之
Photos by 岡田貴之

◎セットリスト
【桑田佳祐 無観客配信ライブ「静かな春の戯れ ~Live in Blue Note Tokyo~」】
2021年3月7日(日)
1. ソバカスのある少女(ティン・パン・アレー カバー)
2. 孤独の太陽
3. 若い広場
4. DEAR MY FRIEND
5. こんな僕で良かったら
6. 愛のささくれ~Nobody loves me
7. 簪 / かんざし
8. SO WHAT?
9. 東京ジプシー・ローズ
10. グッバイ・ワルツ
11. 月光の聖者達(ミスター・ムーンライト)
12. かもめ(浅川マキ カバー)
13. 灰色の瞳(加藤登紀子&長谷川きよし カバー)
14. 東京
15. SMILE~晴れ渡る空のように~
16. 明日へのマーチ
17. 大河の一滴
18. スキップ・ビート (SKIPPED BEAT)
19. 真夜中のダンディー
<ENCORE>
1~2. Iko Iko(ドクター・ジョン カバー)~ヨシ子さん
3~4. 君をのせて(沢田研二 カバー)~悲しい気持ち (JUST A MAN IN LOVE)
5. 明日晴れるかな

◎配信情報
見逃し配信期間:2021年3月14日(日)23:59まで
チケット:4,500円(税込)
※配信メディアによって異なる手数料がかかる場合がございます。
※収益の一部は「Music Cross Aid ライブエンタメ従事者支援基金」を通じて、ライブエンタメ業界のために役立てていただく予定です。


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