<ライブレポート>YOASOBI初ライブ【KEEP OUT THEATER】を振り返る 興奮を拡散させる“仕掛け”も考察

2021年3月1日 / 18:00

 2月14日、YOASOBIのオンラインライブ【KEEP OUT THEATER】が開催された。

 チケット購入者は約4万人。一躍ブレイクを果たしたYOASOBIの初ライブというだけでも大きな注目を集めたわけなのだが、実際に蓋を開けてみたら、驚くべきポイントが本当にたくさんあった。パフォーマンスだけでなく、演出やその届け方も含めて、新しいオンラインライブの可能性を提示するようなものになっていた。

 開演は18時。ライブがスタートすると、画面には廃墟のような光景とエレベーターに乗ったメンバーの足元が映し出される。Ayaseとikura、そしてバンド・メンバーが工事現場のフロアに設けられたステージに向かう。“YOASOBI”の文字をかたどった電飾看板を背後に立ったikuraがアカペラで歌い、1曲目の「あの夢をなぞって」からライブはスタート。プロジェクション・マッピングがメンバーたちの背景を鮮やかに照らし、遠景から捉えたカメラがステージ背後に広がる都心の夜景を映し出す。この冒頭の展開には度肝を抜かれた。

 舞台となったのは、“立ち入り禁止の劇場”を意味するタイトルの通り、新宿ミラノ座跡地に建設中のビルの工事現場に設けられた特設ステージ。ライブハウスや配信スタジオではなく、今回限りのスペシャルな場所だ。

 しかも、そこには“小説を音楽にするユニット”としてのYOASOBIの意味と文脈がちゃんとある。デビュー曲「夜に駆ける」の原作小説『タナトスの誘惑』は“屋上”を舞台にした物語。そして、デビュー当初からあったキービジュアルは、都市の夜景と“YOASOBI”と描かれた電飾看板を背後にしゃがみこんで前を見据える少女の姿を描いたイラストだ。つまり、この【KEEP OUT THEATER】がビルの工事現場を舞台にしたのは、単なる思いつきのアイディアではなく、いわばYOASOBIが世に登場したときにイラストとアニメーションで描かれていたイメージをリアルな場所に“具現化”するようなコンセプトを、その向こう側に読み解くことができるわけである。

 ライブは「ハルジオン」「たぶん」「ハルカ」と続く。序盤のAyaseとikuraにはさすがに緊張の色も見えたが、視聴者からのライブ・チャットを読み上げたり、メンバーが持ち寄ったマグカップで乾杯したりと、途中のMCではゆるいムードも醸し出す。さらに後半の「怪物」から雰囲気は一転、アグレッシブな曲調とスモークの演出でぐっとテンションをあげていく。

 ラストは「夜に駆ける」から「群青」へ。あっという間に全8曲のパフォーマンスが終わり、工事現場の鉄柱にAyaseとikuraが自らの名を記す。加えて至るところに“落書き”されたスタッフや関係者の名前をカメラがスタッフロールのように映し出すという粋な演出で、YOASOBI初の配信ライブは幕を閉じた。

 ――というのが、2月14日に開催されたライブのあらまし。それだけでも非常に印象的だったのだが、YOASOBIならではのオンラインライブの可能性の拡張を強く感じたのは、その後の展開だった。

 というのも、今回の【KEEP OUT THEATER】は、メディア・プラットフォームのnoteを使って、視聴者からのライブレポートを広く募集する企画が行われていたのである。noteにアカウントを作り、“#YOASOBI初ライブ”のハッシュタグをつけて投稿すれば、ライブレポート企画には誰でも参加可能。しかも、視聴者がライブのスクリーンショットを自由に撮影し、それを使用することもできる。リハーサルや楽屋の模様にも密着したオフィシャルのライブレポートはライター/小説家のカツセマサヒコが担当しているのだが、それもカツセマサヒコのnoteアカウント上で公開されているので、公式のライブレポートと視聴者から募集したライブレポートが、いわば同じ土俵で並ぶという見え方になる。

 実際、noteで“#YOASOBI初ライブ”のハッシュタグを検索すると、100本以上(2月27日現在)のライブレポートが投稿されている。

https://note.com/hashtag/YOASOBI%E5%88%9D%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96

 そして、yoasobiの公式noteアカウントでは「投稿した記事を全て読ませていただき、グッと来たものを独断と偏見で選出させていただいております」と12本のライブレポートが掲載されている。

https://note.com/yoasobi_staff/m/m2363d0472f76

 そもそもYOASOBIは、小説投稿サイト『monogatary.com』から生まれたユニットなわけで、その成り立ちを考えても、こうした投稿企画との相性はとてもいい。

 さらに言うならば、会場の熱気や盛り上がりを肌で感じられるリアルライブと比べて、どうしても画面を通しての体験になってしまうがゆえに興奮が共有しづらいのがオンラインライブの特性でもある。しかし、こうした企画があれば、ファンは他の人のレポートを読むことで、それぞれの感動を追体験することができる。

 というわけで、筆者がこの企画を通して深く考えさせられたのは、「そもそも、オンラインライブのライブレポートってなんだろう?」ということだった。

 コロナ禍以前だったら、ライブレポートというのは、筆者のような音楽ライターが執筆し、メディアに掲載される記事のことを指すことが多かった。リアルライブの場合、ライブレポートにはたいていステージでのパフォーマンスだけでなく、拍手や歓声などオーディエンスのリアクションも含めてその場の状況や雰囲気が記述されている。だから、最前列でライブの盛り上がりに参加するお客さんではなく、後方から俯瞰でその光景を見る立場であるライターがレポートを記述することに意味がある。カメラマンが臨場感たっぷりのライブ写真を撮影することにも意味がある。

 が、オンラインライブにおいては、そうした立ち位置の違いはない。YOASOBIの例で言えば、現場で密着していたカツセマサヒコを除けば、全員が画面を通しての体験になる。さらに、視聴者が撮影したスクリーンショットがすべて臨場感たっぷりのライブ写真になる。だからこそ、そのスクリーンショットを用いてファンが投稿したライブレポートのほうが、メディアに掲載された記事よりも、むしろ現場の興奮や感動を追体験するためのドキュメントとして有効に機能する。

 こうした企画が成立したのはYOASOBIだからこそ、という見方もあるだろう。が、筆者にとっては、オンラインライブのライブレポートというもののあり方をゼロから問い直されるきっかけにもなった初ライブだった。

Text by 柴那典


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