『ミュージック』シーア(Album Review)

2021年2月15日 / 18:00

 米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で1位を記録した「チープ・スリルズ」(2016年)や、ブレイクのキッカケを掴んだ「シャンデリア」(2014年) 、 ゲストとして参加したデヴィッド・ゲッタの「タイタニウム」(2011年)や、フロー・ライダーの「ワイルド・ワンズ」(2011年)などの大ヒットから、リアーナやビヨンセ、ケイティ・ペリーといったトップスターに楽曲提供するなど、2010年代は幅広い活躍でシーンを牽引してきたシーア。昨年は、映画監督としてもデビューを果たして新境地を開拓。自身が手掛けた『ミュージック』という作品は、来たる2月末開催予定の【第78回ゴールデン・グローブ賞】で2部門でノミネートされ、高い評価を得ている。
 
 本作は、その映画『ミュージック』にインスピレーションを受け制作したアルバムで、前述のデヴィッド・ゲッタや英ロンドン出身のR&Bシンガー=ラビリンス、ナイジェリア出身のバーナ・ボーイといった個性的なゲスト陣をはじめ、シーアらしい世界観がこれまで以上に確立している。近年は映画のインスパイアード・アルバムとしてリリースされる作品も多く、ケンドリック・ラマーの『ブラックパンサー:ザ・アルバム』(2018年)や、ビヨンセの『ライオン・キング:ザ・ギフト』(2019年)などが大成功を収めたのも記憶に新しい。
 
 本作からは、アルバムのオープニング・ナンバー「トゥゲザー」が1stシングルとして前年5月にリリースされた。この曲は、fun.(ファン)のメンバーでもあるジャック・アントノフとの共作で、シーア独特のキャッチーな旋律と、ファンの作品を彷彿させるバロック・ポップ的要素もある、まさに両者のコラボレーションにより完成したといえる傑作。「過去を断ち切って」、「自分を認めて」などのフレーズや、平和の象徴ともいえるレインボー・カラーのMVは、映画のコンセプトに則った内容に。
 
 本作『ミュージック』は、2007年に自身が書いた短編小説を基に作家のダラス・クレイトンと共同で完成させた脚本で、麻薬を密売する異母姉と生活する自閉症の少女の人生が画かれている。過去から未来へ、何かを断ち切って進んでいこうというメッセージが、本作の曲にも所々に綴られた。映画には、人気女優のケイト・ハドソンや、「シャンデリア」のミュージック・ビデオに出演したマディー・ジーグラー、昨年「コールド」でコラボレーションしたレスリー・オドム・Jr.などが出演している。
 
 2ndシングルの 「カレッジ・トゥ・チェンジ」にも、「自分を変える勇気はある?」~「一人じゃない、一緒に苦難を乗り越えよう」と、映画の内容に沿った歌詞が綴られた。本作の中でも特に力強い存在感を示すパワー・バラードで、それもそのはず、共同制作者にはポップ・シンガーのピンクが、プロデューサーには両者の作品でもおなじみのグレッグ・カースティンがクレジットされている。
 
 3曲目のシングルとして先行リリースした「ヘイ・ボーイ」は、前2曲から一転、ダブとエレクトロを融合させた、カラっとしたイメージの陽気なファンク・ポップ。「シャンデリア」のプロデューサーでもあるジェシー・シャトキンと、デュア・リパの最新作『フューチャー・ノスタルジア』などで活躍を遂げた女性ソングライターのカミーユによる共作で、サウンドにフィットしたライトな歌詞と、ファンキーなボーカルが心地よい。本編ラストには、バーナ・ボーイをフィーチャーした別バージョンも収録。
 
 『フューチャー・ノスタルジア』といえば、そのデュア・リパがボーカル・ゲストではなく、ソングライターとして次曲「セイヴド・マイ・ライフ」に参加するというサプライズも。彼女の作品とは一線を画す重めのミディアムで、作品のコンセプトを考慮した姿勢が伺える。
 
 タッグが定番化しつつあるデヴィッド・ゲッタとの「フローティング・スルー・スペース」は、両者のコラボレーション「バング・マイ・ヘッド」(2015年)の続編ともいえる、フロア映えする華やかなダンス・トラックで、1日、1年を乗り越えた喜びを、軽快なサウンドに乗せて祝福している。
 
 タイトル曲「ミュージック」や「ビューティフル・シングス・キャン・ハプン」など、スローも充実。前者は、歌詞にも登場する交響曲のような壮大さがあり、諭すようにゆっくり紡ぐ歌唱法でメッセージを強調させている。後者はアカペラに近い広がりのあるバラードで、感情を振り絞る絶唱には圧巻。個性あるビジュアルやサウンド・センスはもちろん、歌唱力も折り紙付きだとあらためて実感させられた。「ミュージック」のプロデュースは、12曲目の「オブリヴィオン」にゲストとして参加しているラビリンスが担当。「オブリヴィオン」も弦の音が心地よく響くクラシカルな雰囲気があり、ラビリンスのナイーヴなボーカルも楽器のように奏でられた。
 
 重圧なエレクトロ・ビートの近未来的なミディアム「アイ・トゥ・アイ」、「一つずつプラスして変わろう」とポジティブなメッセージを乗せたエレ・ポップ「1+1」、ちょっと過激な表現をユルめに歌う「プレイ・ダム」、静かなヴァースから大胆なフックへ展開する「ライ・トゥ・ミー」。曲調、歌詞の内容も様々だが、その抑揚がストーリーに通じているようで、本作だけでも映画を堪能したような充実感がある。作品と重ねることでより曲のもつ意味が際立つだろうが、それをなくしても十分なクオリティといえる。
 
 なお、映画はアルバムと同日の2021年2月12日に全米のIMAXシアターで限定公開されたが、日本での公開は今のところ未定。
 
Text: 本家 一成


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