『メディスン・アット・ミッドナイト』フー・ファイターズ(Album Review)

2021年2月12日 / 18:00

 ポスト・グランジの名盤と名高いデビュー・アルバム『フー・ファイターズ』(1995年)のリリースから25年目を迎えたフー・ファイターズ。さらに本作『メディスン・アット・ミッドナイト』は記念すべき10作目のスタジオ・アルバムであり、キャリアの節目にして集大成といえる作品。
 
 チャートの功績を振り返ると、米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”では最高23位を記録した『フー・ファイターズ』以降、2ndアルバム『ザ・カラー・アンド・ザ・シェイプ』(1997年)が10位、3rdアルバム『ゼア・イズ・ナッシング・レフト・トゥ・ルーズ』 (1999年)も同10位、4thアルバム『ワン・バイ・ワン』(2002年)が3位、5thアルバム『イン・ユア・オナー』(2005年)が2位、6thアルバム『エコーズ、サイレンス、ペイシェンス・アンド・グレイス』(2007年)が3位、8thアルバム『ソニック・ハイウェイズ』(2014年)が2位、そして7thアルバム『ウェイスティング・ライト』(2011年)と9th『コンクリート・アンド・ゴールド』が1位に輝き、UKアルバム・チャートでは1stから9thまで、9作連続でTOP10入りを果たしている(うち4作が1位)。
 
 これだけのヒット作がありながら、新作『メディスン・アット・ミッドナイト』について「これまでの最高傑作」など、辛口メディアがこぞって絶賛しているから驚かされる。ロック・バンドの場合、マニアやファンからの手厳しい批評も多く寄せられるだけ、尚更に。
 
 プロデュースは、前作『コンクリート・アンド・ゴールド』に続きグレッグ・カースティンが担当。賛否はあるが、ポップ、R&B、ヒップホップまでジャンルの垣根を超え何でも熟すグレッグだからこそ、生み出せたサウンド・プロダクションがある。メンバーのテイラー・ホーキンスも、本作について「これまでのポスト・グランジ(アルバム)とはまた違う、よりポップ志向の作風」だとコメントしている。たしかに、彼等の作品に馴染みのないリスナーにも入りやすいアルバムで、時代、ジャンルレスでたのしめる内容になっている。
 
 1stシングルの 「シェイム・シェイム」からは、90年代のインディ~オルタナティヴのフレイバーが感じられた。バンドの原点であり、ナインティーズ最大のアイコン=ニルヴァーナの面影もチラホラと、本作一のインパクトを放っている。不安な感情をモノクロ画で描いたMVも好評で、米メインストリーム・ロック・チャートと、ロック・エアプレイ・チャートではいずれも1位を記録した。グランジの粗い感触がかつての忠誠を再認するタイトル曲「メディスン・アット・ミッドナイト」もすばらしい。
 
 2ndシングルの「ノー・サン・オブ・マイン」は、モーターヘッドの「エース・オブ・スペーズ」(1980年)に触発されたとされるヘヴィ・メタル。強烈なギター・リフ、クラッシュするドラム・プレイ、時折みせる感情を抑制したクールな音いずれもすばらしい構成で、ライブ映えも間違いないだろう。ライブといえば、1曲目の「メイキング・ア・ファイア」もライブのオープニングで盛り上がりそうなハード・ロックで、会場の声援に置き換えられそうな女性のバック・コーラスが漲る表情を与える。  
 
 一方、3rdシングルの「ウェイティング・オン・ア・ウォー」は、叙情的に歌うアコースティック・ギターを主とした静を前半に、後半は速度を上げたロック・サウンド(動)に移行する二部構成の大作で、デイヴが娘と戦争について話した際の思いの丈と、幼少期に感じていたことを綴った歌詞もシンプルながらメッセージ性強く「これまでの中でも最高傑作のひとつ」と自画自賛したのも納得できる出来栄え。
 
 ポップ志向では、故デヴィッド・ボウイを彷彿させるスピード感あるダンス・ロック「クラウドスポッター」、メロディックなパンク・ロック「ラヴ・ダイズ・ヤング」、インタールードのギター・ソロが光るメロディラインがキャッチ―な「ホールディング・ポイズン」が、スロウでは60年代のブリティッシュ・ロックに通ずる静かに漂う優しいバラード「チェイシング・バーズ」があり、バンドの本領であるハード・ロックはもちろん、様々な側面を兼ね備えた佳作となっている。
 
 全9曲、36分強と小粒ではあるが、それだけに一曲一曲の存在感は大きく、ボリュームよりクオリティを優先したアルバム…と、いえるかもしれない。作品を重ねる毎、多くのバンドは「あの頃の輝きは……」と嘆かれるものだが、フー・ファイターズは良くも進化を遂げ、新しい作品を届けてくれる。本作では、畑の違う音楽要素を結び付けた挑戦、発想、センス、手腕も発揮されている。ニルヴァーナの影響が色濃く出たアルバムも無論良いが、時代背景に沿った作品を生み出すバンドの度量には脱帽。

Text: 本家 一成


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