イノマー(オナニーマシーン)が教えてくれたパンクロック5選 『家、ついて行ってイイですか?』編

2021年2月1日 / 18:00

イノマー(オナニーマシーン)が教えてくれたパンクロック5選 『家、ついて行ってイイですか?』編 (okmusic UP's)

『追悼・イノマー(オナニーマシーン)が教えてくれたパンクロック5選』と名づけたレコメンドをここで書いたのが一年前。今年の正月、1月6日放送のテレビ東京『家、ついて行ってイイですか?』放送後、再びたくさんの人に読んでもらってることに驚き、みんながイノマーに興味を持ってくれたことが嬉しかったので、調子に乗ってもう一本書きます(笑)。2019年12月23日、イノマーのパートナーであるヒロちゃんが葬儀の帰り道に声をかけられて、『家、ついて行って~』で第一弾が放送されたのが昨年の3月。その続編として放送された1月のスペシャルで上出遼平ディレクターが撮影していた癌発症からのドキュメンタリーが放送されると、“イノマー”がTwitterで世界トレンド1位を獲得するほど大反響。病気療養中から一周忌まで、その一部始終を間近で見ていた俺は番組とその反響をなんとも不思議な感覚で見てましたが。かなり近いところにいた俺が番組を観て思ったことや思い出したこと、感じたことを思い出の楽曲とともに綴ってみます。
「STAY GOLD」(’99)/Hi-STANDARD

俺がイノマーの影響でハイスタを聴き始めた話、20年振りにハイスタのライヴを一緒に観た話は前回も書いたが。葬儀から約1年が経った11 月末日、イノマーの一周忌と納骨式に参列した俺の頭の中にぐるぐると回っていた曲がこの曲だった。まだ俺が20代前半、イノマーが30代前半。オリコンを辞めて下北に事務所を構えて、大好きなインディーズバンドを追っかけて、『STREET ROCK FILE』や『インディーズマガジン』を作って、オナニーマシーン(以下、オナマシ)がライヴを始めて、打ち上げでお酒飲んでゲラゲラ笑って。こんな日がずっと続くはずだと思ってたあの頃。思い出に浸ってばかりじゃダメだけど、《The memory makes me smile》の歌詞みたいに遺影の中で笑うイノマーを見てたら、楽しすぎたあの頃のことを思い出して、思わずニヤけてしまった。その後、お互いいろいろあって、厳しい現実もたくさん見せられたけど。最期に命燃やしてキラキラ輝く姿を残して去っていったイノマーが師匠として、弟子である俺に最期に残してくれた教えは「輝き続けろよ」ってことだったと思ってる。
「そのぬくもりに用がある」(’03) /サンボマスター

2001年5月、オナマシ主催の『ティッシュタイム』にサンボマスターが初登場。メンバー3人、客2人程度のライヴだったけど圧巻のステージを見せてくれて。何かが憑依したようにギターソロを弾く山口隆 を見て、「本物じゃねぇか!」とイノマーと大興奮したのがサンボとの出会いだった。その後、03年7月、オナマシとサンボのメジャーデビュー盤となるスプリットアルバム『放課後の性春』がリリース。中でも俺が大好きだった曲が「そのぬくもりに用がある」だった。イノマーが亡くなる数日前、俺がお見舞いに行くとサンボのメンバー3人が揃っていたことがあった。お見舞いなのに湿っぽさはまったくなく、あの頃と何も変わらないノリで思い出話して、病室なのにゲラゲラ笑って。イノマーはもうほとんどしゃべれない状態だったけど、その話を楽しそうに聞いてた。2019年10月に開催された『ティッシュタイムフェスティバル』では「オナニーマシーンのテーマ」でライヴを始めて、「そのぬくもりに用がある」も披露してくれたサンボ。初めて出会ったあの日も、病室で笑ったあの日も、ティッシュフェスの日も、そこには愛という名の温もりがあふれてた。
「駆け抜けて性春」(’05)/銀杏BOYZ

番組を観た人が衝撃的だったシーンとして多く上げてるのが、危篤になったイノマーの病室に峯田和伸が駆けつけると、急に意識を取り戻したイノマーが峯田に抱きつくシーン。現場ではあの後、暴れすぎたイノマーの心拍数が乱れて、のちに「危うく峯田くんが殺しかけるところだったね」なんて笑い話にしてたのだが。峯田は再び意識を失ったイノマーの横に座り、半日近く黙って手を握り続けていた。そして、その数日後、家に帰れるまで体調を回復する奇跡の復活劇を見せたイノマー。あの時、俺は愛のチカラって本当にあるんだなと素直に思った。それと俺が番組を観ながら改めて思ったことは、「峯田くんって本当にやさしい人だな」ということ。イノマーの癌闘病を支援するためイベントを自ら開催し、多忙な中で何度も病室に通い、病人扱いすることなくいつも通りに気丈に接して、『ティッシュタイムフェスティバル』では最高のステージを観せてくれた峯田。生きるか死ぬか分からないイノマーに死ぬ気で尽くす峯田は、《あなたがこの世界に一緒に生きてくれるのなら 死んでもかまわない》の歌詞を体現してるようだった。
「じゃますんなボケ(何様ランド)」 (’96)/Theピーズ

死ぬ間際のやせ細ったイノマーの姿をテレビで観て、「こんな姿まで見せちゃうんだ」と驚いた俺。生前のイノマーはカッコつけでプライドが高くて、チンポや自分のダメ人間ぶりを芸として見せることは平気だけど、日常の本当にダサいところや弱いところは近い存在の俺にも見せない人だったので。「不特定多数の人たちにこの弱々しい姿を見せるのはどう思うんだろう? 」と思ったけど。その時に頭に浮かんだのが、イノマーが大好きだったTheピーズの「何様ランド」だった。オラの世界の夢の中で夢を見続けて、《自分自身がネタになるんだ》と自分を追い詰めて受け入れる姿もネタにして。最期は「これでも喰らえ!」と命を燃やしきって表現する姿、その生き様と死に様をも作品として正月のお茶の間に放り込む。「何様ランド」の歌詞になぞらえて考えた時、あの人が生涯貫いた心念がようやく分かった気がしたし、どう思うどころか本人はしてやったりだったろうなと思った。そして実際、その映像がたくさんの人たちの心を打ったのだから恐れ入る。ロックは生き様とよく言うけど、死に様までさらけ出しきった人はそういないだろう。
「I♡オナニー」(’02) /オナニーマシーン

番組のラストシーン。『ティッシュフェス』の帰り道で「今のところ、人生どうですか?」と訊く上出ディレクターに、「楽しい、楽しかったよ。楽しすぎるのも良くないな」と息も絶え絶えに答えたイノマー。俺はイノマーの含蓄ありそうなその言葉に、「また夢になるといけねえ」という落語「芝浜」の下げを思い出して「なんだか落語みたいだな」と思って聞いていた。10年ほど前、オナマシや編集者としての全盛期、いわば楽しかった時間が過ぎてしまって、仕事や日常に支障が出るほど酒に溺れていたイノマー。当時、イノマーのことが嫌いになるのが嫌で少し距離を置いていた俺は「あの人はどんどん乖離していく夢と現実の隙間をお酒で埋めてるんだろうな」と思って見てた。しかしその後、体と心を壊してきっぱりとお酒をやめたイノマー。オナマシ20周年に向けてバンド活動も活発になってきて、「俺の好きだったイノマーが戻ってきた!」と喜んでたのだが。その矢先に訪れたのが、癌の発覚。でも、その時のイノマーは逃げなかった。「また夢になるといけねえ」と思ったかは知らないけれど、お酒に逃げることもなく、癌という厳しい現実と対峙する決心を決めて、まさに死ぬ覚悟で『ティッシュフェス』のステージに臨んだ。そんなイベントのラスト、あの頃の仲間たちと歌った曲が「I♡オナニー」だった。一度は酒に溺れて廃人になりかけた男が死ぬ気で挑んだ、一世一代のステージ。その姿を3,000人の観客が見守っていたのだから、あれは決して夢なんかじゃかった。そして、そんなステージを終えた直後にポロリとこぼした言葉が「楽しすぎるのも良くないな」だった。俺はあの言葉を落語の下げに持ってくるとしたら、その続きは「もっと生きたくなっちまうじゃねぇか」だったと思ってる。本当に死ぬ覚悟で挑んだステージだったけど、いざやってみたら楽しすぎて「もっと生きたい」と欲が出てしまった、この世に未練ができてしまった。そこで出たのがあの言葉だったんじゃないかと思う。本当はどんな意味があったのか? 今となっては本人に確認することもできないけれど。自分は死ぬ直前に「楽しすぎるのも良くないな」なんて言える人生を送れるのか? 自分の命を延ばしてくれるほど愛してくれる人がいるのか? 死ぬ気で挑むほど本気になれることがあるのか? 死んでなお誰かに影響を与えられるような生き方ができてるのか? あの放送、あの言葉は自分がこれから生きていく上で必要な、たくさんの問いかけを俺に与えてくれた。あ~あ、やっぱ敵わねぇや。師匠は死んでも師匠なんだな。これで永遠に超えられない師匠になっちゃったよ!
TEXT:フジジュン(おばけえんとつ)

フジジュン プロフィール:1975年、長野県生まれ。『イカ天』の影響でロックに目覚めて、雑誌『宝島』を教科書に育った、ロックとお笑い好きのおもしろライター。オリコン株式会社や『インディーズマガジン』を経て、00年よりライター、編集者、デザイナー、ラジオDJ、漫画原作者として活動。12年に(株)FUJIJUN WORKSを立ち上げ、バカ社長(クレイジーSKB公認)に就任。メジャー、インディーズ問わず、邦楽ロックが得意分野だが、EBiDANなど若い男の子も大好き。笑いやバカの要素を含むバンドは大好物。


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