<ライブレポート>ネット音楽シーンの新星、THE BINARYの次元を超えて拡大する表現世界

2020年11月30日 / 12:05

 「夜に駆ける」が2020年を代表するヒットソングとして認知されつつあるYOASOBIを筆頭に、ボーカロイドのカルチャーを出自に持つクリエイターが関わる音楽ユニットの活躍が目覚ましい昨今、楽曲「命が泣いていたんだ」がTikTok経由でバイラル・ヒットしているTHE BINARYは、そういったネット音楽シーンのライジング・スターとして頭角を現しつつある。

 THE BINARYは、midoとあかまるの女性ボーカリストによる2人組。その特徴は、「3Dスキン」と呼ばれるデジタル・アバターを持ち、リアルでもバーチャルでもライブを行う新世代的な活動スタイルにある。2019年4月にボカロPのユリイ・カノンが制作したオリジナル・ソング「EgoもIdも単純に」でデビューを飾ると、同年9月には東京・代官山LOOPにてシークレット・ライブ【Synthetic Reality 0th】を、12月にはVR空間上でのライブ【Synthetic Reality 0th VR】を開催した。

 そんなTHE BINARYが11月22日、1stライブ【Synthetic Reality 1st】を開催。本来ならば5月に行われる予定だったが、新型コロナウィルスの影響により延期、このたび無観客ライブという形で実施され、その模様がライブ・ストリーミングされた。また、当日は【Synthetic Reality 1st】に先駆け、昨年12月のVRライブ【Synthetic Reality 0th VR】に追加楽曲を加えた【SR0.5VR上映会】も配信。有観客ライブの実施が依然として難しく、ライブ表現の可能性を配信ライブの自由度に見出そうとする業界の動きがあるなか、まさしく彼女らの次元を行き来する活動スタイルが、そうした現状の活路としても機能することをアピールした1日だったといえる。

 VR空間ならではの没入感ある視界ジャックや、バイノーラル・マイクによる立体音響体験など、実験的な趣向も凝らされた【Synthetic Reality 0.5 VR】の上映が終わり、定刻を迎えた【Synthetic Reality 1st】は、流水音とともに二人の2Dキャラクターが洗濯機に吸い込まれていくアニメーションからスタート。オープナーはデビュー曲「EgoもIdも単純に」で、ボーカロイドのような音声がmidoの肉声へと移り変わり、やがてグリーンのヘアピンとヘッドフォンがトレードマークの3Dスキンが投影された紗幕越しにバンドの姿が見えると、いよいよリアル・ライブとしての現実味が増していく。冒頭は紗幕上の3Dスキンによるパフォーマンスのセクションで、続く「ズルくてすごい」では、黒と赤のグラデーション・ヘアーが特徴的なあかまるの3Dスキンが、どこか物憂げな表情を浮かべながら歌声を披露した。

 THE BINARYには様々なボカロPが楽曲を提供しており、そのレパートリーは現行ボカロ・シーンの見本市のようなバラエティを見せているが、中でも際立つのが、実験的なバンド・サウンドにメランコリックな詩世界を展開する、隆盛期の“VOCAROCK”の系譜を感じさせるナンバーの存在感。YOASOBIのAyaseによる提供楽曲で、ハイエナジー漲るロック・サウンドにmidoのエモーショナルな歌声が映える「命が泣いていたんだ」と、艶やかなベース・ラインとサビのオクターブ・ユニゾンが印象的な「夜食」の2曲は、二人のカラーが異なる歌声の魅力を引き出しつつ、生のバンド・アンサンブルが瑞々しい躍動感を吹き込んだ、リアルライブならではの高揚に満ちたパフォーマンスでもあった。

 キュートなイラストの蓋絵を挟み、再びステージが映し出されると、そこに浮かび上がったのはmido本人の輪郭。ここからは3Dスキンではなく、生身の二人がパフォーマンスを披露していく。内省的なリリックを矢継ぎ早に繰り出す「Unhappyを愛さないで」、無数のバブルが画面を埋め尽くした「おしまいの未来より」を経て、midoからバトンを受け取ったあかまるは、オーガニックなポップ・ソング「LAZULI*」をアコースティック編成で披露。続いて、自身が作詞作曲した「青色少女」では、あかまるもエレキ・ギターをかき鳴らしながら歌い上げた。

 二人が「fotia」と「その切っ先が愛であれば」、2曲のバラードでも各自のアプローチで臨み、個性を光らせれたかと思えば、midoが作詞作曲に初挑戦した「呼吸する春たち」、あかまる作詞作曲の「身勝手な夜空たち」、そして二人が共作したデュエット・ソング「自由ぶった僕たち」と、1stフルアルバム『Jiu』以降のシングルを3連打。この3曲は「#人生線何処行き」というテーマの3部作構成で、メンバーが制作に携わったことも含めて、ますます深まっていくTHE BINARYの世界観を色濃く表現した本編フィニッシュだった。

 アンコール・パート1曲目は、あかまるのレパートリーの中では珍しく、力強いバンド・サウンドに共鳴するような絶唱を見せる「ヨヰシグレ」。続くmidoの「ベクターフィッシュ」では、乱反射するミラーボール、楽器隊のソロ・パートも見どころだった。

 そして、この日唯一のMCタイムを迎えた二人は、ライブが実施できたことの喜び、支えてくれたバンド・メンバー、スタッフ、ファンへの感謝を述べつつ、ドラムロールから「新曲をやります!」と発表。作詞をmido、作曲をあかまる、編曲をユリイ・カノンが担当した新曲「君がいて、僕が在る」をお披露目し、ライブ終了後の深夜24時から配信開始されることもアナウンスすると、最後は同じくユリイ・カノン提供のデュエット・ソング「花に雨を、君に歌を」でライブを締めくくった。

 リアルとバーチャル、二つの次元と平等に向き合い、横断的に展開していくTHE BINARYの表現世界は、ますます高まる二人の創作性によって、さらなる拡がりを見せていくに違いない。

◎セットリスト
1 EgoもIdも単純に
2 ズルくてすごい
3 命が泣いていたんだ
4 夜食
5 Unhappyを愛さないで
6 おしまいの未来より
7 LAZULI*
8 青色少女
9 fotia
10 その切っ先が愛であれば
11 呼吸する春たち
12 身勝手な夜空たち
13 自由ぶった僕たち
EN
14 ヨヰシグレ
15 ベクターフィッシュ
16 君がいて、僕が在る
17 花に雨を、君に歌を

◎公演情報
【Synthetic Reality 1st】
2020年11月22日(日)
出演者:THE BINARY mido&あかまる
<アーカイブチケット>
販売期間:~12/22(火)18:00
視聴期間:~12/22(火)23:59


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