Eins:Vierが傑作と自負する『Risk』に刻まれたライヴを重ね熟成したバンドアンサンブルの妙味

2020年11月25日 / 19:15

2017年の再始動後、待望の新作であるミニアルバム『five sights』を11月25日にリリースしたEins:Vier。今週は今年結成30周年を迎えた彼らの作品を取り上げる。とは言っても、いつもとは若干趣向を変え、筆者が独善的に選ぶのではなく、メンバーに直接、自らの名盤をピックアップしてもらった。筆者にとっては少し意外だったが、彼がほぼ満場一致で選んだ作品をとは──。
メンバー自身の思い入れが強い

先日、21年振りの新作『five sights』についてEins:Vierの3人にインタビューさせてもらったのだが、その際にせっかくだから、直接この『これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!』にもご協力いただこうと企てた。メンバーに自身のアルバムの中からベストな作品を選んでもらおうという試みだ。当コラムでチョイスする作品はある程度キャリアのあるアーティストのものであることがほとんどで、発売からわりと長く時間が経っている作品が多く、バンドが存続していないケースなども少なくないし、それゆえに作者の直接話を聞く機会がなかったりする。千載一遇…はさすがに大袈裟だが、こんな機会はそうそうあることではない。新作の話をうかがったあと、少し時間をいただいて、Eins:Vierの名盤をメンバー自身に訊いた。
そうは言っても、彼らが何をチョイスするのか、こちら側もまったく当りをつけないわけではなく、ある程度は何が出てくるのかは想像して臨んだ。それと言うのも、今回の『five sights』にはボーナストラックとして、「Staying and Walking」のセルフカバーが収録されている。これはEins:Vierのメジャーデビューアルバム『WALK』の中の一曲。《僕達は止まる/行き場もなく/裏切りを捨て/憎しみも捨てここで/僕達は歩く/行き先もなく/憐れみを抱き/願いを持ち明日へと》(「Staying and Walking」)。決して派手なナンバーではないけれども、浮足立つことなく進んで行こうといったような、彼らのスタンスが歌詞にも表明されているようで、『WALK』が発表された1995年当時から個人的には印象に残るナンバーであった。それがこの度、25年を経て再収録されたわけで、『WALK』はさぞメンバーにとっても思い入れが強い作品ではなかろうかと──当りをつけたというよりも、勝手にそう思い込んで話を訊いてみたのだが、彼らから出てきたのは(少なくともその時の自分にとっては)意外なタイトルであった。

“Eins:Vierの過去作から一作品をメンバー自身に挙げてもらうとするとどのアルバムになりますか?”。その質問に“『Risk』!”と即答したのはLuna(Ba)。“もちろん全アルバムに思い入れはあるんですけど…”と前置きしつつ、その理由を語る。“『Risk』の前に『CHAOS MODE』というミニアルバムを出しましたけど、あれはまだライヴをやっていない中で作ったものだったので。そこからライヴを積み重ねた結果できたのが『Risk』。だから、ちゃんとした初めての作品という気がしてて。今聴いたら情けないくらいに稚拙なんですけど、勢いがあって…”という。“僕も『Risk』ですかね。拙いんですけど、自由にやれたというか”とYoshitsugu(Gu)も続けたが、その台詞にすかさずLunaが反応。“そう。自由にやれたんですよ! なぜなら、プロデューサーがいなかった。だから、好きなようにできた。そこから先(『Risk』以降のアルバム)は全部、大人がついてましたから(笑)”とつけ加えた。ちなみに今回の『five sights』もセルフプロデュースである。これも当然のことながら“自由にできた”と笑う。

ふたりが『Risk』を挙げたことをこちらが意外に思っている雰囲気が伝わったのか、そこでHirofumi(Vo)が“そこで俺も『Risk』って言ったら、全員がインディーズのアルバムを上げるのか!ってことになるよな”と少しおどけながら語ったのは、何とも明るいキャラクターの彼らしい。こう続けた。“『WALK』も良かったし、『timeless words』(1996年発表のメジャー2nd)も良かったですよ”と振り返る。“1st以降はほんま苦しかった。でも、苦しんだ時期のアルバムはどれも今は自分の中では大切になってます”。そんな前向きな姿勢もHirofumiらしさではあろう。ただ、その一方で、彼もまた“思い入れで言うならば、やっぱり『Risk』とか『WALK』になる”と、そこに『Risk』を挙げた。多数決であれば、メンバー3人のうち凡そ2.5人がインディーズでのフルアルバム『Risk』を自身の傑作と挙げたわけで、これはもうEins:Vierの名盤は『Risk』で決まりだろう。筆者に異論などあろうはずもない。唯一、インディーズ作品だけに“家に音源あったかな?”という不安は若干あったけれども、担当編集者から後日“『Risk』、送りますね”と音源が届いた。流石である。
デビュー当時からシーンで異彩を放つ

さて、そのアルバム『Risk』とはどういう作品であったのか。(1)ライヴを積み重ねた末のアルバムである。(2)勢いがある。(3)セルフプロデュースで自由にやれた。メンバー自身がそう言っているのだから、この(1)~(3)が『Risk』の背景であり、特徴であろう。それ以上をこちらが語るのも野暮な感じだが、彼らがどんな音楽性であるのかが分からないと雲を掴むようなものであろうから、ここはEins:Vierというバンドそのものの特徴を語ったほうがよかろう。

これもまた、先日行なった新作『five sights』のインタビュー時に直接メンバーに訊いている。すでにサイトにアップされているインタビューでは、Hirofumiが“昔はよく“透明感のあるサウンド”とか“好き嫌いが分かれる歌声”みたいなことを言われていた”と話し、クリアートーンと、彼曰く“歌のアクの強さ”がバンドの特徴だと語ってくれているが、実はこの時、さらに突っ込んで訊いている。新作『five sights』とはほとんどかかわりがない件であったため、その箇所は割愛したが、Eins:Vierの特徴と結成当時の彼らを取り巻く状況がよく分かるので、その未公開部分から気になった台詞を抜粋しつつ、以下でまとめてみた。

“1990年の結成時に“こういうバンドにしよう”という話は何かあったんですか?”とストレートに尋ねてみた。すると“バンド名で出てきてたのはThe CureとThe Smithsです”とLuna。そして、“初めは完全にそういう、ニューウェイブを経て売れた人たちのことが俺らはすごく好きやったから、そういう人らの音楽をよく聴いてたし、そういうものを目指そうと。そういう存在になれるようにというのは結構初めからあったから”とHirofumiがLunaの答えを補足してくれた。とても端的で分かりやすい説明だと思う。Eins:VierはUKのポストパンクをルーツに持つバンドである。その辺は『Risk』に限らず、彼らの音源を聴けば明白で、それこそ最新作『five sights』にしても未だそのトーンを残す。

個人的に興味深いと思うのは、そうしたバンドが関西のHR/HMシーンから出てきたことである。まぁ、そこを“なぜ?”と問われたところで、メンバー全員がEins:Vier結成以前から関西HR/HMシーンの渦中にあったライヴハウスにかかわっていたから…というシンプルな理由しかないのであって、メンバー自身はバンドの出自については何とも言いようがない雰囲気で苦笑いしていたのだけど、周囲との差異ははっきりと感じ取っていたようだ。Hirofumiが語ってくれた。“とにかく浮いてた(苦笑)。だんだんとビジュアル系──当時はそんな言われ方はしていなかったですけど、お化粧している、ちょっとダークなバンドというムーブメントが出てきて、それがいずれビジュアル系になって、そこで括られるのも“何か違うな”という感じもありつつ(笑)”。そう、ここもまた興味深い点である。X(現:X JAPAN)の出現以降、徐々に、そして何となく“ビジュアル系”なるカテゴリが形成され、そこにHR/ HMも、さらにはパンクも吸収されていったようなところがあるけれども、たまたま関西HR/ HMシーンにかかわっていたEins:Vierも好む好まざるは関係なく、そこに身を投じていくことになったのである。
ライヴで熟成させたバンドアンサンブル

話をアルバム『Risk』に戻すと、本作はまさにその只中で制作されたアルバムである。直接的にHR/HMからの影響をそのサウンドに映すバンドではないものの、関西HR/ HMシーンから出現し、とりわけメイクが濃かったわけでもファッションが奇抜だったわけでもないのにビジュアル系に括られたEins:Vier。居場所のなさは自覚していたようだが、その居心地もあまりいいものではなかったに違いない。だが、そこで彼らは周囲に迎合することなく、自らの音楽性を突き詰めた。その姿勢が『Risk』には詰まっている。

(1)ライヴを積み重ねた末のアルバムである。(2)勢いがある。(3)セルフプロデュースで自由にやれた。というのが、メンバーの自己分析による『Risk』の特徴だと前述したが、恐縮ながらより具体的に言うと、それはバンドアンサンブルの妙味ということに集約されるにではないかと思う。Eins:Vierというバンド名は独語で1(Eins)と4(Vier)という意味で、4つの個性が合わさってひとつになるといった想いが込められていると思われるのだが、ここに収められた音はどれもこれも、まさしく4つの音が折り重なって形成されている。誤解を恐れずに随分と乱暴に形容するならば、各パートともいい意味であんまりお互いのことを考えていないような印象すらある。そう言うと、ごちゃごちゃとしたカオスなサウンドを想像する人も出てくるかもしれないが、そうではない。“透明感のあるサウンド”とメンバーが言う通り、その大半はクリアトーンではあり、M4「Notice (after the Solitude)」やM10「Everything moves for me〜全ては私により〜」などワイルドな音作りが成されているものもあるにはあるけれども、変なノイジーさはない。音が密集しているのではなく、それだけで見たらそれぞれに自立したように見える演奏が、適度な距離を保ちつつ、アンサンブルを奏でているといった感じだろうか。

例えば、ベース。ダウンピッキングで単音を連ねている印象はなく、かと言ってウォーキングともスラップとも違う、独特の旋律を奏でている。これまた誤解を恐れずに言えば、歌メロを支えようという印象すら薄い。リズム楽器という意識ではなく、あくまでもメロディーを司る楽器のひとつという感じである。ドラムも同様で、打楽器であるからさすがにメロディーは奏でられないし、基本的にはしっかりとリズムをキープしているのだが、M4「Notice (after the Solitude)」ではタムを多用したり、若干変則気味なビートを効かせたり、あるいは、M8「and I’ll」ではバキッとしたスネアの音で楽曲の世界観を先導したりと、やはり独特の存在感を示している。

そこに乗るギターは完全に自分の持ち場を堅持しているというか、まったくブレない。綺麗なアルペジオに終始することで、楽曲全体に浮遊感を与え、どこか幻想的な空気感を作り上げている。かと思えば、やはりM4やM8ではワイルドな一面を覗かせるなど、先ほどアンサンブルは“お互いのことを考えていないような印象すらある”とは言ったものの、その辺はさすがにバンドである。各々が独自に演奏しているとは言っても、向かう方向は同じであることがこの辺で分かる。どこか安心するというか、このバンドの安定感を垣間見るところでもある。

歌は全編でメロディアスであり、キャッチーなものばかり。そう考えると、ヴォーカル、ギター、ベースの3者がそれぞれに旋律を奏でていると言っていいとも思う。そんな中でHirofumiもまたギターにもベースにも迎合することなく、独自のヴォーカリゼーションを聴かせている。逆の見方をすれば、その辺がおそらく彼が言うところの“歌のアクの強さ”にもつながっているのだろう。ギターやベースに寄っていたり、あるいはギターやベースが歌寄りになっていたとしたら、歌のアクが…とは言われまい。そこもまたバンドの特徴の発露、そのひとつなのであった。

何かひとつに追随するわけではなく、各パートがそれぞれに個性的な演奏をすたものをまとめるとなると、それはとても一朝一夕に完成されるものではないだろう。(1)ライヴを積み重ねた末のアルバムであるとして、『Risk』を推すのもよく分かるところだ。また、(2)勢いがあるというところで言えば、M1「The Hallucination for this only night〜今宵のための幻覚〜」→M2「Push baby」、M5「Shy boy」→M6「Nursery tale」、M9「For Love that is not Love」→M10「Everything moves for me〜全ては私により〜」とで曲間を無くすことによってアルバム全体の疾走感を上げているところは、まさしく勢いを感じさせる。この辺もライヴを重ね、セットリストを熟成してきたからこその技と見ることもできる。結成から数年間、このバンドらしさを積み重ねてきた末に完成させた『Risk』。こうして改めて聴いてみると、粗削りなところは否めないけれども、確かに充実したアルバムではある。
TEXT:帆苅智之
アルバム『Risk』
1994年発表作品

<収録曲>

1.The Hallucination for this only night〜今宵のための幻覚〜

2.Push baby

3.Kiss is sleepping pills

4.Notice (after the Solitude) 

5.Shy boy

6.Nursery tale

7.Je suit enchante de faire votre connaissance

8.and I’ll

9.For Love that is not Love

10.Everything moves for me〜全ては私により〜

11.In your dream〜夢の間に〜

12.In a void space


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