甲本ヒロトと真島昌利が新バンドに臨んだ想いを、今『THE HIGH-LOWS』から見出す

2020年10月28日 / 18:00

↑THE HIGH-LOWS↓の結成25周年を記念して、オリジナルアルバム8作品と編集盤2作品がリマスター盤となって10月28日に発売されたということで、彼らのデビュー作品をピックアップした。その理由を含めて、以下で散々言い訳をかましているので、ここは短く締め括るけれども、甲本ヒロト&真島昌利の作品はひたすら素晴らしく、ひたすら語りづらいと、改めて思ったところである。
ヒロト&マーシー作品の本質

のっけからかなり本音で行くけれども、今回の↑THE HIGH-LOWS↓に限らず、甲本ヒロト(Vo)、真島昌利(Gu)が手掛けた作品についてあれこれ語るのは難しい。というか、はっきり言わせてもらうと、気乗りがしない案件であって、できれば、この辺でお開きにしたいほどではある。まぁ、そうは言っても、彼らの作品、彼らの奏でる音楽が嫌いだとか、そういうことではないので、そこは誤解のないように強調しておきたい。ヒロト&マーシーが提示しているのはカッコ良いロックであることは間違いないし、そりゃあ、当然、好きだ。どのくらい好きかと言うと、以下、個人的な話で恐縮だが、その昔、会社員をやっていた頃、社員旅行で高級旅館を訪れた際、夕食時の宴会で同僚、後輩諸君にカラオケを勧められ、THE BLUE HEARTSの「リンダリンダ」をチョイス。ステージ上で歌唱するだけでなく、ヒロトよろしく、小刻みに動きながらジャンプを繰り返して、そこに鎮座されていた社長、専務を引かせるという、会社員としては大失態、一ファンとしては“してやったり”というパフォーマンスを繰り広げた経験が筆者にはある。そのエピソードでどれほどのことが伝わるのかはさておき、こうして “これだけはおさえたい邦楽名盤列伝!”なるコラムで曲がりなりにも文章を寄せている者であるわけで、ヒロト&マーシーを嫌いになれるわけがない。それは、物書きに限らず、ことの大小はあれど、日本でエンタテインメントに携わる仕事をしている人間なら、ヒロト&マーシーが偉大なる人物であることは肌身に染みているはずで、避けて通れるわけもない。嫌いになどなろうはずがないのである。

それでは、どうして彼らの手掛けた作品について進んで書きたくないかというと、作品をそれ以上、掘りようがないと思うからである。これもまた決してネガティブな話をしたいわけではないことを予め断っておくけれども、そりゃあ、誰の作品にしても本来は完成されたものが全てであって、それをそのまま見聴きするのが正式な臨み方(?)であろう。にもかかわらず、音楽ジャーナリズムや、当コラムのような音楽系の物書きがあるのかと言えば、その作品に込めた意図があればその内容、また、そこに至った過程、制作背景を知ることで、その作品自体をさらに立体的に楽しめるようになるからではないかと思う。少なくとも自分はそういうことなのだろうという想いを頭の片隅に入れながら仕事をしている。ヒロト&マーシーに話を戻すと、彼ら自身の口から作品の方向性や楽曲の内容について語られるていることは少ない。彼らのインタビュー記事をつぶさに調べたわけではないので、まったくないわけではないかもしれないけれど、それほど多くないことは間違いなかろう。ふたりが“今回のアルバムには○○○○というテーマがあって~”とか“現代社会における△△△△を作品に落とし込んで~”とか話してる姿を想像できない。現在のふたりがザ・クロマニヨンズで活動していることをほとんどの人がご存知のことだろうが、過去、このOKMusicのインタビューでこんなことを言っている。
彼らが何かを意図して作品を作っていないことがよく分かる、ある意味で名コピーだと思う。何かの目的のため(例えば、ある思想の啓蒙のためとか)に音源を作っているのではなく、楽曲を作って、レコーディングして、それを聴くことが音楽活動の目的だと言っているのである。多かれ少なかれ、アーティスト、ミュージシャンの根底には上記のような想いがあるのだろうが、ここまではっきりと言われるとこちらは返す言葉もない。“それを言っちゃあ、おしまいよ”って話である。制作背景を語ってもらうにしても、それ自体が彼らの目的となると、そこに特別の何かがあるわけでもないし(上記の“連鎖だけ”というのはそういうことだろう)、それを彼ら自身の言葉で語ってもらったとしても、リスナーは作品を手に取る動機付けにはなるだろが、作品自体がことさらに立体的に楽しめることもなかろう。もちろんそれが無意味だとは言わない。言わないけれども、大して掘りようもないことは確かで、進んで解説、寄稿したくない理由はそこにある。簡単に言えば、何を言っても蛇足の域を出ないことが多いのである。
過去への決別と新展開の歓喜

そうは言っても、当コラムを投げ出すこともできない。大分長い言い訳となったが、ヒロト&マーシーのスタンスは分かっていただけたのではないかと思うし、その辺を加味していただいた上で、以下の拙文をご覧いただけたら幸いである。全8作品のオリジナルアルバムの中からデビュー作である『THE HIGH-LOWS』をチョイスした。それは──件の彼らの“連鎖”は当然↑THE HIGH-LOWS↓の時からもそうであったことは確実だが、このデビュー作だけはちょっと趣が異なっていると思えるからである。趣が異なっているのではなく、“趣が異なっていると思える”だ。前述の通り、本作においてもメンバー自身が作品について明確に語ってない(と思われる)以上、しつこくそういう言い方をさせてもらうわけだが、それがこちらの想像であったにしても、『THE HIGH-LOWS』は、そのサウンドや歌詞から作品の制作背景や↑THE HIGH-LOWS↓結成の経緯のようなものが垣間見える。解説を加える余地があると言おうか、『THE HIGH-LOWS』は彼らのアルバムの中では最も語りたくなる作品なのではないかと思う。

何しろ、1曲目が「グッドバイ」である。このアルバムのリリースが1995年と四半世紀前にもなるので、ファンはともかく、若い音楽ファンには事の経緯を知らない人がいるかもしれないので、念のために補足すると──。↑THE HIGH-LOWS↓は[1995年に解散したロックバンド、THE BLUE HEARTSの主要メンバーであった甲本ヒロトと真島昌利を中心に結成された]バンドである。ここではその解散云々には触れないが、そこに触れずとも、1995年6月に解散発表で、本作のリリースが同年10月で、その1曲目が「グッドバイ」というのは、本人が何も言わずとも(何も言わないと余計に)その因果関係を想起させるものだ。

《サヨナラする キレイサッパリ/サヨナラする これでスッカリ/サヨナラする キレイサッパリ/サヨナラする これでスッカリ》《今までありがとう/本当にありがとう/今までありがとう/もうこれでお別れですよ》(M1「グッドバイ」)。

歌詞は《バイバイバイ》が大半を占めているのだが、途中で《サヨナラする/ダサイやつらと》なんてフレーズもあるので、思わず何かを勘ぐってしまう。《キレイサッパリ》《これでスッカリ》とも言っているし、全体的には明るく、大らかなロックンロールな印象なので、別れが余程嬉しいのかなと思ってしまうほどだが、こういうのを“下衆の勘ぐり”と言うのだろう。

続く、M2「ママミルク」はタイムが6分弱と、収録曲の中でも長尺で、[歌詞がある部分は合わせても1分強しかない]。しかも[ライヴの定番曲であったが、間奏の演奏時間がツアーを追うごとに長くなり、15分以上かけて演奏したこともある]というナンバーだ。つまり、この楽曲は歌ではなく、演奏中心ということだ。このテイクからもその演奏の楽しさ、ワクワク感みたいなものは如何なく伝わってくる。どこかライヴセッションのようである。頭は、調 先人(Ba)、大島賢治(Dr)のジャングルビートから始まり、そこに白井幹夫(Key)のピアノが重なる。出だしから新たなメンバーをフィーチャーしているように思えるが、これはたまたまだろうか。たぶん、たまたまなのだろうが、ヒロト&マーシーが新しいリズム隊とともにバンドに始めたこと、そしてそのバンドにはキーボーディストがいることを印象付けるには格好なイントロではあったであろう。ダンサブルなロックチューンだが、決して甘いだけはなく、全体にピリリとワイルドさが感じられるのは、前バンドとの差別化だったのか…とまで考えると、それは完全に下衆の勘ぐりだろう。(上記の[]はすべてWikipediaからの引用)

以下、疾走感あふれるM3「ミサイルマン」、鍵盤の効いたM4「BGM」と続いていくのだが、M5「ジュー・ジュー」辺りから、本作はロックの先人たちへのオマージュが如何なく発揮されていることが露わになっていくような印象がある。M1「グッドバイ」にはT-REXの匂いを感じられたが、M5「ジュー・ジュー」にTHE WHOテイストがあるということは、これは狙ったとか狙わないとかではなく、そうしたオマージュを隠していないのだなという想像がつく。M7「スーパーソニックジェットボーイ」はThe Rolling Stones、M8「なまけ大臣」からはT-REXはもちろん、The ClashやThe Beatles(中期)なども感じられる。全てを自分で確認したわけではないけれども、↑THE HIGH-LOWS↓は本作以降のアルバムにおいても、彼らが影響を受けたであろう洋楽のテイストがちょいちょい出てきているとも聞く。ここにはどういう意図があったのか…と考えるまでもなく、↑THE HIGH-LOWS↓がどう仕様もなくロックバンドであることが表れているのだと思う。この辺をTHE BLUE HEARTS後期との比較で語ると如何にも…という話になりそうだが、前述のM1「グッドバイ」で述べた因果関係の話以上に空想事になりそうなので止めておく。ご興味のある方は、THE BLUE HEARTSのラストアルバム『PAN』をググってもらうといいと思う。
歌詞に見る想像の余地

さて、最後に歌詞の話をして締め括るのが当コラムの恒例でもあるので、今回も『THE HIGH-LOWS』の歌詞について述べたいところだが、正直言って、本作はM1「グッドバイ」以外、これが何について書かれたものなのか、はっきりとその内容が分かるものは皆無だと思う。いや、「グッドバイ」の内容も筆者の想像でしかないのだから、全部その意味が分からないと断言してもいい。ただ、“意味が分からない”と“意味が通じない”とはまた別の話で、何について歌っているのか分からないけれども、言葉の意味そのものが分からないのはM9「ヤ・バンバ」のタイトルくらいで、英語もほとんどないので(あってもカタカナ英語)、何を歌っているのか判別は付く。だからこそ、そこに想像の余地が生まれる。これは『THE HIGH-LOWS』、引いてはこのバンド、もっと言えばヒロト&マーシーが手掛ける作品の特徴であって、個人的にはとてもいいところではあると思う。

《このまま どこか遠く 連れてってくれないか/君は 君こそは 日曜日よりの使者》《たとえば 世界中が どしゃ降りの雨だろうと/ゲラゲラ 笑える 日曜日よりの使者》《きのうの夜に飲んだ グラスに飛び込んで/浮き輪を浮かべた 日曜日よりの使者》《適当な嘘をついて その場を切り抜けて/誰一人 傷つけない 日曜日よりの使者》(M12「日曜日よりの使者」)。

《世界中が どしゃ降りの雨だろうと/ゲラゲラ 笑える》や《誰一人 傷つけない》などからすると、この“日曜日よりの使者”には悪い印象を抱かない。だが、どんな人なのか具体的なことはまったく分からないし、“使者”とあるから人と想像するけれども、人物を指しているのかどうかは定かではない。だからこそ、これはかなり有名な話だあるが、この“日曜日よりの使者”は松本人志ではないかという都市伝説も生まれ得る。これはこの楽曲が当時放送されていた『ダウンタウンのごっつええ感じ』のエンディングテーマであったことや、松本人志がTHE BLUE HEARTSのファンであったことなどを誰かが一緒くたにしてところから始まったものであるようで、このコラム同様に空想の果てのひとつであろう。まぁ、ヒロトが日曜日に松本人志のテレビ番組を観たことで自死を止めた…というところまで話が広がっているようで、正直言ってそれはどうかとは思うけれども、何かを想像させたり、想起させたり、気分を高揚させたりする──音楽に限らず、それがアートである。“日曜日よりの使者=松本人志”説が広まったことは、↑THE HIGH-LOWS↓が提示したロックがアートの領域に入っていることを、図らずも証明した格好だろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『THE HIGH-LOWS』
1995年発表作品

<収録曲>

1.グッドバイ

2.ママミルク

3.ミサイルマン

4.BGM

5.ジュー・ジュー

6.ツイスト

7.スーパーソニックジェットボーイ

8.なまけ大臣

9.ヤ・バンバ

10.ビッグ・マシン

11.バナナボートに銀の月

12.日曜日よりの使者


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