<ライブレポート>ビリー・アイリッシュ自身初のオンライン・ライブ開催、“やはり凄かった”時代の最先端をゆくステージ

2020年10月26日 / 09:40

 今年1月に開催された【第62回グラミー賞】で、<年間最優秀レコード>、<年間最優秀アルバム>、<年間最優秀楽曲>、<最優秀新人賞>の主要4部門を史上最年少で受賞し、クリストファー・クロス以来39年ぶり2組目、そして女性アーティストとしては初の快挙を達成したビリー・アイリッシュ。彼女にとって最高の幕開けとなったが、間もなく新型コロナウイルス拡大の影響で世界情勢は急転し、音楽業界も過去最大の危機に苛まれた。
 
 今も多くのアーティストやクリエイター等がその状況に苦しんでいるが、ロックダウン中に集中してレコーディングを試みたり、SNSを活用してプロモーションに励んだり、最新のテクノロジーを駆使してファンと繋がる意欲的なアーティストもいる。ビリー・アイリッシュもその一人で、3月から停滞していたワールド・ツアーを自身初のグローバル・オンライン・ライブという形で再開。それが日本時間10月25日午前7時より開催された【WHERE DO WE GO? オンライン・ライブ】だ。

 このライブは、最新のCG技術、30メートル×7.3メートルのLEDスクリーンを使用するなどの情報解禁を受け、開催前から大きな話題を呼んだ。世界中からリアルタイムで視聴できるだけでなく、チャットルームでファン同士が繋がれる等“ならでは”のサービスも用意されていて、あまりの反響に中断するというハプニングもあったとのこと。
 
 開始1時間前には、ビリーの父=パトリックがファンにメッセージを送り、アリシア・キーズやリゾといった大物歌手や、俳優のスティーヴ・カレルもリモートで出演。ビリーに続き、11月3日に控えているアメリカ大統領選挙への投票を促した。画面を通してだが、こうして他の著名アーティストと繋がれることもオンライン・ライブの魅力といえる。
 
 彼女の地元である米LAのスタジオから中継された同ライブは、ステージにセットが運ばれるシーンの早回しでスタート。機材数はそこそこ多いが、みるかぎりスタッフの人数は最小限におさえられている。会場の熱気は感じられないが、オンラインでもライブ前の緊張感みたいなものは十分に伝わってきた。
 
 ぼんやり眺めていると突如赤と黒の文字が点滅し、カウントダウンがはじまる。このエキセントリックな演出もビリー・アイリッシュらしい。そんな彼女をあらためて見ると、ビデオやアートの奇をてらったイメージとはまた違う、小柄で可愛らしい雰囲気だった。グッチのセットアップにハイカットスニーカーで元気いっぱい登場する様はやはり18歳で、MCのトーンや表情もキュート。これも、大きな箱では伝わらなかった魅力かもしれない。
 
 左にドラマーのアンドリュー・マーシャル、右にプロデューサーで兄のフィニアス・オコンネルを従え「自宅から観てくれているみんな、元気?」と挨拶をし、ライブがはじまった。オープニング・ナンバーはビリーのブレイク曲「bury a friend」で、黒地に真っ赤なライトがうごめく毒々しい演出に早速引き込まれる。ボーカルの良さが際立ち難い曲ではあるが、生歌もそれはそれで完成度高く「こんなに歌える人だったのか」という驚きもあった。
 
 同曲をはじめ、ライブは昨年の米ビルボード・アルバム・チャート“Billboard 200”の年間チャート1位を記録したデビュー作『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』の曲を中心に構成されている。
 
 「スタッフと私たちだけだけど、雰囲気は気に入ってるかな。でもみんなに会いたい!」と投げかけ、次曲はライブ映えしそうな「you should see me in a crown」。白地に黒の光エフェクト、ビートを踏み鳴らして近寄ってくる巨大な蜘蛛のライト・パフォーマンスが迫力満点で、ハードな曲のイメージが見事表現されていた。パワフルなドラムとラッパーを彷彿させるパフォーマンスは、ミクスチャー・バンドのような雰囲気も感じられた、ような。3曲目に演奏された「my strange addiction」も、フィニアスのギター・プレイ含めライブ・バージョンはロック色が強い。この曲は、何といっても奥行を感じさせる映像技術に驚かされた。とてもあの平坦なステージとは思えないCGの進化に息を呑む。
 
 映像の進化といえば、次の「ocean eyes」もまたしかり。暗闇に光り輝く波が上部に押し流される美しい映像で、さっきまでの恐々としたイメージを一掃。トレードである蛍光グリーンの髪もネオンのように瞬くなど、最先端のテクノロジーを垣間見た。映像のみならず、ファルセットが美しく奏でられるビリーのボーカルも、さっきまでと同一人物とは思えない見事な切り替えだった。ステージに映し出されたモニターのファンに挨拶したり、手拍子を求めたりして、オンライン・ライブの魅力を伝える。
 
 突如煙に囲まれ、晴れると白いベンチに足を組んで座るビリーがいる。次の「xanny」では、ミュージック・ビデオの世界観をステージで再現したわけだ。ちょっと緊張したような表情で繊細に優しく、終盤では立ち上がってエモーショナルに歌うビリー。「bad guy」の大ヒットからアップの印象が強いが、スロウも十分魅力的。再び煙がステージを覆い、煙の中から向かい合って座るビリーとフィニアスが浮上した。敬愛する兄の紹介をするこのシーンでは、兄妹、そしてビジネス・パートナーとしての信頼が伺える。

 SNS等の反響からすると、次の「i love you」が今回のライブで最も評価が高かったパフォーマンスといえる。フィニアスによるアコースティック・ギターの演奏をバックに、目の前に観客がいることを想定したよう歌うビリー。まさかこのライブでアンプラグドにようなステージが観れるとは思いもよらなかった。パフォーマンスはもちろん、広大な宇宙を漂うような映像もこの曲が高く評価された要因といえよう。一転、不思議な生き物が飛び交う深海で座りながら歌う「ilomilo」も、歌唱、映像ともにすばらしく、熱唱こそしないが揺れながら微睡むボーカル・ワークも絶品。最後はサメの口の中に飲み込まれ、暗闇から下水を通じて廃墟のような場所にたどり着く。

 そこで歌うのは、映画007シリーズ最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』の主題歌「No Time To Die」。ドラマティックな旋律に熱を帯びたボーカルは、同シリーズの『007スカイフォール』(2012年)で同名曲を歌ったアデルにも匹敵するクオリティの高さで、前述にもあるように「こんなに歌える人」だったということをライブを通じてアプローチできたと思う。圧巻のパフォーマンスに、終演後サイドの2人も向き合って拍手を送っていたほど。真っ暗闇の中で歌った次の「when the party’s over」も、正確に音程を操りつつ情感を込めたすばらしい歌唱だった。
 
 次の「all the good girls go to hell」では、この曲のテーマでもある環境問題をモニターを通じて映像で訴え、さらには曲終わりに「No Music On A Dead Planet」というメッセージを掲げ、来たるアメリカ大統領選挙への投票を呼びかけるという政治的・社会的アプローチをした。大統領が変われば音楽も死なないというトランプ氏への批判的なコメント含め、ビリー・アイリッシュらしい呼びかけといえる。同曲と次曲「everything i wanted」では、選ばれたファンがモニターで映し出され、彼らと繋がりながらパフォーマンスをするというオンラインならではの演出もあった。映し出された自分の顔を見て、ちょっと恥ずかしそうにしているファンが微笑ましい。

 ターコイズ・ブルーの幻想的な森の中で歌う「my future」も、  ミュージック・ビデオのアニメーションを再現したすばらしい出来栄え。カメラワークも絶妙で、自分もそこに居るような不思議な感覚と、ライブ・ストリーミングならでは浮遊感がたのしめた。この曲が終わると、名残惜しそうにしつつも「みんなに会える日を楽しみにしてる!」と感謝を伝え、シメの「bad guy」に繋げる。最後であることも、盛り上がることも当然予想できたが、ストリーミングとはいえイントロだけでこれほどテンション上がるとは……と、ヒット曲の凄みを実感した。何せ、モニター越しのファンからも大声援が聞こえたほど。部屋でジャンプしながら熱唱していた視聴者もいたのでは?
 
 「投票に行けばまたすぐに会えるかもしれない!」というブラック・ジョークを残して、ライブは終了。エンド・ロールでは、軽くステップしながらスタッフに拍手を送る“ライブ後”のシーンも少し見ることができた。映像が一掃されると「こんなシンプルなスタジオだったんだな」と思わず呟いてしまった……のは、筆者だけではないハズ。13曲、約60分程度のコンパクトなライブだったが、パソコンやスマートホンの画面越しに視聴していることを考慮すると、これくらいコンパクトな方が集中できるのかもしれない。
 
 今年は日本でも配信には一切手を出していなかった大御所たちが、コロナ禍にライブ・ストリーミングを実施するという異例の活動を行い、同じように大きな反響を呼んだ。彼女のステージを見て感じたのは、自粛期間云々を取っ払っても今後はこういったスタイルでのライブが主流になるかもしれない、ということ。時代の最先端をゆく令和のカリスマ=ビリー・アイリッシュ。やはり凄い。

Text: 本家 一成

◎【WHERE DO WE GO? オンライン・ライブ】セットリスト
bury a friend
you should see me in a crown
my strange addiction
ocean eyes
xanny
i love you
ilomilo
No Time To Die
when the party’s over
all the good girls go to hell
everything I wanted
my future
bad guy


音楽ニュースMUSIC NEWS

Creepy Nuts、最新曲「二度寝」MVをドラマ『不適切にもほどがある!』最終回後にプレミア公開

J-POP2024年3月28日

 Creepy Nutsの最新曲で、TBS金曜ドラマ『不適切にもほどがある!』の主題歌「二度寝」のミュージックビデオが、3月29日23時15分よりプレミア公開される。  ドラマ『不適切にもほどがある!』は、主演を阿部サダヲ、脚本を宮藤官九郎 … 続きを読む

ハイエイタス・カイヨーテ、新曲「Make Friends」公開「友達は作るものじゃない。認識するもの」

洋楽2024年3月28日

 ハイエイタス・カイヨーテが、2024年6月28日に最新アルバム『Love Heart Cheat Code』をリリースすることを発表し、新曲「Make Friends」も解禁された。「Make Friends」は、今年1月にリリースされた … 続きを読む

Vaundy、ライブ&ドキュメンタリー映像の劇場公開が決定 アリーナツアー【replica ZERO】ファイナル

J-POP2024年3月28日

 Vaundyのライブ映像と舞台裏ドキュメンタリーを収録した『Vaundy one man live ARENA tour “replica ZERO”』が、TOHOシネマズ日比谷ほか、全国の映画館にて5月10日より期間限定で劇場公開される … 続きを読む

<ライブレポート>望海風斗、2年ぶりドラマティックコンサート【Hello,】で作り上げた“五感を開放”する圧巻のステージ(ネタバレあり)

J-POP2024年3月28日

 現在ミュージカル俳優として活躍中の望海風斗が、【ドラマティックコンサート「Hello,」】を開催。3月20日の東京・日本青年館ホール公演を皮切りに、福岡・キャナルシティ劇場、愛知・東海市芸術劇場大ホール、大阪・SkyシアターMBSと、4都 … 続きを読む

<ライブレポート>チ・チャンウク “俳優”ではなく、“歌手”として。初のジャパンツアー開催

J-POP2024年3月28日

 俳優のチ・チャンウクが、日本で初めてのコンサートツアー【2024 Ji Chang Wook Japan First Tour –March-】を開催。3月8日および9日の大阪・オリックス劇場を皮切りに、3月12日および13日に福岡・福岡 … 続きを読む

Willfriends

page top