カーラ・ボノフのソロデビューアルバム『カーラ・ボノフ』は傾聴すべき名曲が満載

2020年9月4日 / 18:00

アサイラムに移籍してからのリンダ・ロンシュタットの作品はどれもいい(特に70年代)が、7thアルバム『風にさらわれた恋(原題:Hasten Down The Wind)』(‘76)は、それまでの彼女のキャリアを通して最も素晴らしい仕上がりになっている。その理由のひとつにソロの初期にバックを務めていたイーグルスが独立し、アンドリュー・ゴールドやケニー・エドワーズが参加するようになったことで音楽の幅が広がったことが挙げられる。もうひとつの理由は、このアルバムに当時は無名の新人カーラ・ボノフの曲が3曲取り上げられ、そのどれもがアルバムのハイライトとも言うべき名曲であったことだ。ということで、今回は『風にさらわれた恋』の翌年にリリースされたカーラ・ボノフのソロデビュー作『カーラ・ボノフ』を取り上げる。
ストーン・ポニーズとブリンドル

ロンシュタットはソロになる前、ボビー・キンメル、ケニー・エドワーズと一緒にストーン・ポニーズというフォークロックグループを結成していた。67年には「悲しきロックビート(原題:Different Drum)」が全米で大ヒットするのだが、ロンシュタットひとりに注目が集まり、ソロ歌手として引き抜かれることになる。グループは解散し、キンメルはアメリカーナ系グループのフローティング・ハウス・バンドを結成、エドワーズは、彼より少し下の世代のブリンドルというグループに合流する。

ブリンドルはアンドリュー・ゴールド、ウェンディ・ウォルドマン、そしてカーラ・ボノフ、ケニー・エドワーズの4人組である。メンバー全員が個性的なシンガーソングライターであり、楽器やコーラスも巧みにこなせる新しいタイプのユニットであった。ブリンドルは大手レコード会社のA&Mと契約、70年にはシングル1枚をリリースするのだが、クロスビー・スティルス&ナッシュの『クロスビー・スティルス&ナッシュ』(‘69)、ジェームス・テイラーの『スイート・ベイビー・ジェームス』(‘70)、キャロル・キングの『つづれおり』(‘71)などと同時期のレコーディングであり、SSW系サウンドに注目が集まる直前のことであったから、ポップス中心のアーティストを取り扱うA&Mでは彼らをうまく売り出すことができず、グループは解散してしまう。
コーディネーター、ケニー・エドワーズ

ストーン・ポニーズもブリンドルも、ウエスト・ハリウッドにある若手シンガーの登竜門として知られるライヴハウス『トルバドール』に出演していたから、お互いよく知った仲で、またエドワーズはどちらのグループにも関わっていただけに、両グループの長所を把握していた。エドワーズはロンシュタットの大ヒットアルバム『悪いあなた(原題:Heart Like A Wheel)』(‘74)のサポートメンバーとしての参加が決まると、アンドリュー・ゴールドとウェンディ・ウォルドマンにも声をかけている。このアルバムでゴールドはギター、キーボード、ドラム、ウクレレ、パーカッション、バックヴォーカルなど、マルチ・インストゥルメンタリストとしての大きな役割を果たし、このアルバム以降はエドワーズとともに70年代のロンシュタットを支える主要メンバーとなる。

すでにロンシュタット作品に参加していたウォルドマンと同じく、仲間のカーラ・ボノフが優れたソングライターであることを証明しようと、エドワーズとゴールドはロンシュタットにボノフの曲を聴かせてみた。するとすぐに「他にはないの?」と催促され、ボノフ本人にデモ演奏を依頼している。そして、『風にさらわれた恋』で3曲も起用されることになるのである。これはエドワーズのコーディネーター的手腕が存分に発揮されたエピソードだと思う。結果、ロンシュタット作品にブリンドルのメンバー全員が関わることになる。

ゴールドとエドワーズはこの後も継続してロンシュタットのバックを務め、ウォルドマンはワーナーと、ボノフはコロンビアとそれぞれ契約が決まるのである。多彩な音楽性を持つウォルドマンがワーナーというのは理解できるのだが、ボノフがアサイラム向きのSSWなのは明らかなのに、なぜアサイラムと契約しなかったのか、僕は今でも不思議に思っている。
本作『カーラ・ボノフ』について

ソロ第1作となる本作『カーラ・ボノフ』は盟友ケニー・エドワーズがプロデュースを担当しており、僕の記憶に間違いがなければ、エドワーズにとって初のプロデュース作品である。ロンシュタットの明るくポップな音作りとは違い、バックの演奏はなるべくシンプルにまとめ、彼女の歌を聴かせることに重点を置いているのがこのアルバムの最大の特徴だろう。

バックを務めるのは、ウエストコーストを代表するアーティストたち。ブリンドルのゴールド(Gu、Key、Vo)とエドワーズ(Ba、Gu、Vo)、ウォルドマン(Vo)はもちろん、セクションからリー・スクラー(Ba)とラス・カンケル(Dr)のふたり、ロンシュタットのバックでおなじみのワディ・ワクテル(Gu)とダン・ダグモア(Gu、St)、エミルー・ハリスのホットバンドからエモリー・ゴーディ(Ba)とジョン・ウェア(Dr)のコンビ、ほかにグレン・フライ、J.D・サウザー、リンダ・ロンシュタットがバッキングボーカルで参加している。

アルバム収録曲は全部で10曲。ロンシュタットに提供した「誰かわたしの側に(原題:Someone To Lay Down Beside Me)」「またひとりぼっち(原題:Loose Again)」「彼にお願い(原題:If He’s Ever Near)」や、ボニー・レイットがアルバム『愛に乾杯(原題:Sweet Forgiveness)』(‘77)でカバーした名曲「故郷(原題:Home)」などオリジナルは8曲、「風の中の顔(原題:Faces In The Wind)」はクレイグ・セイファン作、「高く舞い上がって(原題:Flying High)」はスティーブ・ファーガソン作である。収められたナンバーはどれも一生付き合っていけるほどの名曲揃い。どこか哀感のある楽曲と彼女の端正で内省的な歌声が融合して、リスナーは豊かな情感に満たされる。
本作以降の活動

本作のあと、ボノフは少しポップな味付けの『ささやく夜(原題:Restless Nights)』(‘79)など4枚のアルバムをリリース、90年代にはブリンドルを再結成しアルバム『ブリンドル』(’95)を出している。日本で彼女の人気は高く、来日公演も多い。また、日本独自のベスト盤が数種リリースされている。直近では、30年振りとなる5thソロアルバム『キャリー・ミー・ホーム』(’18)のリリースにあわせて、昨年は記念公演が行なわれた。

残念なことに、ケニー・エドワーズは2010年8月に、アンドリュー・ゴールドは2011年の6月に亡くなっている。
TEXT:河崎直人
アルバム『Karla Bonoff』
1977年発表作品

<収録曲>

1. 誰かわたしの側に/Someone To Lay Down Beside Me

2. 私は待てない/I Can’t Hold On

3. またひとりぼっち/ Lose Again

4. 故郷/Home

5. 風の中の顔/Faces in the Wind

6. 恋じゃないかい/Isn’t It Always Love

7. 彼にお願い/If He’s Ever Near

8. 高く舞い上がって/Flying High

9. 流れ星/Falling Star

10. 庭のバラ/Rose in the Garden


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