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8月5日、デビュー25周年を記念して、1995年に発表されたGREAT3のデビュー作『Richmond High』のアナログ盤がリリースされた。多くのアーティストのサウンドプロデュースを手掛けてきた、音にもこだわるメンバーだけに、このアナログ化は自身にとっても喜ばしいところではなかろうか。肝心の内容は…というと、いい意味でデビュー作品らしく、彼らのバンドとしての本質がよく分かる、瑞々しさ溢れる作品である。
ロックシーンに欠かせない3人
先週の『火の玉ボーイ』紹介において、“音楽ファン以外で鈴木慶一と聞いて“あぁ、あの人ね”と即座に反応する人はどの程度いるだろうか。(中略)ピンと来る人は案外、少ないような気がする。”とか無礼千万なことを書いてしまい、いつか罰が当たるなと真剣に思い始めたところである。まず週を跨いで言い訳から始めたい。ちゃんと読んでいただければ汲み取ってもらえることを願うが、アレは決して知名度がないことを揶揄したいとかいうのではなく、世間一般にその名が知れ渡っていなくとも、音楽業界、ひいてはエンタメ業界全体にとってなくてはならないアーティストはいるもので…ということが言いたかったのである。
そして、そういうアーティストの作品は、当たり前のように早い時期から優れたものが多いことを知らしめたかったのだ。言い回しが失礼であったことは認めざるを得ないけれど、テレビのバラエティー番組がやりがちな“あの人は今”みたいな悪趣味なことをやりたかったわけではないので、努々誤解なさらぬようお願いしたい。どうして上記のような見苦しい言い訳から始めたかというと、今週のGREAT3においても若干先週と似たようなニュアンスが出てしまう恐れがあるので、事前に悪しからずご了承いただきたいからである。
そういうことでGREAT3である。今回紹介する『Richmond High』リリース時、つまりデビュー時のメンバーを記す。片寄明人(Vo&Gu)、白根賢一(Vo&Dr)、高桑圭(Vo&Ba)の3名である(2012年に高桑が脱退し、現在はjan(Vo&Ba)がバンドの一角を担っている)。この3人の中のひとりでもピンと来たら、あなたはわりと音楽通であろう。GREAT3自体に誰もが知るようなヒット曲はない。これはWikipedia情報なので正確ではない可能性があるが、これまで発表したシングルはオリコン最高71位である。アルバムは3rdアルバム『Romance』の29位が最高で、50位以下──その昔で言うところの右頁が大半だ。一般的にその名を知られているとは言い難い…と言っても大きく間違ってはいないだろう。だけれども、これは断言していいと思うが、もしこのGREAT3の3名がいなかったら今の日本のロックシーンはなかったと言っても過言ではない。もちろんロックシーンそのものは存在し続けていただろうが、現在のそれとは少なからずかたちを変えていたことは間違いなかろう。以下、ご存知の方はよくご存知だと思うが、ご存知のない方のために彼らのプロフィールを記してみる。
まず片寄明人。彼はChocolat & Akitoなるデュオでも活動する一方、プロデューサーとしての仕事に定評がある。フジファブリックのメジャーデビュー作『フジファブリック』(2004年)の他、GO!GO!7188、Czecho No Republicなど数多くのアーティストを手掛けている。最新のトピックとしてはDAOKOのプロデュースだろう。1stアルバム『DAOKO』(2015年)から先月末に発売されたばかりの4th『anima』(2020年)までサウンドプロデューサーを務めている。
白根賢一も自身の音楽活動の他、プロデューサーで活動しているが、何と言ってサポートミュージシャンとしての活躍に目を見張るものがある。[YUKI、高橋幸宏、THE BEATNIKS、Bonnie Pink、Caravan、Chara、LEO今井、KIMONOS、LOVE PSYCHEDELICO、Salyu、チュール、中田裕二、SOLEIL 、大沢樹生、Kotoko Tanaka Band など、数々のミュージシャンのライブサポート、スタジオサポートとして参加]([]はWikipediaからの引用)。幅広い世代のアーティストから信頼を寄せられている。
高桑 圭もサポートミュージシャンとして活動しており、その際は白根とともに参加することが多いのが興味深いが、彼のアーティストとしての真価は自身のソロユニット、Curly Giraffe、その参加メンバーからもうかがうことができるのではないかと思う。名越由貴夫(Gu)、藤田 顕(Gu)、堀江博久(Key)、奥野真哉(Key)、恒岡 章(Dr)、そして白根賢一(Dr)と、名うてのミュージシャンがズラリ。GREAT3は知らないけれど、彼らの中の何人かは知っているというロックファンは少なくないのではないだろうか。
ポップで勢いのあるデビュー作
平たく言えば、GREAT3はロック界のミュージシャンズミュージシャンが集った格好である。ここからは彼らのアルバム『Richmond High』に話を移していくが、そんなふうにとらえると(これは筆者の偏見が混じっているだろうけど)このバンドが出す音はさぞかしマニアックというか、玄人受けするというか、ややもすると衒学的なものになってしまうのでは…という気もする。しかし、少なくとも『Richmond High』はそんな匂いがないのがポイントである。それは、もちろん本作がデビュー作だから…であるのかもしれないけれど、勢いがあって、それでいて瑞々しいポップな作品に仕上がっているのである。
エレキギターのフィードバックノイズ(たぶん)から始まるM1「Richmond High」でアルバムが幕を開けるので、特にその印象は強い。荒々しいビートはロカビリー風。エッジの効いたサウンドはモッズかパンクか。歌詞も意味があるんだかないんだか分からない感じだが、そこも含めてロックの衝動が詰まっているようである。続く、M2「Fool & the Gang」は先行シングルにもなったポップチューン。ギターサウンドは若干ブルース寄りであるものの、とにかく歌メロがはっきりとしているし、歌がB、Cと展開していく様子は現在のJ-POP、J-ROCKに通じる親しみやすさがある。デビューが1995年であったことや、彼らがORIGINAL LOVEや小山田圭吾らとの距離も近かったことからか、GREAT3を渋谷系と見る向きもあったようだが、「Fool & the Gang」のポップセンスと、Cメロで見せるやや凝ったコーラスワークなどからすると、そう思う人がいても不思議ではないと思わせるナンバーだ(実際に渋谷系なのかどうかはよく分からない)。スリリングなイントロから始まるM3「I Believe In You」は、ワイルドに歪んだギターが全体を引っ張っていくナンバー。《ひきつり目が眩みそうなほど/スピードの効いたレースの始まり/何を求めてるのか/今ではわかりもしない》という歌詞がぴったりマッチしている。間奏でラテンっぽく、情熱的に展開していくのが一筋縄ではいかないところで、なかなか興味深い。
興味深いと言えば、そのスリリングなM3から一転して、ボサノヴァタッチでメロディアスなM4「Oh Baby」へと連なっていくのも興味深い。GREAT3が勢いだけのバンドでもないし、メロウなだけのバンドでもないことが、この辺で露になっていくようだ。「Oh Baby」は可愛らしいサビメロがサイケな音作りと相俟って、ドリーミーな雰囲気の楽曲に仕上がっているのも注目したいところである。M5「エデン特急」はカントリー調のリズムがポップで、歌メロはキャッチー。何よりも《悲しみも願いも全てがどうでもよくなる時/失うことは恐くないその手を差し出す夜/Everybody’s Got A Right To Love/こんなに打ち拉がれてるのに/失うことは恐くない壊れた橋を渡れ》との歌詞が強烈で、そこにもこのバンドの独自性が発揮されているようにも思う。さらに、ハードなアプローチのロックチューン、M6「Madness Blue」から、米国のフォークデュオ、Seals & Croftのヒット曲のカバー、M7「想い出のサマーブリーズ」と曲順に緩急あるところは、ここまで聴いてくると、このバンドらしいと思ってしまうところである。
アナログではB面1曲目となるM8「腰ぬけマシーン」は、ネクストサイドのオープニングらしく…と思ったかどうか分からないが、疾走感のあるロックンロール。荒々しいサウンドでもサビがスウィートで、これまたGREAT3らしさを感じさせるナンバーだ。Jigsawを彷彿させる《Sky High!》の箇所は彼らならではのユーモアととらえてもいいだろう。M9「ジェット・コースター日和」はタイトルが秀逸。実際、疾走感があってスリリングでまさしくジェットコースター的な雰囲気がありつつ、M1、M3辺りとは違って、どこかさわやかである。《あぁもう二度と泣きはしない/あぁもう二度と迷いはしない》《ジェットコースターに乗ってるような/声でもあげながらくぐり抜けるさ》《ジェットコースターに乗ってるときは/両手をあげながら目を閉じないで》の歌詞もとてもいい。M10「Summer’s Gone」はイントロから“これはいい曲だ”と予感させるナンバー。しっかりとしたアンサンブルながら淡々と進むAメロから、Bを経てサビに入っていくも、それが下世話ではない程度にメロディアスなところが心憎い。シャレオツなリリックもこの曲を色褪せないものにしていると思う。
インスト曲であるM11「Mr.Spicoil (with The Guitar Hero)」は、SE的に歓声も入った“なんちゃってライヴテイク”。これまたM10のあとがこれというのが何とも“らしい”ところだ。M12「Under the Dog」は7分を超える大作で、古今東西のロックバンドがやってきたロックバンドらしいミッドナンバーと言ったら若干語弊があるだろうか。サビはキャッチーだが、どこか物悲しさがあるというか、叙情的というか、独特の余韻を残す旋律だ。しかも、言葉のひとつひとつがしっかりと音符に乗っており、その他の収録曲とは一線を画す印象もある。M13「My Bunny Eyes」でアルバムはフィニッシュ。サイケでブルージー。2分ちょっとのタイムがフィナーレに相応しい感じである。
初期衝動を発揮したかのようなサウンド
個別楽曲を簡単に解説してきたけれども、総体的に注目してほしいのは、サウンドのグルーブ感、バンドアンサンブルの躍動感であろう。M2「Fool & the Gang」の歌を“現在のJ-POP、J-ROCKに通じる親しみやすさがある”と書き、その他の楽曲でも歌がキャッチーだとか、メロディアスだと指摘した。そして、M1「Richmond High」では“ロックの衝動が詰まっている”と言い、スリリングだとか、疾走感があると書いた楽曲もある。それゆえに、ややもすると、このバンドにはポップな楽曲とロックな楽曲があって、アルバムにはそれが混在していると思われた人がいるかもしれない。そう思わせたら申し訳ない。それはそうではなく、ポップな楽曲の中にもロックバンドの妙味がしっかりと内包されているのである。そこが『Richmond High』、ひいてはGREAT3というバンドの大事なポイントである。
M2「Fool & the Gang」であればラスサビ終わりからアウトロまでのアンサンブル。とりわけベースラインが奔放で、サウンド全体がグイグイ来る。歌が終わっても美味しい箇所がもうひと山あるといった感じだ。M5「エデン特急」やM6「Madness Blue」もそう。M5では歌のある部分はそれを覆い隠すことなくネオアコ調のサウンドが流れていくのだが、間奏やアウトロでは3ピースが重なり合う様が強調されていく。M6はワイルドなギターが歌に重なるところがM5とは異なる感じではあるものの、サウンド全体が尻上がりにグルーブを増していく様子が、これまた強調されている。極めつけはM12「Under the Dog」であろう。間奏のギターソロからアウトロにかけての演奏は実に迫力がある。この辺のグルーブをLed Zeppelin的と言いたくなってしまうのは筆者の引き出しのなさを恥じるところではあるが、そう彷彿させるほどにカッコ良いアンサンブルであるとご理解いただきたい。
いずれも、メンバー3人が輪になってキャッキャッ言いながら演奏している姿を想像してしまうような、そんなサウンドだ。先ほども述べたが、のちに多くのアーティストのプロデュース、サポートをすることになる名うてのミュージシャン3人であるからして、この時点でもロジカルに楽曲を制作することもできたであろう。歌メロが立っているのなら、あえて抑制の効いたアンサンブルもナンボでもできたと思われる。しかし、そうではない楽曲が『Richmond High』にはいくつもある。語弊がある言い方かもしれないが、あまりこねくり回さず、考えず過ぎず、バンドの初期衝動に沿ったかたちで音を出している印象が随所にあるのだ。後年、現在のベーシスト、Janが加入したエピソードとして、[後任のベーシストを探している際に、白根の「シド・ヴィシャスのような(テクニックうんぬんより図抜けた存在感がある)奴は、どうか?」という提案を受けた片寄がjanに声をかけ、加入へと至った]という話があるそうである([]はWikipediaからの引用)。それがGREAT3の本質であるとするならば、『Richmond High』でもある程度、意図的に初期衝動に沿った作り方をしていたのは間違いないだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『Richmond High』
1995年発表作品
<収録曲>
1.Richmond High
2.Fool & the Gang
3.I Believe In You
4.Oh Baby (original Version)
5.エデン特急
6.Madness Blue
7.想い出のサマーブリーズ
8.腰ぬけマシーン
9.ジェット・コースター日和
10.Summer’s Gone
11.Mr.Spicoil (with The Guitar Hero)
12.Under the Dog
13.My Bunny Eyes
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