『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』ドミニク・ファイク(Album Review)

2020年8月3日 / 18:00

 2018年にリリースした1stシングル「3 ナイツ」が、英シングル・チャートで3位、米ビルボード・オルタナティブ・ソング・チャートでは1位をマークし、華々しいデビューを飾った米フロリダ出身のシンガー・ソングライター/ラッパー=ドミニク・ファイク。再ブームとなっているラップ・ロック系アーティストの代表格で、真似しようにも難易度の高い独自のサウンド・プロダクションは、先輩方や後追いする後輩たちも感化させている。

 本作『ワット・クッド・ポッシブリー・ゴー・ロング』は、その「3 Nights」含む初EP『Don’t Forget About Me, Demos』(2018年)から約2年ぶり、フル・アルバムとしては処女作となる。昨年は、オバマ前大統領の『Favorite Music Of 2019』プレイリストに選ばれたことが話題となり、同年リリースされたケヴィン・アブストラクトの『アリゾナ・ベイビー』や、今年初頭に発表したホールジーの『マニック』など、ゲストとして参加・提供した楽曲も高く評価され、絶好のタイミングでこのデビュー作を発表できる運びとなった。

 とはいえ、未だ収束する気配がない新型コロナウイルスによる影響や、ジョージ・フロイドが白人警官に殺害されたことで勃発した「ブラック・ライヴズ・マター運動」の余波を受け発売を延期するなど、これまでの過程は順風満帆と言い難い。そんな逆境を、人種差別経験のある自身の生い立ちと照らし合わせ、(ある意味)アルバムのコンセプトに繋げてしまうのだから凄い。

 アルバムからのリード・シングル「ポリティクス・アンド・ヴァイオレンス」にも、昨今の社会情勢や政治的内容が含まれている。悲壮感漂わすリリックと、夏の夕暮れ時に聴きたいゆるやかな横ノリの対比も絶妙で、スコットランドで撮影したというミュージック・ビデオも、作り物のような大自然に歌詞が映し出された、ため息が出るほど美しい傑作に仕上がっている。同ビデオは、約1か月間をかけて根気よく撮ったそうで、そういった手間も含め是非とも映像と共におたのしみ頂きたい。本作のカバー・アートは、この映像から引用したもと思われる。  

 1stシングルとしてリリースされた「チキン・テンダーズ」のビデオも、ワン・テイクで撮影したユニークな先駆的作品。ディスコ・パンクっぽいリズムにのせてステップを刻む様は、去る有名スターの影が……。ヒップホップ・アーティストとして区分されがちだが、同曲含めどちらかというとロック色が強く、パンクやオルタナ・ファンが喜びそうな曲が大半を占める。ラップをメインとした「キャンセル・ミー」も、ヒップホップ/ロック指向とが良い配分で混ざり合ったミディアム。ポスト・マローンの登場以降、ヒップホップ・シーンでもこのテの曲が流行ってはいるが、ドミニク・ファイクのスタイルは唯一無二といえる。この時季らしい、ビーチで撮影したレトロなビデオも最高。

 甲高いエレキが唸るイントロ「カム・ヒア」~米LAを拠点とするソングライター/プロデューサー=ジム・イー・スタックが参加した、スケート・パンク風の「ダブル・ネガティブ(スケルトン・ミルクシェイク)」 など、2000年代初期にブームを起こしたミクスチャー・ロックっぽい曲も多く、1995年生まれ(現24歳)という年齢からみるとその時代(リンプ・ビズキットやリンキン・パークあたり)は思春期から若干ズレるが、彼らを継承したような音も度々見受けられる。

 タイトルに直結した鋭い切れ味の「バンパイア」や、ストリート感覚のインディー・ロック「ホワイ」 、良質なメロディと晴れ渡るギタープレイがすばらしい、アメリカ製のエレクトリック・ピアノ「WURLITZER(ワーリッツァ)」を引用した「ワーリィ」など、昨今のロック・シーンによる流行に則った曲もある。

 いわゆる“チル系”とされるレゲエ・ロックの「グッド・ゲーム」 ~オルタナ・ヒップホップ「ワッツ・フォー・ディナー?」、エフェクトを上手く起用したドリーミーな「スーパースター・シット」 、ストリングスとコーラスのハーモニーが典麗な「10xストロンガー」と、アップ/ミディアムを挟み込みながら続く構成は、リスナーをぐいぐい引き寄せ、いつの間にか虜に。 出身地をタイトルに冠した、ケニー・ビーツとの共作曲「フロリダ」も、気怠さ満載のトラックに万能な高速ラップを加えた傑作。

 音でいうと完全に男子向き(嗜好)のアルバムではあるが、誰が聴いても文句ナシにすばらしい、満を持して発表しただけはある捨て曲なしの名盤。どのアーティストにもいえることだが、デビュー作のクオリティが高いが故、以降の作品にガッカリ感が……というパターンにならないことを祈りたい。それだけ、このアルバムが水準をはるかに上回った完成度、ということなんだけど。なお、本作にはケニー・ビーツとの「フォンナンバーズ」や、オマー・アポロが加わった「ヒット・ミー・アップ」などのコラボレーション・シングルは収録されていない。

 なお、ドミニクは9月に開催予定のフェスティバル【SUPERSONIC】での初来日も決定している。

Text: 本家 一成


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