『ゴールデン・アワー』カイゴ(Album Review)

2020年6月8日 / 18:00

 2014年、コンラッド・シューエルをフィーチャーした「ファイアストーン」が、イギリス(8位)やドイツ(3位)など、ヨーロッパの主要国でTOP10入りし、本国ノルウェーではNo.1を獲得。トロピカル・ハウスというジャンルを確立し、シーンに登場したカイゴのおよそ2年半ぶり、通算3枚目のアルバム『ゴールデン・アワー』が完成した。アメリカでは、2015年にジャスティン・ビーバーが「ホワット・ドゥ・ユー・ミーン」を大ヒットさせて以降、このテのダンス・トラックが主となったが、それ以前にトロピカル・ハウスをヒットさせたのはやはりカイゴで、立役者、火付け役というキャッチコピーも、納得せざるを得ない説得力がある。

 トロピカル・ハウスのブームは去ったものの、ここ最近は80年代のテクノ・ポップやニューウェイブをアレンジした曲が流行しつつある。新作『ゴールデン・アワー』にも、そういったサウンド・プロダクションが多少はみられるが、やはり基盤はトロピカル・ハウス。DJやプロデューサーとは、流行を生み出すだけでなく、敏感でありその最先端でなければいけない。「トロピカル・ハウス」という呪縛から逃れられないような風潮があったカイゴにとって、ブレイクからの葛藤はあったと思われるが、先駆者としてのブレない姿勢には感服する。

 1stシングルの「ハイヤー・ラブ」は、故ホイットニー・ヒューストンが生前残したボーカルをリユースした企画曲。同曲は、1986年に米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”でNo.1をマークした、スティーヴ・ウィンウッドによる同名曲のカバーで、焼き直しの直し、ということになる。「オールウェイズ・ラヴ・ユー」(1992年)の大ヒット直前、脂の乗り切ったホイットニーのボーカルが素晴らしいのは言うまでもないが、アダルト・コンテンポラリーからニュージャック・スウィングからトロピカル・ハウスと、時代の移り変わりが感じられるのも面白い。ホイットニーのボーカルがフィーチャーされるのは、2012年以来およそ7年ぶりということで、大きな注目を集めた。

 2ndシングルの「ライク・イット・イズ」は、キュートなポップ・シンガーのザラ・ラーソンと、ラッパーのタイガ、そしてDJカイゴというジャンルをクロスオーバーした3人によるコラボレーション。当初はデュア・リパに提供する予定だったそうで、ソングライターには彼女の名前もクレジットされている。ラテン・ハウスっぽい要素もある夏らしいナンバーで、ザラのパンチを効かせたボーカルと、タイガの気怠いラップが曲調にマッチした。コロナウイルスが大流行し始めた3月にリリースされた同曲には、沈みがちな状況の中にも前向きになれるメッセージが込められている。

 3rdシングル「アイル・ウェイト」のゲストは、米マサチューセッツ州出身の女性シンガー・ソングライター、サッシャ・スローン。制作陣には、ショーン・メンデス等のヒット曲を手掛ける人気プロデューサー=スコット・ハリスもクレジットされている。タイトルの通り離れてしまった“だれか”を待ち続けるという、健気な乙女心を画いた曲で、サッシャの哀愁漂うボーカルと、いわゆる“セツナ・ポップ”的なサウンドがその心情を上手く表現している。サッシャ・スローンとは、2017年にリリースした「ディス・タウン」に続く2曲目の共演。

 4thシングルの「フリーダム」は、英イングランドのシンガー・ソングライター=ザック・エイベルとのコラボ曲。風通しの良いハウス・ミュージックと、ハスキーなザックのボーカルが、不相応なようでいい具合に溶け込んだ。自由をテーマにした歌詞の解放感も十分感じられる。同曲のミュージック・ビデオは、当初モルディブで撮影する予定だったそうだが、コロナウイルスの影響によりプライベート・ルームでの様子を撮影した内容に変更されている。カイゴがトイレットペーパーでリフティングをしたり、ザックが手料理を振舞うシーンは、リゾート地での映像より貴重カモ?

 ワンリパブリックをフィーチャーした5thシングル「ルーズ・サムバディ」は、ピアノのイントロで始まるお得意のメロウ・チューン。失った人への未練と前向きなメッセージ、切ない旋律、広がりある大サビすべてがライアン・テダー節全開で、カイゴの曲として聴くと若干の違和感がある。後半はエレクトロ色が増し、存在感を取り戻した。ワンリパブリックは、前作『キッズ・イン・ラヴ』(2017年)収録の「ストレンジャー・シングス」でもコラボレーションしていて、異色ながらもこうして再タッグを組むということは、よほど相性がよかったとみえる。

 リリースの直前に公開された「ザ・トゥルース」は、アルバムのオープニングを飾る。ボーカルを務めるのは、米フィラデルフィア出身の女性シンガー=ヴァレリー・ブルッサード。曖昧な関係にモヤモヤするも、ハッキリさせたくない真実には気付いているという、もどかしい曲で、「暗闇で何も感じずに踊るの」というフレーズが音になったような、フロアで映えするダンス・トラックに仕上がった。エコーを効かせたヴァレリーの伸びやかなボーカルも、非常に気持ちが良い。ヴァレリーが客演したもう一曲の「シンク・アバウト・ユー」は、ボーナス・トラックとして収録されている。

 英ロンドンのお洒落系シンガー・ソングライター、ジェイミー・N・コモンズをフィーチャーした「フィールズ・ライク・フォーエヴァー」は、数年前にフェスでも披露されたアップ・チューン。制作には、「シャット・アップ・アンド・ダンス」(2014年)のヒットで知られるロック・バンド=ウォーク・ザ・ムーンのメンバーも参加している。故アヴィーチーのトリビュート「フォーエヴァー・ユアーズ」で共演したサンドロ・カヴァッザは、5曲目の「ビューティフル」に参加。アコースティック・ギターを起用したノスタルジックなサウンドは、初のコラボ曲「ハッピー・ナウ」(2018年)に匹敵する完成度の高さ。

 セイント・ルンディをゲストに迎えた「トゥ・ダイ・フォー」は、歌詞、サウンド共に重苦しいミディアム。個性的なビジュアルで人気を博しているキム・ペトラスとの「ブロークン・グラス」も、フロア向きのダンス・トラックとは少々異なる、ユルめのエレクトロ・ポップで、この2曲で一呼吸おき、英ロンドンのエレクトロポップ・デュオ=オー・ワンダーをフィーチャーした「ハウ・ウッド・アイ・ノウ」~ドリームラブとコラボしたトロピカル・ハウス全開の「クッド・ユー・ラヴ・ミー」で、再びダンスフロアへ。ドリームラブは、ボーナス・トラックとして収録した「ノット・OK with チェルシー・カトラー」のソングライターとしても参加している。

 カントリー・バンド、ザック・ブラウン・バンドのザック・ブラウンがボーカルを担当した「サムデイ」は、ハウス・トラックにカントリーやゴスペルのニュアンスを滲ませた意欲作。サム・ティネスのまろやかな歌声が包み込む「ドント・ギヴ・アップ・オン・ラヴ」も、エレクトロの中にアコースティックな要素を含む、他曲とは違う味わいがある。アヴィーチーの遺作「ネヴァー・リーヴ・ミー」(2019年)で知名度を高めた、ジョー・ジャニアック参加の「フォロー」や、本編最終曲となるホークスとの「オンリー・アス」も、前作までとはまた違うテイストを感じた。

 本作は、イギリス(6位)やスウェーデン(6位)等の主要国で上位にデビューし、オーストラリアでは自身初のTOP10入り(9位)を果たしたばかり。本国ノルウェーでは、デビュー・アルバム『クラウド・ナイン』(2016年)以来4年ぶりの首位を獲得した。アメリカでは、セレーナ・ゴメスとの「イット・エイント・ミー」(2017年 / 10位)以降ヒットからは遠ざかっているが、ノルウェーはじめヨーロッパ諸国では、今もなお第一線といえる活躍をみせている。カイゴが生み出すトロピカル・ハウスは、ブームとして消化されないのかもしれない。

 日本盤は、来月7月8日に発売予定。

Text: 本家 一成


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