コロナ禍の悲嘆と諦観で堂々巡りの毎日を打破するための5曲

2020年5月11日 / 18:00

コロナ禍の悲嘆と諦観で堂々巡りの毎日を打破するための5曲 (okmusic UP's)

一番辛いのは、自分ひとりがどれほど手を伸ばしても全てを掬い取ることはできないという現実です。多くの飲食店が腕によりをかけたテイクアウトの品々を素通りしなければならない無力さ、店先に立つ人々の視線から目を逸さなければならない虚しさ、数多のイベントスペースが窮状を訴えてもほんの限られた人の言葉にしか応えられない頼りなさ。自分は何のためにこの世界の隅っこにしがみついているのだろうと心許ない日々を消費しています。だからというわけではないのですが、無観客配信演芸会を主催することを決めました。ご出演者と関係者に頼ってばかりの毎日ですが、闇雲に手足を動かしている間だけコロナのことを忘れられるのです。無論、ひとりでやれることには限りがあります。ですが、無様でも、みっともなくても、そこから波及して伝播するものがあれば、かつて立ち寄ったあの場所もきっと守れるはずだと信じています。前置きが長くなりましたが、今日は嗚咽で潰れそうな最近、繰り返し聴いている5曲を紹介します。
いってみよう/馬喰町バンド(’17)

“ゼロから始める民俗音楽”をコンセプトに活動する馬喰町バンドが2017年にリリースしたアルバム『メテオ』から。血や鼓動と結実した言語化される前の信仰が落とし込まれる土着的な重厚さではなく、鼻歌と同じ明快さで関節と筋肉を揺さぶる多層的でトラッドなポップミュージック。漆塗りのように幾重にも重ねられるダンサブルなパーカッションと青嵐の如く吹き抜ける尺八の柔らかさ、同調圧力に押し潰されそうな日常に滑り込んで《あなたはあなたのあなた》《わたしはわたしのわたし》とひとつひとつの異なり方を肯定するやさしさ。郷愁と幻想を互い違いに織り込んだ凸凹のフロウのポジティブさと風通しの良さに何度でも心が洗われる。
「フェイド・アウト」(’81)/INU

説明不要問答無用泣く子も黙るINUの『メシ喰うな!』の狼煙を上げる1曲目。ロカビリーテイストのギター音が螺旋状に弾け飛び、濃霧の中でくぐもるドラムとベース音の緞帳を蹴破ってお出ましになる当時若干18歳の町田町蔵の荒削りながらもはちきれんばかりの潤いに満ちた声。引き裂かれそうな叫びでもって《お前の体はフェイド・アウト 消え入り果てて行く》と遊惰を蹴散らす挑発的で悟り切ったサビに背筋を冷やしながらも、爛熟した果実のようにニューウェイビーな一音一音が捲れ上がっては弾け飛ぶ痛快な展開には否応なく口角が上がり、いつ何時でも体が紅潮する。怠け心の肴にも現状を打ち破るトランキライザーにも転化しうる魔性を孕んだ一曲。
「Sakiyo No Furiko」(’20) /トクマルシューゴ

言葉を失っても致し方ない惨状を前にしてなお、詩を練り上げてメロディーを構築できる純真な強さを持つ者だけが表現者たり得るのだろうかと改めて思い知る。『TONOFON FESTIVAL 2020』の中止と『TONOFON(REMOTE)FESTIVAL 2020』の開催発表から程なくしてリリースされた「Sakiyo No Furiko」はトクマルシューゴにとって約4年振りの新曲。アコースティックギターとアコーディオンの混紡を軸に、高きから低きへ流れる水のようなナチュラルさと魔法のようなふくよかさを孕みながら精妙かつ巧緻に転がって開かれるメロディー。普遍的な懐古と神の視点が交差する歌詞で蒸留された幽玄と素朴さの世界はひたすらに穏やかだ。
「かみさま」(’09)/ PSG

PUNPEE、S.L.A.C.K.、GAPPERからなる3M CユニットPSGが2009年に発表したアルバム『David』の収録曲。アイリッシュ音楽を想起させる物悲しく神秘的なバイオリンのループフレーズの上で悪ふざけの皮を被って切なく行き交う《お願い お願い お願い 神様》のフック、《都合よく自分のタイミングであなたを信じる私を見て》と自嘲と自虐が目眩く揺れるバース。信仰も宗教も空疎な日本ならではの無色透明な“神様”に追い縋ると見せかけて自問自答に終始するニヒリズム、ユーモアの明かりを点滅させながら軟着陸するスノビズム、シンプルなトラックの薄暗い闇の中で鈍く光りながら揺れ続ける。
「小舟」(’19)/坂本慎太郎

プロテストソングほど鋭利ではなく、禅問答のような境地に到るのではなく、しかし確かに崩落し続ける社会への諦観、悲哀を恐ろしいまでに直線的な比喩で描いた楽曲。ゆらゆら帝国時代に発表した「船」の死生観と愛のダブルミーニングに懐かしさを覚えると同時に、“無関心を装わねばならない”相互監視の海にただ身を委ねて破滅へと向かう危うさに、青く澄んだ炎にも似た静かな怒りをもって警鐘を鳴らさなければならない現状の“間に合わなさ”に慄く。ストイックに削ぎ落とされた音数の中で淡々と揺蕩う坂本慎太郎とゲストヴォーカルゑでゐ鼓雨磨(ゑでぃまぁこん)の情感を拝した凪の歌声は、“今”という破裂の時を待ちわびていたのかもしれない。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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