来年の今頃には、日常に回帰するタフネスを呼び覚ます5曲

2020年3月30日 / 18:00

来年の今頃には、日常に回帰するタフネスを呼び覚ます5曲 (okmusic UP's)

この記事が公開される頃には、勤務先からテレワークを指示され、膝の上のパソコンを無言で打つ日々が始まります。この記事が公開される頃には、文化と娯楽を生業とする全ての人々が報われると信じています。不可視のウイルスと不透明な未来への恐怖にかられて顔を覆い隠し、架空の敵を作りたがる弱さはきっと誰しもが孕んでいるけれど、罪のない他人や海の向こうの人々を罵るよりも、まず前を向きませんか。「ハナから目が開いている人なんてひとりもいない。人間ってのは前に進もうと決めた時に初めて目が開くんじゃないか」。うろ覚えで恐縮ですが、私の好きな噺家さんが「景清」という落語の中で口にした台詞です。来年の今頃には「あん時、みんな血眼になってマスクとか探したよな」と笑いながら花見ができますように。
「SAYONARA」(’15)/SAKEROCK

星野源、浜野謙太、伊藤大地、田中馨、野村卓史という夢のような編成で活動したインストゥルメンタルバンドSAKEROCKのラストアルバム『SAYONARA』のタイトル曲。歌よりも雄弁で緻密かつ扇情的なメロディーで時に小刻みな呼気で点を打ち、あるいは雲がたな引くように伸びやかに泳動するトロンボーンの縦軸。啓蟄に蠢く地中を思わせるベースの重低音とキーボードの和音、息継ぎもせず踊り続けるパーカッシブなギター織り成される横軸。一分の余白も与えない切なさが喉元に突きつけらる緊迫感と、否が応でも体が揺れる緩やかさの波間を漂った果ての“ラララ”とピカピカの金管の煙が絡み合って立ち上る爽快さで構築されたドラマ性の隙のなさは、いつの日も滾る血のように鮮やかです。
「続きを」(’11)/salyu×salyu

salyuが“salyu×salyu”で2011年3月11日直後に発表したアルバム『s(o)un(d)beams』から、坂本慎太郎が作詞を手掛け、小山田圭吾が作曲したこの曲を。震災の傷がそこかしこでテカテカ赤黒く光り、スカスカの街並みに誰もがいつもの歩調を忘れてしまった頃、抽象的な装飾と具体的な記名性を削ぎ落としたがゆえにスッと浸透する普遍的な歌詞に、当たり前の1日が今日も来ることの多幸感を噛み締めました。素体のままで瑞々しさと軽やかさと強さが際限なく脈打つsalyuの声が、多重録音によってより明瞭とした描線と身体性を保ちながら流れ込んで響く健全さをゆっくり味わう贅沢さにあふれた楽曲です。
「スーダラ節(BUSINESS FISH ver.)」(’19)/BUSINESS FISH feat. 植木等

過去記事ですでにチャラン・ポ・ランタン版「スーダラ節」をピックアップしているのですが、先日決死の覚悟で敢行され、大成功した某イベントを結んだ曲なので、験担ぎを兼ねて紹介します。こちらは『ニッポン無責任時代』で植木等が歌った「スーダラ節」をXLIIがサンプリングし、ラップをDOTAMAが作詞、歌唱した換骨奪胎カバー。休符と手をつないで跳弾するキック音をベースに、植木等のヴォーカルの呑気さとは相反するデコラティブなシンセサイザー、現代ならではの湿り気のある苦悩も昭和から連綿と続く日本ならではの息苦しさも毒気のないポップネスに落とし込むDOTAMAのキュートなフロウの結晶は、ミラーボールのように煌めきます。
「ひきかえる」(’13) /chikyunokiki

札幌を拠点に活動するポストロックバンド・chikyunokikiのアルバム『Layer』の収録曲。サビの一節が今回の記事を書くきっかけとなりました。無数のシールドは血管、ステージ前方を埋め尽くすエフェクターは臓器、ライトに照らされる楽器は骨格なのではという世迷言がこぼれ落ちるほどの肉体性が躍動するインストゥルメンタル曲が印象的なchikyunokikiですが、「ひきかえる」は剥き出しの情動が荒ぶる獣のように全力疾走する荒々しさと清々しさで書かれた楽曲です。言葉と叫びの狭間で砕け散るボーカルと、倒けつ転びつつんのめりそうなギターが描く“ちっぽけな非日常の気忙しさ”が、今はどうしようもなく愛しいのです。
「アイアム主人公」(’18)/中村佳穂

おしまいは中村佳穂のアルバム『AINOU』の終幕を飾り、AppleのCMソングに起用されたこの曲を。《この曲の始まりに『努力で人生を変えようぜ!』 な~んて言う気もないけど》というメタ視点のとぼけたリリックから口火を切り、冴え冴えした直感力で綴られたユーモラスなライムと含み笑いが揺れるフロウから放たれる圧倒的な肯定の光の眩さ。周囲でクルクル回るダンサブルなドラム、ピアノ、スキャットのループ、多層的なヴォーカルの温かさと賑やかさが踏み出す能動性も尻込みする受動性も全部まるごと包み込む温かさが心地良く、誰もいなくなった青灰色の街を歩く時の刺々しさと寒々しさが剥ぎ取られます。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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