“愛は最強”、アカデミー賞受賞作品『ジョジョ・ラビット』を彩る5曲

2020年2月17日 / 18:00

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲! (okmusic UP's)

『ジョジョ・ラビット』が『第92回アカデミー賞』脚色賞を受賞しました。第二世界大戦下のドイツを舞台に、アドルフ・ヒトラーをイマジナリーフレンドに持つナチス支持者の少年ジョジョと、ユダヤ人の少女エルサの交流、ふたりを取り巻く人々の姿を通して、差別意識の愚かしさと“特別でなさ”、透明性の高さゆえに容易く凶器となり得る恐ろしさを、ジョジョが他者への愛と優しさを意識するまでの成長譚に織り交ぜて描いた傑作です。タイカ・ワイティティ監督自ら演じた想像上のヒトラーは、展開に緩急を与える潤滑油としての希薄さが貫かれ、“いてもいなくてもいいもの”という平たさを維持したまま存在することでファシズムやナショナリズムへの強烈なアンチテーゼを斬新なかたちで提示しています。相対する人々への蜃気楼にも似た憎悪を滑稽さに落とし込み、エンターテイメントに至らしめた『ジョジョ・ラビット』。この映画に鮮やかな色彩を与えた楽曲を紹介します。
「Komm Gib Mir Deine Hand」(’88)/The Beatles

冒頭で使用されているのはThe Beatlesのスタンダードナンバー「抱きしめたい」のドイツ語版。興奮状態のジョジョが無邪気に「ハイルヒトラー!」と叫ぶ牧歌的でカラフルな場面とナチスを信奉するモノクロの群衆をつなぎますが、ヒトラーの実像は徹底的に排除されています。今もなお色褪せることない音楽の神様にして永遠のスターがどれほどのリスナーを虜にしたか、その熱狂は国家や民族に抱く優越性の危うさと相似しているのかもしれません。ジョンとポールの甘やかで軽快なヴォーカリゼーションで紡がれる原始的で直線的な愛の歌はキャプテンKとフィンケルの用でもあり、リンゴ・スターの様式美と賑やかさが共鳴するドラミングは恋の一歩手前のざわめきを想起させます。
「I Don’t Wanna Grow Up」(’92) /Tom Waits

ジョジョらが参加するヒトラーユーゲントの合宿のシーンに挿入されているトム・ウェイツの名曲。シンプルかつ長閑なカントリー調のサウンドと相反して、獣の唸りに似た捨て鉢な歌声で「大人になんてなりたくねえ」と吐き捨てる、やさぐれた私情に満ちた一曲です。年端のいかない子供たちが、大人に命じられるままに武術の訓練をし、ユダヤ人へのレイシズムを植え付けられるさまは何度観ても胸が潰れそうなやり切れなさに侵食されます。嬉々として焚書する少年少女たちの姿に痛切さを滲ませた目で見つめる様子が余計に物悲しいのです。「つまらない大人」は巨悪を前に自身の良心や思想を放棄する名もなき民衆のことなのかもしれません。
「Mama」(’64)/Roy Orbison

「生まれ変わったらスカーレット・ヨハンソンになりたい」と世迷言を喚くほどにスカーレット・ヨハンソン演じるジョジョの母・ロージーの胆力とユーモアに満ちあふれながらも狂気と理性の狭間で揺れ動く弱さを垣間見せるさまが魅力的なのですが、オルゴールの真ん中で目を閉じるようにスローテンポなバラード「ママ」は、ジョジョとロージーがまだ表面上は穏やかに見える生活を送る中、虚ろな目で帰還する負傷兵を前にするパートで挿入されています。ドリーミーでまろやかなストリングスと、絹の織物を思わせる流麗な歌声は、戦いに巻き込まれてしまったが目に手放さざるを得なくなった安らぎへの憧憬に似ています。
「Everybody’s Gotta Live」(’75) /LOVE

劇中では陰鬱な暴力、戦闘描写が極力削られているのですが、ナチス軍が見限られ、追い詰められていく終戦間際の比喩として、ジョジョたちが住む街は色彩を欠き、人々の瞳から光が失われていきます。アーサー・リーが率いたLOVEのフォークロックナンバー「Everybody’s Gotta Live」はそんなムードの中に流れるのです。乾き切った死生観への諦めのリフレインが波打つ歌詞と寂寥感がはみ出す無骨なギターの和音、それらとは不釣り合いなようにも感じられる晴れやかで伸びやかな歌声とコーラスの重厚さが、武器を捨てた後に残るわずかな希望のごとくほのかに光ります。
「HELDEN」(’77)/David Bowie

ベルリンの壁がドイツを東西に分断していた時代に発表された「Heroes」のドイツ語版です。ボウイは壁が崩壊される約2年前にこの場所でコンサートを行ない、数千人のオーディエンスの前でこの曲をパフォーマンスしました。ドイツが破れ、本物のヒトラーが絶命し、終戦を迎えたエンディングでジョジョはエルサとともに“脱出”を遂げるのですが、現実では敗戦後も分断は続き、隔たりは生まれ続けます。ほんの束の間、平穏さの兆しの谷間で向かい合ったふたりに、雷鳴にも似たサイケデリックなギターの閃きと、典雅で鮮烈なボウイの絶唱が天上の賛美歌のごとく降り注ぐのです。「僕らはヒーローになれるんだ、たった1日だけなら」と。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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