東京事変、再生。第2期のデータを掘り起こす

2020年1月6日 / 18:00

ランキングには出てこない、マジ聴き必至の5曲! (okmusic UP's)

新年あけましておめでとうございます。元日から陰鬱な報道が矢継ぎ早に飛び込んでは現実を直視するどころかSNSをザッピングする気力すら削いでいく毎日ですが、「きっと次の閏年に」という誰のものでもない予想図通りに東京事変が再始動することだけは喜ばしく。デビュー時から鋭利さと完璧主義が同居した職業音楽家であった椎名林檎がバンドを結成したという事実だけで垂涎もののニュスだったわけですが、メンバーが亀田誠治、浮雲こと長岡亮介、伊澤一葉、刄田綴色という名前の並びだけで脳が沸騰して霧散しそうな精鋭揃いという、今思えば贅沢で希少な時間が2000年代のJ-POPシーンには確かに存在したのです。実際の始まりはH是都Mことヒイズミマサユ機、晝海幹音が在籍していた第1期ですが、今回は前述の第2期時代に発表された楽曲からピックアップします。
「生きる」(’10)/東京事変

アルバム『スポーツ』の冒頭を飾る、荘厳さと生々しさが共振する一曲。ゴスペルのごとき多重録音を用いたヴォーカルとコーラスの静謐な波形の交差から始まり、天性のエフェクターを喉に宿した椎名林檎の絶唱がつなぎ、バネのように躍動するバンドの骨太な演奏でようやく幕を開けるというような。ドラマチックな構成と華々しさが隅々まで象られたサウンドとは打って変わって、歌詞は誰も到達できない境地に至った者だけが手にする果てのない孤高のうら寂しさが綴られています。アルバムタイトルの『スポーツ』、金メダルを模したジャケットと相まって、大舞台を前にした一流のアーティストやアスリートたちの胸中で燃える冷たい葛藤の炎を垣間見るような心持ちになります。
「電波通信」(’10)/東京事変

『スポーツ』から連続してそのまま2曲目を紹介してしまうのは安直すぎるかと思いつつも、「生きる」の豪奢さと緊張感のバトンを受け取ってこの流れに至るのはやはり最高なので。刄田綴色のタフネスと軽妙さの衣を纏いながら疾走するドラミングと亀田誠治の地の裏で蛇行するかのごとき鋭さが混紡するイントロから浮雲の歪んだギターが意識を呼び覚ますハードロックサウンド。伊澤一葉のシンセサイザーが電子の海を表現し、顔を照らすスマートフォンの光が“誰もが持ち得る孤独”を浮き彫りにしながらも、心の最奥からくる欲求を咆哮するヴォーカルが痛切さと爽快さを伴って閉塞感を切り裂きます。
「化粧直し」(’06)/東京事変

刹那的な衝動を新鮮なまま詰め込んだような第1期の最初で最後のアルバム『教育』を経て、複雑な感情で緻密に構築された第2期初のアルバム『大人』。3曲目となる「化粧直し」は音楽一家に育った椎名林檎のルーツを手繰り寄せるような歌謡曲の哀愁と別れを描いたボサノヴァ調の楽曲で、声を際立たせるようなシンプルな構成もさることながら、霧のように煙り、棚引くタブゾンビ(SOIL&”PIMP”SESSIONS)のトランペットの“音がある静けさ”のほろ苦さが素晴らしい。余談ですが、原稿書くにあたって久々にオリジナル香水の匂いがついた初回限定盤を引っ張り出したところ、まだちゃんと香りが漂うことに驚愕しました。
「恋は幻」(’05)/東京事変

ネッド・ドヒニー「Get It Up For Love」のカバー。もともとは夏の日差しを遮る影の中にある渇きを感じさせるスローテンポのAORなのですが、事変バージョンはアップテンポでダンサブルなナンバーに。歌詞で綴られている内省的な恋の悩みを引きずり出し、叩き起こし、鼓舞するがごとき騒がしさ、アンニュイさや物悲しさをバッサリと切り捨て、一騎当千の巧者たる各メンバーの遊び心に委ねられているさまはかえって清々しいほどです。忙しなく交差するメンバー同士の駆け引きの波間を滑る浮雲のサーフギターのユーモア、色彩豊かな混沌がアウトロで刄田綴色の4つ打ちに収斂されていくカタルシスが絶妙。
少女ロボット(’06)/東京事変

椎名林檎がともさかりえに提供した楽曲のカバー。『大人』リリースツアーで披露されており、こちらはライヴの音源を収録したものです。鼻歌のようなともさかりえの無機質でドーリーな歌唱から情念たっぷりの椎名林檎のヴォーカルだけで大化けするこの曲に、百戦錬磨の演奏隊が鉄壁の強度と天衣無縫さをもって臨んだ結果、邪悪でニューウェイビーでデコラティブな毒気にあふれた、それだけに抗い難いナンバーに。ギターとシンセサイザーとドラムが同期して膨張し、不敵な笑みを浮かべながら迫り来るスリルへの焦燥感と高揚感で弾け飛びそうなイントロ、しかし原曲のアレンジから脇道にそれることはない品の良さに“プロフェッショナルだけが許された遊戯”の空間と時間を察知して、肌が粟立ちました。
TEXT:町田ノイズ

町田ノイズ プロフィール:VV magazine、ねとらぼ、M-ON!MUSIC、T-SITE等に寄稿し、東高円寺U.F.O.CLUB、新宿LOFT、下北沢THREE等に通い、末廣亭の桟敷席でおにぎりを頬張り、ホラー漫画と「パタリロ!」を読む。サイケデリックロック、ノーウェーブが好き。


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