椎名林檎、児玉裕一監督とMV上映会&トークライブ開催「お客さんと共にこの令和の世を生き抜いていくことで、もっともっと辻褄が合っていく…」

2019年12月16日 / 12:00

 2019年11月13日に自身初のベスト・アルバム『ニュートンの林檎 ~初めてのベスト盤~』をリリースした椎名林檎が、12月11日に2011年以降のミュージックビデオ(以下MV)を集約したBlu-ray/DVD『性的ヒーリング ~其ノ伍~七~』と、デビュー作からの全MVを収めたコンプリート盤『The Sexual Healing Total Orgasm Experience』をリリースした。そんな彼女が映像ディレクター児玉裕一監督とともに【轟音上映会 And The Beat GOes ON ~ The Sexual Healing ~】を開催。このイベントのため、児玉監督により特別編集された70分間の映像を上映、その後二人が登壇しMV制作について語るトークセッションが行われた。

 会場となったユナイテッド・シネマ・アクアシティお台場スクリーン3では、観客約300人の前に、自称“2時間だけの支配人”児玉監督がタキシード姿で現れた。「スマホやPCの小さな画面では気づかなかったことを、今日は大画面・大音量で新たに発見して欲しい」と述べ、自身も客席に着き上映がスタートした。発売を目前に控えたミュージックビデオ集のシリーズ最新作『性的ヒーリング~其ノ伍~七~』に収録されている近年の作品を中心に全15曲が次々に流される。劇場のスクリーンで、轟音で観るそれらは想像を超える凄まじい迫力だ。

 上映が終了し、ステージが準備されるなか、児玉監督が客席を歩きながら唐突に観客に感想を聞くという進行が何とも新鮮で初々しかった。そして『性的ヒーリング ~其ノ伍~七~』のパッケージに合わせたチョコレート色のドレス姿で登場した椎名がステージに呼び込まれると黄色い歓声が上がった。入場時に配布された、MV制作当時に実際使われた絵コンテを掲載した冊子『HOW TO MAKE A MUSIC VIDEO』を片手に観客は熱心に話を聞き入っている。

 椎名の思い入れが詰まった「長く短い祭」(2015年)についてトークが進むと、椎名は「アイテム、例えば石鹸とかそういったものにその人の暮らしぶりが全部描写されちゃうんですよね。だからSAYAというヒロインがどういう人生を歩んで、どういう時間を過ごしてきたのかが間違って伝わるのだけは許せなくて、結局、家から色々なものを持ちこんだ」と告白。

 「化粧も大してしていない、もともと綺麗で、生まれつき何不自由なく育てられ、恋人もいて、何不足なく暮らしているのだけど、今日もしかしたら人生のピークを迎えているのかもしれない。それは喜ばしいことかもしれないけれど、今まさに折り返しているのかもしれないという不安。言語化しないにしても女性にはそういう1日ってきっとあると思うんです。そういう具体的なことを私は自分なりにリアリティーを持って十代の頃から実感していたから、そういうのが違ってしまうのがすごく恐怖なのです」と力説する椎名の横で、児玉監督は「そんな思いで作られた曲のMVを作らないといけない、こっちのプレッシャーも凄いですよ。これはほんとうに困ったなと思いながら毎回作っています。映像の監督というのはその思いを受けないといけないので大変ですよ。そういう思いを聞いてしまうとただのMVは非常に作りづらくて……」と苦労を語った。

 今回のトークライブで2人が絶対に話したかったことは、ファンからもよく問われる“伏線”について。「奇跡的に、辻褄が合っちゃうんですよね。辻褄がポンポンポーンと合っていくビデオとかプロジェクトは、すごく良いプロジェクトで、いつの間にかパズルがパチパチパチっとハマっていくんですよね」という児玉監督に、椎名は「それは多分、リアリティーの差だと思うんですよ。いかに私達作り手がリアルな現実社会に暮らしているかということ。そういうところで繋がってくるというか、お客さんとの共通項の部分がちゃんと残ってくる。私達が奢ることなく、お客さんと共にこの令和の世を生き抜いていくことで、もっともっと辻褄が合っていくと思いました」と持論を述べた。さらに椎名は「先日、坂本真綾さんに歌っていただいた時に(「宇宙の記憶」)、敢えて『鶏と蛇と豚』の最後のトロンボーンのフレーズを、トランペットで違うノリで演奏してもらったのですが、『鶏と蛇と豚』の時は私達に襲い掛かってくる抗いようのない命の一方向の時間や制約をテーマとしていましたが、真綾さんは女神様なので、それをはるか上から『あら、愚かしい下々の者よ、可哀想に。でも、羨ましい』と見下ろしている。決まり事として素材を置いていくということをしていけば、お客さんとストーリーがこれからも繋がっていくのではないかと夢見ております」と自身の考えを明らかにした。

 「これなら好きというMVはありますか?」との問いに「今日上映してもらったものは全部気に入ってます」と椎名は答え、「どれも音のクレッシェンド視点で、ここにアタックを欲しいという決め所を絶対にリンクして表現してくれるので嬉しいです。そこだけはMIKIKO先生とか、AyaやBambiにもお願いするところなんですよね。歌はそこに乗っかっているだけなんだけど、どちらかというとサウンドで時間を提示したいです」と、MVに欠かせないダンスクリエイターたちの名を挙げた。「監督もまだダンサーとしての人生を諦めていない」と冗談めかす椎名に、児玉監督は「本当はここでタップを披露したいくらいです」と、ムーンウォークを披露し、笑いを誘った。

 「MVって表現的には自由なカテゴリーでディレクターの腕の見せ所だと思うんです。だからもっとMVを盛り上げたいんですよね。椎名さんが盛り上げようと言えば、盛り上がるんじゃないでしょうか?」と会場に投げかける児玉監督に対し、「20年間ずっと思っているんですけれど、どなたに伝えればいいのか」とクールな椎名。「ガラスを割ったり、車を割ったりっていうのを、最初全然知らないところから見て、とんでもないことをする人たちがいるんだなぁ、東京は怖いなと思っていました」と、当時まだサラリーマンだった児玉監督の思い出話に、観客も笑みを浮かべた。

 お客様と繋がりたいという真摯な気持ちを幾度も繰り返した椎名と、その思いを受け止める器の大きさに加え遊び心に溢れた児玉監督。2人の人となりが垣間見られたこの貴重な機会で、これまで未知だった制作過程や両者のクリエイターとしての考えを聞くと、パソコンやタブレットで手軽に映像を再生できるからこそ、テレビ画面でじっくり向き合い、作り手の気持ちを受け止めたいと思えた。この上映会のタイトルが【And The Beat Goes On(轟音)】だけに、今後も続くことを期待したい。

Text by 小川智也
Photo by 太田好治(yoshiharu ota)

◎椎名林檎【轟音上映会 And The Beat GOes ON ~The Sexual Healing~】セットリスト

2019年12月7日(土)ユナイテッドシネマ アクアシティお台場 <screen 3> 
【本編】
<OPENING>
<CHAPTER 1>
鶏と蛇と豚(性的ヒーリング~其ノ七~)
獣ゆく細道(性的ヒーリング~其ノ七~)
神様、仏様(性的ヒーリング~其ノ六~)
長く短い祭(性的ヒーリング~其ノ六~)
目抜き通り(性的ヒーリング~其ノ七~)
<CHAPTER 2>
都合のいい身体(性的ヒーリング~其ノ四~)
メロウ(The Sexual Healing Total Care Course 120min. – 特典映像)
ありあまる富(性的ヒーリング~其ノ四~)
<CHAPTER 3>
APPLE(不惑の余裕ver)(The Sexual Healing Total Orgasm Experience – 延長サービス映像)
<CHAPTER 4>
いろはにほへと(性的ヒーリング~其ノ伍~)
NIPPON(性的ヒーリング~其ノ伍~)
青春の瞬き(性的ヒーリング~其ノ六~)
<CHAPTER 5>
公然の秘密(性的ヒーリング~其ノ七~)
浪漫と算盤(性的ヒーリング~其ノ七~)
<LAST CHAPTER>
人生は夢だらけ(性的ヒーリング~其ノ六~)
<ENDING> 

◎リリース情報
Blu-ray/DVD『The Sexual Healing Total Orgasm Experience』
2019/12/11 RELEASE
<2Blu-ray>
UPXH-20089/90 8,000円(tax out.)
<4DVD>
UPBH-20258/61 8,000円(tax out.)

Blu-ray/DVD『性的ヒーリング ~其ノ伍~七~』
2019/12/11 RELEASE
<Blu-ray>
UPXH-20088 4,000円(tax out.)
<2DVD>
UPBH-20256/7 4,000円(tax out.)


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