POLYSICSのメジャーデビュー作『NEU』からあふれ出るニューウエイブ本来のスピリッツ

2019年11月13日 / 18:00

ここ数カ月間、結成○周年やデビュー○周年のアーティストのリリースが渋滞していて、レコ発タイミングに間に合わなかったが(御免!)、10月に通算17枚目のアルバム『In The Sync』と、同一メンバーによる別バンド、The Vocodersによるアルバム『1st V』とを同時発売したPOLYSICSを今週の邦楽名盤コラムにご登場いただく。そのコスチュームや独自のスタンスから日本国内では一時期はキワモノ視されるようなところもあったと聞くが、積極的な欧米でのライヴ活動、音源リリースが奏功して、世界中にファンを持つ。日本を代表するロックバンドと言っても決して過言ではない。
所謂テクノポップに留まらない

あんまり意味があることでないのは分かっているのだけれど、ついついしちゃってるのが音楽のジャンル分け。活字の場合はそうしないとなかなか説明しづらいこともあって、仕方がなく使用している部分も少なくないわけだが(言い訳御免)、ことロック、ポップスに関しては本来そんなに細分化されるものでもなかろうし、そもそも演者毎、楽曲毎にその本質がそれほど変わるわけでもないのだから、若干不毛なところもある。

後発のアーティストによるカバー楽曲を例に挙げると、それがよく分かるのではないかと思う。例えば、のちにOtis ReddingやElectric Light Orchestra、Yellow Magic Orchestra(以下YMO)がカバーしているThe Beatlesの「Day Tripper」(1965年)。それぞれのカバーバージョンは、言ってしまえば、順にソウル、プログレ、テクノポップに分類されるわけだが、「Day Tripper」は「Day Tripper」であって、それぞれ拍の取り方、サウンドの構成、音色などは違うものの、メロディーや歌詞といった楽曲の本質が(大きく)変わっていないことは誰の耳にも明らかである。ロックンロール(あるいはロック)とソウルはR&Bから派生したものだし、プログレはプログレッシブロックの略称であるからその起源は言うまでもなかろう。テクノポップはもともと実験的ロックを指す“クラウトロック”なる言葉で語られていた西ドイツのバンドのひとつで、その開拓者とも言えるKraftwerkの音楽性を示した和製英語という説が濃厚である。つまり、源流はひとつである。

この際だからついでに言うと、YMOもまたさまざなアーティストにカバーされていて、ごく最近のトピックで言えば、槇原敬之が10月23日に発売したカバーアルバム『The Best of Listen To The Music』の1曲目に「君に、胸キュン。」を選んでいる。世界規模で言えば、「Behind The Mask」はMichael Jackson、Eric Claptonにカバーされているし(前者は『MICHAEL』(2010年)収録、後者は『August』(1986年)に収録されている)、個人的にはTHE MAD CAPSULE MARKETSの「SOLID STATE SURVIVOR」(『SPEAK!!!!』収録・1992年)が印象深い。Michael Jackson、Eric Clapton、そして槇原敬之の楽曲もまたさまざまなアーティストによって、さまざまなかたちでカバーされているのはみなさんよくご存知のことであろう。アーティストが創造してきた楽曲の本質は脈々と受け継がれている。考えてみれば、The Beatlesの1st『Please Please Me』、2nd『With the Beatles』、それぞれの収録曲はカバーが半分だし、そもそもロックはそうしたことを運命付けられているのかもしれない。ちょっと話がズレた。カバーの話はここまで。

今回改めてPOLYSICS の音源を聴き、過去何度か拝見した彼らのライヴを思い起こすと、やはりジャンル分けの不毛さといったようなことを考えてしまった。その風貌やバンド名から、彼らは日本で言うところのテクノポップの影響が色濃いバンドであると語られることが多い。彼らの公式サイトのプロフィール欄にはこうある。[1997年、アメリカのNew Waveバンド“DEVO”に憧れたハヤシが高校生の時に結成。バンド名の由来は、KORGのシンセサイザー“POLYSIX”から。全員揃いのツナギにバイザーという奇抜な出で立ちに加え特異なパフォーマンスと、爆音ギターとシンセやヴォコーダーなどのコンピューターミュージックを融合させた唯一無二のサウンドで一躍注目を浴びる](公式サイトから抜粋)。“DEVO”で画像検索してもらえば一目瞭然。DEVOはメンバー全員が同じツナギ(というか、どこか防護服みたいな感じ)を着用しており、サングラスというよりはサンバイザーといったほうがいい目隠しみたいなものを、これまたメンバー全員で着用している時代もあった。POLYSICSはそれをほとんど拝借したと言っていい。バンド名も上記の説明の通りで、少しでも音楽に詳しい人ならピンと来る名前である。ただ、こうしたことから、簡単にPOLYSICSを所謂テクノポップという括り方で見てしまうと、このバンドを見誤る。彼らはDEVOの影響下にあることは間違いないものの、そのエピゴーネンなどではまったくない。それは『NEU』を聴けばよく分かる。テクノポップと形容するには、本作はあまりにも奔放でエッジーなのだ。
サウンドはロックの保守本流

M1「go ahead now!」は短いが小気味のいいリズミカルな電子音から始まるので、パッと聴き、“確かにこれはテクノポッ…”くらいまで思うはず。だが、そこからのシンバル連打~エレキギターのかき鳴らし、さらにはノイジーかつダイナミックなバンドサウンドが聴こえるに至っては、これがロックの本流のスタイルであることが理解できる。続くM2「MS-17」はイントロからエレキギターのストロークなので、ギターバンドの王道とも言えるサウンドだ。ともに電子音中心のバンドサウンドではなく、バンドサウンドに電子音をあしらったという印象で、爆裂感と疾走感が楽曲全体を支配している。1stシングル曲でもあるM3「XCT」とM4「S.V.O」とは、いわゆる“ロボ声”を取り入れたりしていて、M1、M2に比べると比較的デジタル系の音が前面に出ている印象ではあるものの、やはりベーシックは3ピースのアンサンブル。M4の間奏などでは伝統的なギターソロ(?)を聴けて、ロックの本流であることを余計に確信する。

以後、M5「MAKING SENSE」もM6「each life each end -sputnikless mix」、M8「CY/CB」も同様の聴き応えなのだが、特筆したいのはM7「DISORDER」のリズム。ちょっとジャングルビートっぽくもあるので完全なセカンドライン…とは言わないけれど、どこかニューオーリンズ風のビートが根底を支えているのが面白い。シーケンサー、リズムマシンが積極的に取り入れられることになり、それまで以上にきっちりとしたパルスや、定期的な拍が作れるようになったことに起因しているのだろうが、テクノポップの隆盛をリアルタイムで体験しているリスナーには、デジタル系サウンドを司るアーティストは無機質さを標榜しているものだという先入観を拭えないところはないだろうか。DEVOにしてもYMOにしても凄腕のドラマーがいて、生ドラムが発散するグルーブは楽曲において重要であるので、それこそオールドリスナーの偏向した印象論でしかないのだけれど、M7「DISORDER」はそんなオヤジの戯言を完全看破しているようでかなりグッとくる。シンセもノイジーで、テクノはテクノかもしれないが、そこに“ポップ”を付け足すことはできない印象で、(これは称賛の言葉として受け取ってほしいのだが)結構気持ち悪い。でも、そこがすこぶる新鮮だ(った)。

気持ち悪い(褒めてます!)と言えば、M9「X-RAYS (this is my life)」もそう。ベースラインが全体を引っ張るところにギターのフィードバックノイズが重なってサウンドが構築されていく様子は、まさにバンドのマナーに則った、これもまたロックの本流といった感じなのだが、左側でリズミカルに鳴っているシンセの音色はそのバランスも含めて何とも気持ち悪くて最高だ。耳の奥に虫か小動物が居座って鳴いてるような…。これをポップと呼んでいいものかどうか分からないけれど、バンドマジックのひとつの発露ではあろう。次のM10「WHAT」は比較的ゆったりとしたテンポで、言わば横ノリといったリズム。わりとフリーキーに演奏されるドラムとは対象的に、ブザー音のような電子音が淡々と並走していく様が、M9ほどではないにしろ、こちらも微妙にノイジーで変な雰囲気を醸し出している。M10は途中からアップテンポに展開していき、以降、M11「PLASTER CASTER」、M12「URGE ON!! -velocity2」、M13「I’m a worker」と、グイグイと迫る怒涛のアップチューン3連発でアルバムはフィナーレ。全13曲で収録時間は41分と比較的短めの楽曲が並ぶ作品ではあるが、この時点でのPOLYSICSの勢いと彼らのロック感がギュッと凝縮された秀作に仕上がっている。シンセやデジタル音は目立つものの、それを上手くバンドサウンドに取り込んでいることは間違いなく、それがテクノポップと言ってしまえばそうなのかもしれないが、1970年代のテクノサウンドをさらに次のステージに進めた印象である。その取り組み方において、それは文字通り“ニューウエイブ”という言い方がぴったりくる。
DEVO精神の正統なる後継者

そうした自覚は全ての楽曲の作詞作曲を手掛けたハヤシ(Vo&Gu)の胸中にも確実にあったのではないかと推測できる。『NEU』収録曲の歌詞はパッと見ではその意味をストレートに受け入れられないシュールな印象のものや、内容というよりも言葉のリズムからその言葉を選んだのではないかと思わせるものが多いが、下記のようなタイプもしっかりと収録されている。

《Need something to change your mind/Change your mind, stop making sense/Learn about the both side of things/Tails I win, heads you lose》《One blockhead’s silly action/Leads to the new sense world/One blockhead’s silly action/Leads to the new sense》(M5「MAKING SENSE」)。

よもや作者本人もそれを否定しないだろうが、仮に本人が否定したとしても、この歌詞はPOLYSICSの基本姿勢であり、メジャーデビューにあたっての決意表明であったことを推したい。この歌詞は“ニューウエイブ”の到来を煽っている。そう考えると、M12「URGE ON!! -velocity2」やM13「I’m a worker」などの歌詞は、逆説的に平板な社会への皮肉であり──これはたぶん穿った見方であって、そういう考え方もできる…くらいに止めてもらって結構だが──当時の音楽シーンへのアンチテーゼにも感じられる。

本稿の最後に、POLYSICSが影響を受けたことを公言しているバンド、DEVOのリーダーであるMark Mothersbaughの言葉を以下に引用したい。

[演奏の仕方、使い方がエスタブリッシュされているもので未来は語れないよ。未来のためには、未来の手段が必要だ。今のミュージシャンは、たとえばシンセサイザーを使うときも、ギターやドラムを使う時と全く同じように使おうとする。つまり、これまでの楽器の代用または延長としてしか見てないのさ。エレクトロニクスにはエレクトロニクスの言葉があるんだよ。(中略)Devoはエレクトロニクスを崇拝しているわけでもないしエレクトロニクスがすべてなんて思っているわけじゃないけど、エレクトロニクスをエレクトロニクスの次元で、それ自身の言葉で語らせたら多くの可能性をもっていると思うんだ。これまでの表現にはなかったコンセプトやアイディアを現実のものにするには、今のところ一番適しているんじゃないかな]([]はWikipediaからの引用)。

大分長く引用させてもらったが、DEVOが単にエレクトロニクス、所謂デジタル音をそのサウンドに取り込むだけのバンドでないことはこの台詞でよく分かる。POLYSICSはのちにDEVOと共演し、メンバーから直々にDEVOの正統な後継者である旨を告げられたという。もちろん、それはビジュアル面やサウンド面の継承でもあっただろうが、それだけでなく、過去の表現にとらわれないという、その精神を継承していたからに他ならないであろう。POLYSICSのメジャーデビュー作『NEU』からもそのスピリッツはあふれ出ている。
TEXT:帆苅智之
アルバム『NEU』
2000年発表作品

<収録曲>

1.go ahead now!

2.MS-17

3.XCT

4.S.V.O

5.MAKING SENSE

6.each life each end -sputnikless mix

7.DISORDER

8.CY/CB

9.X-RAYS (this is my life)

10.WHAT

11.PLASTER CASTER

12.URGE ON!! -velocity2

13.I’m a worker


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