フラワーカンパニーズはなぜ消えなかったのか? そのバンドのすごさを『世田谷夜明け前』から探る

2019年11月6日 / 18:00

9月4日に通算17枚目のアルバム『50×4』したフラワーカンパニーズが、11月16日のHEAVEN’S ROCK 熊谷 VJ-1を皮切りに結成30周年を記念のワンマンツアー第二弾である『50×5』をスタートさせる。というわけで、今週はフラカンの名盤を紹介。どれにしようか随分と迷った結果、名曲「深夜高速」が収録されたオリジナルアルバム『世田谷夜明け前』をチョイスして、いつも以上に徒然なるままに作品の感想を書いてみた。
奇跡的なフラカンの軌跡

メンバーチェンジなし!活動休止なし!ヒット曲なし!──。これはフラワーカンパニーズ(以下フラカン)のヒストリー本『消えぞこない』のサブタイトルの一部(正式な書籍名は『消えぞこない:メンバーチェンジなし!活動休止なし!ヒット曲なし!のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライヴにたどりつく話』)。確か鈴木圭介(Vo)もこの台詞をライヴで叫んでいたような記憶もあるが、MCから書籍タイトルを取ったのか、書籍のサブタイトルをライヴで引用したのか分からないけれども、この台詞はある時期からの彼らを端的に表したものだと言っていい。

フラカンは1989年、地元の同級生同士であった鈴木圭介、グレートマエカワ(Ba)、竹安堅一(Gu)、ミスター小西(Dr)の4人で結成された。1995年にメジャーデビューするも、2001年にはメジャーを離れてインディーズで活動。[“自らライヴを届けに行く事”をモットーに活動、大型フェスから小さなライヴハウスまで日本全国津々浦々…メンバー自ら機材車に乗り込み、年間で100本を超える怒涛のライヴを展開]した([]はフラワーカンパニーズのオフィシャルサイトより抜粋)。2008年に再びメジャーへ復活し、2015年には自身初の日本武道館公演を成功させている。2017年に自らのレーベル“チキン・スキン・レコード”を設立し、再びメジャーを離れてインディーズで活動を開始。現在に至っている。この間、メンバーは上記4人のままだし、解散や活動休止とも無縁である。多くのアーティストが「深夜高速」だけをカバーしたコンピレーションアルバム『深夜高速 -生きててよかったの集い-』(2009年)発売当時、一部で公にフラカン支持を訴える人(なぜか芸人が多い)が増えたような印象はあったものの、だからと言って、その「深夜高速」にしても巷の人が知るようなナンバーではないだろう。誰もが知るヒット曲とも今のところ無縁である。文字通り、メンバーチェンジなし!活動休止なし!ヒット曲なし!…なバンドなのである。

今年で結成30年間。この間メンバーチェンジなし…というのは、それはそれですごいことは間違いないが、他に例がないわけじゃない。今メジャーで活動している人たちにもそこそこいるし、アンダーグラウンドなら結構いると思う。もちろん30年間、一度も活動休止していないのはそうそうあることではないし、これもすごいことではあるけれども、最もフラカンのすごい点は、ヒット曲なしで30年間、一度も休止することなく、しかもメンバーチェンジもなく活動を続けていることであろう。つまり、メンバーチェンジなし!活動休止なし!ヒット曲なし!…が三暗刻よろしく揃ったことが何よりのすごさである。とりわけヒット曲がないことは特筆すべきだと思う。

ヒット曲に恵まれないことがメジャーで活動を続けられないこととほぼ同義であるのは、説明するまでもなかろう。華々しくデビューを果たしたバンドの名前が気付くといつしか耳にしなくなっていて…なんてことは今も昔もある話だが、そうした事例が起きるのは概ねヒット曲がないことに起因する。シングルヒットはなくとも、アルバムのセールスが好調となれば話は別で、そういうバンドも少なくないけれど、フラカンの場合、“ヒット曲なし”を凌駕するほどにアルバムのセールスが著しかったかと言えば──彼らがアルバムアーティストであることは間違いないけれども、目を引くほどに売り上げたアルバムがあったかと訊かれたら正直言って答えに窮する(実はフラカンのセールスに関する正確な数字を入手できていないのだけど、それほど間違った物言いでもなかろう)。それでいて、1989年の結成以来、インディーズ→メジャー→インディーズ→メジャー→インディーズとフィールドを変えつつ、休むことなく活動し続けているのだから、フラカンが他に類を見ないバンドであることは間違いない。ほとんど奇跡的な軌跡と言っても差し支えないかもしれない。
大人になったからこそ響くロック

それでは、そうした──“希少なバンド”と形容したくなるフラカンが、どうして絶滅を免れているのかと言えば、これはもう、その核心と言える音楽性以外に理由はない。決して数多くの人がフラカンの音楽をとらえたわけではないが、前述の通り、それを彼ら自身で届けた結果、確実に届くべきところへ届いたからである。フラカンの楽曲のほとんどは鈴木が作詞作曲を手掛けているので、すなわちフラカンのナンバーの中心にあるものは鈴木圭介の思想と言える(メンバーも“鈴木が思ったことを音楽にするのがフラカンである”といった主旨のことを公言している)。核心の核心は鈴木の想いにある。結論から先に言ってしまえば、鈴木=フラカンの歌詞はシンプルで分かりやすい。考えていることをおおよそありのままに打ち出している印象が強いのだが、とりわけ特徴的だと思われるのは、物理的に大人となってしまった自分自身に対する感慨、感情である。アルバム『世田谷夜明け前』収録曲では以下のように綴られている。

《年をとったらとるだけ 増えていくものは何?/年をとったらとるだけ 透き通る場所はどこ?/十代はいつか終わる 生きていればすぐ終わる/若さはいつも素裸 見苦しい程ひとりぼっち》(M1「深夜高速」)。

《かくれんぼ かくれたまんま/何となく 大人になった/今もって かくれたまんま ワッショイ ワッショイ ワッショイ ハハ~ン》《かくれんぼ かくれたまんま/気がついたら 大人になった/死ぬまで見つからねぇぞ ワッショイ ワッショイ 俺はここだ》(M3「赤点ブギ」)。

《時間だけがたって 僕は年をとる 一体何がわかったんだろう?/いくつになっても 人を好きになると あの頃の自分に戻ってしまう》《時間だけがたって 人は年をとる その時何を感じるんだろう?/そんなの知らないさ きっと僕はまた 何度でも君を好きになるだろう》(M4「初恋」)。

《子供のままじゃなく/大人のフリじゃなく/自分らしく ああ 生きてるかな》《子供のままじゃなく/大人のフリじゃなく/自分らしく ああ どんなだろう》(M5「忘れもの」)。

大人となること、大人となったことを礼賛するわけでも悲観視するわけでもなく、時に逡巡しながら自らの心情を吐露しているようである(戸惑いはM7「世田谷午前三時六分」やM11「寄鷺橋サンセット」辺りに色濃く、タイトルに相反してM13「アイム・オールライト」にも意外とその辺が見受けられる)。こうした“大人”をとらえた歌詞は、のちのシングル曲「この胸の中だけ」(2008年)や「元少年の歌」(2010年)でも見受けられるので、フラカンの特徴と言ってもいいだろう。ロックはもともとティーンのものである。60年代には“Don’t Trust Over Thirty(30歳以上を信じるな!)”なんてスローガンもあったくらいだ。だが、「深夜高速」の歌詞を拝借すれば《十代はいつか終わる 生きていればすぐ終わる》のである。30歳以上を信じるも信じないも、10代から10数年も経てば自身が30代を迎えるし、その後(そういう人が大半なのだが)何事もなく人生が続くのであれば30代以降の時間のほうが圧倒的に長い。30代を待たずとも、20歳を過ぎればいずれ自分自身が“Don’t Trust”と矛先を向けられる対象となることは簡単に理解できる。もっともこの“Don’t Trust Over Thirty”には、そのうち矛先が向けられることに対する不安な気持ちも含まれているとも考えられるので、そこにあるのは単純な反抗心だけではないだろうが、いずれにしても、それがそのまま永遠に続かないことは明白である。

アルバム『世田谷夜明け前』の頃、フラカンのメンバーは30代半ば。そもそも鈴木は単純な反抗には興味がなかったということもあって、フラカンが単純な反抗を歌わなかったのも当然だし、どちらかに偏ることなく大人の是非を訴えなかったのも当然と言えば当然だったと言えるのだが、それが奏功した。聴き手もある程度の年齢を越すと、その人がロック好きでティーンの時は反抗の音楽を好んで聴いていたとしても、それだけを聴き続けていくことは難しかろう。尾崎豊の楽曲は今聴いてもカッコ良いけれども、《盗んだバイクで走り出す》(「15の夜」/尾崎豊)や《夜の校舎 窓ガラス壊してまわった》(「卒業」/尾崎豊)などの歌詞をストレートに礼賛できるかと言ったらそうではないと思う((c)マキタスポーツ)。

その点で、当時のフラカンの思想は、特定のリスナー層とぴったり波長が合ったと想像できる。その層は決して多くはなく、目立ちもしないが、全国各地に確実にいた。ストレートに反抗の音楽を受け止めることにも違和感がある。だからと言って、耳障りのいい恋愛模様やファンタジックな世界観だけを聴きたいわけでもない。そういう層である。前述の通り、フラカンは日本全国津々浦々へ自ら赴き自身のロックを届けていたわけで、リスナーを開拓していったことになる。まさしく《もっともっと もっともっと見たことない場所へ/ずっとずっと ずっとずっと種をまいていく》(M1「深夜高速」)であったのだ。そう考えると、自虐、自嘲気味に書籍や楽曲に“消えぞこない”などというタイトルを付けてはいるが、決してフラカンは消え損なったのではなく、残るべくして残ったバンドであったことも理解できるのである(“消えぞこない”という洒落た言い回しはロックっぽくてとてもいいので、その言葉そのものを否定しているわけではないよ…念のため)。
歌詞の世界観を見事にサウンド化

フラカンの楽曲、その特徴の一部を歌詞から探ってみたが、メンバーが“鈴木が思ったことを音楽にするのがフラカンである”と言っていたように、もちろんその思想だけがフラカンではない。その歌詞を乗せるメロディーと鈴木のヴォーカリゼーション、そして、バンドサウンドがあってこそのフラカンである。鈴木の声は若干ハスキーで甲高い声はどこか少年っぽさを残しており、R&Rの基本とも言える分かりやすくキャッチーなメロディーとの相性もいい。キャリアを重ねても、悪い意味で渋くならないのだ。サウンドもロックバンドとしての瑞々しさを保っている。

アルバム『世田谷夜明け前』は結成から15年を経た作品で、通算10枚目のアルバムであって、バンドアンサンブルが絡み合ってグイグイとドライブしていく様子はさすがである。M2「永遠の田舎者」やM3「赤点ブギ」、M6「空想無宿」、M9「野暮天ブギ」など疾走感のあるナンバーが顕著だが、そこまでテンポの速くないM1「深夜高速」やM4「初恋」にしても、グルーブが強固であることがはっきり伝わってくる。スローバラードであるM12「いろはにほの字」が、各パートが密集していない分、このバンドのアンサンブルが分かりやすいだろうか。ギターはアドリブっぽくフリーキーな旋律を聴かせているのだが、それができるのもベースが安定してその背後を抑えているからであることがよく分かる。ドラムは極めてシンプルで、アンサンブルの土台を支えていると同時に楽曲の雰囲気を醸し出している。いい意味で、手練れた仕事っぷりがうかがえる。

また、基本はR&Rではあるものの、ファンク色の強いM7「世田谷午前三時六分」、ロッカバラード的なM8「青い春」、ジャングルビート風のM10「俺節」、C&W調のM11「寄鷺橋サンセット」と、バラエティーにも富んでいることも見逃せない。本作では前述したような鈴木の歌詞が比較的多く見受けられるのだが、それでいてアルバム全体が単調に聴こえないのは間違いなく編曲によるところが大きいと言える。改めて言うのも憚られるが、フラカンはバンド以外の何物でもないのである。
TEXT:帆苅智之
アルバム『世田谷夜明け前』
2004年発表作品

<収録曲>

1.深夜高速

2.永遠の田舎者

3.赤点ブギ

4.初恋

5.忘れもの

6.空想無宿

7.世田谷午前三時六分

8.青い春

9.野暮天ブギ

10.俺節

11.寄鷺橋サンセット

12.いろはにほの字

13.アイム・オールライト


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