『MODERN TIME』を聴くと感じる、吉川晃司が同世代の頭目である理由

2019年10月23日 / 18:00

今年2月から開催していた35周年の記念ツアー『KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live』を9月の幕張メッセ公演で見事に締め括った吉川晃司。10月末からはWOWOWで彼のドキュメンタリー番組や過去のライヴ映像、さらには主演映画などが続々オンエアされる予定の上、来年1月から東京・代官山の蔦屋書店にて『吉川晃司 35th Anniversary Live TOUR Premium Exhibition』なるプレミアムな展示会が開催されるなど、35周年の祝賀ムードが全然止みそうにない気配である。遅ればせながら…となったが、当コラムでも吉川晃司の名盤を取り上げてみたい。
意外に多い65~66年生誕の音楽家

1965~1966年生まれ、当年とって53~54歳の有名アーティスト、ミュージシャンの何と多いことか。少し調べてみたら、その前後の1964年や1967年生まれの人たちに比べて、ちょっと極端かなと思えるほどに多いようである。まず、先週の当コラムでメジャーデビュー作を取り上げた怒髪天の増子直純をはじめ、筋肉少女帯の大槻ケンヂ、THE YELLOW MONKEYの吉井和哉、ウルフルズのトータス松本、JUN SKY WALKER(S)の宮田和弥、ORIGINAL LOVEの田島貴男、さらに斉藤和義、スガ シカオらが1966年生まれ。この所謂“丙午生まれ”の人たちは同い年同士、余ほど気が合う様子で、2006年、2016年には彼らが結集してイベント『ROOTS66』を開催したほどだ。1965年生まれは、我々の目に見える範囲では、その人たち同士の交流は少ないように思えるが、現在も日本の音楽シーンを牽引する顔触れが揃っている。以下ザっとその名を挙げると──。X JAPANのYOSHIKI(年齢はXXだがTOSHIと同学年ということで)、TOSHI、PATA。DREAMS COME TRUEの吉田美和。UNICORNの奥田民生、堀内一史。BUCK-TICKの櫻井敦司、今井寿(※註:櫻井は1966年生まれだが、所謂早生まれで、1965年生まれと同学年)。TUBEの前田亘輝。そして、岡村靖幸、浜崎貴司、森友嵐士ら、こちらもそうそうたる面子だ。

1965~1966年生まれのアーティスト、ミュージシャンが多いのは、たまたま…と見る向きもあろうが、おそらくそうではないと思う。ここからは筆者の想像なのでその旨をご承知でお読みいただきたいのだが、そこには俗に第2次バンドブームと言われる社会現象の影響があったと思われる。1980年代半ばからのレベッカ、BOØWY、プリンセス プリンセスの特大ヒットを経て、通称“イカ天”=『三宅裕司のいかすバンド天国』がそれを決定付けたバンド人気。レコード会社もマネジメント会社も当時こぞってバンドをデビューさせた。[1991年には歴代最高の510組のバンドがメジャーデビューした]というから([]はWikipediaからの引用)、話をレベッカ、BOØWY のブレイク直後にまで広げたら、この時期には相当数のバンドやバンドに準じるアーティストが世に出たであろう。

1965~1966年生まれは、1985年に19~20歳、1990年には24~25歳。アイドルであれば少し薹(とう)が立っていると思われる年齢であったろうが、自作自演の音楽家としてはいい頃合いである。この世代のアマチュアミュージシャンに音楽関係者の注目が集まったのは自然のことだったと言える。バンドブームの最中にデビューした人たちはその後、時代の流れと共に多くが淘汰されていったが、そもそもその母数が多いわけで、秀でた人たちも多かったということだろう。優秀であるから息も長い。だから、凡そ30年間が経過しても現役であり続けられた。今も活躍する1965~1966年生まれのアーティスト、ミュージシャンが多いのはそういうことではないかと思う。
いち早く自ら作詞作曲を手掛ける

そんな1965~1966年生まれのアーティスト、ミュージシャンの中で、前述した人たち以前から第一線で活躍している人がいる。他でもない吉川晃司その人である。吉川晃司のデビューは1984年。レベッカと同じ年のデビューだ。バンドブームの遥か以前…とまでは言わないけれども、明らかにブームとは無縁の時期だったと言える。

ちなみに吉川がデビューした1984年の前後、1983~1985年の音楽シーンは年間売上金額のトップを松田聖子と中森明菜とが分け合っているような状況で、バンドはサザンオールスターズや安全地帯、チェッカーズらが活躍していたものの、まだまだ歌謡曲全盛。“花の82年組”なんて言葉もあったくらいだから、アイドル全盛期だったと言っていいかもしれない。そんな時分から活動を始め、現在もいかんなく──さすがにデビュー時のような慌ただしいまでの露出はなくなっているものの、ミュージシャンとして俳優として、唯一無二の存在感を見せつけている吉川晃司は、件の“1965~1966年生まれ”の中でも格別のアーティストではあろう。別格と言ってもいいと思う。勝手に格付けするならば、同世代の総大将というか、旗頭というか、頭目というか、そんな風格を感じるところだ。日本の音楽シーンでの申し分のないキャリアと、都市伝説の類いを含めて、過去耳にした彼のさまざまな逸話の数々とが(※註:その辺を説明し出すとキリがないので割愛しますが、まったく知らないという人はお調べになってください)、そう感じさせる要因ではあるのだが、最たる要因は彼が日本の音楽シーンに及ぼした影響が相当に大きいと考えるからである。かく言う理由は、1986年に発表された彼の4thアルバム『MODERN TIME』にもある。

『MODERN TIME』は全10曲の収録曲の内4曲を吉川晃司自身が手掛けている(3曲が作詞作曲、1曲が作曲のみ)。“それが何か?”と言われそうだが、当時フォークシンガー以外の男性ソロヴォーカリストが自作自演することは結構珍しかった。同時期に男性ヴォーカリストの頂点を極めていた存在と言える沢田研二や、1981年にアルバム『Reflections』を大ヒットさせた寺尾聰も自ら作詞作曲を行なっていたが、その頃の彼らは30代である。同じ頃、吉川は20歳そこそこ。しかも、デビューからわずか2年後であり、さらに言えば、そこまでシングル曲はNOBODYや大沢誉志幸、原田真二らロック畑の人たちが作曲していたとはいえ、吉川自身の露出はアイドル的であった。本人は当初からアイドル視されることを嫌っていた様子だが、傍からは確実にそう見えていた。そんな状況にあった彼が、事務所やレコード会社の移籍をきっかけにすることもなく、あるいは話題作りのためのアーティスト宣言みたいなものもなく、シングルのカップリングや前作であった3rdアルバム『INNOCENT SKY』を経て、シームレスに自作自演するに至っている。これは意外と見逃せない事実だ。若手と言われる存在でも自らがパフォーマンスする楽曲をコンポーズできるということ。これをシーンの内外に示したことは決して小さくなかったのではなかろうか。ちなみに──当時、吉川と人気を二分していたチェッカーズは、1986年にシングルタイトル曲としては初のメンバーオリジナル曲である「NANA」をリリースし、その翌年には全曲メンバーオリジナルのアルバム『GO』を発表している。「NANA」は『MODERN TIME』の約8カ月後の発売。不思議な符合がある。
先鋭的サウンドを意欲的に取り込む

吉川本人の作詞作曲ナンバーが増えたと言っても、それが愚にもつかないものであったならば、インフルエンスも何もあったものではない。無論、『MODERN TIME』で披露した楽曲はそうではない。7thシングルとしてヒットしたM2「キャンドルの瞳」など原田真二作曲のナンバーも十分にカッコ良いのだが、やはり吉川晃司オリジナル楽曲がとても個性的で素晴らしいのである。シングルカットされたM3「Modern Time」はリカットということもあってかシングルチャートでの反応は鈍く(…と言ってもベスト10入りはしているのだが)、当時、漠然と“キャッチーさが薄いからこれも仕方がないのかな”といった感想を抱いたものだったが、今回改めて聴いてみたら、いやいや、断然「Modern Time」のほうがいい。個人的な好みもあると思うが、何と言うか、普遍的な印象がある。「キャンドルの瞳」の疾走感は流石であって、今もヒットポテンシャルが高い曲であったことは分かるけれども、どうにもシンセの音色がチープだ。これは本作に限った話ではなく、この時代のロックサウンドは洋楽にもそういったものが多かったので、仕方がないと言えば仕方がないし、「キャンドルの瞳」もヴォーカルとギターがそのチープさを補って余りあるのだが、「Modern Time」からは比較的そうした経年劣化的なものを感じないのだ。音の構成は「キャンドルの瞳」と大きく変わらないと思うし、アレンジャーは本作全編で後藤次利とクレジットされているので、何かが大きく変わっているわけではない。だけど、ダイナミズムが損なわれていない…という言い方をしたらいいだろうか。デジタルサウンドの取り込み方がスムーズなのだ。それは、吉川晃司のコンポーズ力が時代にうまくハマったのか、あるいは吉川自身が意識的に時代を取り込んでいったのか、そのいずれかが考えられるが、M9「サイケデリックHIP」を聴くと、後者であったような気がしてならない。

「サイケデリックHIP」は当時から随分と実験的なナンバーの印象はあった。聴き直してみてもその印象は大きく変わらない。キャッチーなメロディーもなくはないし、ポップでないことはないのだけれど、当時の基準で言えば所謂売れ線ではない。12インチシングルとしてリカットされているのだが、12インチシングルだったから辛うじてシングル作品にできたような気もする。当時の12インチシングルはディスコ向けのダンスリミックスみたいなものが多かったような気もするのだが、(「サイケデリックHIP」の12インチシングル版を聴いてないので当てずっぽうに言うのだけれど)この曲はそもそもディスコ向けでもないとも思う。ただ、これもまたすこぶるカッコ良いナンバーであることは間違いない。延々と楽曲を引っ張る、やや変則気味のデジタルビート。ノイジーというよりもクレイジーと形容したいギター(褒めてます!)。そして、ビートに重ねてブイブイと鳴らされる後藤次利のベース(特に間奏のプレイは超絶素晴らしい!)。俗に言うJ-POPとは明らかに性格を異にするナンバーであって、“よくぞ、これをあのタイミングでやったものだ”と今も思う。テレビでの露出も多くてアイドル寄りと見られた男性アーティストが自作自演するだけに留まらず、先鋭的と言えるサウンドを意欲的に取り入れた事実は、これまたインパクトが大きかったばかりか、以降、邦楽シーン全体の視界は広げることにも寄与したのではと想像できる。

というのは、この「サイケデリックHIP」を始め、M1「Mis Fit」やM7「BODY WINK」などでギターを弾いているのは、のちに吉川とともにCOMPLEXを組むことになる布袋寅泰なのである。『MODERN TIME』が発表された1986年には布袋はBOØWYをやっており、BOØWYは同年3月に4thアルバム『JUST A HERO』、7月にライヴ盤『“GIGS”JUST A HERO TOUR 1986』、11月に5th『BEAT EMOTION』を発表し、以後、その人気がグングン加速度を増していった。吉川も布袋も『MODERN TIME』に布袋が参加したことがその端緒になっているとは思っちゃいないだろうけど、時系列を鑑みれば少なからず相乗効果があったことは否めない。当時、吉川がBOØWYのメンバーに対して“あなたたちはもっとメジャーなフィールドで活動したほうがいい”とエールを送った…なんて噂も聞いた。それは都市伝説の類いかもしれないが、吉川晃司のキャリアを考えると“さもありなん”な話ではあるし、『MODERN TIME』以後のアルバムにも布袋が参加しており、実際にCOMPLEXを組んだのだから事実であると信じたい逸話である。まぁ、事の真偽はどうでもいいが、COMPLEXは超ド級の人気を誇ったし、その解散後も両名はここまで活発に活動しているのだから、吉川、布袋の出会いに大きな化学変化があり、それが音楽シーン全体に何らの影響を与えたことは、これもまた疑いようがないのである。

吉川自身が音楽の世界を志すきっかけになったアーティストである佐野元春直伝とでも言うべき、英語の体言止めを多用した歌詞や、それまで、いかにも80年代っぽい“FM STATIONか!?”という雰囲気だったジャケ写が、本作から随分と落ち着いた印象になったことなど、『MODERN TIME』に関して語るべきことはまだある。上記で紹介した楽曲以外も細かく分析することもできる。しかし、最も注目しなければならないのは吉川晃司が自ら切り開いてきたアーティストとしての軌跡がそのまま映し出されていることだと思う。過渡期の作品であるが、そうであったからこそ、瑞々しいまでの才能とアグレッシブな姿勢が色濃く出た名盤と言えるだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『MODERN TIME』
1986年発表作品

<収録曲>

1. Mis Fit

2.キャンドルの瞳

3. Modern Time

4. MISS COOL

5. Drive 夜の終わりに

6.選ばれた夜

7. BODY WINK

8.ナーバス ビーナス

9.サイケデリックHIP

10.ロスト チャイルド


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