『forevher』Shura(Abum Review)

2019年8月19日 / 18:00

 1991年生まれ、英ロンドン・ハマースミス出身のShura(シューラ)。 本名はアレクサンドラ・リラ・デントンといい、イギリス人ドキュメンタリー監督の父と、ロシア人女優の母、 そして双子の兄というある種異色だが、感性を磨くには適した家庭の元育った。

 10代はじめにギターを習得し、半ばからは自主レコーディングしていたという。影響を受けたアーティストには、フィル・コリンズやエルトン・ジョンといった両親世代のベテランから、ジャネット・ジャクソンやマドンナなどのディーヴァ系、ピンク・フロイドにマッシブ・アタック、さらにはドレイクやフランク・オーシャンなど、ヒップホップ系アーティストも挙げている。

 2014年、ネットにアップした「Touch」が注目され、デビューのキッカケを掴む。彼女は同性愛者であることを公表しているが、自身も携わった同曲のミュージック・ビデオでは、男性同士、女性同士のキスシーンを起用し、垣根を超えた愛のカタチを表現している。再生回数は3000万回を超え、後に米NYブルックリンのラッパー、タリブ・クウェリをフィーチャーしたリミックスも発売された。世界的大ヒットこそしていないが、シューラの楽曲の中で最も知られたタイトルといえるだろう。

 同2014年には、2ndシングル「Indecision」もリリースし、着々とアーティスト活動の幅を広げていくが、パニック発作に悩まされる等、心の健康状態が不安定な時期でもあったという。翌2015年に、ユニバーサル・ミュージック傘下のポリドールと契約。 シングル「2Shy」がロンドンのフォークバンド=マムフォード・アンド・サンズのカバーにより注目され、彼女の人気にも繋げている。これらの活躍を受け、同年の<BBC Music Sound of 2015>にも選出した。

 2016年7月に、待望のデビュー・アルバム『ナッシングス・リアル』をリリース。グレッグ・カースティンやアル・シャックスがプロデュースした本作は、UKチャートで13位まで上昇し、「White Light」や「What’s It Gonna Be?」といった人気曲も輩出された。『ナッシングス・リアル』のツアー後、3年という長い時間を掛けて完成した2作目のスタジオ・アルバムが、本作『forevher』(フォーエヴハー)。その間には、サム・スミスの大ヒット・ナンバー「Stay with Me」や、故アヴィーチーの遺作「Freak」などを手掛けた英ロンドンのエレクトロ系ミュージシャン、ツーリストとのコラボ曲「Love Theme」をリリースしているが、そのツーリストも本作のソングライターとして参加している。

 ツーリストと再タッグを組んだ「that’s me, just sweet melody」は、アルバムのオープニング・ナンバー。10行にも満たないシンプルなメッセージを、ピアノの弾き語りで丁寧に送る。その流れではじまる「side effects」は、英ロック・バンド、アスリートのフロントマン=ジョエル・ポットがソングライターとして参加した、UKらしいポップ・チューン。グウェン・ステファニーっぽいボーカルがキュートだが、「あなたがいなくなっても副作用を起こさない」と歌う歌詞の奥行きは深い。

 リリース前月に発表した先行シングル「religion (u can lay your hands on me) 」も、英国受け必須のエレクトロ・ポップ。ソングライターには、ギタリストのルーク・サンダースがクレジットされている。曲のクオリティもさることながら、シスターたちが抱える“心の迷い”と、彼女たちによるキスシーンが衝撃のミュージック・ビデオがすばらしかった。J-Waveの<Tokyo Hot 100>チャートでは3位を記録し、SNSで「日本でライブができたらいいな。その時はみんなに会えるのを楽しみにしてる!」とファンにメッセージを送っている。

 「religion」のすぐ後にリリースされた「the stage」は、跳ねるようなファルセットのヴァース、軽快なドラム・トラック、ビームが飛び交うようなエレクトロ・サウンドに官能的な歌詞を乗せた、スペイシーなトラック。この曲は、イギリスの人気DJ/音楽プロデューサー=オーランド・ヒギンボトムがプロデュースを担当している。オーランド・ヒギンボトムは、6曲目に収録されたアーバンメロウ・エレクトロ「Tommy」も担当。「Tommy」は、米テキサス知り合った年配男性に捧げた曲で、男性が奥さんを亡くしたことを悲観せず、前向きに生きていることについて歌われている。

 本作からの1stシングル「BKLYNLDN」は、ユルいペースで進行するドリーミーなメロウ・チューン。いつまでも浸っていたくなる魅惑的なグルーヴから、ファンクっぽい流れに移行する昨今主流の2部形式を取り入れている。造語であるタイトルが示すのは、ブルックリンとロンドンのことで、遠距離恋愛中の彼女について歌っているものかと思われる。彼女のように、性別を超えたラブ・ソングを歌うアーティストも、今後増えていくだろう。そのガールフレンドとは、オンラインを通じてミネアポリスで出会ったそうだが、そのミネアポリスの代表格=故プリンスを彷彿させる「forever」や「control」もある。

 ほとんどコーラスだけで構成された「princess leia」は、飛行機で事故死することを想像した曲。事故死ではないが、機内で心臓発作により亡くなった女優キャリー・フィッシャーの死からインスピレーションを得ているそうだ。ネオ・ソウルっぽい次曲「flyin’」でも、飛ぶことが怖いと連呼していて、飛行機事故や戦争、テロの報道を受けて書かれた精神論的な内容が続く。機械的だがエモーショナルなラストの「skyline, be mine」も、短文の中に強いメッセージが込められている。

 前作と比べ、大衆受けするキャッチ―さは大分薄れたが、よりシューラの個性や本質が露わになった本作『フォーエヴハー』、まさに傑作。アートワークは、フランスの彫刻家=オーギュスト・ロダンの「接吻」をモチーフにしたものだそう。

Text: 本家 一成


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