『ライオン・キング:ザ・ギフト』(Album Review)

2019年7月22日 / 18:00

 全米で2019年7月19日に公開されたディズニー 映画『ライオン・キング』。公開1週間前にはオリジナル・サウンドトラックもリリースされ、1994年発表の原盤に収録されたメイン・テーマ「愛を感じて」や、「サークル・オブ・ライフ」など、映画を象徴する名曲が25年の時を経て蘇っている。

 今作の主人公・シンバ役を務めるのは、シンガー/俳優のドナルド・グローヴァー(チャイルディッシュ・ガンビーノ )。そして、メスライオンのナラ役を担当するのが、本作『ライオン・キング:ザ・ギフト』を全面プロデュースした女王・ビヨンセだ。映画のサントラ盤には、ドナルド・グローヴァーとビヨンセによる「愛を感じて」も収録され、アカペラ風の見事なアレンジが、公開前から絶賛された。

 ビヨンセは、同サントラにオリジナル版未収録の新曲「スピリット」を提供している。この曲は、スウェーデンの音楽プロデューサー=イリア・サルマンザデと、英ロンドンのシンガーソングライター=ラビリンスによる共作で、『ライオン・キング』の世界観を音、声、映像すべてで表現した壮大なゴスペル・バラードに仕上がっている。

 この「スピリット」も収録された『ライオン・キング:ザ・ギフト』は、ビヨンセが映画にインスパイアされた楽曲を制作し、厳選したインスパイアード・アルバム。昨年2月には、ラッパーのケンドリック・ラマーがマーベル・スタジオ作品『ブラックパンサー』にインスパイアされた同インスパイアード・アルバムを発表し、大成功を収めた。

 そのケンドリック・ラマーも参加した、本作『ライオン・キング:ザ・ギフト』。ビヨンセとのデュエット曲「ナイル」は、サウンウェイヴがプロデューサーとして加わったオルタナ系の浮遊感漂うミッド・チューンで、インタールード程の短さだが存在感は抜群。夫ジェイ・Zとドナルド・グローヴァーのトリプル・コラボによる次曲「ムード・フォー・エヴァ」への架け橋的役割も果たしている。

 その「ムード・フォー・エヴァ」は、アフリカンビートを取り入れたヒップホップ・トラック。ドナルド・グローヴァーが登場する後半部分では、『ライオン・キング』っぽさを強調した雄たけびのようなコーラスも取り入れている。同曲には、彼等との親交も深いDJキャレドとジャスト・ブレイズもプロデューサーとして参加した。

 ファレル・ウィリアムスがフィーチャリング・ゲスト、ソングライターとして参加した「ウォーター」は、ビヨンセのお得意とするダンスホールに近いカリビアン・ダンサー。彼女の愛娘=アイヴィ・カーターも参加した「ブラウン・スキン・ガール」や、ティワ・サヴェージ&Mr.イージーとコラボした「キーズ・トゥ・ザ・キングダム」は、チルアウト系のレゲエ・チューンで、いずれもワールド・ミュージックがサウンドの核になっている。

 本作は、映画の舞台であるアフリカの音楽に「敬意を称えた」というコンセプトの基で制作された。曲と曲の間にそれぞれ映画に通ずる語りのインタールードが挟まれているのも、“インスパイアード・アルバム”らしい構成。

 オープニングは、ビヨンセの最高傑作『レモネード』(2016年)収録の「プレイ・ユー・キャッチ・ミー」を彷彿させる、ダウン・テンポの「ビガー」。この曲には、女性シンガーソングライターのステイシー・バースもソングライターとしてクレジットされている。カルヴィン・ハリスやケイティ・ペリーなどを手掛ける、米LAの売れっ子ソングライター=スターラと共作したハウス・トラックの次曲「ファインド・ユア・ウェイ・バック」も傑作。

 制作には全曲携わっているが、ビヨンセ自身がボーカリストとして参加していないトラックもある。たとえば、アフロポップ・シンガーのイェミ・アラデとダンサーとしても活躍するテクノ、そしてナイジェリアのシンガーソングライター=Mr.イージーがコラボレーションしたアフロ・ビートの「ドント・ジェラス・ミー」や、同ナイジェリア出身のバーナ・ボーイがボーカルを担当するアフロ・フュージョン風の「ジャ・アラ・イー」など。ナイジェリアのシンガーを多数起用しているのも、「アフリカへのラブレター」を意味した本作のテーマに沿った意向。

 ビヨンセにも匹敵するセンスと美貌を兼ね備えた、ナイジェリアの女性シンガー=ティワ・サヴェージと、前述のMr.イージーがコラボしたレゲエ・トラック「キーズ・トゥ・ザ・キングダム」や、ガーナ出身のレゲエシンガー=シャッタ・ワレと、ディプロ率いるメジャー・レイザーによるコラボ曲「オールレディ」も、黒人らしさを主張した傑作。エキゾチックなカナダの女性シンガー=ジェシー・レイエズと、米ニュージャージー出身のシンガー/ラッパーの070シェイクがコラボした、ヒップホップとアフリカン・ビートの融合「スカー」も、『ライオン・キング』らしい音作り。

 「スピリット」もさることながら、ビヨンセ単体の楽曲ではピアノの奏でに乗せて歌う「アザーサイド」も素晴らしい。アフリカの大地を称えるようなコーラスと、低音で諭すように歌うビヨンセのボーカル・ワークは、今の彼女にしかできない業。米フィラデルフィア出身の女性ラッパー/シンガーのティエラ・ワックと、南アフリカの女性シンガー=ムーンチャイルド・セナリー、夫ジェイ・Zと結成したザ・カーターズの「ラブハッピー」(2018年)にも参加したニジャという、女性シンガー4人とタッグを組んだクワイト風の「マイ・パワー」もかっこいい。

 ビヨンセは、本作について「私の解釈ではなく、アフリカの音楽やアーティストをリスペクトし、最新のサウンドと融合させた世界観を描いた作品」としている。ジャンルを超えたコラボレーション、ストーリーとリンクできる音作り・構成には感服する。今年はオリジナル・アルバムのリリースがなかったが、このアルバムは十分、その役割を果たしているといえるだろう。 映画『ライオン・キング』は、日本で8月9日に公開予定。

Text: 本家 一成


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