後世のHR/HMに多大な影響を与えたディープ・パープルの傑作『ディープ・パープル・イン・ロック』

2019年6月21日 / 18:00

ハードロックをはじめ、後のヘヴィメタルのプロトタイプとなったアルバムがディープ・パープルの『ディープ・パープル・イン・ロック』だ。レッド・ツェッペリンやブラック・サバスに比べられることも多いパープルだが、彼らとパープルには決定的な違いがある。ツェッペリンやサバスには、当時人気のあったクリームやジェフ・ベック・グループと同じように、ブルースやR&Bといった黒人音楽の影響が少なからずあった。しかし、パープルはプログレッシブロックのグループのようにクラシックからの影響を受けており、ブルースベースではないリッチー・ブラックモアのシンプルで覚えやすいリフが特徴で、ロックそのものをルーツにしたまったく独自のスタイルを持っていたのだ。異論はあるだろうが、シンプルなリフを中心にしたHR/HMの様式美を初めて形にした作品は、ツェッペリンでもブラック・サバスでもなく本作だと僕は考えている。というわけで、今回はディープ・パープルが1970年にリリースしたロック史に残る名作『ディープ・パープル・イン・ロック』を取り上げる。
ジョン・ロードと リッチー・ブラックモアの確執と信頼

1968年、ジョー・サウス(アメリカ南部のカントリー系SSW)作でビリー・ジョー・ロイヤルが歌った「ハッシュ」のカバーヒット(全米4位)で、デビューしたばかりにもかかわらずディープ・パープルの存在は広く知られることになった。しかし、彼らが所属していたアメリカのテトラグラマトンという小レーベルは、プロモーションにもプロデュースにも長けておらず、彼らを上手く活かすことはできなかった。「ハッシュ」が収録された彼らのデビューアルバム『紫の世界(原題:Shades Of Deep Purple)』は、プログレとポップスとサイケデリックロックの要素を持つ仕上がりで、決して悪くはないが、まだ彼らのサウンドは試行錯誤の真っ最中であった。グループのまとめ役はキーボード奏者で最年長のジョン・ロード。彼の得意とするクラシックテイストをポップスやロックの曲に挟み込むのが初期パープルの特徴であった。そのスタイルは2ndの『詩人タリエシンの世界(原題:The Book Of Taliesyn)』(‘68)や3rdの『ディープ・パープルIII(原題:Deep Purple)』(’69)まで変わらない。

69年になるとレッド・ツェッペリンとキング・クリムゾンがそれぞれデビューアルバムをリリースし、ロードはクリムゾンに、ブラックモアはツェッペリンにとそれぞれ大きな影響を受ける。これら2枚のアルバムでふたりの進む道が示唆されることになるのだが、ロードがリーダー的存在なだけに、グループはよりクラシック的なサウンドへとシフトしていく。この時期にリリースされたのがライヴ盤『ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』(‘69)である。このアルバムはパープルとクラシックのオーケストラとの共演を収録したもので、クラシックとロックの融合を試みたアーティストとしては、すでにムーディー・ブルースの『デイズ・オブ・フューチャー・パスト』(’67)が先行していたが、ロードの“ロックはクラシックより劣っているわけではない”というある種のコンプレックスを払拭するために、彼にとっては精神衛生上リリースしなければならない作品でもあった。

ブラックモアはツェッペリンの影響から、重厚かつスピード感がある大音量のロックがやりたいとロードに直訴しており、ロードもオーケストラとの共演を果たしただけに、ブラックモアの意見を尊重する姿勢をみせた。ロードとブラックモアの方向性の違いはグループの運営上大問題であり、普通のグループであれば確実に解散かどちらかが脱退していただろう。パープルがそうならなかったのは、ロードとブラックモアがお互いを認めていたからであり、そういう意味では信頼し合える同志であったのだ。また、このオーケストラとの共演の少し前、グループはヴォーカルのロッド・エバンスとベースのニック・シンパーを解雇、新メンバーのイアン・ギランとロジャー・グローバーを迎え入れており、このふたりの大いなる才能にパープルの将来の可能性を確信していたことも大きかったはずだ。
ジョン・ロードのこだわり

第2期のメンバーとともにブラックモアが中心になってアイデアを出し、ニューアルバムの準備が始まった。重厚・スピード感・シンプルなリフというコンセプトをもとに、彼ら(ブラックモア)はツェッペリンの1枚目のようなサウンドを目指していたのだが、ロードはブラックモアのスピード感のあるギターに負けないよう、ハモンドオルガンの弾き方や音色をこれまでとは変化させ、グループのトレードマークとも言えるオルガンサウンドを編み出すのに成功している。同時期に活躍していたキース・エマーソンやリック・ウェイクマンらが当時最先端のシンセサイザーであったモーグやメロトロンを使っていたのに対し、ロードはあくまでもハモンドオルガンにこだわり、そのおかげでパープルらしい音作りになったことを思えば、ロードのプロ意識というか頑固さには敬服する。ロードの硬く歪んだオルガンサウンドはパープルのスピード感を演出するのにマッチしており、以降もパープルの要的存在になっている。ロードのプロデューサー的な視点は実に鋭いと言えるだろう。
本作『ディープ・パープル・ イン・ロック』について

前作の『ディープ・パープル・アンド・ロイヤル・フィルハーモニック・オーケストラ』をリリースした頃、所属していたテトラグラマトンの経営事情が悪くなり、次作はイギリスの新興レーベルハーヴェストからのリリースが決定する。アメリカでは大手ワーナーブラザーズの配給となり、これまでにないサポート体制が敷かれることになった。彼らにとっては急な追い風になったのは間違いなく、新作のプロデュースはブラックモアが中心となってメンバーが行なうことになった。

そして1970年、本作『ディープ・パープル・イン・ロック』がリリースされた。このアルバムが出たあとだったか前だったかは忘れてしまっているが、同時期にシングルのみで発売された「ブラック・ナイト」が日本でも大ヒット、一気に認知度が高まる。この曲はイギリスでもチャート2位の成績を収め、ようやく本国でもディープ・パープルの名前が知られるようになった。

収録曲は全部で7曲。レコードに針を落とした途端(表現が古くてすみません…)聴こえてきたのが「スピード・キング」。中学生だった僕はこの曲に大きな衝撃を受けたことを今でもはっきりと覚えている。それぐらいまったく新しいスタイルのロックであった。ロードのオルガンソロの時にバックの音が小さくなって、ブラックモアのジャジーなギターと掛け合いになり、だんだんとカオスに突入していく様には痺れたものだ。これはヴァージョンがふたつあって、当時の日本盤LPはイントロなしのショートバージョン(アメリカ盤仕様)で、現在CDに収められているのはロングバージョン(イギリス盤仕様)である。僕は聴き慣れていることもあって、最初から圧倒されるショートバージョンのほうが好きだ。なにはともあれ、この「スピード・キング」こそが、後のヘヴィメタルの原型になったといってもよいだろう。ブラックモアとロードのふたりはもちろん、イアン・ペイスの手数の多いドラミング、イアン・ギランのかん高い楽器のようなヴォーカル、的確にリズムをキープしながらも所々で効果的なフレーズを繰り出すロジャー・グローバーのベースなど、それらの素晴らしさがロック初心者の子供にでも理解できるのだから、ディープ・パープルの音楽はロック入門には打って付けのサンプルだと思う。
本作リリース後の成功と第2期の終わり

本作リリース後はブラックモアがグループの主導権を握り、ご存知の通り『ファイアボール』(‘71)、「ハイウェイ・スター」と「スモーク・オン・ザ・ウォーター」を収録した『マシン・ヘッド』(’72)で大きな成功を収めることになるのだが、長い世界ツアーに加えてレコーディングもこなさざるを得ず、結果的にはメンバー間の不和へとつながっていく。そんな第2期の最高の瞬間をとらえたのが日本ツアーの様子を収録した『ライブ・イン・ジャパン(現在は『メイド・イン・ジャパン』)』(‘72)である。僕の中ではディープ・パープルと言えば、リアルタイムで知り衝撃を受けた『ディープ・パープル・イン・ロック』になるのだが、もし彼らの音楽を聴いたことがないなら、どれでもいい(特に第2期)ので聴いてみてください。きっと新しい発見ができると思う。
TEXT:河崎直人
アルバム『Deep Purple In Rock』
1970年発表作品

<収録曲>

1. スピード・キング/SPEED KING

2. ブラッドサッカー/BLOODSUCKER

3. チャイルド・イン・タイム/CHILD IN TIME

4. フライト・オブ・ザ・ラット/FLIGHT OF THE RAT

5. イントゥ・ザ・ファイア/INTO THE FIRE

6. リヴィング・レック/LIVING WRECK

7. ハード・ラヴィン・マン/HARD LOVIN’ MAN


音楽ニュースMUSIC NEWS

【コーチェラ2024】キッド・カディ出演、ピンクパンサレスNY公演、最高齢で米ビルボードHot 100入り:今週の洋楽まとめニュース

洋楽2024年4月20日

 今週の洋楽まとめニュースは、【コーチェラ2024】に関する話題から。  キッド・カディが、【コーチェラ・バレー・ミュージック・アンド・アーツ・フェスティバル】のウィークエンド2最終日となる、現地時間2024年4月21日の午後5時10分から … 続きを読む

FANTASTICS冠番組『FUN!FUN!FANTASTICS』第4弾が放送決定、番組連動舞台は全国6都市で

J-POP2024年4月19日

 FANTASTICSによる地上波冠番組『FUN!FUN!FANTASTICS』の第4弾が、2024年7月2日より放送スタートする。  FANTASTICSが本人役で登場し、ちょっと懐かしいカルチャーを豪華レジェンドゲストから学ぶ、芝居、笑 … 続きを読む

伊東健人、初となるワンマンライブ【Kent Ito 1st LIVE ~咲音~】公式レポート到着

J-POP2024年4月19日

 伊東健人が2024年4月14日にソロアーティストとして自身初となるワンマンライブ【Kent Ito 1st LIVE ~咲音~】(読み:さいん)を東京・豊洲PITで開催。同公演の公式レポートが到着した。  『ヒプノシスマイク-Divisi … 続きを読む

Aぇ! group、デビューシングル「《A》BEGINNING」MVメイキングのダイジェスト映像を公開

J-POP2024年4月19日

 Aぇ! groupが、デビューシングル「《A》BEGINNING」のMVメイキングのダイジェスト映像を公開した。  新曲「《A》BEGINNING」は、2024年5月15日にリリースとなるデビューシングルのタイトル曲。今回公開された映像で … 続きを読む

KAIRYU(MAZZEL)&REIKOの魅力が引き立つ「ICE」バラードバージョンMV公開

J-POP2024年4月19日

 MAZZELの楽曲「ICE feat. REIKO」のバラードバージョンとなる「ICE -Ballad Ver.- feat. KAIRYU (MAZZEL) & REIKO」のミュージックビデオが公開された。  楽曲「ICE f … 続きを読む

Willfriends

page top