細野晴臣、“過去も未来も、アメリカも日本も、関係なくなった”ロサンゼルス公演

2019年6月15日 / 12:45

 細野晴臣が2019年6月3日に開催したロサンゼルス公演のオフィシャル・ライブレポートが到着した。

 ロサンゼルスのダウンタウンにあるMayan Theaterは1927年に建設された歴史的なコンサート・ホールだ。「マヤ風」の名前の通り、メキシコのマヤ文明から着想を得たエキゾチックな仕様が施されていて、LA特有のパームツリーの木立と相まって、今夜のライヴへの期待感をよりいっそう膨らませてくれる。

 細野晴臣のソロとしての初のアメリカ・ツアー。ニューヨークでの二日間公演に続き、ここLAが今回の最終公演地となった。Mayan Theaterのキャパシティは公式には1700人と発表されている。ウィークデイ、しかも月曜日に日本人アーティストがこれほどのキャパをソールドアウトさせ、しかも観客の大半がアメリカ人なのは異例中の異例だそうだ。開演前には入り口から交差点まで長い行列もできていた。

 はっぴいえんどで細野はアメリカへの憧れを胸にここLAでレコーディングをした。イエロー・マジック・オーケストラが斬新なテクノ・サウンドで世界を熱狂させるきっかけが作られた最初の海外公演もLAだった。そしていま、ミュージシャンとしてのプロ・デビューから50年目にして細野がソロ・アーティストとしてLAにいる。3つの違うペルソナがひとつの筋になってこの土地で交わるという事実には、ニューヨーク公演とはまた違った種類の高揚があったのではないだろうか。

 客席には、若き細野の才能を見出した村井邦彦、はっぴいえんどのLAレコーディングでの出会いを契機に交友が続くヴァン・ダイク・パークス、そして長年の盟友である高橋幸宏、小坂忠、金延幸子らも駆けつけ、登場を見守っていた。オープニングDJは、細野にとって最新の若い友人のひとり、水原佑果が務めた。

 客電が落ち、まずは細野のバックバンド(高田漣、伊賀航、伊藤大地、野村卓史)が先に登場して、インスト曲「Si Tu Vois Ma Mere」を奏ではじめた。まるで往年のハリウッド映画のプロローグにも思えたのは、かの映画の都との距離が近いからだろうか。そして喝采とともに細野が登場。僕らにはおなじみのシーンだが、細野のスマートな体型と軽やかな足取りは多くの観客が思い描いていた「71歳のファーイースト・レジェンド」とは少し違っていたかもしれない。大きな歓声には、そういう率直な驚きも込められていた気がする。

 細野が最初に歌ったのは、17年のアルバム『Vu Ja De』に収録されていた「Tutti Frutti」。18年にシアトルのLight In The Atticから72年の『HOSONO HOUSE』などソロの5作品が全米リリースされていたし、今年の最新アルバム『HOCHONO HOUSE』は、その『HOSONO HOUSE』のセルフカヴァー盤なのだから、そこからの曲で始めて早々に好反応をつかむ手もあったと思うのだが、あえて細野は「The Song is Ended」「Down The Road A Piece」「Back Bay Shuffle」とアメリカン・ミュージックのカヴァーをその後も続けた。

 日本人ミュージシャンとして半世紀にわたって先進的なポップスを担ってきた細野の原点は、太平洋戦争の終戦によって日本にものすごい勢いで流入してきたアメリカン・ミュージックだった。その素晴らしい音楽を浴びるように摂取しながら、やがて日本人として自らが作る音楽でアメリカからの影響に向かい合っていった。いわば、細野はアメリカ音楽を心から愛すると同時に真剣に抗うことで、自分の音楽の世界を拡張してきたのだ。だから、ここアメリカで、完全に自分の体を通過した音楽として信頼すべきバンドとともに日本人によるアメリカン・ミュージックを最初にやることは、細野なりの50年目のごあいさつであり、回答でもあったのだろう。

 やがて、最初に口を開いた細野は「Most people like rare animals. Especially, like pandas. I feel like panda.」と英語でMCし、笑いをとった。英語ではあっても、そのユーモアと粋は日本での姿とまるで変わらないものだ。自分を曲げずに「らしさ」を表現した細野に、ちょうど一世紀ほど前にアメリカへの憧れを胸に海を渡った「めりけんじゃっぷ」な快男児である作家、谷譲二のことを思い出した。

 セットリストは『HOCHONO HOUSE』ヴァージョンの「薔薇と野獣」(大きな歓声が上がった)「住所不定無職低収入」へと進んでいった。やがて「住所不定無職低収入」や「CHOO CHOO ガタゴト」で歌われているユーモアの細部まで英語圏のリスナーに伝わっていくのだとしたら、それもまた痛快だなと感じた。

 そして、この夜のハイライトのひとつはサプライズでのマック・デマルコの登場だった。去年、彼がシングルで発表した「Honey Moon」の日本語カヴァーが、今夜は細野とのデュエットで披露された。舞台に出てきたときのマックの、うれしさと緊張が入り混じったまるで子供みたいな顔つきはいままでに見たことがない。国籍もジェネレーションも違う2人が日本語の「Honey Moon」で混ざり合って、まさに魔法の蜜のように時間と空気をすべてとろかした。なお、その後マックはソロで2曲を歌ったが、細野たちがいったんステージを去る際には「この時間はインターミッションだから、みんなもドリンクを頼んだり、自由に過ごしてくれ」とまで謙虚にMCしていたことも付け加えておく。

 再登場後の細野バンドはギアを踏み込み、快速ブギーでたたみ掛けていった。アメリカの古いR&Bのカヴァーに細野の自作「Pom Pom 蒸気」「Body Snatchers」が交わっていても、もはや観客には何の区別もない。

 アンコールでは細野がエレクトリック・ベースを弾くYMOの「ABSOLUTE EGO DANCE」。生楽器でのアンサンブルにもかかわらず、場内は大変な盛り上がりになった。いつの間にか、エレクトロニクスもアコースティックも、過去も未来も、アメリカも日本も、ここでは関係なくなったみたいだった。

 そうか、今夜、細野晴臣は21世紀の「めりけんじゃっぷ」になったんだ。これからもっと細野晴臣の音楽は世界中に知られていくことは間違いない。だからこそ、今回のアメリカ東西二大都市での痛快な体験が音楽の神様からの一度きりのご褒美ではなく、いつか「つづき」があることを心から願う。きっと「この次はモアベターよ」だろうから。

TEXT:松永良平(リズム&ペンシル)
PHOTO:飯田雅裕

◎セットリスト
【HARUOMI HOSONO CONCERTS IN US】
2019年6月3日(月)ロサンゼルス Mayan Theatre
01. Si Tu Vois Ma Mere
02. Tutti Frutti
03. Back Bay Shuffle
04. The Song Is Ended
05. Radio Activity
06. 薔薇と野獣
07. 住所不定無職低収入
08. Choo-Choo ガタゴト
09. Angel On My Shoulder
10. I’m A Fool To Care
11. Honey Moon(w/Mac DeMarco)
  Mac DeMarcoソロ
12. Roo Choo Gumbo
13. 北京ダック
14. 香港ブルース
15. Sports Men
16. Cow Cow Boogie
17. Ain’t Nobody Here But Us Chickens
18. Pom Pom 蒸気
19. Body Snatchers
20. The House Of Blue Lights
EN. Absolute Ego Dance


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