『オリジナルズ』プリンス(Album Review)

2019年6月15日 / 18:00

 プリンスが急死した2016年4月から、早3年が経過した。絶頂期はライバル関係にあった故マイケル・ジャクソンもそうだが、彼等ほどのキャリアがあると、過去に録音したデモ音源が次から次へと出てくる。お蔵入りとなった楽曲やデモテープをそのままアルバムにして発表するのは、本人や遺族にとっては不本意かもしれないが、ファンにとっては1曲残らず世に送り出してほしい、というのが本音だろう。

 本作『オリジナルズ』は、まさに“ファン待望“の企画盤。収録された全14曲は、他のアーティストに提供した楽曲の、プリンス本人が歌ったオリジナル・ヴァージョンで、いずれも未発表曲となる。これらの曲をヒットさせたアーティストたちは、このアルバムに収録されたデモ音源を聴いて、レコーディングしたというわけで、そういった経緯を思い浮かべながら聴いてみると、感慨深い。

 デジタル・ダウンロードの正式な発売日や、各ストリーミング・サービスでの配信は6月21日からとなるが、ジェイ・Zがオーナーを務めるTIDAL(タイダル)でのみ、6月7日からストリーミングが可能となっている。そのジェイ・Zは、プリンスについて「TIDALを信用してくれた彼は、音楽業界において最も重要な人物で、アーティストの自由のため後輩を先導していた」と称えている。

 1曲目の「SEX・シューター」(1983年)は、プリンスがプロデュースした3人組女性ユニット=アポロニア6の代表曲で、米R&Bチャートでは7位まで上昇するスマッシュ・ヒットを記録した。下着姿で踊るチープなパフォーマンスのせいか(?)、“ちょっとダサイ”イメージを抱かれがちだが、プリンス・バージョンを聴けば質の高いミネアポリス・ファンクであることが分かる。同3人組女性バンド=バングルスの「マニック・マンデー」(1986年)も、ホフスの爽やかなボーカルが映える原曲と、若干粘着質が強い殿下のボーカルとでは印象が大分違う。

 一方、アポロニア6転身前のグループ=ヴァニティ6の「メイク・アップ」(1982年)は、ボ-カルのヴァニティがいかにパフォーマーとして優れていたかが、本作のデモ音源を聴いてわかる。比較してみてもクオリティ自体は決して下がっていないし、彼女らしさもきちんと表現できているから凄い。個人的には、テリー・ルイスと共作した「イフ・ア・ガール・アンザーズ」も聴いてみたかったが、収録されたのは単独プロデュースした楽曲に限られている。なお、ヴァニティはプリンスの亡くなる2か月前、2016年2月に死去している。

 2曲目の「ジャングル・ラヴ」(1984年)は、同ミネアポリスのファンクバンド=ザ・タイム最大のヒット曲。ディスコ・シーンでも大ブレイクし、米ビルボード・ソング・チャート“Hot 100”で20位、R&Bチャートでは6位にランクインするロングヒットとなった。この音源を聴くと、彼らがいかにプリンスをリスペクトし、原曲の良さをヘンにアレンジしないよう、忠実に再現したかが伺える。タイムの曲では、82年に発表したアルバム『ホワット・タイム・イズ・イット?』より、ファンの間では高い人気を誇る「寂しいジゴロ」のオリジナルも収録されている。

 今でも現役で活躍する女性シンガー/ドラマーのシーラ・Eは、プリンスによるプロデュース曲「グラマラス・ライフ」(1984年)でデビューし、同曲がHot 100チャート7位、R&Bチャート9位、ダンス・チャートでは処女作にしてNo.1をマークする華々しいスタートを切った。本作には、この曲に加え「ヌーン・ランデブー」と「ディア・ミケランジェロ」の計3曲を採用。前者は、デビュー・アルバム『グラマラス・ライフ』(1984年)に、後者は翌85年の2ndアルバム『ロマンス1600』に収録されているが、いずれもシングル・カットはされていない。3曲ともに“予想通りの”という印象を受けたのは、シーラ・Eがプリンスの毒素も色気も、正確なカタチで継承しているからだろう。

 カントリー・シンガーのケニー・ロジャースに提供した「ユアー・マイ・ラヴ」は、ジャンルも歌唱もまったく違う“別モノ”として聴けば、それぞれに良さがある。アダルト・コンテンポラリー色を薄めたプリンス・バージョンは、声質含めどうしてもエロい仕上がりになってしまう。これは、ケニー・ロジャースがいい仕事をしたともとれるし、自身のキャラを立たせた親しみやすい原曲が好み、という人もいるだろう。

 プリンスの作品にも多数参加しているジル・ジョーンズの作品からは、彼女のデビュー・アルバム『ジル・ジョーンズ』(1987年)の最後にクレジットされた「ベイビー、ユー・アー・ア・トリップ」が収録された。既に原曲でプリンス節を炸裂させていたため、本人によるオリジナルを聴いても何ら違和感なかったが、プリンスの歌唱法をまんま焼き直すというのは、難易度の高い技術が必要なのだと思い知らされた。この曲、レコーディングに相当苦戦しただろうなぁ……。

 マルティカの「愛がすべて」(1991年)のみ、80年代後期に録音されたもの。その他の楽曲は、いずれも80年代前期に録られたもので、それらと比較すると、曲の系統や雰囲気、ボーカル・ワークの違いが伺える。ザ・ファミリーの「ナッシング・コンペアズ・トゥ・ユー」(1985年)は、本人もライブでセルフ・カバーし、1993年リリースの『ザ・ヒッツ&Bサイド・コレクション』にもそのライブ・バージョンが収録されているため、既存感が強い。……が、80年代中期に録音された真のオリジナル・バージョンとなると、また違った感動がある。この時代にリリースしていても注目されなかったかもしれないが、5年先の流行を見据えて作ったのだとすれば、やはり天才と言わざるを得ない。同曲は、アイルランドの歌手シネイド・オコナーのカバーで1990年に全米1位を記録し、プリンスのプロデュース曲の中では最大のヒット曲となった。

 死後3年が経過しているというのに、この音源を聴くと今もどこかのスタジオでレコーディングをしているのではないか、という錯覚に陥る。駄作といわれるものについては、あえて封印してほしい気もするが、果たしてプリンスの作品で“駄作”といわれるものがあるのだろうか……?

Text:本家一成


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