ロックの進化にも多大な貢献を果たしたキング・カーティスの『ライヴ・アット・フィルモア・ウエスト』

2019年4月26日 / 18:00

ロバート・ジョンソン、マディ・ウォーターズ、ジェームズ・ブラウン、マイルス・デイヴィスなど、ロックの進化に多大な影響を与えた黒人アーティストは星の数ほどいるが、キング・カーティスも大きな影響をロックに与えた人物のひとりだ。中でも、彼のバックバンドで知られるキングピンズが繰り出すグルーブは、ロックにおけるリズムの可能性を広げることになった。彼らのプレイは現在の若いアーティストにも影響を与え続けている。そんなわけで今回はキング・カーティスが71年にリリースした『ライヴ・アット・フィルモア・ウエスト』を取り上げる。特に本作に収録されている「Memphis Soul Stew」は50年近く経った今でも全く古びておらず、いつ聴いても鳥肌が立つ名演中の名演だ。
音楽のいろいろな聴き方

音楽を聴いていると、その時の感情によって受け取り方が変化する。喜怒哀楽など、その時に置かれた状態で、聴きたい曲が変わったりするものだ。音楽はかなり抽象的なメディアでもあるから、リスナーそれぞれがどんな受け取り方をしても自由である。僕の場合はジャンルを問わずに聴くタイプなので、怒っている時にはハードロックが、焦っている時などはフリージャズが無性に聴きたくなる。また、気分に余裕がある時には、コーヒーを飲みながらシンガーソングライター系の優しい曲が聴きたくなったりする。

逆に、どんな時でもと言うか、心の状態に関係なくいつでも受け入れられる曲もある。よく知られている曲を思いつくまま挙げてみると、カーリー・サイモン「You’re So Vein」、アレサ・フランクリン「Baby, Baby, Baby」、スージー・ボガス「Someday Soon」、キャロル・キング「It’s Too Late」、ジャクソン・ブラウン「Rock Me On The Water」、バッド・フィンガー「No Matter What」などがある。

もうひとつのタイプとしては、そんなに数は多くないが、いつ聴いても何度聴いても鳥肌が立つほど感動する曲である。ここにはタワー・オブ・パワー「What Is Hip」、ジェームズ・ブラッド・ウルマー「Black Rock」、リトル・フィート「Dixie Chicken」、ベック・ボガート&アピス「Superstition」、レッド・ツェッペリン「Whole Lotta Love」、イエス「Round About」、クルセイダーズの「Spiral」、そして、このタイプにキング・カーティスの代表作として知られる本作『ライヴ・アット・フィルモア・ウエスト』に収録された「Memphis Soul Stew」も入る。

良い曲だと感じるのか、すごい曲だと感じるのかは、もちろん人によって違うだろうが。僕にとってはメロディーが良い曲と演奏が良い(すごい)曲に分かれるようだ。よく考えてみると、鳥肌モノのほうはベースとドラムを担当するミュージシャンがどちらも抜きん出た存在であることと、グループのコンビネーションが素晴らしいものばかりである。
スタジオミュージシャンの技

上記の鳥肌モノのサンプルで言うと、タワー・オブ・パワーはフランシス・ロッコ・プレスティア(Ba)とデビッド・ガリバルディ(Dr)の超絶16ビート、ブラッド・ウルマーはアミン・アリ(Ba)とコーネル・ロチェスター(Dr)のえぐい重量感、リトル・フィートはケニー・グラドニー(Ba)とリッチー・ヘイワード(Dr)の独自のセカンドライン解釈、ベック・ボガート&アピスはティム・ボガート(Ba)とカーマイン・アピス(Dr)の饒舌さ、ツェッペリンはジョン・ポール・ジョーンズ(Ba)とジョン・ボーナム(Dr)だけじゃなく、ジミー・ペイジのリズム&リードギターの緊張感も含めて、イエスはクリス・スクワイア(Ba)とビル・ブラフォード(Dr)の当時のロックで珍しかったジャズ/フュージョン感覚、クルセイダーズはロバート・ポップウェル(Ba)とスティックス・フーパー(Dr)のヘヴィかつ軽快なプレイに加えてラリー・カールトンの考え抜かれたギターソロなど、これらの極めて優れた演奏がアドレナリンの分泌を促して僕を覚醒させるのだ。

そして、最後に挙げたキング・カーティスの「Memphis Soul Stew」は、ジェリー・ジェモット(Ba)とバーナード・パーディー(Dr)の南部感覚にあふれた圧倒的なグルーブが味わえるのだが、この演奏が英米を問わず70年代のポピュラー音楽界全体に大きな影響を与えることになる。
キング・カーティス&キングピンズ

キング・カーティスはテキサス出身のサックス奏者であり、アレンジやプロデュースも手掛ける才能豊かなアーティストだ。50年代後半にジャズミュージシャンとしてデビューするものの、自身のルーツがR&Bやジャンプブルースにあることから、60年代には自身のグループであるキングピンズを率いて、R&B

畑での活動を始める。アトランティックレコードを中心に、71年に刺殺されるまで、自身のアルバムをはじめ多くのアーティストのバックを務め、南部周辺のロックの成立にも関わっている。

中でもサザンソウル時代のアレサ・フランクリンと、マッスルショールズ周辺のスワンプロッカーやサザンロッカーたちに与えた影響は計り知れない。ジョン・レノン、ラスカルズ、デラニー&ボニー、アレックス・テイラー(ジェームス・テイラーの兄)らのようなロック系の他、ナット・キング・コール、ハービー・マン、ドニー・ハサウェイ、ジョージ・ベンソンのようなジャズからソウルまでの幅広いサポートは当時の黒人ミュージシャンには珍しく、彼は今でいうアメリカーナのアーティストに分類される最初期の人物だと言えるだろう。

キングピンズの音楽は、大雑把に言えば“歌のない歌謡曲”である。ソウル、カントリー、ポップスなどのヒット曲をインストで演奏するというスタイル。かつて日本には演歌をサックスでプレイする“ムードテナー”というキャッチフレーズで人気のあったサム・テイラーというアーティストがいたが、彼はキング・カーティスとは50年代からの友人で、彼らは同じようなスタイルで、一方はアメリカ、一方は日本で活動していたのだ。
本作『ライヴ・アット・ フィルモア・ウエスト』

このアルバムは、以前このコーナーで紹介したアレサ・フランクリンの『ライヴ・アット・フィルモア』と同じセッションである。1971年3月5日〜7日まで3日間にわたって行なわれたライヴの模様を収録したもので、カーティスとキングピンズはアレサの前座とバックを務めている。なお、ホーンセクションで参加しているのは、南部ソウルやスワンプロックのバックでも知られるメンフィス・ホーンズ。同年8月にカーティスは自宅近くで刺殺されてしまうので、本作は遺作となってしまった。彼も彼のグループも脂の乗り切った時であっただけに残念でならない。

オリジナル盤に収録されているのは9曲。前述した鳥肌モノの「Memphis Soul Stew」が1曲目に収められており、7分以上の白熱したプレイが聴ける。特にジェリー・ジェモットとバーナード・パーディーのリズム隊が素晴らしいが、ゲストのビリー・プレストン(ビートルズのレコーディングでもお馴染み)のオルガンとコーネル・デュプリー(カーティスと同じくテキサス出身。後に結成されるスタッフのメンバーで、スタジオミュージシャンとしてロック作品への参加も多い)の荒削りのギターも素晴らしい。

他の収録曲はプロコル・ハルムの大ヒット「青い影(原題:A Whiter Shade Of Pale)」、同じくレッド・ツェッペリンの大ヒット「胸いっぱいの愛を(原題:Whole Lotta Love)」、カントリーシンガーのボビー・ジェントリーの「オッド・トゥ・ビリー・ジョー」、フォークシンガー(現在はカントリーシンガー)として知られるジェリー・ジェフ・ウォーカーの「ミスター・ボージャングルズ」、スティービー・ワンダーの「涙をとどけて(原題:Signed, Sealed, Delivered I’m Yours)」など、アメリカーナ志向の選曲がなされている。

当時、黒人のアーティストがカントリーやロックの曲を演奏すること自体、かなり珍しかったわけだが、そのおかげで多くのリスナーがこのアルバムを聴くことになり、彼らの音楽が結果的に広い影響を与えることになったのである。スタッフ、TOTO、クルセイダーズなどのように直接的な影響を受けたグループの他、現代のロック、ソウル、ブルース、ジャズといったポピュラー音楽の根底に彼らの音楽は根付いているのだ。

もし、このアルバムを聴いたことがないなら、この機会にぜひ聴いてみてほしい。きっと今までにない新しい体験ができると思います。
TEXT:河崎直人
アルバム『LIVE AT FILLMORE WEST』
1971年発表作品

<収録曲>

1. メンフィス・ソウル・ステュー/MEMPHIS SOUL STEW

2. 青い影/A WHITER SHADE OF PALE

3. 胸いっぱいの愛を/WHOLE LOTTA LOVE

4. アイ・スタンド・アキューズド/I STAND ACCUSED

5. チェンジズ/CHANGES

6. ビリー・ジョーの歌/ODE TO BILLIE JOE

7. ミスター・ボージャングル/MR. BOJANGLES

8. 涙をとどけて/SIGNED SEALED DELIVERED I’M YOURS

9. ソウル・セレネイド/SOUL SERENADE


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