『COMPLEX』は平成元年だったからこそ成し得た吉川晃司と布袋寅泰による奇跡のコラボレーション

2019年4月24日 / 18:00

シングル「BE MY BABY」の発表からちょうど30年目となる今年4月。デビュー30周年記念作品として、COMPLEX唯一のベストアルバムである『COMPLEX BEST』の高音質リイシュー盤が発売された。平成元年に我々の前へ姿を現したユニットが平成最後の年のベスト盤をリリースされるわけで、そう考えると隔世の感を禁じ得ないが、この機会であるからして、当時このユニットに抱いていた個人的な思いも含めて、アルバム『COMPLEX』のことを記しておこうと思う。
アフターBOØWYの大本命

パッと咲いてパッと散る。COMPLEXはその活動において日本の美意識を体現したユニットだったように思う。1988年12月10日に結成されて、1990年11月8日に無期限活動休止(実質的解散)。発表したシングル(1stシングル「BE MY BABY」、2nd「1990」)とアルバム(1stアルバム『COMPLEX』、2nd『ROMANTIC 1990』)は全てチャート1位を記録。最初の全国ツアーは、日本武道館3デイズ、大阪城ホール2デイズ、横浜アリーナ3デイズ等を含む35都市全42公演で、20都市全33公演という2度目の全国ツアーを挟んで、ラストコンサートは東京ドーム。わずか2年間という短い活動期間ながら、確実に日本ロックシーンの頂点に昇り詰め、適当に延命することなく活動停止した。傍目からも破格と言える大成功を収めながら、潔いまでの去り方を見せたユニットは、おそらくCOMPLEXの他にいない。“伝説的”という形容はよく見聞きされるが、彼らの快進撃を知らない人たちへ伝えたくなるという意味では、これほどに伝説的なバンドもいないであろう。

メンバーにとって、もしかするとファンにとっても、この言い方をされるのは好ましいことではないのだろうけれど、それを承知で書くと、COMPLEXがデビューいきなりブレイクしたのは、1988年のBOØWYの解散とは無縁ではない。個人的にはそこから地続きになっていたのではないかとすら思う。言うまでもなく、BOØWYは日本ロックシーンにおける最重要バンドのひとつ。BOØWYがいなかったら現在のシーンは今とは違ったものになっていたであろうし、その意味ではBOØWYというバンドは歴史の分水嶺を担ったバンドだったとも言える。

そのBOØWYは1988年4月、東京ドームでの『LAST GIGS』でその活動を終了しているが、実際には1987年12月の渋谷公会堂公演での解散宣言でバンドは終わっている。メンバーが『LAST GIGS』を指して“少し早い再結成、同窓会のようなものだった”と言っていたというのは有名な話だ。BOØWYのGIGの多くはホールクラスであった。『CASE OF BOØWY』等でのアリーナ公演もあったものの、最後のツアーであった『DR.FEELMAN’S PSYCHOPATHIC HEARTS CLUB BAND TOUR』にしてもその多くは地方都市でのホール公演。アルバム『BEAT EMOTION』(1986年)と『PSYCHOPATH』(1987年)とで連続チャート1位奪取したあとのことなので、今なら最低でもアリーナツアーを組むところであろう。時代が早かったと言えばそこまでだが、要するにBOØWY解散の辺りの時期は、需要に見合った供給がなされていた状況ではなかったのである。解散宣言をした渋谷公会堂のチケットを100万円出してダフ屋で買った人がいたとか、『LAST GIGS』で用意された10万枚のチケットが10分で売り切れたばかりか、購入者が殺到したために電話回線がパンクしたこととかが、その事実が供給不足だったことの何よりの証左であろう。

氷室京介の『FLOWERS for ALGERNON』(1988年9月)、布袋寅泰(Gu)の『GUITARHYTHM』(1988年10月)と、BOØWY解散の約半年後、図らずも2カ月連続で発表された元メンバーのソロはいずれも素晴らしい作品であったし、バンドが消失した空白を埋めたことは間違いない。しかし、ソロはソロ。誤解を恐れずに言えば、それぞれのソロ作品が連発されたことで、あのヴォーカルとあのギターとが合わさった時に確実にあった何か──バンドの妙味みたいなものがそこにないことが逆に浮き彫りになった感はあったと思う。少なくとも筆者にはあった。これはこれで十分なんだけれども、十分であるがゆえに各々が合わさった時の化学反応を期待してしまう気持ち。今でもそれが強欲であったことは承知だけれども、何しろ直前までBOØWYの熱狂を体験していたのだから、我がことながら無理もなかったと思う。その何か微妙に満たされない空気を、これ以上ない衝撃で埋めてくれたのがCOMPLEX結成の報道であった。
リスナーの期待を はるかに上回った楽曲群

1988年12月。あの吉川晃司(Vo)が布袋と本格的に組むことがアナウンスされた時は、比喩ではなく、まさしく歓喜の声を上げたことを覚えている。確か最初は友人から“布袋が吉川とバンド組むらしいぞ!”と告げられたと記憶しているのだけれども、とにかくワクワク感が止まらなかった。少し大袈裟に言うと、アーティストの新作音源を心待ちにしたのは、あとにも先にも、この時しかなかったような気もする。そして、その吉報から約5カ月後に届けられたアルバム『COMPLEX』は、吉川と布袋、ふたりのアーティストの個性がぶつかり合った期待を裏切らぬ出来栄えであった。

まず、先行シングルとして発表されたM8「BE MY BABY」が良かった。事前の予測をはるかに上回るカッコ良さ。The Ronettesの超有名なヒット曲と同名ということでオールディズを喚起させるタイトルながらも、イントロでの布袋の《BE MY BABY》のリフレインからのギターのヘヴィなストローク。そこに“威風堂々”と表現したくなるほど、どっしりとした存在感を示す吉川のヴォーカルが乗り、その歌メロはサビでサウンドとともに開放的かつキャッチーに展開する。メロディーと歌詞だけを抜き出すと意外なまでにシンプルなのだが、決してそう聴かせないアレンジの巧みさ。そして、何よりも匂い立つようなロックのワイルドさが全体を支配している。1+1が確実に2以上になる実例をまざまざと見せられた格好だった。待ち侘びた身にとってBOØWYの穴埋め的なものとしてとらえていた部分もあったと前述したが、実際に遭遇したCOMPLEXは決して代替えなどではなく、まったく新たなロックヒーローだったのである。それが1989年春、即ち平成元年度の始まりのこと。まさに新しい時代の到来を感じさせたのである。

そのM8「BE MY BABY」にこの上なく期待を煽られた末に手にしたアルバム『COMPLEX』も、これまたまったくその期待を裏切らなかった。吉川と布袋は、オープニングM1「PRETTY DOLL」でいきなり攻撃性とスケールの大きさを見せつける。吉川が作詞作曲したナンバーで、メロディーと曲自体の進行はJ-POP的(当時はそんな言葉はなかったように思うが…)というか、ある種、オーセンティックでありながらも、そこに前年のソロ『GUITARHYTHM』で見せた布袋のニューウエイブ感を注入。吉川の作品でも布袋の作品でもなく、COMPLEXの作品としか言いようがない、まさしく化学変化がそこにあった。今改めて聴くとイントロでギターの音が左右に振れるのはご愛敬といった感じだが、当時はそれもまた新鮮に感じたものだ。

M2「CRASH COMPLEXION」でヘヴィなロックを続けたあと、M3「恋をとめないで」でポップチューンを披露。キャッチーなメロディーとキラキラとしたギターのリフが印象的なナンバーで、こういう軽快な楽曲をやれるのもCOMPLEXのポテンシャルの高さを示したと思う。メロディーもサウンドも歌詞も初期衝動を具現化したようなところがあり、シングルカットされていないにもかかわらず、COMPLEXを代表する楽曲としてファンに支持されたのは、そうしたフレッシュなところがパッケージされているからなのかもしれない。リリースされたばかりの頃は、某音楽評論家にその歌詞をかなり揶揄されていたし、2011年の再結成時に吉川本人も“当時の歌詞をそのままの気持ちで歌うことは難しい”といった主旨の発言をしていることから、もしかするとM3「恋をとめないで」はメンバーにとっても認めたくない若さゆえの過ち((c)シャア・アズナブル)なのかもしれないけれど、その瞬間をパッケージしたという意味では、これはこれでやはり名曲であろう。

名曲と言えば、続くM4「Can’t Stop The Silence」は隠れた名曲とでも言うべき秀作。ミディアムテンポのヘヴィグルーブ系ナンバーで、叙情的かつドラマチックな楽曲展開を、吉川の渋い声と、布袋のブルージーなギターとで彩っている。COMPLEXと言うと、やはりM8「BE MY BABY」やM3「恋をとめないで」のイメージが強かろうが、M4「Can’t Stop The Silence」のような、ポップさこそ薄いがしっかりとロックな質感を残すナンバーをやった辺りに当時のふたりの心意気を感じるところである。話は少し飛ぶが、その辺はアルバムラストに収録されたM12「CRY FOR LOVE」も同様で、こうしたメロウなナンバーを残したところも見逃せない。
己にないものを補てんし合ったサウンド

M4以降、吉川作詞作曲だけあってメロへの歌詞の乗せ方、歌唱が絶妙で、そこに布袋らしいエッジーなギターリフが絡むM6「IMAGINE HEROES」。そして、リズミカルなサウンドもさることながら、そもそもサビでの吉川のヴォーカルに呼応する布袋のコーラスがたまらないM10「RAMBLING MAN」などが続いていくが、当然のことながら、いずれにしても吉川のカラーと布袋のカラーとが混ざり合ったユニットならではの化学変化が見られる。やはり、これがアルバム『COMPLEX』の特徴である。吉川はそれまでのキャリアで体験したことがなかったロックバンドへの憧憬があり、一方の布袋はソロ活動を始めたものの、この時期はまだヴォーカリストとしての未熟さを感じていたそうで、両者ともにその頃の己になかったものを補い合えたのがCOMPLEXの本質であったという見方があるが、まさしくそれを実現したのが『COMPLEX』であった。

基本的には文句の付けようがない作品なのであるが、レコーディング期間が短かったからなのか、多くの楽曲でリズムが打ち込みなのが若干残念ではある。個人的には池畑潤二(Dr)が参加したM3「恋をとめないで」、M10「RAMBLING MAN」、M12「CRY FOR LOVE」が素晴らしすぎるので余計にそう思う(収録曲中、ドラムがクレジットされているのがこの3曲)。筆者は幸いにも最初の全国ツアーを観ることができたのだが、池畑氏のドラミングの鋭さを目の当たりにして、『COMPLEX』収録曲がさらに輝きを増すような感覚を得たこともよく覚えている。2nd『ROMANTIC 1990』では生ドラムは増えていたが、それでも全13曲中5曲と比率としては少なかったところを見ると、COMPLEX自体、デジタル指向だったのかもしれない。しかし、あのバンドならではのグルーブを生で体験してしまうと、ちょっともったいないことをしたのかも…という思いは拭えない。拭えないが、こればかりは栓なきこと。

平成元年に生まれた奇跡のコラボレーションは、翌年の2nd『ROMANTIC 1990』の制作中に音楽面での意見衝突が表面化して、解散に至った。個性の強いふたりだったがゆえに両雄並び立たなかった…というのが専らの見方。[本能のままに生音を制作し、シンガーソングライターとして急成長する吉川と、音楽の細部にわたるこだわりだけでなく、活動コンセプトやファッション、ビジネス面に至るまでを綿密に計画しプロデューサー視点でトータルで捉える布袋との間に徐々に溝が生まれ]たという([]はWikipediaからの引用)。COMPLEX以降のふたりは、布袋は自らがヴォーカルを務めてヒット曲を量産し、吉川は今も名うてのミュージシャンたちとライヴ活動を行なっているので、その見方も決して穿ったものではなかろう。2011年7月、東日本大震災復興支援チャリティーライヴとして復活しているので、再始動は100パーセントないとは言い切れないが、COMPLEXは両スーパースターの活動の奇跡的な結合点であったと見て、今も残る音源を愛でるのが現在の接し方が正しいと思う。
TEXT:帆苅智之
アルバム『COMPLEX』
1989年発表作品

<収録曲>

1.PRETTY DOLL

2.CRASH COMPLEXION

3.恋をとめないで

4.Can’t Stop The Silence

5.2人のAnother Twilight

6.IMAGINE HEROES

7.CLOCKWORK RUNNERS

8.BE MY BABY

9.路地裏のVENUS

10.RAMBLING MAN

11.そんな君はほしくない

12.CRY FOR LOVE


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