MARCHOSIAS VAMPの『乙姫鏡』に刻まれた完成されたグラムロック・バンドのスタイル

2019年4月17日 / 18:00

平成がそろそろ終わるということで、それになぞらえて何か名盤を選べないかと考えて、今回はMARCHOSIAS VAMPをチョイスした。その理由は以下にクドクドと述べたのでそれをご参照してほしいが、彼らは現在まで続く音楽シーンの多様性──その礎を担ったバンドのひとつ。デビュー当時も高い評価を受けたバンドではあるが、令和を迎えても再評価されてしかるべき音楽性を持った偉大な存在だと思う。
平成初の音楽的ブーム“イカ天”

平成も残すところ2週間余り。テレビのバラエティー番組では“ヒット曲で振り返る平成”みたいな企画が散見される。多くのアーティストがLPを制作せずCDのみを発表することになったのが1990年代前半=平成元年以降。そして、音楽CDの生産金額が国内過去最高を記録したのが平成10年(1998年)で、以降は減少の一途であることはご存知の方も多いのではないかと思う。つまり、音楽業界的に振り返れば平成はCDの普及で始まり、その衰退で終わった時代と言えるかもしれない。

ちなみに、欧米に比べて日本では今ひとつ延びていない音楽ストリーミングサービスではあるが、昨年2018年には売上高でダウンロードを超えたというニュースもあり、令和はおそらくストリーミングの時代になるのであろうという予感はある。

多様なアーティストが平成を彩ってきた中、平成を代表するジャンルやカテゴリをひとつに絞るのはなかなか難しい作業ではあるけれども、あえてこれひとつを挙げるとすると、1989年の『三宅裕司のいかすバンド天国』、通称“イカ天”が起こしたムーブメントを推したいところである。番組自体、平成元年2月のスタートであり、そもそも『平成名物TV』という番組の1コーナーであったわけで、それだけでも平成の音楽史を語る上で欠かせないトピックではあろう(?)。

まぁ、それは半分冗談としても、まさしく新しい時代を迎えてから始まった深夜番組であり、しかも開始当初は関東ローカルとあって、冒険的、挑戦的な音楽番組であったことが思い出される。審査員の判断によって完奏できるかどうかを決めるシステムと、そこを勝ち抜いたチャレンジャーが前週でキングに選ばれたバンドと対戦するゲームのようなスタイルがウケたことがヒットの要因であろうが、番組の盛り上がりによって、それまでは世間一般に広まることがなかったバンドたちを巷に紹介したことは“イカ天”の大きな功であろう。所謂“バンドブーム”の到来である(第二次バンドブームとも言われる)。

800組以上のバンドが今で言う地上波のテレビ番組でオンエアされたが、それによってひと口にバンドと言ってもさまざまなタイプ、スタイルがあることを知らしめたこと──バンドの多様性、バラエティーさを示したことが何よりも大きい。その象徴は14代目イカ天キングであり、5週勝ち抜いて3代目グランドイカ天キングになった、たまであろう。その楽曲とビジュアルに通底するアングラ感、非大衆性からすると、いかに音楽性が特異なものであったとはいえ、はっきり言わせてもらえば、当時にしてもよくぞ世に広まったものだと思わざるを得ないが、たまはシングル「さよなら人類」でメジャーデビューし、NHK紅白歌合戦へも出場したのだから、ブームの破壊力は絶大だった。その他、歴代イカ天キングの顔触れを見ると、FLYING KIDSやJITTERIN’JINN、BEGIN、BLANKEY JET CITYら、日本の音楽史、ロック史にその名を残すバンドばかりだが、ザッと見渡してもバラエティー豊かな顔ぶれで、“イカ天”がけん引したブームはやはりバンドの多種多様さ、種々雑多さを示して、のちのシーンに大きな影響を与えたと言える。
4代目グランドイカ天キング

今週も前置きが長くなった。今回紹介するMARCHOSIAS VAMPは、たまに次いで15代目イカ天キングとなり、そのまま5週勝ち抜いて4代目グランドイカ天キングになったバンドである。ミスターシービーの翌年にシンボリルドルフが、オルフェーヴルの翌年にジェンティルドンナが、連続して三冠馬が出現することがあるが、それと同じような現象だったと言える(?)。4人組であるということ以外、たまとはまったくタイプの異なるバンドであったが、MARCHOSIAS VAMPも傑出した駿馬であった。

“イカ天”を知る人ならわりと知っているエピソードであろうが、MARCHOSIAS VAMPが番組に登場した時にキングだったのがたまで、その回は両バンドが対戦。1票差でたまが勝ったが、MARCHOSIAS VAMPが消えるのが惜しいとの声が上がり、たまが5週勝ち抜きでグランドイカ天キングとなって翌週のキングの座が空位になったことから、特例措置としてMARCHOSIAS VAMPが仮イカ天キングとなった。それが1989年12月。そこから彼らは1990年1月までキングの座を守ったわけだが、そのまさに4代目グランドイカ天キングとなった日に発売されたのがアルバム『乙姫鏡』である。

超久しぶりにその『乙姫鏡』を聴いたが、この時点ですでにバンドが完成されているというか、凡そ非の打ちどころがない作品だと言っていいと思った。全6曲。収録時間27分強というミニアルバムとも言える容姿ではあるものの、MARCHOSIAS VAMPというバンドが何をやりたいのか、どういうバンドであるのかが非常によく分かる。

メンバーは秋間経夫(Vo&Gu)、鈴木ユタカ(Gu)、佐藤研二(Ba)、石田光宏(Dr)。ヴォーカル、ギター×2、ベース、ドラムという、よくあるロックバンドの形式だが、ほぼ外音を入れず(M1「FAKE」だけにゲストコーラスが参加)、4人のアンサンブルでとても奥行きのあるサウンドに仕上げている。全員が全員、独自の演奏をしながらも、それが合わさってひとつの楽曲を成しているという言い方がいいだろうか。“どのバンドだってそうだろうよ!?”と突っ込まれれば、それは確かにそうで、ロックバンドでも一般的には楽曲のフォームのようなものはある。歌とギターとがメインのメロディーを奏で、ドラムはテンポのキープで、ベースは旋律とリズムとの間をつなぐ(サイドギターがあればサイドギターもまた旋律とリズムとの中間、あるいはベースと旋律との中間をつなぐ役目であろう)。

もちろん、MARCHOSIAS VAMPとて基本的にはそれなのだが、個々のパートが実に奔放であることは言えると思う。ほぼヴォーカルと拮抗したようなギターのフレーズもさることながら、リズム隊にそれが顕著だ。ベース、ドラムともにテンポをキープしようとか、楽曲のコード感を下支えしようとか、おそらくそういうことだけを考えて弾いているのではないことがよく分かる。ドラムは“ドラムンベースか!?”と思うほど…というとさすがに大袈裟だが、この手数の多さはただごとではない。しかも、所謂オカズが多いと単に耳障りが悪くなるだけにもなりかねないが、そう聴こえないというところが素晴らしい。グラムロック…というよりも、R&R本来のポップでダンサブルな躍動感を生んでいる。

さらに素晴らしいのはベースである。ひと時もフレットを抑える左手が止まっていない(…と言うと、これもまた大袈裟だが)ベースの音はそう思わせるに十分な響きである。“イカ天”出演時から佐藤の出で立ちが、沢田研二がシングル「サムライ」のステージ衣装に似ていることから(…ということは即ち、ナチス風ということだ)、そこにスポットが当たることも多かったような気もするが、本来語られるべきはそのベースプレイである。筆者は過去たぶん二度ほどMARCHOSIAS VAMPのライヴを生で観ている(と記憶している)が、ピッキングでもスラップでもなく、擬音にすればブインブインと形容したくなるその音を目の当たりにして絶句したことはよく覚えている。あえて言葉にすれば“ベースってこんな弾き方もあるのか!?”という衝撃だったが、あれから約30年、彼を超えるのベースプレイを観たことはないように思う。MARCHOSIAS VAMPのリズムはそれほどすごいものだったし、それは音源にもしっかりと刻み込まれている。

歌は一様にキャッチーで、覚えやすく、口ずさみやすいメロディーである。ビジュアルからもT. RexのMarc Bolanを意識していることは確実の秋間は、その高く粘りつくような声質もまさにそれで、抑揚を強調したメロディーによく合っていると思う。ロック的かつ妖艶。まさにグラマラス・ロックである。

ギターが奏でるサウンドもグラマラスである。アーミングかと思えば、カッティングを聴かせ、そうかと思えば、続いてはヘヴィなストロークと、多彩なプレイが聴ける(とりわけM2「ROUGEをふいて」の間奏で魅せるリズミカルなニューオーリンズ風フレーズは意表を突く代物で絶品だ)。重要なのはそれが止まることなくずっと鳴らされているところではないかと思う。イントロでガツンと鳴らし、歌が入ればヴォーカルと並走し、間奏ではまた違った表情を見せるといった具合に、ノンストップでさまざまなサウンドを鳴らしているのはロックギタリストとしての矜持であろうか。決して伴奏などではない、“こっちが主役だ!”と言わんばかりの姿勢がとてもいい。
あらゆる面において完成していたバンド

歌詞に目を移すと、M1「FAKE」の《ハイウェイの彼方 なんて/誰も見た事なんてないんだぜ》《だからFAKEで行こうぜ 君の心にREVOLUTION》辺りには、逆説的な意味での自らのスタンスを垣間見ることができるが、それ以外は様式美的な言葉が並んでいる。これはおそらくグラマラスさを意識していたからに他ならないであろう。

《ちょっと気が強い QUEEN BEE/振り向くな UNDER THE MOONBEAM/俺ときたら まるでジョーカーみたいに/心は海の底》(M3「悲しみの略奪者」)。

《蜃気楼の迷路の中 はかない夢の跡/戯れるままに lonely,lonely cry…》《操られたピエロは 暗やみのなか/空回りする糸をはじくだけ/とてもつらい時の様に/眠り そして夢に落ちる》(M4「LONELY CRY」)。

《竪琴を抱いて ただ一人 world’s endを歩いてる/知りたい事を追い過ぎて 瞳は遠くをながめてる》《インディアンの秘境を荒らし 奇妙な部屋で過ごしていた/愚かなロマンスだけが残り いつだって上手く行くとは限らない》(M6「CRY OUT YOUR NAME」)。

これらのフレーズがキャッチーなメロディーに乗っているというのは、構造としては1990年代後半のビジュアル系に近いのではないかと思う。

アルバム『乙姫鏡』収録曲からザッとMARCHOSIAS VAMPのサウンドを分析してみたが、やはりこの時点でバンドはあらゆる面において完成したことは間違いない。いくらそれまでキングであった、たまが優秀だったとはいえ、彼らはそれに拮抗した存在であって、15代目イカ天キングとなり、そのまま5週勝ち抜いて4代目グランドイカ天キングになったことは、今、アルバム『乙姫鏡』を聴き直しても当然の帰結だったことが分かる。

その一方で──アルバム『乙姫鏡』はインディーズながら当時としては異例のチャート初登場59位を記録した上、1990年10月にはメジャー進出し、アルバム『IN KAZMIDITY』をチャートベスト10内に叩き込んだものの、その後はヒットに恵まれずに、残念ながらMARCHOSIAS VAMP は1996年に無期限活動停止を発表した。結成が1985年だったので、その時点で10年は経っており、インディーズも含めて9枚ものアルバムを制作しているから、もしかすると、やり尽くした感はあったのかもしれないけれど、今もいいバンドを失くした感は否めないし、もうひと花咲かせてほしかったという思いは拭えない。
TEXT:帆苅智之
アルバム『乙姫鏡』
1990年発表作品

<収録曲>

1. FAKE

2. ROUGEをふいて

3. 悲しみの略奪者

4. LONELY CRY

5. MIDNIGHT THEATER

6. CRY OUT YOUR NAME


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