ライドンの歪んだ叫びが脳を刺激するパブリック・イメージ・リミテッドの『セカンド・エディション』

2019年4月5日 / 18:00

78年にセックス・ピストルズが空中分解し、メンバーのシド・ビシャスが亡くなった時点でパンクロックは一応の役目を終えた。“一応”というのは、パンクの精神はその後も生き続け、ハードコア、グランジ、オルタナティブなど、表面的にはさまざまな形態に変異しながらも、その精神はしっかり引き継がれているからだ。ジョン・ライドン(元ジョニー・ロットン)はピストルズを抜けた後、ジャマイカに行き新しいグループの構想を練った。そして、イギリスに戻って結成したのがパブリック・イメージ・リミテッド(以下、P.I.L)である。今回取り上げる『セカンド・エディション』は彼らの2ndアルバムで、当初は『メタルボックス』というタイトルでリリースされた。ダブ(DUB)を取り入れた硬質のファンクサウンドに乗ってライドンの歪んだ叫びが響く様は、まさに異形という言葉が相応しい唯一無二のサウンドである。
パンクロックの終焉と ニューウェイブの台頭

シド・ビシャスが死んでしまってからパンクロックは急速に下火になった。この構図は浅間山荘事件とそれによって発覚した集団リンチ致死事件以降、学生運動が急速に失速していった雰囲気と非常に似ている。ピストルズにしても学生運動にしても、シンパシーを感じていたにもかかわらず、思っていたよりも幼稚な仕組みだったんだなと、多くの人があきれてしまったのである。パンクの本質がどうであれ、時代の空気は一気に変わり、イギリスの若者たちはパンクに代わる新たな音楽(刺激)を探し始める。

もちろん、80年代に入ってもクラッシュやストラングラーズらパンクロックのアーティストたちは活動し続けていたが、大手レーベルに所属するビッグな存在になってしまっていた。社会的認知度が高く、金銭的にも恵まれ、スタジアムでコンサートをするパンクロッカーなど、本末転倒であるとは言えないか。成功を収めた大物パンクロッカーに代わって、ハードコアパンクやスラッシュメタル系のインディーズグループが登場してくるわけだが、その辺についてはまた別の機会に述べたいと思う。

ピストルズ解散後、急速に台頭してきたのはエルヴィス・コステロ、ポリスらに代表されるニューウェイブと呼ばれる勢力で、パンクの香りを漂わせながらもしっかりした演奏技術を持ち、ソングライティングの面でも職人技を駆使するなど、彼らは瞬く間に若者たちを虜にする。ひと口にニューウェイブといっても、実際には多種多様な音楽があるのだが、ニューウェイブ系のアーティストを多く抱えるインディーズレーベルからリリースされれば、それらは全てニューウェイブだと当時のリスナーは捉えていたと記憶している。

パンクロック隆盛のおかげで、大手レーベルと絶対に契約できない演奏技術や表現力の拙いアーティストたちは、各地にできたインディーズと契約し、上手くいけば売れることが可能となった。レーベル側もそれぞれの個性を売りにしてカラーに合ったアーティストを売り出すという、これまでになかった形態のシステムができつつあったのだ。これがパンクロック革命の大きな成果のひとつだ。ファクトリー、ラフ・トレード、チェリーレッド、スティッフなど、多様なインディーズレーベルが設立され、ポストパンク時代がスタートする。
レゲエ、スカ、ワールドミュージック

もうひとつ、ロンドンではレゲエやスカといったジャマイカ音楽のブームもやってきていた。これはイギリスにジャマイカ移民(ジャマイカはイギリスの植民地であったため)が多いことと、ピーター・ガブリエルらが仕掛けたワールドミュージックの流行もあって、大きな話題となった。特にジャマイカでは60年代からレゲエで使われていたダブ(DUB)の音楽的処理が新しい感覚で捉えられ、ライドンをはじめ、ポストパンクのアーティストたちに大きな影響を与えている。スカの流れは80年代初頭のスペシャルズやコレクターなどに代表される2トーンブームを巻き起こし、日本でもマッドネスがCMに起用されるなど、イギリスだけでなく日本でも大きな広がりを見せた。この後、UB40、スティール・パルス、アスワドなど、ブリティッシュレゲエ・ブームへと広がり、90年代のUKソウルやアシッドジャズのムーブメントにも繋がるきっかけともなった。
パブリック・イメージ・ リミテッドの結成

78年、アメリカツアーの途中で突然ピストルズを辞めたライドンは、ジャマイカに向かい新しいグループのイメージを膨らませていた。ジャマイカ音楽同好仲間でベーシストのジャー・ウォブルと、クラッシュと演奏経験のあるギタリストのキース・レヴィンに声を掛けて、グループ結成を決める。ドラムのジム・ウォーカーはカナダ出身の留学生で、オーディションによって選出され、4人組でグループはスタートする。

78年10月、先行シングル「パブリック・イメージ」をリリースすると大きな反響を呼び、全英チャートで9位まで上昇することになった。同じ年の12月にはデビューアルバム『パブリック・イメージ(原題:Public Image:First Issue)』をリリースする。そのサウンドはピストルズ時代の軽さと違い、硬質なリズムとダブを組み合わせた重厚なポストパンク作品となった。バンドの核はウォブルのベースで、レゲエだけでなくジャズやファンクのバックボーンを持つ彼ならではの技巧的プレイが聴きものとなっている。収録曲にメロディーらしきものはほとんどなく、ライドンのパワフルかつ嘶くようなヴォーカルは前衛的感覚に満ちている。彼の提唱するアンチロック(反ロック)という概念が具体化されたサウンドになっていると言えるだろう。
本作『セカンド・エディション』 について

そして、翌79年にリリースされたのが本作『セカンド・エディション』である。もともとは『メタルボックス』というタイトルで、フィルムケースのような缶に45回転の12インチシングルが3枚収められていたのだが、アナログ盤は音質が良く、驚くほどの重低音であった。

サウンドは前作同様、ウォブルのベースがメインではあるが、レヴィンのノイジーなギターは前作以上のキレがあるし、ライドンのヴォーカル(というか、語りと叫び?)にも磨きがかかっている。ドラムのジム・ウォーカーはすでに脱退してしまっており、3人のゲストドラマーにプラスしてレヴィンやウォブルまでもが駆り出されている。過渡期的な時期なのだろうが、あまり散漫な印象はない。むしろ、グループの一体感が増しているように感じるのだが、それがライドンのリーダーシップによるものかどうかは定かでない。

収録曲は全12曲。アルバム全編にわたって繰り広げられる土着的なダンスリズムと、ダブやシンセによる前衛的で捉えどころのない雰囲気は、それまでのロックにはない、まったく新しいスタイルを生み出している。ピストルズ時代とは打って変わってポップな要素を極力排除し、アンチロックを掲げるライドンなりのアバンギャルドなダンスミュージックに仕上げたと言えるかもしれない。アメリカのポストパンク作品に『ノー・ニューヨーク』という秀逸なコンピレーションアルバムがあり、その周辺にいるアーティストを“ノーウェイブ”と呼ぶが、ライドンの目指すものもコンセプト自体は近い感覚であり、本作『セカンド・エディション』もまた、後進のアーティストたちに大きな影響を与えた衝撃作だ。

本作リリース後、残念なことにジャー・ウォブルが音楽性の違いから脱退し、次作の『フラワーズ・オブ・ロマンス』(‘81)ではベースレスとなる。しかし、ライドンの凄みは枯れることなく、ますますアンチロックを極めている。『フラワーズ・オブ・ロマンス』は本作と並ぶ傑作で、この2枚がP.I.Lの代表作だと僕は確信している。

余談であるが、この7月にジャー・ウォブルは自身のグループ、ザ・インヴェイダーズ・オブ・ザ・ハートとともに来日することが決定しているので、興味のある人はチェックしてみてください。
TEXT:河崎直人
アルバム『Second Edition』
1979年発表作品

<収録曲>

1. アルバトロス/Albatross

2. メモリーズ/Memories

3. スワン・レイク/Swan Lake

4. ポップトーンズ/Poptones

5. キャリアリング/Careering

6. ソーシャリスト/Socialist

7. 墓場/Graveyard

8. スーツ/The Suit

9. バッド・ベイビー/Bad Baby

10. ノー・バーズ/No Birds

11. チャント/Chant

12. ラジオ 4/Radio 4


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