ザ・ビートルズ解散後、初めてメンバー全員が参加したリンゴ・スターの代表作『リンゴ』

2019年3月29日 / 18:00

今月27日からリンゴ・スター・オールスター・バンドの来日公演が始まっている。オールスター・バンド名義での第1回目の来日は1989年だったので、今回は30周年という節目の年。そんなこともあってか、リンゴは78歳であるにもかかわらず全9公演(うち2公演は追加公演ではあるものの…)という力の入れようだ。公演の成功を祈念する意味も込めて、今回はリンゴが73年にリリースしたソロアルバム『リンゴ』を取り上げる。本作『リンゴ』はソロ作品としては3枚目となるのだが、その前に出た『センティメンタル・ジャーニー』と『カントリー』の2枚は、彼の趣味的な側面にスポットを当てた企画作品のような性質なので、この『リンゴ』こそが本質的なデビューソロ作だと言ってもいいだろう。なにしろこのアルバム、すごい面子をバックに携えチャートでも好成績を残すなど、彼の代表作となった。
ザ・ビートルズのムードメーカー

ザ・ビートルズというグループの中にあって、リンゴ・スターは地味な存在だと思われがちである。確かに、メンバー4人のうち、強烈な個性を持った天才肌のジョン・レノン、ストイックなメロディーメーカーのポール・マッカートニー、優れたソングライティングの才能を持ち、かつハンサムなジョージ・ハリソンの3人と比べると、リンゴは分が悪いかもしれない。しかし、彼は他のメンバーにはない“癒やし”の感覚を持っている。ジョンとポールの関係が悪くなってピリピリした雰囲気が続いた時、リンゴの緩衝材的な存在はメンバーにとって大きかったはずだ。それは、彼がリードヴォーカルを務めた「オクトパス・ガーデン」「イエロー・サブマリン」「ホワット・ゴーズ・オン」などを聴いても分かる。そのほんわかしたムードは、真っ直ぐで優しいリンゴの人間性を表していると言えるだろう。

とはいっても、ビートルズ末期の頃はストレスも極限に近かっただろうし、実際大きなストレスを抱えスタジオから逃げ出してしまったこともある。映画俳優としての仕事を手掛けたのも、グループ内の人間関係に押し潰されそうになって第2の人生を模索していたからである。彼の俳優としての実力は賛否あると思うが、それでもビートルズ映画の『ビートルズがやってくる ヤア! ヤア! ヤア!』(‘64)『 HELP! 4人はアイドル』(’65)の2本と『おかしなおかしな石器人』(‘81)でのユーモアあふれる演技は、彼ならではのとぼけた味が出ていて素晴らしかった。
30周年となるオールスターバンド

そんな彼の人懐っこい性格は、身近にいる多くのアーティストも知っており、最初のオールスターバンドが結成された時、そのメンバーの層の厚さに驚いたものだ。ジョージとリンゴが共に大好きだったザ・バンドのメンバー3人をはじめ、1971年のバングラデシュのコンサートでリンゴとツインドラムを務めたロック界きっての名ドラマーのジム・ケルトナー、ニューオーリンズ音楽の重鎮で、セッションマンとしても超売れっ子のドクター・ジョン、後期ビートルズでキーボードを担当したビリー・プレストン、ジェームズ・ギャングやイーグルスのメンバーで、ソロアーティストとしても知られるジョー・ウォルシュ、ブルース・スプリングスティーンのEストリートバンドで有名なクラレンス・クレモンズ、元グリンのリーダーで名ギタリストのニルス・ロフグレン(Eストリートバンドのメンバーでもある)ら、アメリカのロック界を代表するアーティストたちであった。このメンバーで初来日したのが1989年、この時僕は大阪公演に行った。詳細は忘れてしまっているが、リンゴがザ・バンドの「ザ・ウェイト」を演奏している事実に大興奮したことだけはよく覚えている。最初のオールスターバンドはアメリカンロックが中心の組み立てであるものの、リンゴがヴォーカルの曲ではビートルズの香りがしっかり漂い、ひときわ大きな歓声となっていた。

この後もオールスターバンドは不定期ながらも継続し、都度メンバーを入れ替えて現在は第14期にあたる。今回の来日公演は、ポールのバックメンとしても活躍したアヴェレージ・ホワイト・バンドのヘイミッシュ・スチュワート、サンタナやジャーニーで活躍したグレッグ・ローリー、メン・アット・ワークのコリン・ヘイ、そしてトトの名ギタリスト、スティーブ・ルカサーらが参加しているので、今回もまた楽しいステージになることは間違いない。
ソロ活動

リンゴの最初のソロアルバム『センティメンタル・ジャーニー』(70)は、ビートルズの『レット・イット・ビー』が出る前に、アップル・レコードからリリースされた。思えば、70年はビートルズの各々のソロ活動が目立った年で、ポールは『マッカートニー』、ジョンは『ジョンの魂』、ジョージは『オール・シングス・マスト・パス』など、話題作が次々にリリースされている。リンゴはこれらのアルバム全てに参加しているのだから、やはりメンバーの彼への信頼度は高いのだ。この年はビートルズの解散騒動もあってか、『センティメンタル・ジャーニー』は好成績を収めている(全英チャート7位、全米チャート22位)。

同年終わりには早くも2枚目のソロ作となる『カントリー・アルバム(原題:Beaucoups Of Blues)』が出ているが、流行を追っているわけではなく、あくまで彼が好きな音楽をストレートに演奏するという性質だ。どちらのアルバムも記念にレコーディングしましたって気がする。間違っても、売れようという考えはなさそうだ。ビートルズ時代からリンゴのカントリー好きはよく知られており、バック・オーエンズの「アクト・ナチュラリー」をカバーしたり、「オクトパス・ガーデン」のようなカントリーテイストのある曲を歌っている。

しかし、スタンダード〜カントリーという流れは、当時のロックファンには絶対にウケけないスタイルであった。90年代になると、オルタナティブ系ロッカーたちがカントリー好きを表明したりアンプラグドが流行ったりと、カントリー〜アメリカーナ系の音楽にも光が当たるようになったが、当時は王道カントリーと正統派スタンダードは若者は見向きもしなかっただけに、リンゴの“好きなものは好きだ!”という毅然とした姿勢は潔いと思う。実際、『カントリー・アルバム』は売れなかったが、ナッシュビルまで赴いて録音しており、リンゴのカントリー音楽に対する並々ならぬ思い入れを感じる。バックを務めるのはジェリー・リード、ベン・キース、ピート・ドレイク(プロデュースも)、DJ・フォンタナ、チャーリー・マッコイ、若かりしロイ・ハスキー・ジュニア他によるナッシュビルの超一流ミュージシャンであり、憧れのアーティストに会ったリンゴは大いに感動したようである。CD化に際して、このアルバムに参加した全ミュージシャンによる7分近くにも及ぶセッション「ナッシュビル・ジャム」が追加収録されているのが嬉しい。

そして、71年には大ヒットシングル「明日への願い(原題:It Don‘t come easy)」をリリース、全米、全英チャートで4位まで上昇(米キャッシュボックス誌では堂々の1位)、曲作りとアレンジに関してはジョージが全面的に参加している。面白いのは、このシングルのB面に収録された「1970年代ビートルズ物語(原題:Early 1970)」で、ポール、ジョン、ジョージのことが各ヴァースで歌われており《3人に会いたい》という言葉で締め括られる。リンゴらしい優しさにあふれた歌だと思う。
本作『リンゴ』について

リンゴが「1970年代ビートルズ物語」で歌った望みは、完全なかたちではないが、本作『リンゴ』で実現することになる。ビートルズ解散後、メンバー全員がひとつのアルバム内でクレジットされるのは、これが初めてとなる。もちろん、顔を突き合わせての録音は叶わなかったが、それでもやっぱり快挙だろう。収録曲は全10曲。CDには「明日への願い」と前述の「1970年代ビートルズ物語」、「ダウン・アンド・アウト」(本作収録の第一弾シングル「フォトグラフ」のB面)の3曲がボーナストラックとして収められている。

アルバムはジョン・レノン作の「アイム・ザ・グレーテスト」からスタート。この曲はリンゴ、ジョン、ジョージの3人とクラウス・フォアマン、ビリー・プレストンという布陣での録音。「シックス・オクロック」はポールとリンダの共作で、リンゴ、ポール&リンダ、著名なソングライターとしても知られるヴィニ・ポンシア、クラウス・フォアマンというメンバーでの録音。ジョンとポールは1曲ずつの提供だが、ジョージは3曲を提供(リンゴとの共作を含む)しており、そのうちの「フォトグラフ」は第一弾シングルとしてリリースされ、全米1位の大ヒットとなる。凝ったアレンジがなされているが、シンプルで優しい曲調が特徴だ。

「サンシャイン・ライフ・フォー・ミー」ではリチャード・マニュエルを除くザ・バンドの面々に、ジェリー・ジェフ・ウォーカーのバックギタリストとして名を挙げたデビッド・ブロンバーグとジョージ、クラウス・フォアマンが参加し、オールドタイムの香りのするアメリカン・ルーツロックに仕上がっている。ジョージもリンゴも、本当にザ・バンドが好きなんだなと再認識できるナンバーだ。第2弾シングルとしてリリースされ、これまた全米1位を獲得する「ユー・アー・シックスティーン」はシャーマン兄弟作で、ジョニー・バーネットが1960年にヒットさせたオールディーズ曲。ポールがカズーで参加し、ひょうきんな良い味を出している。

僕が本作で一番好きなのが第3弾シングルの「オー・マイ・マイ」(全米5位)。トム・スコットのサックス、ジム・ケルトナーのドラム、ビリー・プレストンのピアノ、クラウス・フォアマンのベース、ボックヴォーカルにメリー・クレイトンとマーサ・リーヴスというメンバーで、70sストーンズみたいなスワンプロックを聴かせる。本作で最もファンキーで泥臭いサウンドになっている。

アルバムに参加したメンバーは前述のミュージシャンの他、マーク・ボラン、スティーブ・クロッパー、ニッキー・ホプキンス、ハリー・ニルソン、ジェームズ・ブッカー、ボビー・キーズ等々で、リンゴの広い人脈というよりは、彼が好きな人を集めたという感じである。考えられないほど豪華なメンバーが本作を盛り立てているわけだが、主役はちゃんとリンゴになっている。言い換えれば、彼の温かい人間性がちゃんと見えているわけで、そのあたりに本作の魅力があるのだと思う。

オールスターバンドのコンサートに行った人も行かない人も、この機会に本作『リンゴ』をぜひ味わってみてください♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Ringo』
1973年発表作品

<収録曲>

1. アイム・ザ・グレーテスト/I’m the Greatest

2. ハヴ・ユー・シーン・マイ・ベイビー(ホールド・オン) / Have You Seen My Baby

3. 想い出のフォトグラフ/Photograph

4. サンシャイン・ライフ・フォー・ミー/ Sunshine Life For Me

5. ユア・シックスティーン/You’re Sixteen

6. オー・マイ・マイ/Oh My My

7. ステップ・ライトリー/Step Lightly

8. シックス・オクロック/Six O’Clock

9. デヴィル・ウーマン/Devil Woman

10. ユー・アンド・ミー/You and Me

〜CD Bonus track〜

11. 明日への願い/It Don’t Come Easy

12. 1970年代ビートルズ物語/Early 1970

13. ダウン・アンド・アウト/Down and Out


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