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サザンオールスターズの名盤シリーズの3回目。いよいよ3月30日(土)から『WOWOW presentsサザンオールスターズLIVE TOUR 2019「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!! supported by 三ツ矢サイダー』がスタートするわけだが、今回のように超特大規模の全国ツアーを開催する老若男女に愛される存在でありつつも、ロックバンドとしてのスタンスを貫き通しているの彼ら。そんなサザンオールスターズの姿をパッケージしたのが今週紹介する『Young Love』だ。
伝説的洋楽名盤を模したジャケット
『Young Love』というアルバム。“論より証拠”というか、“百聞は一見にしかず”というか、ジャケットを見れば凡そその内容が分かる作品だと思う(ことわざの使い方は完全に間違っているが、その辺はニュアンスということで、どうかひとつご容赦を…)。ここに写るサザンオールスターズ(以下、サザン)のメンバーの出で立ちは1960年代から1970年代の洋楽ロックのジャケットのパロディー。桑田佳祐(Vo&Gu)はBob Dylanの『Nashville Skyline』(1969年)。原由子はIt’s a Beautiful Dayの『It’s a Beautiful Day』(1969年)。大森隆志(Gu)と関口和之(Ba)はそれぞれThe Beatlesの『Sgt. Pepper’s Lonely Hearts Club Band』と『Abbey Road』。松田弘(Dr)と野沢秀行(Per)とがThe Rolling Stonesの『Their Satanic Majesties Request』と『Get Yer Ya-Ya’s Out! The Rolling Stones in Concert』で、さらにはLed Zeppelinの『Led Zeppelin』から飛行船も登場している。間違いなくメンバーが強く影響を受けたであろう偉大なるロック界のレジェンドたちのスタイル。それを拝借していることをビジュアルで表しているのだ。
洋楽へのオマージュあふれるサウンド
収録曲をザっと見ていこう。まず、M1「胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ」。このタイトルはLed Zeppelinの「胸いっぱいの愛を」(原題「Whole Lotta Love」。アルバム『Led Zeppelin II』収録)の引用。スネアの音もボンゾ(=Led Zeppelinのドラマー、John Bonhamのニックネーム)っぽいし、コーラスワークもLed Zeppelin風だ。イントロでのアコギの刻みが問答無用にロックだし、コード進行もいかにも1960年代といった感じで、本作リリース時すでに幅広い層からの支持を得ていたバンドであったサザンがこれをやったのは何気にすごいことではなかったかと思う。しかも、『Young Love』はオリジナルアルバムとして4年振りの作品であったわけで、ロックバンドとしての自尊心のようなものを感じるところである。
M2「ドラマで始まる恋なのに」は、のちの特大ヒット曲である「TSUNAMI」のプロトタイプとでも言うべきバラードではあるが、Bメロに重なるオルガンがThe Doorsを彷彿させるなど、ここでも先達を意識した小技が光る。M3「愛の言霊 〜Spiritual Message〜」は今冷静になって聴くと、これがシングルとしてリリースされて、しかもミリオンセールスを達成したことに驚きを禁じない傑作だ。アコギやサックスはスパニッシュでありつつ、同期も取り込みながら、ラップまで入れている(しかもインドネシア語!)。親しみやすいメロディーがなくはないものの、多国籍で実験的な意味合いが濃いナンバーが、現在までのところ、サザンの歴代シングルで売上トップ4というのは本当にすごいことだと思う。
そのM3「愛の言霊 〜Spiritual Message〜」から一転、M4「Young Love (青春の終わりに) 」ではシンプルなバンドサウンドを聴かせるのだから、さすがにバンドとしての懐が深い。こちらは、ギター、ハーモニカ、コーラスワークと、サウンドはどこをどう切っても初期The Beatlesを意識したことがありありと分かる楽曲。“(青春の終わりに)”というサブタイトルに加えて、《来た道を憂いちゃないが…》といった歌詞が意味深だが、こうしたナンバーがアルバムのタイトルチューンとなったことで、本作が原点回帰の意味合いを強くしているのではないかと思う。
続くM5「Moon Light Lover」はブラスの入れ方がブルー・アイド・ソウル風味でいて、ベースが打ち込みという、これまた面白いスタイルのスローバラード。80年代にRCサクセションのステージを見た桑田が「RCには負けました」と言ったとか言わなかったとかいう逸話があるが、「Moon Light Lover」の間奏で聴かせる本場のR&Bテイストは忌野清志郎に勝るとも劣らない、とてもいい感じだ。エッジの立ったギターリフとジャングルビートで彩られたM6「汚れた台所」はちらほら垣間見える反体制的な歌詞も含めてロックの匂いしかしないナンバー。聞けば、メンバー6人による一発録りだったというから、まさしく原点回帰の一作だ。
M7「あなただけを 〜Summer Heartbreak〜」は、キラキラとしたサザン王道のメロディーを持った前年に発表されたシングル曲。これまたR&B的なブラスが聴けるが、何と言ってもフィル・スペクター・サウンド=ウォール・オブ・サウンドを使っているのが心憎い。否が応でも1960年代、1970年代の香りが漂う。フォーキーなメロディーを持つM8「恋の歌を唄いましょう」は本作での原由子メインヴォーカル。ロックというよりも昭和の歌謡曲にも近いかわいらしい雰囲気で、コンポーザーとしての桑田佳祐の引き出しの多さと、サザンのバンドとしての多様性を改めて感じさせるところだ。
M9「マリワナ伯爵」は、その歌詞の全貌は掴みづらくはあるが、九分九厘、大麻のことを歌ったものだろう。低音のブラスとストリングスがどう聴いてもサイケデリック。それ自体に賛否はあろうが(ていうか、日本で完全に違法だが)、ドラッグカルチャーがロック、特に1960年代、1970年代のそれを語るにおいて欠かせない要素であることは間違いなく、それゆえにこのような形で出現したのだろう。スローバラードM10「愛無き愛児 〜Before The Storm〜」は、The BeatlesとLed Zeppelinを混ぜたようなサウンドもさることながら、《”ママ、僕を迎えに来て”》の歌詞がいかにも洋楽的だ。Queenの「Bohemian Rhapsody」はもとよりJohn Lennon辺りも彷彿させる(Johnは「Mother」だけどね)。
シングル「愛の言霊 〜Spiritual Message」のカップリングで、随分とデジタルが前面に出た印象のM11「恋のジャック・ナイフ」に続く、M12「Soul Bomber (21世紀の精神爆破魔)」は明らかにKing Crimsonの「21st Century Schizoid Man including Mirrors」(アルバム『In The Court Of The Crimson King』収録)に敬意を払ったタイトル。これもどこをどう切ってもロックなナンバーで、アウトロ近くのユニゾンは完全にプログレを意識した感じだ。
前述のM7「あなただけを 〜Summer Heartbreak〜」同様、これもサザンとしか言いようのないメロディを持つシングル曲、M13「太陽は罪な奴」はセカンドラインのリズムが全体を引っ張るポップチューン。ここに来て、これほどに軽快で明るく、分かりやすくて親しみやすナンバーを配置できるところに、サザンのすごさ──いや、すごさを通り越して、恐ろしさと言ってもいいほどの高性能っぷりを感じるところである。
フィナーレはM14「心を込めて花束を」。バラードで締め括るというのはサザンのアルバムの定番ではあるが、これはほぼピアノとストリングスというスタイルで、どこかコンセプトアルバムのラストといった面持ちを感じさせる。《期待通りの僕じゃないけど/素晴らしい女性に出逢えた》《期待通りの僕じゃないけど/人並みに愛を叶えた》と綴られる歌詞も、“Young Love”というタイトルのアルバムに相応しいし、浮世離れしていない感じもとてもいい。
大衆性を帯びたメロディーラインは不変
さて、つらつらと『Young Love』収録曲を解説してきたが、ここからが本題。分析すれば本作はここまで述べてきたようなことになる。聴き手によって思うところの違いはあるとは思うが、冒頭で述べたように、サザンのメンバーが強く影響を受けた1960年代、1970年代のロックのスタイルを拝借し、自らのサウンドに取り込んだアルバムと言っていい。しかし、そう書くと、いかにもマニア好みで、ペダンティックというか、スノッブというか、ややもすると小難しくて大衆性の薄い作品になっているような印象を受ける人がいるかもしれないが、そこはさすがにサザン。ポピュラリティーを損ねていないばかりか、容赦なく大衆的なのである。
そこは端的に言えば歌を含めてのメロディーラインによるところが大きいと思う。それはM1「胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ」からしてそうだ。音符が詰め込まれているAメロからハイトーンのサビまでは若干マニアックな雰囲気があって、これはこれでカッコ良いのだけれども、仮にそれだけであったとしたら、“ロックバンドらしい楽曲ですねー”で終わるところ、間奏明けのCメロでしっかり大衆的な旋律──誤解を恐れずに言えば、歌謡曲的メロディーが出てくる。それによって、1960年代、1970年代のロック云々はどうでもよくなるというか、妙な安心感を覚えるのである。The BeatlesとLed Zeppelinを混ぜたようなサウンドと前述したM10「愛無き愛児 〜Before The Storm〜」もそう。間奏などは完全にサイケデリックロックだし、歌もマイナー調で、客観的に見ても『Young Love』収録曲の中では比較的ポピュラリティーが薄いほうだと思うが、これも決して聴きづらくはない。明らかに高揚感をもたらすわけではないが、かと言ってダウナーでもない、不思議な聴き応えである。
つまり──これは言うまでもないのだが──サウンドとメロディーのバランスが絶妙なわけだが、それは“大衆性が○割で専門性が○割”といったその比率の問題ではなく、それぞれの取り込み方、混ぜ方が絶妙なのだと思う。単に重ねるのではなく、上手い具合にマーブルにした感じと言ったらいいだろうか。アイスクリームに例えるなら、見た目にはふたつのフレイバーがあることは分かるし、口に入れた時、それぞれのテイストも分かるが、次第に自然と溶け合って、ふたつの味をそれぞれに味わうよりも豊かな風味を出す。しかも、それはミントとチョコとか、オレンジとチョコとかという、1パターンの組み合わせではなく、少なくとも14種類あって、2種類の組み合わせに留まらず、ミント、オレンジ、チョコ、バニラ、アップル、抹茶といった具合に何種も混ぜ合わせたものもある(念押ししておくが、無論それは奇をてらった組み合わせではなく、とても美味しく仕上がっている)。
サザンはこの時点で結成20年目というキャリアだっただけに、バンドとしてこの程度のことはできて当たり前だったのかもしれないが、それでもほぼセルフプロデュースで仕上げたというのは、やはり称えられてしかるべきであろう(管楽器や弦楽器は外部のアレンジャーを起用)。
そして、最も素晴らしいと思うのは、本作は約250万枚を売り上げて、現在までのところ、サザンのオリジナルアルバムで最大のセールスを記録しているということだ。大衆性だけでなく、ロックらしさをそれと分かるようにしっかりと取り込んだアルバムがこれほどに支持されたというのは、サザンの潜在能力の高さを改めて世間に知らしめたと同時に、日本におけるロックバンドの可能性をも示したと思う。ソロシンガーでも歌唱グループでもなく、メンバーで楽器の演奏を賄うことができるバンドがそうした高評価を受けたことは、のちにサザンが“国民的バンド”と呼ばれることと無関係ではなかろう。
アルバム『Young Love』
1996年発表作品
<収録曲>
1.胸いっぱいの愛と情熱をあなたへ
2.ドラマで始まる恋なのに
3.愛の言霊 〜Spiritual Message〜
4.Young Love (青春の終わりに)
5.Moon Light Lover
6.汚れた台所
7.あなただけを 〜Summer Heartbreak〜
8.恋の歌を唄いましょう
9.マリワナ伯爵
10.愛無き愛児 〜Before The Storm〜
11.恋のジャック・ナイフ
12.Soul Bomber (21世紀の精神爆破魔)
13.太陽は罪な奴
14.心を込めて花束を
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