CSN&Yの『デジャ・ヴ』は70sアメリカンロックの進むべき道を提示した圧倒的な名盤

2019年3月15日 / 18:00

60年代末、アメリカ西海岸から登場し若者たちから大きな支持を集めたクロスビー・スティルス・ナッシュ&ヤング(以下、CSN&Y)。彼らは、50sのフォークリバイバルやロックンロールの黎明期を経て『ウッドストック』へとつながるアメリカ文化の遺伝子を後世に残した偉大なグループである。今回紹介する『デジャ・ヴ』は70sアメリカンロックを代表する名盤というだけでなく、ウッドストック世代の思想や文化的な側面までが閉じ込められたマイルストーンだ。確実に後世にまで残る名作だろう。
短命なようでいて 長い付き合いのグループ

CSN&Yは前年から活動を始めていたクロスビー・スティルス&ナッシュにニール・ヤングが加わったグループだ。CS&Nについては、以前この洋楽名盤列伝コーナーで片山明氏による『クロスビー・スティルス&ナッシュ』の秀逸なレヴューが掲載(2015年2月20日付け)されているので、そちらをご覧いただきたい。
CSN&Y自体の活動は、69年から71年にかけての2年足らずで一旦は終わりを迎える。ライヴアルバム『4ウェイ・ストリート』がリリースされた71年の春には、すでにCSN&Yとしてステージに立つことはなかった。スティーブ・スティルスはマナサスを結成、ニール・ヤングもソロ活動に専念している。クロスビーとナッシュはこの後もふたりで活動し、素晴らしいアルバムを数多く残している。彼ら4人のメンバーは折にふれ近づいたり離れたりを繰り返すが、どんな時でも彼らならではの素晴らしいコーラスは健在だ。

彼らはそれぞれソロアーティストとしても一流であるだけに、ひとりひとりが大きな個性を持っている。普通、あまりに個々が主張しすぎるとグループ活動に支障が生じるものだが、彼ら4人が集まった時にはその力が4倍かそれ以上になるというのが大きな強みである。特にヴォーカルについては、全員がハーモニーを何より大切にしているところがCSN&Yというグループの最大の魅力なのだ。
スティーブ・スティルスと ニール・ヤングの不思議な関係

そもそもスティルスとヤングはふたりともバッファロー・スプリング・フィールドに在籍していたのだが、音楽性の違いから喧嘩が絶えず、結局グループは解散を余儀なくされている。ところが、スティルスは音楽的にはヤングを高く買っており、CS&Nでデビュー後、グループを強化するためにヤングの参加を快く迎えたのはスティルスのほうなのだ。ヤングも期待に応えたわけだが、一緒にやってみるとやはり喧嘩は絶えず、今回もうまくはいかなかった。

ただ、75年にスティルスのソロライヴになぜかヤングが参加し、翌年にはスティルス・ヤング・バンド名義でアルバム『太陽への旅路(原題:Long May You Run)』をリリースしている。このバンドでツアーも行なわれたものの、やはり衝突しツアー途中でヤングは抜けてしまっている。喧嘩別れは、これで3回目である。その後、CSN&Y名義での3枚目となる『アメリカン・ドリーム』(‘88)をリリースしているが、この時はクロスビーのドラッグ中毒が問題であったためにスティルスとヤングの間に大きな衝突は起こっていない。それにしても、ひっついたり離れたりを何度も繰り返す彼らふたりが不思議な関係であることは間違いない。
天才ニール・ヤング

ニール・ヤングは間違いなく天才だ。ザ・バンド(メンバー5人のうち4人)、ジョニ・ミッチェル、ゴードン・ライトフットら、カナダ出身の優れたアーティストは少なくないが、中でもヤングのアーティストとしての才能は抜きん出ており、60年代から2019年の現在まで、その才能は枯れることなく輝き続けている。アメリカのポピュラー音楽のアーティストで彼に並ぶ存在は、ボブ・ディランぐらいしかいないのではないかと思う。

ヤングがこれまでにリリースしたアルバムは50枚以上で、さまざまな音楽的なチャレンジを行なってきた。ロック史上に残る名盤の数は多く、パンク、ヘヴィメタ、フォーク、グランジ、アバンギャルド、カントリー、ソウルなどなど、彼が影響を与えたアーティストはジャンルを問わず数多い。特にカート・コバーン(ニルヴァーナ)、エディ・ヴェダー(パール・ジャム)、サーストン・ムーア(ソニック・ユース)など、90年代のオルタナティブ系ロックに与えた影響は絶大である。ダイナソーJr.に至っては、爆音でニール・ヤング風の音楽を演奏するという理由で結成されているのだ。黒人アーティストのリック・ジェームズもモータウンからデビューする前はニール・ヤングのコピーをしていたそうだ。
本作『デジャ・ヴ』について

このアルバムが日本でリリースされた時、当時の若者たちは熱狂を持って迎えた。それは一般のリスナーだけでなく、多くのアーティストたちにも衝撃を与え、70年代初頭の日本のポピュラー音楽は多かれ少なかれ彼らの影響が見え隠れしていた。僕が中学生の時に読んでいた『ミュージックライフ』の誌面ではミュージシャンの人気投票があって、何年かは忘れた(71年か72年だと思う)が、レッド・ツェッペリンとCSN&Yが1位と2位を争い、最終的にCSN&Yが1位を獲得するという時期があった。このエピソードだけでも日本での彼らの人気ぶりが分かると思う。

『ウッドストック』の出演と前作の『CS&N』の完成度の高さから、本作はリリースされる前から大きな話題となり、予約だけで200万枚を越える大ヒットとなった。全米アルバムチャートでは1位、全英チャートでも5位となっている。

収録曲は10曲。グレアム・ナッシュの「ティーチ・ユア・チルドレン」と「僕達の家(原題:Our House)」は本作のみならず、アメリカ人にとって誰もが知る名曲であるし、ニール・ヤングの「ヘルプレス」、デビッド・クロスビーの「オールモスト・カット・マイ・ヘア」、スティーブ・スティルスの「キャリー・オン」、ジョニ・ミッチェルの「ウッドストック」など、名曲のオンパレードだ。特に1曲目の「キャリー・オン」は、CSN&Yサウンドの核とも言える変則チューニングの生ギターと独特のコーラスで、冒頭から彼らの世界に引き込まれる。この曲にはヤングは参加しておらず、リード・ギター、生ギター、ベース、キーボードを担当するスティルスの独壇場となっている。スティルスの個性がCSN&Yの要となっているのがよく分かるナンバーだ。

「ティーチ・ユア・チルドレン」は当時日本だけで流行ったイギリス映画『小さな恋のメロディ』で、ビージーズの「メロディ・フェア」とともに劇中に流れたので、どちらも日本では大ヒットした。主演のマーク・レスターとトレーシー・ハイドは中高生に絶大な人気があったが、なぜか本国イギリスでは大コケだったそう。この曲にはグレイトフル・デッドのジェリー・ガルシアがペダルスティールで参加している。このガルシアの演奏で日本のアーティストは影響を受け、小坂忠&フォージョーハーフやディラン・セカンドなど、ペダルスティールを取り入れたグループが一気に増えた。この曲もヤングは参加していない。

続く3曲目の「オールモスト・カット・マイ・ヘア」では、ヤング(ようやく登場!)とスティルスのツイン・リードギターが聴ける。「ヘルプレス」はザ・バンドに影響を受けたと思われるヤングの名曲で、スティルスの泥臭いピアノがご機嫌なナンバー。「ウッドストック」ではCSN&Yのコーラスのお手本的な仕上がりになっていて、ポコやファイアーフォールといったグループはCSN&Yのコーラスを忠実に再現している。

ちなみに本作のベースはグレッグ・リーヴズ、ドラムはダラス・テイラーで、ジャケットにもその姿は写っているので、ゲストではなく正規のメンバーである。ダラス・テイラーは2015年に66歳で亡くなるが、スティルスのマナサスにも参加している著名なドラマーで、黒人ベーシストのグレッグ・リーヴズはモータウンのスタジオミュージシャンである。

もしCSN&Yの音楽を聴いたことがなければ、本作をぜひ聴いてみてほしい。時代を超えて聴くべき作品であることは間違いないし、何より良い曲がいっぱい詰まっているから年齢に関係なく楽しめるはずです♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Déjà Vu』
1970年発表作品

<収録曲>

1. キャリー・オン/Carry On

2. ティーチ・ユア・チルドレン/ Teach Your Children

3. カット・マイ・ヘア/Almost Cut My Hair

4. ヘルプレス/Helpless

5. ウッドストック/Woodstock

6. デジャ・ヴ/Déjà Vu

7. 僕達の家/Our House

8. 4+20 – 4+20/2:04

9. カントリー・ガール/Country Girl

10. エブリバディ・アイ・ラヴ・ユー/Everybody I Love You


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