『朝顔』はレミオロメンの類稀なるセンスが詰まった破格のデビュー作

2019年3月6日 / 18:00

卒業シーズンである。今や卒業式でJ-ROCK、J-POPが合唱されることも不思議でなくなっているようだが、さまざまな“卒業ソング”がある中で、2007年から2011年の間、10~20代の圧倒的な支持を受けて『定番の卒業ソング』ランキング1位を5年連像で達成したレミオロメンの「3月9日」は今も歌い継がれているのだろうか。4月3日に藤巻亮太がレミオロメンのナンバーをセルフカバーしたアルバム『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』がリリースされることもあって、今週はレミオロメンの名盤を取り上げてみたいと思う。
2000年代に現れた桁違いの新人

桁違いとしか形容できない駿馬というのはどこの世界にもいるもので、球界ではルーキーイヤーの清原和博や松坂大輔がそうであっただろうし、“怪物”と呼ばれた高校時代の江川卓もそうだろう。野球以外のスポーツ界で言えば、女子レスリングの吉田沙保里、伊調馨、体操の内村航平、フィギュアスケートの羽生結弦辺りの名前が挙がるだろうか。競走馬ならオグリキャップ、ナリタブライアン、ディープインパクト、オルフェーヴル辺り。スポーツ以外で言えば、棋士の藤井聡太七段がおそらくそうなのだろう。漫画で言えば『ONE PIECE』は文字通り、売り上げも桁違いなら、他の追随を許さないハイクオリティーを20年間以上に渡って続けている、化物のような作品であることはみなさんよくご存知のことと思う。

邦楽シーンにおいても他に比類なき才能を発揮した、桁違いのアーティストはもちろんいて、サザンオールスターズやユーミンはその筆頭だろうし、B’zやMr.Childrenも名実ともにその域だと言える。ここ20年間で言っても、宇多田ヒカルを始めとする女性アーティストの台頭にはその類稀なる能力を見せつけられた格好だった。個人的に忘れ得ない存在は、2003年にメジャーデビューを果たしたレミオロメンだ。個人的に…とは言ったが、彼らが出現した時、“これはモノが違う!”と思った人はかなり多かったに違いない。

生臭い話で恐縮だが、彼らのマネジメントが烏龍舎からレーベルがSPEEDSTAR RECORDSに決まったと聞いた時、“このバンドは向こう30年間は余裕で数字が見込めるなぁ”というようなことを思ったような気がする。将来の四番候補というか、クラシックレースの大本命というか、具体名を挙げるのも恐縮だが、サザン、ミスチルの後継はレミオロメンで決まりと思った音楽業界人は普通に多かったと思う。もしも2003年にブックメーカーで“今年デビューした日本のアーティストで最初にミリオンヒットを出すのは?”というブッキングがあったら、ASIAN KUNG-FU GENERATION、ORANGE RANGE、スキマスイッチ、大塚愛といったそうそうたるメンバーの中、レミオロメンのオッズはかなり低かった──つまり、本命視されていてもおかしくなかった思われる(実際にはORANGE RANGEが最初にミリオンを記録。あと、日本では日本国内の法律で定められた以外のギャンブルは禁止されています。念のため)。
唯一無二、絶品のメロディーセンス

何と言ってもレミオロメンは、藤巻亮太(Vo&Gu)のメロディーセンスが絶品だった。彼の作る歌メロは凡百の作家には作れないであろう独自の起伏と展開を備えており、メロディーメーカーとして傑出した逸材だったと言っても過言ではなかろう。唯一無二。デビュー時にそのライティングスキルはほぼ完成されていたと言ってもいいと思う。その意味で、今回このコラムでは彼らのメジャー1stアルバムである『朝顔』を選んだ。2000年代の卒業ソングの定番と言えるナンバーで、ブレイクのきっかけともなった「3月9日」が収録された2ndアルバム『ether [エーテル]』。そして、彼らの最大のヒット作であり、今も冬になるとどこかしらから聴こえてくる時代を超えた名曲「粉雪」の入った3rdアルバム『HORIZON』。当初はそのいずれかをチョイスしようと考えていたのだが、振り返って考えてみると、レミオロメンは徐々にセンスを熟成していったバンドではなく、もともとその存在能力が極めて高かったバンドである。それは彼らの大きな特徴でもあるので、そこは書かねばならないと思うのだ。

また、デビューアルバムにはそのアーティストのほぼ全ての要素が詰まっているとはよく言ったもので、『朝顔』にはそのメロディーセンスもさることながら、3ピースというバンドスタイルの提示、歌詞に描かれている世界観と、これまたレミオロメンの何たるかが詰まっている。例えば──この辺は後述することにもなるだろうが──サウンド面で言うと、彼らはのちにキーボードやストリングスもそのサウンドに取り込むことになるわけだが、本作では、オーバーダビングはあるものの、ほぼ3人の音だけで楽曲が構築されているのも注目に値するところだと思う。

それでは、まずはそのメロディーから『朝顔』を見ていこう。藤巻の作るメロディーは独自の起伏と展開を備えたものだと前述した。もちろん本作収録曲はどれもそれもそうだ。M2「雨上がり」もM4「ビールとプリン」もM9「電話」も、レミオロメンらしい抑揚を持っている。そんな中、強いて特徴的な一曲を選ぶとするならば、M6「昭和」ではなかろうか。その歌メローにおいて最も彼らの個性が発揮されているナンバーだと思う。西洋的でも東洋的でもなく、一度聴いたら誰もが口ずさめるような親しみやすさがありつつ、かと言ってパッと聴いても単純なそれとは感じない音階。こればかりは実際の音源を聴いてもらうのが最適なのだが、みなさんにそれを委ねるのはあまりにも投げっぱなしであろうから、言葉で説明を加えるのは無粋なことは承知で、少し解説を加えてみたい。

1小節の中で少ない音符でもしっかりと起伏を出し、それをリフレインさせながら曲を進行させていきつつ、そのリフレインのテンポを変化させたり、音階を上げ下げする。言葉にすると本当に無粋だが、M6「昭和」で見せるレミオロメンならではのメロディーの特徴はそういうことだと思う。もっと言えば、勢いに逃げず、ちゃんとリズミカル。その上、言葉を音符に詰め込むことも白玉でごまかすようなこともなく、ジャストな塩梅で歌詞を乗せている。だから、とてもキャッチーで耳馴染みがいいのだと思う(さらに突っ込めば、音階の度数がどうだとか、いろいろあるのだろうが、これ以上は専門外なので何卒ご容赦ご勘弁願います)。

強いて言葉にすればそういうことになるが、だからと言って、その通りにやれば誰でも名曲が作れるかと言えば、決してそうならないことは素人でも分かるはず。それでも──もちろん彼にも作曲において産みの苦しみはあったであろうが、メロディアスかつキャッチーなナンバーを量産できたことは今さらながら本当にすごいと思う。間違いなく天賦の才と言ってよい。
3ピースならではのバンドアンサンブル

これも前述の通り、その良質なメロディーを3ピースという最小のバンドスタイルで支えているのがレミオロメンであり、彼らの特徴でもある。“3ピースバンドはメンバーが共感し合ったらダメだ”とは、とあるベテラン3ピースバンドのメンバーから聞いた話で、3ピースバンドは人数が少ない分、メンバーそれぞれがバンドを引っ張っていくような気概を持たなければならないという意味だと勝手に理解しているのだが、この時期のレミオロメンのサウンドにはまさしくそういう姿勢が表れていたように思う。

音数が少ないだけに、3ピースバンドはその中で如何にバリエーションを出していくかに腐心すると思うが、『朝顔』からもそこは汲み取れる。それはM1「まめ電球」からそうで、ファンキーなタイプをオープニングに置く辺り、3ピースバンドの意地のようなものすら感じられる。伸びのあるギターリフ、カッティングと、キレのいいビートとを、うねりのあるベースがつなぐ、正しき3ピースサウンド。とりわけ、基本はシャッフルでありながらも、ハイハットの細かい刻みからドンタコ、リムショットと目まぐるしく変化していく神宮司治(Dr)のドラミングは聴いていて実に楽しく、単にビートをキープするだけではない3ピースバンドのドラマーならではの存在感を示していると思う。

続く、M2「雨上がり」もいい。如何にも当時のギターロック然としたイントロは若干ご愛敬な感じではあるが、グイグイとドライブしていく前田啓介(Ba)が奏でるベースラインは今聴いても絶品だ。Aメロ、Bメロそれぞれの後半でうねりながら昇っていくフレーズもさることながら、サビで歌メロと拮抗するかのように激しくランニングしていく様子は聴いていて本当に気持ちがいい。前田はもともとスタジオミュージシャン志望であり、レミオロメン結成までは実際にその道で活躍していた人物なので、テクニックは申し分なく、それがこのバンドでこの上なく発揮されている印象だ。「雨上がり」についてさらに言えば、後半のドラムも手数の多さも特筆もので、ベース、ドラムがまさに渾然一体となって昇華していくサウンドは、ほとんどエクスタシーである。ライヴステージでは特にテンションが高かった記憶があり、忘れ得ぬ名曲が多いレミオロメンの中でも、個人的に最も印象深いのは「雨上がり」だったりする。

アルバムの冒頭2曲からしてこんな感じなので、M3「日めくりカレンダー」以下も推して知るべしである。アップチューンからミディアム~スローまで、彼らならではのバンドアンサンブルを聴くことができる。レミオロメンは決してメロディーがいいだけのバンドでなく、そのメロディーをこの3人でしか成し得なかったトリニティなバンドサウンドで支えていたからこそ、より魅力的になったのだ。
隣人に気持ちを伝えるような歌詞

歌詞では極めてミニマムな世界観を綴っているのもレミオロメンの興味深いところだと思う。M8「フェスタ」やM11「追いかけっこ」のように一見汎用性の高いと思われるような歌詞もあるが、多くは私小説的というか、作者の半径5メートル以内の話を綴っているように見える。

 《僕は急いで コンビニまで駆けるから/君も急いでご飯を作ってくれよ/お腹も空いたし ビールも飲みたいなんて/わがままな僕を許してよ》《僕らはいつまでも 僕らはいつまでも/笑いあっていたいと 願うけれど/旅立つ日が来るならば せめてこの時間よ/止まれとは言わないよ ゆっくり進め》(M4「ビールとプリン」)。

《受話器越しになると照れるけど/そりゃ一緒がいい 当たり前さ/思うほど上手くいかないけど》《遠く遠く 離れ離れ/電話切れない夜もある》《闇深く心細く それでも光射し/泣いたり笑ったりさ/別の街に暮らす君よ/寄り添ってやれないが 僕はここにいる》(M9「電話」)。

この辺の内容からすると、M8「フェスタ」やM11「追いかけっこ」も具体的な描写が少ないだけで、おそらく作者個人の感情、感慨がベースとなっているのだろう。のちに大ブレイクを果たし、アリーナツアーを行なうことになるレミオロメンではあるが、決して大衆を扇動するようなロックバンドなどではなく、隣に居る人に気持ちを伝えることを第一義とするようなアーティストであったことは想像するに難くない。何しろアルバム1曲目のM1「まめ電球」で次のように歌っているのだ。

《アー まめ電球ほどの灯りがあればいい/日々そこに照らされるものだけあれば》《僕はここ 照らせ まめ電球》《あなたまで あなたまで 届く灯りならば それだけでかまわない/結局はさ 1人じゃさ 寂しくなってしまう/さぁ 手を握ろう》(M1「まめ電球」)。

結成10周年を迎え、さらなる飛躍が期待された2012年2月、彼らは活動休止を発表。そこに至るまでにどんな葛藤があったか、今もネット上に残る “レミオロメンより今後の活動に関するお知らせ”から読み解くしかないが、藤巻のコメントの中にある“活動が続くほどに様々な糸が頭の中で絡まってゆき それを解くことにエネルギーを費やす日々です。”の言葉と、『朝顔』の歌詞とを合わせて考えると、なかなか感慨深いものはある。

ただ、活動休止にいかなる思いがあったにせよ、彼らがレミオロメンそのものを否定していないことはその後のソロ活動を見ていればよく分かる。活動休止を発表してから5年後、2017年9月、藤巻の3rdソロアルバム『北極星』に前田と神宮司が参加したのは3人の関係に何か亀裂が入っているわけではない証左だろう。また、冒頭で触れたように藤巻は4月3日にレミオロメンの曲をアコースティックアレンジでセルフカバーしたアルバム『RYOTA FUJIMAKI Acoustic Recordings 2000-2010』をリリース予定だ。収録曲はファンからのリクエストの中からチョイスしたものであり、これもまた彼がレミオロメンを如何にも大切に思っているかを示す作品に仕上がっていると思われる。再始動が実現するのか今はまったく分からないが、これからもファンをないがしろにすることはないと確信する。
TEXT:帆苅智之
アルバム『朝顔』
2003年発表作品

<収録曲>

1.まめ電球

2.雨上がり

3.日めくりカレンダー

4.ビールとプリン

5.朝顔

6.昭和

7.すきま風

8.フェスタ

9.電話

10.タクシードライバー

11.追いかけっこ


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