エレガントの極みを体現するデイヴィッド・T.ウォーカーのギター・プレイ シックなグルーヴ・サウンドに身を委ねる春の夜

2019年3月6日 / 12:35

 エレガント・マスター――もう、この言葉しか思い浮かばないほど、研ぎ澄まされた優雅さを聴かせてくれるデイヴィッド・T.ウォーカーのギター。特に70年代前半にOdeレーベルに録音された3枚のアルバムは、もはや名盤としての評価が定まっているが、そのころと変わることのない歌心溢れるプレイを聴かせてくれる彼が、気心の知れた腕利きたちと共にステージに還ってきた。

 初日のファースト・ステージは、早い開演時刻にも関わらず会場はほぼ満席。仕立てのいいスーツやシックなワンピースに身を包んだ“大人”たちが、万事繰り合わせて駆けつけてきたことがよくわかる。それだけ期待値の高いライブ。メンバー全員、ダーク・スーツに革靴のジェントルな姿で定位置に納まり、御年77のデイヴィッド・T.はステージの袖近くに置かれた椅子に腰かけてネックを優しくなぞりながら、おもむろに弦をつま弾く。
 
 序盤から麗しい響きと官能的なグルーヴが会場に広がり、シックで艶めかしい空気に包まれていく。派手な音は一切なく、寡黙にして饒舌な演奏がくつろいだムードを醸し出し、観客は“ベテランの技”に酔い痴れていく。耳に馴染みのナンバーが彼の繊細な“筆さばき”によって新たな色に染め変えられていく様は、うっとりと見とれてしまうほど優雅で。たっぷりと設けられた余白。だからこそ熟成したワインのようにエレガントな余韻を味わうことができる。まるでオールド・ローズのような気品ある香りを纏った音が一粒ずつ放たれ、会場に溶けていく。優雅に舞うオブリガートと熱気を孕んだリズムの美しいコントラスト。

 近年、行動を共にしてきたドラムスのレオン・ンドゥグ・チャンクラーは、悲しいことに昨年の来日後に亡くなってしまったが、その“大きな穴”を埋める役を引き受けたのは盟友、ジェイムズ・ギャドソン。ビル・ウィザースの「Use Me」(72年)で聴けるファンキーなハイハット・ワークが印象的だったレジェンダリーなドラマーだ。デイヴィッド・T.とのセッション歴は長く、例えば76年にリリースされた『On Love』でもグルーヴィなプレイを聴かせてくれているし、ほとんど話題にならないが、93年に江戸屋レコードから発表された全曲デイヴィッド・T.のオリジナルで構成された『From My Heart』でも心地好い推進力を発揮。コクのあるリズムでジャズとファンクとソウルを擦り合わせたような“摩擦熱”を発しながら、サウンド全体を実にハートフルに束ね上げている。

 そんな彼をボトムに据えた今回のデイヴィッド・T.は、60周年を迎えたモータウンのナンバーを中心に自己の流儀で演奏していく。同レーベルのレコーディング・セッションをギャドソンと共に担ってきた彼だから、セレブレイトの意味も込めて、きっとお気に入りのナンバーを心置きなく奏でているのだろう。まるで歌っているような音色とパッセージでマーヴィン・ゲイやスティーヴィ・ワンダー、ジャクソン5の曲を次々に繰り出し、さらにはバリー・ホワイトやミニー・リパートンなど、自身が関わった楽曲や70年代ソウルの名曲をリラックスしたグルーヴに身を委ねながら、ゆったりと音を紡いでいく。

 バンドの演奏も、安易なコード・ワークに流れず、1つずつの音を繊細に、そして丁寧に発していく。時折、リリカルなリフを挟み込んでくるピアノのジェフ・コレラ、安定したリズムの隙間に弦が擦れたり軋んだりする音でアクセントをつけていくベースのバイロン・ミラー、細かいパルスを刻みながらサウンド全体に色気を添えるドラムスのジェイムズ・ギャドソン。誰かが前に出てくるのではなく、全員が一体となって心地好いアンサンブルを編み上げているのだ。

 それにしても、今回のステージは絶好調のデイヴィッド・T.の“総決算”と表現してもいいほどの充実度なのでは? 2007年の初単独名義公演以来、マリーナ・ショウの『Who Is This Bitch,Anyway?』再現ライブやラリー・カールトンとのデュオなど、何度も芳醇なプレイを繰り広げてきた彼だけど、その中でも今宵のパフォーマンスはひときわ印象深く感じられる。その理由は、演奏だけでなく彼の一挙手一投足までもが音楽的で、ステージ上の姿を眺めているだけで艶やかな旋律が聴こえてくる錯覚に囚われるほどだからだ。実り多い彼のキャリアを間近で目撃し、至近距離で聴くことのできる至福の時。こんな“奇跡”なら絶えることなく続いて欲しいと願ってしまうのは、きっと僕だけではなかったはずだ。
 
 エレガントの極みを体現してくれるデイヴッド・T.ウォーカーのステージは東京で今夜(6日)も、そして大阪では8日(金)に繰り広げられる。グラスを傾けながら豊潤なキャリアに裏打ちされたセクシーな演奏を楽しむ春の宵も一興。世紀を跨いで紡がれるフェザー・タッチの音粒に身を委ねてみては? ささくれがちな日常を潤す一滴になるに違いないプレイを、ぜひ!

◎公演情報
【デヴィッド・T. ウォーカー
featuring ジェフ・コレラ, バイロン・ミラー and ジェ-ムス・ギャドソン】
ビルボードライブ東京
2019年3月5日(火)- 6日(水)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30

ビルボードライブ大阪
2019年3月8日(金)
1stステージ 開場17:30 開演18:30
2ndステージ 開場20:30 開演21:30

URL:http://www.billboard-live.com/

Photo:Yuma Sakata

Text:安斎明定(あんざい・あきさだ) 編集者/ライター

東京生まれ、東京育ちの音楽フリーク。アパッシメント――完熟したブドウを陰干ししてエキスを凝縮させる、この手法を取り入れたワインが近ごろ話題に。イタリア・ヴェネト州の高級ワイン=アマローネを筆頭に、近年はニュー・ワールドのワインにもこの手法で造られたものがチラホラ。また、白ワインにも応用され始めていて、濃厚でエレガントな味わいが多くのワインラヴァーを魅了している。デイヴィッド・T.のプレイのようにノーブルな味や香りが楽しめるアパッシメントを採用したワインは、ちょっと値が張ることもあるけど、南イタリアや南米のものなら比較的手ごろに。赤ならブラウニー・ケーキなどとも好相性。ぜひ、お試しあれ!


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