成底ゆう子、ニューシングル発売を機に大人気曲「ダイナミック琉球」の知られざるエピソードを語る

2019年2月26日 / 16:00

成底ゆう子 (okmusic UP's)

「ダイナミック琉球」とひとたび検索をかければ、さまざまなエピソードが出るわ出るわ。高校野球の応援歌として盛り上がり、昨年の全国大会で春夏連覇を遂げた大阪桐蔭高校の大迫力の応援もあいまって、今や全国的に祭りや運動会でも使われる大人気曲へと駆け上がった「ダイナミック琉球」を、長年の持ち歌として大切に育ててきたアーティスト、それが沖縄・石垣島出身のシンガーソングライター・成底ゆう子だ。“必ず泣ける歌”として高い評価を受けた「ふるさとからの声」などのヒットを持つ彼女は、いかにして「ダイナミック琉球」と出会い、その魅力に取りつかれたのか? 「ダイナミック琉球 応援バージョン」「ダイナミック琉球 キッズ・バージョン」などを収めたニューシングルのリリースを機に、知られざるエピソードをたっぷりと語ってもらおう。

■「ダイナミック琉球」にチャンスをいただいたので、それをちゃんと生かしていかないと

――ここ2年ぐらいですよね。「ダイナミック琉球」が一気に注目を集め出したのは。

成底ゆう子(以下、成底):本当にそうです。一昨年の夏の甲子園の頃から仙台育英や聖光学院などの高校が「ダイナミック琉球」を応援歌として使い始めたんですが、私はまったく知らなくて。たまたま広陵高校と聖光学院の試合を観ていたら、いろんな人からメールが来て、“今、聖光学院が「ダイナミック琉球」使ってたよ”って。観てたけど聴こえなかったって返したら、“おかしいだろ”って怒られて(笑)。ネットを見たら“あの曲がカッコいい”ってたくさんの人が書いていて、びっくりしました。

――まさかのブレイク。

成底:もともとのきっかけは、私たちが調べた限りでは、一昨年の春ごろに沖縄の前原高校のバスケット部が、試合のハーフタイムの応援合戦として使ったのが始まりみたいです。ソロを歌った女の子がウマい!というので、動画が拡散して、ほかの高校生たちがカッコいいから使おうということになったみたいです。で、“この曲、誰が歌ってるんだ?”となった時に、気がついたら私のミュージックビデオが100万回再生を超えていて、1年後には300万回ぐらいになっていて。だったらもっとたくさんの人たちにこの歌を届けようとリリースしたのが去年の「ダイナミック琉球 応援バージョン」なんです。その時にも新しいミュージックビデオを作って、それも100万回を超えました。すごいですよね。カバーしてから、8年ぐらい経ってるんですけどね。

――最初にCDに収録したのが、メジャー1stアルバム『宝』。

成底:2011年ですね。その前からこの曲が大好きで。

――もともとは、舞台の曲でしたっけ。

成底:そうです。演出家の平田大一さんが作る舞台の中の1曲で、その舞台にお誘いを受けてこの曲を歌ったんですけど、イクマ(あきら)さんの原曲はめちゃめちゃ男っぽい歌だから、平田さんに“歌ってほしい”と言われて“え、これ歌うの?”と思ったんですけど。しかも私、ずっと声楽をやっていたので、私みたいな声には絶対合わないと思ったんです(笑)。それが本番で歌った瞬間、雷に打たれたような衝撃があったんですね。“自分は島人(シマンチュ)なんだ”という思いとか、自分の中の歌う喜びを、この歌が引き出してくれたというか。

――まさに運命の出会い。

成底:その時から、私はこの歌を勝手に自分の応援歌として思っていて、メジャーデビューした時に“絶対この曲を歌わせてほしい”と交渉して、1stアルバムに入れたんです。

――歌詞を読むと、直接的な応援歌ではないんですけどね。

成底:そうなんです。この歌を歌うといつも会場が一つになって、一番盛り上がるんですよ。この曲は、そこにいる人たちの心と心を繋ぐような力を持っているんじゃないかな?ということは感じてました。それがこんなに時間を経て甲子園で使われるなんて、びっくりしましたね。まさか甲子園で“海よ~”って歌われるとは(笑)。

――あはは。確かにちょっと変かも。

成底:でも“島の太鼓の響き”のところは、仙台育英なら“杜の都の響き”とか、京都の学校なら“京の都の響き”とか、それぞれの「ダイナミック琉球」があるんですよ。それがまた面白くて、実際に聴きたくて去年の春と夏に甲子園に行ったんです。去年の夏は100回記念大会で、優勝した大阪桐蔭は地区予選では「ダイナミック琉球」をやってなくて、スタッフさんと“もしもやってくれたらすごいよねー”とか話してたら、目の前で大阪桐蔭の応援団が歌ったんですよ! 私一人だけ、試合の展開も関係なく“キャー!”とか言って立ち上がって、みんな“はぁ?”みたいな(笑)。

――気持ちはわかります(笑)。

成底:すっごい大興奮しました。大阪桐蔭は、甲子園で初披露するためにとっておいたらしくて、歌詞も“島の太鼓の響き”のところが“目指せ春夏連覇”となっていて、もう感動でした。

――歌はみんなのものになる。

成底:そういうことなんですよね。自分たちのものではなくて、みなさんのそれぞれの「ダイナミック琉球」になっていくのが面白いですし、本来の歌の形なのかなと思いました。

――そして3月13日、新しいCDとして「ダイナミック琉球 応援バージョン」に加えて「キッズ・バージョン」ができました。

成底:去年「応援バージョン」を出してサイン会をした時に、お子様連れのファミリーの方がとても多くて、“運動会で使ってます”“学芸発表会で使ってます”という声がとても多かったんですね。しかも沖縄だけではなく、いろんなところで使ってもらっていて、“キッズ・バージョンもずっと構想にあったんです。「ダイナミック琉球」はもともと舞台の曲なので、本家のダンスがあるんですけど、本家に則ったダンスでもっと運動会で踊ってもらえたらいいよねということで、新しく作ったのが「キッズ・バージョン」です。

――なんか、曲がどんどん走って行く感じがしますね。あれよあれよと。

成底:そうなんです。私たちが全然追いつけてなくて、調べれば調べるほど“へえー、そうなの?”ということばっかりで(笑)。この曲はたぶん日本だけではなく、アジアや世界にもはばたける曲だと思ってます。

――行きますか。英語バージョン、中国語バージョン。

成底:いいですね! シンガポールとかタイとか、いろいろ自分の中では考えてます。たぶん来るんじゃないかな?と勝手に思ってます(笑)。昨今こういう広がり方をする曲は特殊だと思うし、琉球とついてますけど沖縄だけの歌ではないし、とっても不思議なんです。その歌を本当にたまたま歌わせてもらって、最初はミュージックビデオを出していたのが私だけだったので、再生回数が上がって、成底ゆう子の「ダイナミック琉球」というふうになってた時に“どうだろう?”と思ったんですよ。私もシンガーソングライターなので、自分の曲じゃないということと、本家はどう思ってるんだろう?とか、ちょっと考えたりもして。それでイクマさんと平田さんに手紙を書いたんです。ちょっと迷ってますみたいなことを書いたんですけど、“いいよ~”みたいな感じで、“あ、いいんだ”と(笑)。みんなで「ダイナミック琉球」を広めていこうということですね。

――成底さん自作の曲はスローバラードが多いじゃないですか。きれいなメロディで、穏やかに、ふるさとの美しい風景を歌うような曲。

成底:そういうイメージの曲が多かったですけど、「ダイナミック琉球」は全然違う曲じゃないですか(笑)。違うけど、どうしても私が歌いたくて、1stアルバムに入れてもらったのがきっかけで、今こういうことになっていてどうしようみたいな(笑)。この曲が私に出会ってくれた理由を、いろいろ考えちゃいますね。まったくイメージが違うのに、なぜ私を選んでくれたのかな?とか、いろんなことを思うと、「ダイナミック琉球」の恩返しで今後は歌って行こうと決めました。

――恩返しですか。

成底:別に私じゃなくてもよかったんですよ。

――そんなことないですよ。

成底:いや、本当にこの曲は、全然違う声の人がカバーしても絶対売れた曲なんですよ。楽曲が素晴らしすぎて、私が歌ったのはたまたまです。だから、ここからですね。この曲にチャンスをいただいたので、それをちゃんと生かしていかないと。

■ライブが、成底ゆう子の歌の世界観を知っていただくきっかけになればいいなと思っています

――最近のライブについても聞きたいんですけどね。成底さん、ライブハウスはもちろん、インストア、お祭り、デパート、居酒屋まで。歌う場所を選ばずと言いますか。

成底:基本的に断らない性格もあるんですけど(笑)。居酒屋ライブとか、お客さんが近いぶん勉強になることが多いですし、インストアライブもすごくリアルな場所なんですね。そこでどれだけ人を集められるか?ということで、自分でも根性すわってると思うのは、人が少ないと燃えるタイプなんです。キングレコードでは“インストアの女王”と言われてるらしいですけど(笑)。勝負師なところがあるんです。

――面白いなあ。だって成底さん、もともとは音楽大学でアカデミックな教育を受けて、オペラ歌手としてイタリアまで行った人じゃないですか。ストリートライブとかもやったことないはずだし。

成底:一回もないです。ないんですけど、インストアライブは反応がリアルにわかるから好きなんですよ。“この人の歌はお金を払って聴く価値があるか?”という勝負なので、そこが面白いなと思います。わかりやすいじゃないですか。

――引っかからなければ、そのままスッと行ってしまう。

成底:そこでどれだけ飽きさせず、CD販売にどれだけ並ばせるか。それが面白いんです。

――すごく舞台向きな性格。昔からですか。

成底:そうですね。昔から負けん気が強いというか、逃げるということはしなかったと思います。

――もともとの夢はオペラ歌手?

成底:歌は歌いたいと思ってましたけど、歌手になろうとはまったく思っていませんでした。とにかく何もない、サトウキビ畑と牛小屋しかない石垣島から本当に出たかったんです(笑)。ちょっと村を歩けば“ゆう子、おかえり~”ってみんなに言われる、あの状況から抜け出して一人になりたかった。私は長女なんで、父には可愛がってもらったんですけど、それが本当にうざくて、早く家を出たい!と思ってました。でも沖縄本島だったらすぐ来れるから、絶対来れない東京に行ってやる!と思って、そこで自分が勝負できるものといったら歌しかなかった。高校に入ってから、音大の受験のためにソルフェージュとかを習い始めたんです。

――それはだいぶ遅いですよ。

成底:まったくもって遅くて、幼稚園の頃からやってる人がいるわけだから。だから受かるとは思ってなかったんですけど、負けん気が強いもので“どうにかしてやる!”と(笑)。東京に出ると決めたら出て、受かると決めたら受かって。最初は仕送りも全部遊び代に使って、親の目もないし、何時に帰っても怒られないし、最高だったんですよ。でも2年間ぐらい遊んでると、ちょっと大人になるじゃないですか。これじゃヤバいと思っていた頃に、あるプログラムの中にオペラの研修生の制度があって、たまたまそこに選ばれて、またちょっと調子に乗って(笑)。それでオペラを勉強したんですけど、そこまでふわふわ来ちゃったので、本場のイタリアに行った時にベキッ!と鼻を折られました。プレッシャーでまったく声が出なくなって、それで帰ってきたんですよ。二度と歌えないと思って。

――挫折しましたか。

成底:神様はちゃんと見てて、調子に乗って今までやってきたけど“本場に来て通用すると思ったら大間違いだぞ”みたいな。ピアノの音がわからないぐらいパニックになっちゃって、声の出し方もわからなくなって、それが公演の前日だったんですよ。監督と演出家に“明日歌えるのか?”と言われて、“歌えますよ!”と言ったけど全然歌えなかった。舞台を台無しにして、シュンとなって、逃げるように東京のアパートに帰ってきたんですけど。両親にこんなにお金を出してもらって、今さら島に帰りますとも言えず、“この先どうしよう”と思いながら8ヵ月くらいバイトして過ごしていたら、親はなんとなくわかるみたいで、小包が届いて、ポークの缶詰や米と一緒に手紙が入ってて、“元気にしてる?”みたいな。それを見た瞬間にボロボロ泣いて、これは言わなきゃ!と思って、電話をかけて母親が出た瞬間に泣くしかできなかったんです。何もしゃべれなかった。そしたら“島に帰って来なさい。大丈夫だよ”って。そのあと、あんなに大嫌いで話もしなかった父親が“代われ”とか言って電話に出て、“おまえの歌は世界一だから何も心配するな。お金も心配するな。絶対歌えるから”みたいなことをガン!と言われたんです。そしたら涙がすーっと消えて、翌日ピアノを開けてポーンと弾いたら、歌えたんですよ! その時、小ちゃい時に自分で作詞作曲するのが好きだったことを思い出して、その体験を歌にしたのが「ふるさとからの声」という歌なんです。それがそのままメジャーデビューに繋がったんです。不思議ですよね。

――なんと言えばいいか……不思議というか必然というか。挫折がすべての始まり。

成底:そんなふうにいろんなところで、何かに支えられて、気づかされてここまで来てるんですけど、その中でも「ダイナミック琉球」はすごく大きいです。あの曲がなかったら、“絶対メジャーデビューする!”とは思わなかったので。この曲が私を救ってくれたので、この曲に恩返ししたいんです。

――3月21日に東京・下北沢GARDENで、4月27日には大阪・南堀江knaveでライブがあります。ライブのタイトルは<ダイナミック琉球~あやぱにの舞い~>。あやぱに(綾羽)は美しい羽。

成底:そうです。カンムリワシの美しい羽。去年のライブが<ダイナミック琉球~南風(ぱいかじ)の宴~>だったので、今回は羽ばたいてる感じがいいかなと思って<あやぱにの舞い>にしました。風に乗ってどこまでも飛んで行くという意味で、一応繋がってるんです。編成はキーボード、ドラム、ベースで、私がピアノと三線を弾きます。ギターがいないんですよ。ちょっと面白いですよね。

――初めて成底ゆう子のライブを観る人に、どんなライブをしてると説明しましょうか。

成底:初めて来るお客さんは、たぶん「ダイナミック琉球」で私を知って、そのミュージックビデオの世界観を持って観に来ると思うんですけど。それも裏切らず、「ふるさとからの声」みたいなハートフルな曲も作ってる人なんです、ということを伝えたいです。“これだけじゃなくて、こういう振り幅もあるんだ”ということを知っていただいて、成底ゆう子の歌の世界観を知っていただくきっかけになればいいなと思ってます。

撮影:中島たくみ/取材:宮本英夫

【ライブ情報】

『ダイナミック琉球〜あやぱにの舞い〜』

3月21日(木・祝) 東京・下北沢GARDEN

開場17:00 / 開演17:30

チケット料金:全自由¥4,800(ドリンク代別)

4月27日(土) 大阪・南堀江knave

開場16:30 / 開演17:00

チケット料金:全席自由(整理番号付き)¥4,800(ドリンク代別)

【リリース情報】

シングル「ダイナミック琉球 〜応援バージョン〜」

2019年3月13日発売

【歌おう踊ろう盤】(CD+DVD)

KZM-611/21/¥1,800(税込)

<収録曲>

■CD

1.ダイナミック琉球 応援バージョン

2.ダイナミック琉球  キッズバージョン(成底ゆう子&スマイルキッズ)

3.読みかけの本

4.ハイサイおじさん

5.ダイナミック琉球 応援バージョン ダンス用 ※イントロ付き (かけ声ガイド&くどぅち入り)

6.ダイナミック琉球 応援バージョン(イントロ付きカラオケ)

■DVD

ダイナミック琉球〜応援バージョン スクール編ミュージックビデオ
シングル「ダイナミック琉球 〜応援バージョン〜」
2019年3月13日発売

【歌おう踊ろう盤】(CD+DVD)

KZM-611/21/¥1,800(税込)

<収録曲>

■CD

1.ダイナミック琉球 応援バージョン

2.ダイナミック琉球  キッズバージョン(成底ゆう子&スマイルキッズ)

3.読みかけの本

4.ハイサイおじさん

5.ダイナミック琉球 応援バージョン ダンス用 ※イントロ付き (かけ声ガイド&くどぅち入り)

6.ダイナミック琉球 応援バージョン(イントロ付きカラオケ)

■DVD

ダイナミック琉球〜応援バージョン スクール編ミュージックビデオ


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