レッチリが最初の頂点を迎えた『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』

2019年2月1日 / 18:00

オリジナルメンバーのヒレル・スロヴァクが亡くなってからリリースされた前作の『母乳(原題:Mother’s Milk)』(‘88)は、レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(以下、レッチリ)の新たなスタートとも言えるアルバムだ。チャド・スミスと若干18歳のジョン・フルシアンテを新メンバーに迎え、驚くべきテクニックに裏打ちされたまったく新しいミクスチャーサウンドを提示し、多くのフォロワーを生んだ記念すべき作品である。続く通算5作目となる本作『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』は、ラップからカントリーに至るまで出会うもの全てをオルタナティブ化するリック・ルービンがプロデュースを担当、レコード会社もワーナーに移籍して前作を上回る仕上がりとなり、彼らはオルタナティブロック界の頂点に君臨することになる。
リック・ルービンというプロデューサー

デフ・ジャムとアメリカン・レコーディングス、90年代のロック界を席巻したこの2大レーベルを創設したのがリック・ルービンである。デフ・ジャムはヒップホップを世界的に広めたレーベルで、パブリック・エネミー、LLクールJ、ビースティ・ボーイズら大スターたちを擁している。また、ヒップホップとメタルを融合させるなど(パブリック・エネミーとスラッシュメタルのアンスラックス)、時代の先端の音作りを提示している。一方、アメリカンではジェイホークス、ブラック・クロウズ、トム・ペティなどのルーツ系ロッカーや、カントリー界の大物ジョニー・キャッシュなどが在籍し、オルタナ・カントリーやアメリカーナといった古くからアメリカにあるロックのスタイルも世に広める活動を行なっている。
バインホーンとの決裂

そんなリック・ルービンだから、レッチリは初期の頃から気になる存在であった。キーディスのヒップホップに影響されたヴォーカル、フリーのファンクとパンクに影響されたベースプレイ、『母乳』で新たに加入したドラムのチャド・スミスはメタルバンド出身と、ルービンの目指すミクスチャー路線とレッチリは同じ方向を向いているだけに、ルービンがプロデュースを担当するのは偶然ではない。とはいうものの、以前からメンバーにはドラッグとの付き合いがあり、ルービンは彼らのプロデュースを以前は拒んでいたことも事実である。

前作と前々作でプロデュースを担当したマイケル・バインホーンは、ニューヨークのアバンギャルド・ジャズファンクバンドのマテリアルのメンバーで、レッチリのポテンシャルを一気に引き上げた功績は大きいものの、良く言えば知性派、悪く言えば頭でっかちな側面もあり、メンバーとの衝突は日常茶飯事であった。特に新メンバーのフルシアンテはレコーディングの経験がなかったから、ファンク系のギターを弾きたかったフルシアンテにメタル的なサウンドを要求するなど、頭から抑え込もうとして反感を買っている。結局、グループはバインホーンと絶縁し、それが飛び火してレコード会社の移籍にまで発展することになる。名作『母乳』は、実は修羅場の中で制作されていたのだ。
本作『ブラッド・シュガー・ セックス・マジック』について

『母乳』の成功で、レッチリはこれまでとは比べものにならないほど真剣に音楽と向き合っていた。それを知ったルービンはプロデュースを引き受け、メンバーとともにロスの大きな古屋敷にこもり、新作に向けたリハーサルを重ねた。半年に及ぶリハーサルを行ない、フルシアンテもスミスもグループ内で自分が何をすべきか掴んだようだ。91年9月、新作となる本作『ブラッド・シュガー・セックス・マジック』はリリースされた。彼らの代表曲のひとつ「ギブ・イット・アウェイ」がシングルとしてリリースされるとビルボードモダンロックチャートで自身初の1位を獲得し、続いてリリースされた「アンダー・ザ・ブリッジ」は彼らにしては珍しくセンチメンタルな曲だが、ビルボードホット100で2位まで上昇している。翌年のグラミー賞では初の受賞を果たし、他のシングルも軒並みヒットを記録するなど、本作は1200万枚を売り上げ彼らの名前は世界中に知られることになる。

本作の特徴は柔軟さにあると言えるだろう。彼らが得意とするゴリゴリのファンクナンバーはもちろん、新しい試みとしてアコースティックな切ないバラードがバランスよく配置されていて、ルービンの聴き手への配慮が実に行き届いているのである。フリーのベースプレイは、スラップを多用していた前作に比べて曲の隙間を埋めてしまわないように考えられている。フルシアンテとスミスに関しては、彼ら本来の本能的なプレイが冴え渡っていると思う。特にスミスのシンプルで的確なドラムパフォーマンスはここにきて完成したと言えるだろう。

収録曲は全部で17曲、そのうちカバーは「ゼイアー・レッド・ホット」(ロバート・ジョンソン)のみで捨て曲は1曲もなく、ファンク、ヒップホップ、グランジ、メタル、オルタナティブ、パンクなど、さまざまなロックのスタイルをミックスした彼らの音楽は、誰にも真似できない強靭さを持っている。まさしく90年代のロックシーンをリードする革命的なサウンドを本作で創りあげたといっても過言ではないだろう。90年代ロックを代表する圧倒的な傑作である。
フルシアンテの脱退と復帰

本作の後、レッチリがあまりにも大きな人気になってしまったがゆえに、フルシアンテは嫌気がさし、92年の日本公演の途中で突然脱退、アメリカに帰ってしまう。もちろんツアーの途中だったから、残っていた京都と東京公演は中止となった。彼の後釜には元ジェーンズ・アディクションのデイブ・ナヴァロが参加している。そして、99年にはフルシアンテが復帰し、7作目となる『カリフォルニケイション』をリリース、このアルバムは1600万枚を売り上げる彼ら最高のヒット作となり、2度目のグラミー賞受賞も果たしている。

なお、2月に行なわれる今年の第61回グラミー賞受賞式では、ラッパーのポスト・マローンと一緒にステージに立つことが決定している。
TEXT:河崎直人
アルバム『Blood Sugar Sex Magik』
1991年発表作品

<収録曲>

1. パワー・オブ・イコーリティ/The Power of Equality

2. イフ・ユー・ハフ・トゥ・アスク/If You Have to Ask

3. ブレーキング・ザ・ガール/Breaking the Girl

4. ファンキー・モンクス/Funky Monks

5. サック・マイ・キッス/Suck My Kiss

6. アイ・クド・ハヴ・ライド/I Could Have Lied

7. メロウシップ・スリンキー・イン・Bメジャー/Mellowship Slinky in B Major

8. ライチャス & ウィッキド/The Righteous & The Wicked

9. ギヴ・イット・アウェイ/Give It Away

10. ブラッド・シュガー・セックス・マジック/Blood Sugar Sex Magik

11. アンダー・ザ・ブリッジ/Under the Bridge

12. ネイキッド・イン・ザ・レイン/Naked in the Rain

13. アパッチ・ローズ・ピーコック/Apache Rose Peacock

14. グリーティング・ソング/The Greeting Song

15. マイ・ラヴリー・マン/My Lovely Man

16. サー・サイコ・セクシー/Sir Psycho Sexy

17. ゼイアー・レッド・ホット/They’re Red Hot


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