竹内まりやのヒットを探る「臼井孝のヒット曲探検隊 ~アーティスト別 ベストヒット20」

2018年11月22日 / 18:00

(okmusic UP's)

CD、音楽配信、カラオケの3部門からヒットを読み解く『臼井孝のヒット曲探検隊』。この連載の概要については、第1回目の冒頭部分をご参照いただきたい。ただし、第5回の安室奈美恵からは2017年末までのデータを反映している。
スローペースな音楽活動ながら 第一線をキープ

目まぐるしく移り変わる日本の音楽界の中で、竹内まりやは最も幸運な立ち位置で活動しているアーティストの一人だろう。なにしろ、デビュー当時はバラエティー色のある音楽番組やレコード会社対抗運動会などタレント的な活動を並行しつつもその数年後から自然な形でシンガーソングライターに移行し、82年の山下達郎との結婚後は数年に1枚アルバムをリリースするというスローペースを維持、その合間も女性アイドルを中心とした楽曲提供が途絶えることがなく、ほぼ第一線をキープしているのだから。

具体的に2018年末現在、新録アルバム(オリジナル+カバー)の作品数を、日本の3大女性シンガーソングライターで比較してみると、1972年デビューの松任谷由実が39作、1975年~の中島みゆきが42作、そして1978年~の竹内まりやが12作と、他の2人に比べて圧倒的に少ない。勿論、時代に左右されないエバーグリーンでハイクオリティーな作品が多いから当然だという意見もありそうだが、新作を発表しないうちに売上を大きく落としてしまう邦楽アーティストが大半の中、竹内の場合は作品が出るたびに「○年ぶりの新作!」と大きな話題となるので、やはり恵まれた状況にあるのは間違いないだろう。
竹内まりや×山下達郎のタッグにより、30年間にわたってアルバムが連続ヒット

そんな彼女は1955年島根県出身で、慶應義塾大学での音楽サークルでの活動を経て、1978年11月25日にシングル「戻っておいで・私の時間」とアルバム『BEGINNING』で同時デビュー。デビュー当時はTV番組にも多数出演しており、1979年にシングル「SEPTEMBER」で日本レコード大賞新人賞を受賞、翌1980年には資生堂の化粧品ソング「不思議なピーチパイ」で『ザ・ベストテン』にも登場、同作を収録した3rdアルバム『LOVE SONGS』は初のオリコン週間1位にもなった。

1982年にはレーベルメイトで音楽的な相談相手でもあった山下達郎と結婚し、出産した1984年、アルバム『VARIETY』以降は基本的には本人が全楽曲の作詞・作曲をし、山下達郎が全面プロデュースするというスタイルが定着。以降、結婚生活や山下達郎の音楽活動を優先したマイペースな音楽活動ながら30数年間にわたって発表した7枚のアルバムはいずれも週間1位レベルの高セールスとなっている。
人気アイドルへの楽曲提供でも ヒット曲多数

これだけ寡作ながら常にアーティストとしての現役感を保っているには、1980年以降に始めたアイドルを中心とした楽曲提供も大きいだろう。河合奈保子の「けんかをやめて」の初TOP10入りを皮切りに、薬師丸ひろ子、岡田有希子、中山美穂、中森明菜、広末涼子、松田聖子などのヒット・シングルやアルバムのリード曲を手がけており、常に話題となってきた。また、2016年には竹内が作詞、山下が作曲した嵐の「復活LOVE」も50万枚以上のヒットとなっている。
2018年はデビュー40周年、 数少ないメディア露出も自然体

さらに、2018年には約4年ぶりとなる両A面のCDシングル「小さな願い/今を生きよう(Seize the Day)」を発表、またデビュー40周年を記念して過去の貴重なLIVE映像をまとめた『souvenir the movie~Mariya Takeuchi Theater Live~』の映画館での上映も開始される。
山下達郎のラジオ番組など年1~2回のペースでラジオ番組に出演したり、近年の自身の作品でライナーノーツを手がけたりする際に垣間見える、男気すら感じさせるほどサバけている本人のキャラクターも魅力的だ。特に、ライナーノーツはもともと音楽編集者を目指していたということもあり、各作品やアーティストに対する愛情が溢れていて、何度も読み返したくなるほど。
「souvenir the movie 〜MARIYA TAKEUCHI Theater Live〜 」特報映像
タレント・シンガーとして、シンガーソングライターとして、楽曲提供者として多面的に人気を築いてきた竹内にはどんな曲が総合的にヒットしているのか、以下見ていこう。
総合1位は1989年の『火サス』主題歌

総合1位は1989年から翌年末に使われた『火曜サスペンス劇場』主題歌の「シングル・アゲイン」。シングルは当時の年間TOP10級となる約54万枚で自身2番目のセールス、配信やカラオケでもロングヒット、さらに発売当時は有線放送では圧倒的な人気で1989年の年間1位を獲得し、1990年も年間10位、その後も長くリクエスト上位が続いた。
本作はテレサ・テンが歌ってもヒットしそうなほど歌謡曲テイストのミディアム・バラードで、歌詞のテーマも、かつての恋人がまた独りに戻って心がさわめくという、なんともドラマティックな内容だ。その“火サス”効果もあり、CDは32週にわたってTOP100に入る自身最長のヒットとなった。なお、総合9位の「告白」も「シングル・アゲイン」に続いて同番組の主題歌に起用された。こちらも既に幸せな女性がかつての恋人から告白されるという内容で、前作と繋がりが感じられるドラマティックなスロー・バラード。本当に彼女はクライアントも視聴者の需要もよく分かっていると感心するばかりだ。
総合2位と4位は1990年代の トレンディドラマ主題歌

総合2位は1994年の「純愛ラプソディ」。ドラマタイアップ・ブームの90年代前半に発売されたこともあって、CDは約90万枚で自身最高のセールスとなっている。また、本作はドラマ『出逢った頃の君でいて』の主題歌でもあり、主演の酒井法子が演じるOLが妻子ある男性(陣内孝則)に恋してしまうという不倫ドラマだったが、“遅すぎためぐり逢い”を敢えて明るい曲調や歌声で表現することで、内館牧子原作のドラマのドロドロ感を緩和する役割をしていたことも大きい。
総合4位にランクインした1998年の「カムフラージュ」もドラマ『眠れる森』の主題歌。こちらは中山美穂と木村拓哉がカップルを演じたヒット確実のドラマという触れ込みもあって、自身初、現在のところ唯一となるオリコン1位曲で、CDは約46万枚のヒット。そして、そのミステリアスなドラマの内容に合わせたのか、歌詞をよく読みといて聴けば心に沁みるようなラブソングだ。こちらもシリアスなドラマを緩和する穏やかさや、最後は悲しい結末にならないであろうと安心感があり、大ヒットドラマの陰の功労者と言えよう。

それにしても、総合TOP20には前述の1位、2位、4位のほか、6位「人生の扉」、7位「家(うち)に帰ろう」、9位「告白」、11位「もう一度」、13位「いのちの歌」、14位「真夜中のナイチンゲール」、15位「幸せのものさし」、16位「天使のため息」、19位「恋の嵐」、20位「ロンリー・ウーマン」と総合TOP20内に合計13作ものドラマタイアップ曲がランクインしている。1989年から2000年頃までは“ドラマタイアップ=CDヒット確実”と言われ、そのヒット・スキームはドラマティックな歌詞や視聴者に寄り添える穏やかな歌声の竹内にはいっそう当てはまったのだろう。もうドラマ関連曲だけでアナザー・ベストが出せそうなほどだ(微笑)。
総合3位と5位は、珠玉の歌姫への 提供曲のセルフカバー

そして、総合3位は1987年にアルバム『REQUEST』内に収録された「駅」。本作は、その前年末に中森明菜のアルバム『CRIMSON』用に提供された、かつての恋人を駅で見かけるという切ないバラードをセルフカバーしたものだ。竹内版の「駅」は1987年末にシングル・カットされ、有線放送で年間3位となる人気で、1991年には映画『グッバイ・ママ』の主題歌に起用されてCDシングルが再ヒットしたため、竹内まりや版をオリジナルだと思っている人も多いかもしれない。実際、「駅」が有線やカラオケでじわじわ売れていったことが、『REQUEST』の3年越しでのミリオンヒットの主要因だろうし、21世紀になって解禁された配信部門ではダントツの1位、そしてカラオケもここ数年、彼女の中で最大人気曲なのだから(もし、アルバムより先にシングルが発売されていたら、まりや版「駅」もシングルヒットしていて、総合1位だったかもしれない)。
ただし、中森明菜版と竹内まりや版は、それぞれの世界観が確立していて聴こえ方がまるで異なるのが興味深い。明菜版は“ありふれた夜がやってくる”ように、さりげなく過去の恋を想い出す程度で冷たい街に紛れていく都会の女性が登場するのに対し、竹内版は彼が“私だけ(を)愛してたこと”に気づいて後悔しまくるというメロドラマ風に仕上がっている。それぞれの一流の解釈の違いを楽しんでみてはどうだろうか。
こちらは、竹内と同レーベルの藤澤ノリマサのカバーによる「駅」
総合5位の「元気を出して」もセルフカバー作だ。提供作のセルフカバーが人気曲のうち2作を占めるというのも竹内まりやの大きな特徴だろう。特に配信とカラオケでは、ともに1位が「駅」、2位が「元気を出して」と、なんとセルフカバーが上位を独占しているのだから。それだけクオリティーの高い作品を、それぞれの歌手に提供したということだ。あるいは、中森明菜や薬師丸ひろ子といった類まれなスターが、竹内の中の作家能力を引き出したのだろう。そして、そこに竹内の歌声が乗ることで、より時代性を感じさせないエバーグリーンな作品となったのであろう。

「元気を出して」は1984年に薬師丸ひろ子のアルバム『古今集』用に提供したバラードを、1987年のアルバム『REQUEST』にて竹内も歌唱。竹内の発売後にSEIKOやTBCなどのCMに起用されたり、2003年の島谷ひとみがさらにカバーしてヒットしたりと、今では“エールソング”の定番となっている。《彼だけが 男じゃないことに気付いて》という1フレーズも、女性共感度の高さを象徴する竹内まりやらしい歌詞だ。ちなみに、薬師丸バージョンでは竹内がコーラスに参加し、竹内バージョンでは薬師丸がコーラスに参加している。
アルバム『REQUEST -30th Anniversary Edition』Trailer (猫の恋)
「駅」「元気を出して」「人生の扉」…ファンの人気曲はいずれもアルバム発

総合6位の「人生の扉」についても触れておきたい。本作は2007年にアルバム『Denim』に収録され、その後のシングル「チャンスの前髪」にリカットで収録されている。20歳、30歳、40歳…、そして90歳以上と、それぞれの年齢で感じること、感じていたいことを歌にした穏やかなバラードで、桜や紅葉を《この先いったい何度 見ることになるだろう》というフレーズも実に印象的。年輩のタレントやミュージシャンが、この歌に励まされたといってメディアで紹介することも多い。決して派手ではないが確実に人々の心に浸透しているようだ。

ちなみに、2008年のベスト盤『Expressions』発売時のファン投票で1位になったのが「駅」、2位が「人生の扉」、そして3位は「元気を出して」で、いずれも最初はシングルではなくアルバム収録だった点も興味深い。彼女もまた、シングルだけでは評価できない偉大なアーティストということだろう。
自作曲以外での最大人気は 「不思議なピーチパイ」

総合1位から9位まで自作曲が並ぶ中、10位でようやく初期の出世作となった1980年の「不思議なピーチパイ」が登場。本作は作詞:安井かずみ、作曲:加藤和彦のお洒落でポップなミディアム・チューンで、資生堂『春のキャンペーンソング』に起用されシングル・レコードは約39万枚のヒット。確かに♪かーくしきれない気分は ピーチパ~イというサビは、当時TVを観ていた人ならばほぼ全員が口ずさめるほどの強烈なインパクトがあるが、果たしてどれだけの人が“ピーチパイ”をイメージできたのかと個人的にはとても気になる(笑)。
ちなみに、この「不思議なピーチパイ」の前年に発表した「ドリーム・オブ・ユー~レモンライムの青い風~」や「SEPTEMBER」は、ともにシングル・レコードは累計10万枚台のヒットながら、どちらも半年近くTOP100にチャートインしている。どちらも自作ではないが安定した人気を誇り、当時発売されたアルバム『UNIVERSITY STREET』も累計20万枚を超えるヒットとなっていた。つまり、デビュー当時から既にシングルよりもアルバムで聴きたいアーティストだったようだ。これも凄腕のミュージシャンによる一流サウンドをバックに爽やかな雰囲気を醸し出すヴォーカリストとして、当時から高い評価を得ていたからではないだろうか。

なお、総合TOP20入りしているものの、「告白」「マンハッタン・キス」「不思議なピーチパイ」などの人気曲は2018年現在、配信されているのはAmazonのストリーミング・サービスのみで、今後解禁されることを期待したい。
ドラマ主題歌、セルフカバー、 そしてクリスマスのケンタッキー!

また、95年当時、ケンタッキーフライドチキン(KFC)CMソングとして起用されたパーティー・ソングの「今夜はHEARTY PARTY」が総合8位(歌詞中に《キムタクさえも かすむような男》と出てくることから、木村拓哉本人にコーラスとセリフを依頼したというのも話題に)。近年のクリスマス時期にディズニー映画のようなゴージャスなサウンドで、もう“チキンを食べなきゃクリスマスじゃない”とCM内で迫ってくるのが2001年作品の「すてきなホリデイ」で、こちらは総合17位。今やKFCも、ドラマ主題歌やセルフカバーに次ぐ彼女の代表ブランドとも言えるだろう。この他にも語りたい名曲はあるが、長くなるので総合TOP20からはここまでとさせていただく。
総合TOP20には入っていないのに、 実は海外で大人気!!

ちなみに、海外では1984年のアルバム『VARIETY』に収録され、翌年にEXTENDED CLUB MIXとして12インチ・シングルにてリカットされた「PLASTIC LOVE」が動画サイトで2000万回を超えるほどの人気となっている(YouTubeのコメント欄を見ると9割以上が英語)。日本ではレコードは当時1万枚以下、配信やカラオケ部門でも20位台でそこそこ定評はあるものの、海外での人気は比べ物にならないほど高い。
本作はあえてビートの強いディスコ・チューンにすることで、愛に傷ついて不毛に遊びまくる女性を表現しているが、バンド・サウンドに絡んでくる管楽器や弦楽器の演奏も絶妙で、海外で人気ということは、その山下達郎が編曲したカッコいいサウンドや、カレン・カーペンターにも通じる凛とした歌声が高評価されているということだろうか。あるいは、同じく海外評価の高い大貫妙子がバック・コーラスで参加していることも一因か。いずれにせよ、今後、Spotifyなどで竹内まりやや山下達郎の楽曲が解禁されれば、日本のすぐれたアーティストや楽曲が逆輸入という形で注目されることも増えるかもしれない。
最後のフレーズにヒットの秘訣が!?

最後に、ムダ知識を一つ。以下に総合1位から9位の竹内まりやが作詞した楽曲の歌詞の最後のフレーズを並べてみた。
もうお分かりになった方もいるだろう。そう、彼女の人気曲のうち、半数以上が英語で締めくくられているのだ。「純愛ラプソディ」のように、その大半の歌詞が日本語なのに、ラストになると突如英語が現れるというのも少なくない。

しかし、だからこそポピュラーソングのような雰囲気が醸し出され、楽曲の普遍性が増している気がする(←やや強引な解釈(笑))。今でも変わらぬ穏やかなアルトの歌声と、優しいメロディーは永遠の人気なので、今後も新たな名曲が聞けることだろう。
プロフィール

臼井 孝(うすい・たかし)

1968年京都府出身。地元大学理学部修了→化学会社勤務という理系人生を経て、97年に何を思ったか(笑)音楽系広告代理店に転職。以降、様々な音楽作品のマーケティングに携わり、05年にT2U音楽研究所を設立。現在は、本業で音楽市場の分析や配信サイトでの選曲、さらにCD企画(松崎しげる『愛のメモリー』メガ盛りシングルや、演歌歌手によるJ-POPカバーシリーズ『エンカのチカラ』)をする傍ら、共同通信、月刊タレントパワーランキングでも愛と情熱に満ちた連載を執筆。Twitterは @t2umusic、CDセールス、ダウンロード、ストリーミング、カラオケ、ビルボード、各番組で紹介された独自ランキングなどなど、様々なヒット情報を分析してお伝えしています。気軽にフォローしてください♪


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