『ケツノポリス2』で一気にブレイクしたケツメイシが“こっちおいで”と大衆を巻き込んだ楽曲の決め手は?

2018年10月17日 / 18:00

今週は10月24日に2年振りのオリジナルアルバム『ケツノポリス11』をリリースするケツメイシの初期作品を紹介。ヒップホップ、レゲエという枠を超え、幅広いリスナーから支持を受けるビッグアーティストとなった彼らは、いかにしてその地位へと辿り着いたのか。その答えは全てメジャーデビュー作『ケツノポリス2』にあったと言える。
ジャンルを超越したグループ

すでに発表されているケツメイシの来春からのツアー日程を見ていると、彼らはヒップホップとかレゲエといった枠を完全に超越したんだなぁという想いを改めて強くする。今やケツメイシのコンサート会場はアリーナクラスが当たり前と言った貫禄で、現在、単独でこの規模の会場で演れるヒップホップ、レゲエ系アーティストとなると、あとは湘南乃風くらいだろうか。今やケツメイシはジャンルを代表するアーティスト云々ではなく、国内屈指のスケールを持つグループのひとつとなったことは間違いない。サザンやミスチルはロックだが、ロックバンドというよりもサザンでありミスチルであると言ったほうがいい。ドリカムやユーミンもポップスで括るよりも、ドリカム、ユーミンと言ったほうがしっくりくる。それと同じように、ケツメイシはヒップホップでありレゲエでもあったのだろうが、もはやその音楽はケツメイシというカテゴリーと言ってもよかろう。
デビュー作に見る “All welcome”な空気

彼らが運に恵まれてそのポジションを得たわけではないことは、みなさんもよくご存知だろう。ケツメイシは自らの音楽性で人気を獲得し、それを巷に知らしめ、現在の地位を築いた。その経緯はしたたかだった…と言っていいかもしれない。彼らのデビュー曲「こっちおいで」、そして『ケツノポリス2』収録のM11「ケツメの作り方」にその片鱗を垣間見ることができる。まず「こっちおいで」から言うと、トラックはレゲエのリズムで、ラップも上手いし、体裁はヒップホップミュージック以外の何物でもない印象なのだが、耳を奪われるのはフックのメロディーだ。いや、フックというよりもサビと呼ぶのが相応しい。それほどキャッチーだし、サビ頭で何度もリフレインされるので、さながら“ここが僕らの推しですよ”と強調しているようでもある。しかも、リリックが徹底的にフレンドリーなのである。サビの《こっちおいで おいで 今日は子供にもどろう/こっちおいで おいで 今日は朝までおどろう》以外も、《はじめてLiveにきた人も みんなで踊れば怖くない》や《おれら来たらこの場パーティー》、さらには《見てるだけ 聴いてるだけの人(届け 轟けよ 君の心奥底)/目の届くとこ 君のふところ(一小節に小説のごとく 魂入れる 力込める)/伝わるといいな おれらの気持ちが(遠く届くまで叫べ歌え踊りまくれ)/伝わるとなんだか 気持ちがいいな(E-EEE!)》と外連味すら感じるほどに、まさしく“All welcome”な空気を出している。
自らの表現を模索してメジャー化

「こっちおいで」は2004年にメジャーで再発されているが、もともとは1999年にインディーズで発表されたものだ。1999年と言えば、Dragon Ashがアルバム『Viva La Revolution』を発売し、m-floのメジャーデビュー作「the tripod e.p.」がチャート・ベスト10入りを果たした年だから、ヒップホップミュージックが日本の音楽シーンに入り込んでいた頃とは言える。しかしながら、入り込んでいたからこそだろうか。生粋のヒップホップファンや関係者からは日本語ラップが大衆的に堕していくことへの警鐘があったことも確かのようで、「ラップの曲で、サビに歌えるメロディーがある曲なんてあり得ないと言われた」とのちに大蔵が述懐するようなこともあった時期ではあった。彼らも逡巡したようだ。こんなリリックがある。

《これってrap 駄洒落 いやわからね/ただ これでは お客は沸かんね》

《夜中には都内CLUB遊び 明日の一限は授業なのに/楽しくて断れん誘い まだ慣れないでかめの服を纏い/ライムスター・キングギドラ・ペイジャー/歌詞覚えた 全てを歌えた》

《That’s ハーコーラップ/うけねえ ならしょうがねえな 俺らのライブ》(M11「ケツメの作り方」)。

M11「ケツメの作り方」の歌詞は「こっちおいで」の前日譚。文字通りのグループ結成秘話と言っていい。ペイジャーはMICROPHONE PAGERのことで、登場する名称はいずれも1990年代前半に日本のヒップホップをけん引したグループである。ここからは分かることは、ケツメイシの先たちからもろに影響を受けつつも、自分たちなりの表現を模索していた様子だ。楽曲が「こっちおいで」のサビを引用して終わっていくということからすると、極端なことを言えば“子供に戻って朝まで踊れる”ような音楽性を目指したということだろう。初めてケツメイシのステージを観る人を半ば強引に乗せること。やや語弊がある言い方かもしれないが、ある時から彼らは大衆化に舵を切ったことは間違いない。堕ちたのではない。自ら身を投じたのだ。“遠く届くまで叫び、歌い、踊りまくる”ためにはメジャーフィールドが最適だったのだろうし、その判断が正しかったことは、メジャー進出後のシングルの好レスポンスと、メジャーで最初のアルバム『ケツノポリス2』がチャート初登場1位を獲得したことではっきりと証明された。
トラックメイキングの確かさ

大衆化とは決して大衆におもねることではない。アルバム『ケツノポリス2』はそのことを示す作品でもあると思う。本作は全編においてトラックがいい。何と言うか、メロディーがキャッチーだからと言って、サウンドはその添え物などではなく、楽曲の世界観を損ねず、それをさらに深く掘り下げ、広げている感じである。ポップでありつつもサイケで幻想的なM2「手紙 過去~」。耳に残るギターのループにスクラッチノイズを加えたM8「手紙~現在~(album version)」。そして、パッと聴き抑制の効いた感じだが実は音数も多く、ビートも力強いM13「手紙~未来」という3rdシングル「手紙」収録曲は文字通り、過去~現在~未来の時系列の表現が見事。アルファが客演しているファンキーなM10「ア・セッションプリーズ」や、泥臭さすら感じさせるブルージーなM11「ケツメの作り方」もそうで、これらの楽曲がどこにフォーカスを当てているのかをしっかりと提示しているトラックであろう。

彼らの特徴のひとつと言えるレゲエはM5「人は」~M6「侍ジャポン」と続くが、注目はM14「わすれもの」だろう。レゲエと言うと、それこそ“子供に戻って朝まで踊れる”じゃないけれども、楽しさを前面に出すものが多いイメージだが、ロストラブソングに合わせる辺りが粋というか、《恋の終わり》も《冷たい風》も《冷たい雨》もより強調されて、プロフェッショナルが作るサウンドといった感じがする。

アーバンなサウンドもケツメイシの得意技。本作ではM3「ビルの谷間」やM12「よる☆かぜ(album mix)」がそれに当たるだろうか。特にM12「よる☆かぜ(album mix)」のキラキラとした感じは本当によくできている。どなたかのブログだったかで、“この曲をBGMにするといつものドライブも別世界を走っているようになる”みたいなことが書いてあったような覚えがあるが、その気持ちも十分に理解できるほど、この楽曲のトラックは洒落ている。彼らが大ヒットグループになることを大きく後押ししたナンバーであることは間違いなかろう。

また、これは完全な私感ではあるが、洒落たサウンドがある一方で、ソウルっぽいM4「高値の花」や、セカンドラインを導入したM9「雲の上から」、前述したブルージーなM11「ケツメの作り方」など、これまた既存のジャンルへの敬意を払っている感じがするのも『ケツノポリス2』、ひいてはケツメイシの無視できないポイントではないかと考える。トラックの元ネタは分からないが、彼らがヒップホップ・マナーをないがしろにしていない感じは伝わってくる。M6「侍ジャポン」の《新しい物 古き良き物も この音に乗せて探し出そう/忘れず取り戻そう》は言い得て妙である。また、音のアナログ感も手伝ってか、何となく人力感があるのもいいところだと思う。
汎用性が高く、前向きなリリック

《開いたばかりの白いノートに/書きつづったページのスタートに/誓ったあの日の思いを/思い出しまた 歩いてく》(M2「手紙 過去~」)。

《日が昇って朝の目覚め/都会への重い扉目掛け/今日の戦いの火蓋はすでに切った/Don’t stop fight war ビルの谷間で》(M3「ビルの谷間」)。

《人は悩んで 本当の意味を知る/人は泣き止んで 少しだけ強くなる/人は悩んで 生きてる意味を知る/人は泣き止んで 明日の朝は笑える》(M5「人は」)。

《現在が指す時は常に流れの中で時が君に/もう恐くはないだろう/現在が開けた扉閉めず開けたままの君の心で/もう恐くはない》(M8「手紙~現在~(album version)」)。

《いつもここ広がる雲の上/皆の住む町から遥か遠くで/ただ見守るこの世の行く末/幸せ祈る常に胸の奥で/いつからか自ら雲の上/今日も今日という名の日が暮れ/明日は明日でまた夢見させてくれ/いつまでもいつでも雲の上》(M9「雲の上から」)。

《まだ見たことない 未来で/勇敢に戦う 俺がいる/きっとそうだろ どうなの?/未来の俺らの 状況は》(M13「手紙~未来」)。

《ずっと友だち だが時は経ち/変わりゆく街の中で 共に育ち/この街から力溜め 一からの/スタートを切った君に 幸あれ》(M15「トモダチ」)。

歌詞はほとんど説明不要だと思うほど、分かりやすい。いい意味で時代、状況もほとんど不明であり、これまた前向きなものがほとんどである。汎用性が高い。あるいは置き換えが利くと言ったらいいだろうか。ここもまた、彼らが多くのリスナーから支持される最大の要因だろう。

キャッチーなメロディー。凝ったサウンド。そして、分かりやすく、ポジティブなリリック。これだけ揃えば、例え、まだヒップホップやレゲエが一般的ではない頃だったにしてもミリオンになるだろう…と考えがちだが、それはどうだろうか。そっぽを向かれることはないにしても、“まじめか!?”と思われて、1~2曲でシーンからフェードアウト…なんてことになったかもしれない(知らんけど…)。しなやかな軽さを兼ね備えていたからこそ、ケツメイシの成功があったのではないいかと想像するのだが、その軽さとは、ずばりエロティシズム──所謂エロである。こちらも説明不要だろう。あんまりエロが嫌いな人はいないから、エンターテインメントのアクセントとして、スパイスとしては、ある意味、必須のものとも言える。まぁ、M4「高値の花」の中盤以降とか、歌詞はないけどM7「中出し(inst.)」というタイトルとか、ケツメイシの場合、案外それがエグかったりするのだが、16曲の中の2曲、8分の1=12.5パーセントくらいのバランスだからいいのだろう。その分量が20パーセント以上になると引く人も出てくるし(特に女子は)、特に『ケツノポリス2』はメジャーデビュー作であったからして初見の人も多かっただろうから、それも止むなし……いや、当然のことだったと思う。その辺からもケツメイシが大人のグループで、いい意味でしたたかだったことも推測できる。
TEXT:帆苅智之
アルバム『ケツノポリス2』
2002年発表作品

<収録曲>

1.前出し(inst.)

2.手紙 過去~

3.ビルの谷間

4.高値の花

5.人は

6.侍ジャポン

7.中出し(inst.)

8.手紙~現在~(album version)

9.雲の上から

10.ア・セッションプリーズ

11.ケツメの作り方

12.よる☆かぜ(album mix)

13.手紙~未来

14.わすれもの

15.トモダチ

16.後出し(inst.)


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