マルーン5のデビュー作『ソングス・アバウト・ジェーン』はオルタナティヴロックとポップソウル的なアプローチが同居した傑作

2018年10月12日 / 18:00

来年2月25日、東京ドームで一夜限りの来日公演が決定したマルーン5。チケットの一般発売は明日(10月13日)から始まる。グラミー賞を3回も受賞するなど、今では世界のトップスターになった彼らが日本で一般的に知られるようになったのは、2005年にテレビCMで「サンデイ・モーニング」が使われた頃である。2002年にデビューしていたマルーン5だが、当初は地味なセールスだったので、熱心な日本の洋楽ファンがその存在に気付いたのは2004年頃ではなかったか。1年そこそこで急激に認知度がアップし、あっと言う間に世界的トップスターになった。それは何と言ってもデビュー作となる本作『ソングス・アバウト・ジェーン』の内容があまりにも素晴らしかったからである。そんなわけで、今回はマルーン5の衝撃的なデビュー作『ソングス・アバウト・ジェーン』を取り上げる。
高い技術をもつロックグループ

最初に彼らの歌を聴いた時(「シー・ウィル・ビィ・ラヴド」だった)、僕は技巧派ヴォーカリストのソロ作だと思った。なぜかと言うと、ヴォーカルの上手さは群を抜いていたし、バックの演奏が一流スタジオミュージシャンばりのテクニックだったからだ。アダム・レヴィーンのヴォーカルスタイルは、ヒップホップを通過したR&Bシンガーのようで、ジャミロクワイやブルーノ・マーズらと似た感性(70sのニューソウルはもとより、ラップ、R&B、アシッドジャズなどの黒人っぽい感覚をしっかり身に付けている)を持っている。しかし、彼はソロシンガーというだけではなく、グループの中でギタリストとしてもちゃんと役目を果たしているのだから、単に歌の上手いソロシンガーだけではなく、言うなれば大谷翔平のような二刀流なのである。そういう意味では、少しスタイルは違うが、ポリスからソロに転向した頃のスティングに似ているかもしれない。レヴィーンと同様に、スティングはヴォーカリストとしてはもちろん、楽器演奏者(ベースとギター)としてもトップクラスの力量だ。

マルーン5はアダム・レヴィーンだけでなく、他のメンバーも腕達者な猛者揃いで、グループが解散しても各々がスタジオミュージシャンでやっていけるほどのテクニックを持つ。だからこそ、彼らの音楽を聴いていると安心できるわけだし、特にタイトなドラムとメロディックなベースのフレーズは、モータウンの黄金時代を築いたファンク・ブラザーズのような重厚さと爽快感を感じるのである。
ソングライティングの妙

演奏とボーカルのどちらもが卓越した彼らであるが、ソングライティングの面でも人並みはずれた才能を持っている。基本的に、グループ初期にはアダム・レヴィーンとジェシ・カーマイケルの2人が担当し、トップグループの仲間入りをしてからは、彼ら以外にもプロのソングライターが多く参加している。だから、初期と現在とを比べると曲づくりの手法はかなり変化している。僕はレヴィーンとカーマイケルの曲が好きなので、初期のようなマルーン5らしい曲をもっと聴きたいと思っている。
本作『ソングス・アバウト・ジェーン』について

「サンデイ・モーニング」で初めてマルーン5のことを知ったリスナーが、本作『ソングス・アバウト・ジェーン』を聴いて、収録されたナンバーの全てが素晴らしかったことに驚いたということを聞いて、最初僕は不思議に感じた。なぜかと言うと、60s後半〜70s初頭の洋楽を聴いている者にとっては、アルバムの全てが素晴らしいことは当然だから。インターネットでダウンロードが普通になった21世紀は、ポピュラー音楽の音源をアルバム単位で聴くことは稀になり、1曲単位で聴くことのほうが当たり前なのである。そういう意味でも、マルーン5の登場は画期的であったのかもしれない。アルバム単位で音楽を聴くことの楽しさを再認識させてくれたのだから。特に本作はジェーンのことについて歌われるトータル(コンセプト)アルバムになっているだけに、作品を通して聴くことに意義があるわけで、この点に関しても彼らは“全曲を聴く”大切さを確信犯的に狙っていたのではないだろうか。

アルバム全編を通して、白人のロックグループにしてはかなり黒っぽい音作りで、それでいて爽やかなポップ感を醸し出しているのがマルーン5というグループの特徴だ。収録曲は全部で12曲。アルバムの冒頭を飾るのに相応しいオルタナティヴ感覚を持つハードでタイトなナンバー「ハーダー・トゥ・ブリーズ」、TOTOが演奏しているといっても不思議でないぐらい凝ったアレンジの「ディス・ラヴ」、後期ポリス的なサウンドの「シー・ウィル・ビィ・ラヴド」、彼らの代表となる美しいメロディーを持った名曲「サンデイ・モーニング」、ちょっとブリティッシュの香りもする「マスト・ゲット・アウト」をはじめ、彼らが注目されるきっかけとなった映画『ラブ・アクチュアリー』のサウンドトラック盤に収録された「スウィーテスト・グッドバイ」、無国籍的なロックナンバーでギターソロのカッコ良い「シーヴァー」、キャッチーなメロディーと控えめなギターソロがカッコ良い「タングルド」、ソウル色の強い「ザ・サン」、ジャジーでアダルト感覚にあふれた「シークレット」、コーラスが印象的でドラマチックな「スルー・ウィズ・ユー」、R&B的でヴォーカルの上手さが光る「ノット・カミング・ホーム」など、いずれも甲乙付け難い名曲のオンパレードである。チャート結果ではイギリス、オーストラリア、アイルランド、フランス等で1位を獲得、現在までに1000万枚(!)を売上げ、セールス面でも大成功を収めている。
1年以上に及ぶ世界ツアー 『レッド・ピル・ブルース・ツアー』

デビュー作でこれだけ完成度の高い作品を創ってしまうと、次作へのハードルが高くなってしまうのは仕方のないところで、彼らが2作目をリリースするまでに5年を要している。しかし、2作目の『イット・ウォント・ビー・スーン・ビフォー・ロング』(‘07)では全米チャート1位に輝いているのだからたいしたものである。アルバムをリリースするたびに表情を変えながら、現在まで数々の大ヒットを生み出し続けており、現在では21世紀最大の世界的グループに成長したと言っても過言ではないだろう。今回の日本公演は、昨年にリリースされた6作目『レッド・ピル・ブルース』(2017年。全米チャート2位)をサポートした世界ツアー『レッド・ピル・ブルース・ツアー』の一環で、このツアーは3月のエクアドル公演を皮切りに、来年6月のパリで終演予定となっている。
TEXT:河崎直人
アルバム『Songs About Jane』
2002年発表作品

<収録曲>

1. Harder To Breathe

2. This Love

3. Shiver

4. She Will Be Loved (Radio Mix)

5. Tangled

6. The Sun

7. Must Get Out

8. Sunday Morning

9. Secret

10. Through With You

11. Not Coming Home

12. Sweetest Goodbye


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