ピンク・フロイドの『おせっかい』は大作と小品が同居した初期の傑作

2018年8月31日 / 18:00

60年代後半にはキング・クリムゾン、イエス、エマーソン・レイク&パーマーなど、いくつかのプログレのアーティストが登場し、その多くはクラシックやジャズ等の高度なテクニックを演奏に取り入れていた。そんな中にあって、ピンク・フロイドは牧歌的な雰囲気を重視した独特のサウンドで人気を得たグループである。今回取り上げる『おせっかい(原題:Meddle)』は彼らの6thアルバムで、全英1位となった5thアルバム『原子心母(原題:Atom Heart Mother)』(‘70)と彼らの最高傑作と称される8thアルバム『狂気(原題:The Dark Side Of The Moon)』(’73)の間に挟まれ、あまり脚光を浴びることはないが、本作が一番好きだと言うフロイドファンは少なくない。
狂気の天才シド・バレット

1967年に『夜明けの口笛吹き(原題:The Piper At The Gates Of Dawn)』でデビューしたピンク・フロイドは、シド・バレットのカリスマ的なリーダーシップのもとで、彼の書く曲を中心に据え、当初はサイケデリックなサウンドを展開していた。シドは内向的な性格であったからか、デビュー直後から薬物依存に走り、次第に精神を病んでいく。そのため、ライヴをキャンセルしたりスタジオに現れなかったこともあった。結局、デビュー作をリリースした1年後にはグループを脱退する。

約1年間のブランクの後にソロ活動をスタートし、70年にリリースした『帽子が笑う…不気味に(原題:The Madcap Laughs)』は、ピンク・フロイドやソフト・マシーンの面々をバックに、シドらしい奇妙なサイケデリックロックを披露している。このソロ作を聴くと彼がピンク・フロイドでやりたかったこと(プログレ的なサウンドを持ったアシッドフォークロック)がよく分かる。後にピンク・フロイドを背負って立つロジャー・ウォーターズは、シドの才能への憧れと反発を感じており、そのコンプレックスは逆に長い間彼の創作の助けとなった。
初期のピンク・フロイド

シドの不調の中でピンク・フロイドは2ndアルバム『神秘(原題:A Saucerful Of Secrets)』(‘68)のレコーディングをスタートするのだが、シドの奇行もあって、メンバーたち共通の古い友人でもあるデビッド・ギルモアをギタリストとして迎え入れることに決定、グループは過渡期の中でも真摯に自分たちのサウンドを模索していた時期にあたる。続いて、映画のサントラとして『モア』(’69)をシド抜きでレコーディング、このアルバムからギターのデビッド・ギルモア、ベースのロジャー・ウォーターズ、キーボードのリック・ライト、ドラムのニック・メイスンの4人組となる。この作品はシドの関わりがなく、新生ピンク・フロイドとしてのスタート地点に立った時期である。
大作主義者としてのピンク・フロイド

続いて彼らは、初の2枚組アルバム『ウマグマ(原題:Ummagumma)』(‘69)をリリースする。初期の集大成を目指したのか、新たなスタートという意味なのか、ひょっとしたらその両方なのかもしれない。1枚目はライヴで、これまでの代表曲を新たなアレンジで聴かせているのだが、収録曲はたった4曲(LPでは片面2曲ずつ)だ。もう1枚のスタジオ録音サイドは、クラシックやフリージャズなど、メンバーそれぞれのやりたいことをソロ作品のごとく1曲ずつ(ウォーターズのみ2曲)披露している。このアルバム(特にスタジオ録音面)はプログレというよりは実験音楽や現代音楽に近く、かなり難解な作品に仕上がっているものの、全英5位まで上昇、アメリカでも初のランクイン(74位)となり、世界でピンク・フロイドの名が知られるきっかけとなった。そして、ここから70年代中頃までピンク・フロイドはロック界のトップスターとして大活躍するのである。

続いてリリースしたのが、初期の代表作『原子心母』(‘70)である。この作品も24分におよぶタイトルトラックを収録しているだけに大作主義は継続しているのだが、B面に収録された3曲が小品ながら美しく儚げなメロディーを奏でていて、ピンク・フロイドの“ドラマチックでありながら牧歌的なサウンド”が聴ける最初のアルバムである。ヒプノシス制作の独創的なジャケット(草原で乳牛が振り返っている)は彼らの音楽性を巧みに表現していると思う。ストリングスや合唱団などの他、現代音楽の作曲家であるロン・ギーシンがゲスト参加しているためにこの作品も前作同様、プログレというよりは実験音楽的で、全英1位になったのは驚きだ。
本作『おせっかい』について

僕が中2の頃、生まれて初めて聴いたプログレが本作『おせっかい』の1曲目に収録された「吹けよ風、呼べよ嵐(原題:One Of These Days)」で、特にこれといったメロディーはなく、途中でおどろおどろしい語りが入るだけなのだが名曲だと思った。当時はシングルヒットしていたからか、ラジオで毎日のようにオンエアされていたのだが、今聴いてもやっぱり良い曲だと思う。それまでポップスやフォーク、ハードロックしか聴いておらず、初めて聴いたプログレが大好きになったのだ。この曲に見られるようなサウンドアプローチは彼らにとっても初めてで、グループにとって新たな段階に入ったことを意味するナンバーである。

何と言っても、本作には前2作に見られた派手めのゲストはおらず、メンバー4人だけで作り上げているだけに、ハンドメイドのプログレサウンドになっており、彼らの“ドラマチックでありながら牧歌的なサウンド”を創造するにはもってこいの編成だと思う。続く「A Pillow Of Winds」「Fearless」「San Tropez」の3曲は小品ながら彼らのメロディーメイカーぶりが分かるし、2分ほどの「Seamus」では唯一のゲスト犬を交えて(吠えてるだけ…w)ユーモラスなブルースを演奏している。よく考えてみると、本作はシドが脱退した後でメンバー4人だけで力を合わせて作った最初のアルバムと言っても良いのではないか。これまでのアルバム制作を通して培った技術や精神的なつながりなども含め、その集大成として収録されたラストの23分におよぶ大作「Echoes」は名曲であり名演奏となった。

グループとしてのまとまり、楽曲の仕上がり、演奏の充実度など、どれをとっても、本作はこれまでのアルバムには見られない高い完成度になっている。そして、このアルバムでの試みを、より高みへと向かわせたのが彼らの一世一代の傑作として知られる『狂気』(‘73)なのだが、決して『おせっかい』も負けてはいないと僕は思う。テクニック至上主義でないだけ華はないかもしれないが、長い間聴き続けられるのがピンク・フロイドの音楽である。

もし、ピンク・フロイドのアルバムを聴いたことがないのなら『おせっかい』か『狂気』のどちらかをまずは聴いてください。どちらも彼らのエッセンスが詰まっているだけに、伝わる何かがきっとあると思う♪
TEXT:河崎直人
アルバム『Meddle』
1971年発表作品

<収録曲>

1. 吹けよ風、呼べよ嵐/One Of These Days

2. ピロウ・オブ・ウインズ/A Pillow Of Winds

3. フィアレス/Fearless

4. サン・トロペ/SAN Tropez

5. シーマスのブルース/Seamus

6. エコーズ/Echoes


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