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2018年8月19日と20日、カマシ・ワシントンがビルボードライブ東京に出演した。本稿では20日のファーストステージの模様をお伝えする。
カマシ・ワシントンは【SUMMER SONIC】に出演して、そこからすぐにビルボードライブ東京に出演した。SUMMER SONICではパワフルなパフォーマンスでフェスの観客を沸かせていたが、この日もそのテンションはそのままのすさまじいステージングだった。
これまでカマシが来日するたびに見ているが、彼がすごいのは既存曲のアレンジも全く違うものに変えていたりすること。カマシがサックス奏者というだけでなく、作編曲家としてのアイデンティティも強く持っていることがこのあたりからもうかがえる。
例えば、人気曲の「Rhythm Changes」もこれまでと全く違う編曲と構成で演奏される。ラテン的なリズムパターンを印象的に用いながら、キメとブレイクを所々に配置し、静と動を大胆に行き来するような、原曲とは全く違うアプローチは、“編曲”の比重の大きさを感じさせた。
そんな作編曲家モードを最も感じさせたのが終盤に演奏した「Truth」。この曲はEP『Harmony of Difference』のラストに収められた大曲で、同EPに収められている「Desire」「Humility」「Knowledge」「Perspective」「Integrity」の5曲のテーマ部分をすべて重ね合わせることで出来ている。つまり5つの異なるメロディーが並行して流れることで、1つの楽曲を構成するという非常にコンセプチュアルなもの。サックス、トロンボーン、キーボード、ベース、ヴォーカルの5人で一人づつ順番にメロディーを奏で、一つ一つを重ねていき、全てが重なったところから、ダイナミックに展開していく。その重なり方がとてもやさしく、丁寧で、それが徐々に熱と力を帯びながら形を変えていく様は圧巻だった。
ちなみに「Truth」を演奏する前にカマシは、自分がミュージシャンとして世界中を旅して来たこと、そこで見たもの、聴いたもの、触れたもの、食べたものを語りながら、この曲に込められたメッセージでもある“多様性の祝福”について語った。
強烈な個性をもつそれぞれのメンバーが奏でる音を丁寧に調和させながらスタートした曲が、進むにつれて、響き合ったり、響きあわなかったり、時にはぶつかったりもする。ただ、その全てを許容することが生み出すポジティブなパワーこそがカマシ・ワシントンの音楽の根底にあることをこの曲は教えてくれる。譜面を見て完璧に音を合わせるのではなく、それぞれが楽曲を理解し、その楽曲に沿ったうえで、与えられた自由は存分に謳歌する。その自由な雰囲気がバンドを更に調和させていく。それは正に彼が語る“多様性の祝福”そのものだった。
ここ数年で、バンドの結束がより堅くなったのも感じた。ウッドベースでエフェクターを駆使してロックギターのような音を出すマイルス・モーズリーもその音色をより楽曲に貢献できる形で提示していたし、ロナルド・ブルーナーJr.とトニー・オースティンのツインドラムもその呼吸のあわせ具合と役割分担の巧みさがどんどん向上していて、LAシーンのオールスター・バンド以上のものになっていた。
そして、ブランドン・コールマンの代役的に参加していた鍵盤奏者のルスラン・シロタ(スタンリー・クラークのバンドの鍵盤奏者で、サンダーキャット『Apocalypse』にも起用されている。BIGYUKIも彼のことを“天才”と称する)の存在が印象的で、彼の硬質なタッチやタイトなリズム感、尖ったハーモニー感覚、エフェクティブで音響的なシンセの使い方などが、この日のバンドの個性にもなっていた。彼の演奏の個性を存分に活かしながらも、それがそのままバンドのサウンドの豊かさにも活かされている。それは即興性が高まる場面でこそ、より個性が表出し、その個性が楽曲の豊かさを高めていく。カマシ・ワシントンの楽曲にはそんな機能が備わっているように思えた。
その差異を認めながら、その上での調和を楽しむ音楽のことを、そのせめぎ合う差異と調和を祝福する音楽のことを僕らはジャズと呼んで、愛してきたのではないかとも思った。
ラストには新作から「Street Fighter Mas」を超パワフルに演奏してステージを後にした。『Heaven & Earth』で聴くことができたサウンドのバラエティーの豊かさやバンドの一体感、にもかかわらず明らかに感じ取れる確固たる世界観。そして、そこに込められたメッセージ。それらを強く感じることができたライブだった。
Text by:柳樂光隆(Jazz The New Chapter)
◎公演概要
【カマシ・ワシントン】
ビルボードライブ東京
2018年8月19日(日)・20日(月)※終了
〈Member〉
カマシ・ワシントン(Saxophone)
パトリス・キン(Vocals)
マイルズ・モスリー(Bass)
トニー・オースティン(Drums)
ロナルド・ブルーナー・ジュニア(Drums)
ルスラン・シロタ(Piano)
ライアン・ポーター(Trombone)
※初出掲載時、一部の表記に誤りがございました。訂正しお詫び申し上げます。
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