HYのミリオン作品『Street Story』は琉球最高峰の熱きミクスチャーロック

2018年8月22日 / 18:00

8月8日に発売されたトリビュートアルバム『CHANPURU STORY ~HY tribute~』に引き続き、8月22日にはHYがセルフカバーベスト『STORY ~HY BEST~』をリリースしたHY。というわけで、本コラムでもHYの出世作と言っていい2ndアルバム『Street Story』をピックアップ。いつもに増して独断的にその作品性を分析してみた。
世紀末に結成され、新世紀にデビュー

HYの2ndアルバム『Street Story』は彼らのアルバムの中で最高セールスを記録した作品だ。インディーズでのリリースな上、シングル曲未収録ながら4週連続1位となったのだから、当時のHY人気はちょっとした社会現象化していたとも言える(本作は2003年の年間チャートでもベスト10入りを果たしている)。

前年に同郷のMONGOL800のアルバム『MESSAGE』がインディーズアルバム史上初のミリオンセラーとなり、沖縄インディーズシーンに注目が集まったことがHYの人気、『Street Story』の好セールスを後押ししたと見る向きがあるようで、翌年には沖縄出身のORANGE RANGEが大ブレイクしているのであながちその見立ても間違っていないとは思うが、沖縄のバンドというだけでミリオンが生み出されるわけもない。HYのバンドとしてのクオリティーが確かなものであったからこそ、『Street Story』が多くのリスナーを惹き付けたことは間違いないが、“時代が呼んだ”というか(気恥ずかしい表現だが、その言い方が最も近い気はする)、この上ないタイミングでHYのポテンシャルが披露されたのではないかと思う。今回『Street Story』を聴いて、個人的にはその想いを強くした。

HYの結成は2000年で、翌年の2001年に沖縄限定のミニアルバム『Departure』を発売。つまり、彼らは20世紀最後の年に結成され、21世紀最初の年にデビューしている。リスナーとして20世紀に蓄えたものをプレイヤーとして21世紀に放ったバンドと見ることができる──強引な論法だと呆れる読者もいらっしゃるかもしれないが、もう少しお付き合いいただきたい。少なくとも『Street Story』はそうした見方が相応しい作品であることを、以下、当コラムの専売特許である独断と偏見で分析してみたいと思う。
独自のミクスチャーを展開

音楽ジャンルで言えば、HYはミクスチャーロックということだが、それで間違いないと思う。ただし、Red Hot Chili PeppersやRage Against the Machine、Limp Bizkitに代表されるロックにラップを加えたものばかりではなく、さまざまな音楽をクロスオーバーさせているという意味でミクスチャーと言える。M1「AM11:00」、M4「男前」、M5「コントロール」、M9「DREAMING」、M11「さあ行こう」、M12「Street Story」辺りがロック+ラップの所謂ミクスチャーで、洋楽というよりも、洋楽から影響を受けた邦楽──ストレートに言えば、Dragon Ashや“MOB SQUAD”レーベル勢、RIZE辺りからのインスパイアを感じさせるところだが、それらのコピーに終わらず、それぞれに独自のテイストを入れているところにHYの非凡さを見て取れる。

フォーキーでメロディアスな主旋律が特徴のM1「AM11:00」、コンテンポラリーR&B的なM11「さあ行こう」はともにしっかりとしたメロディーに堂々とラップを乗せているし、全編に三線のリフレインを配したM12「Street Story」では他のバンドには真似できない、まさにミクスチャーなサウンドを聴くことができる。それらに比べて、ラップパートが多いM4「男前」やM5「コントロール」、M9「DREAMING」はわりと類型的なミクスチャーにも捉えられがちかもしれないが、いずれもオリジナリティーを感じさせる箇所がある。ワウペダルを使ったと思われるM4「男前」のチャカポコとしたギターもいいし、バンドサウンドであるものの、どこか昭和のニューミュージックを感じさせるM9「DREAMING」も聴きどころだが、個人的に注目したのはM5「コントロール」の間奏。とてもドラマチックなギターソロが聴ける。X JAPANに代表される所謂ビジュアル系のそれにも似た印象だ。メンバーがどこまで意識的だったか知らないし、あくまでも個人の印象だけれども、この辺はこの時点でのバンドのポテンシャルが高かったことの一例ではあろう。
20世紀のさまざまな音楽を クロスオーバー

調子に乗って、もう少しばかり、『Street Story』の注目した楽曲と箇所を挙げさせてもらと──。ギターサウンドで言えば、M2「隆福丸」にJ-ROCKの系譜を感じる。イントロ頭の伸びのある旋律からエッジの立ったカッティング、そしてAメロでのスカと続くのだが、邦楽のギター史をまとめた…というとかなり語弊があるのだろうが、ジャパメタのギタリストたち、BOØWYの布袋寅泰やPERSONZの本田毅、それらのレジェンドたちに影響を受けた面々を含めて、正しき日本のギターサウンド、その遺伝子がはっきりと感じられるところではある。

あと、これはM2「隆福丸」でのコーラスワーク(というよりもツインヴォーカルと言った方がいいかもしれない)にもその片鱗を感じるところであるが、1990年代後半にブームとなったフォークデュオの匂いもする。M1「AM11:00」もその感じだが、M10「くも」はそれが濃い印象。サビのメロディー展開からもアコギ一本で演奏してもイケる感じで、シャッフルのリズムもそれっぽい。

この他にも跳ねたリズムにオルタナ風ギターを合わせたM3「トゥータン」であったり、ノイジーなアルペジオが楽曲全体に不思議なバランスを生んでいるM6「かなぶんの羽」であったり、あるいはソウルでブルージーだが泥臭くなりすぎていないM8「33ナンバー」であったり、さまざまなサウンドを巧みに取り込んでいる。あえて再度実名は挙げないが、冒頭で述べた“リスナーとして20世紀に蓄えた”と思しきものの影を感じさせつつも、コピーに堕すことなく、HYオリジナルに昇華させているのである。その見事なアレンジ能力こそが、本来の意味でHYをミクスチャーロックと呼ぶべきものだと思う。
独自性に確信的だった熱きリリック

上記は完全に独断と偏見によるものなので、HYのメンバーがどこまでそうしたサウンドメイキングを意識的にやっていたのか定かではないが、『Street Story』収録曲の歌詞からは、少なくとも彼らが自らの独自性について確信的に臨んでいたことは分かる。

《最強で最大級の言葉の弾丸 放つ大脳内をコントロール/飛び交うBeatについてこれるか??/操作不能だ そうさ 不動の音を/出す》《言葉の重厚打ち付ける/Mixtureという音の証拠を振りまこう/5つの音が描くArtでHeartに 旋律を描く》《限り無く広がる音波 上がる心拍数は/スピーカーと重なる Rhythmicalに吐き出す Melody/共に放つ言葉を形に》(M5「コントロール」)。

《止められない限界へ挑戰/止まない歡聲 止まない風/吹いているか そこに俺達の風は/屆いているか この音は》《どこまでも羽をはばたいて止まらずに/そうこの場所に用は無く/只止まる譯も無く先を行く/あの場所へ續くこの道を見續けて/見えて來たか行くべき場所は/聞こえて來たか心に響く音は》《前編ですでに後退のネジははずした/加速して行く琉球の颱風は/5つの魂を形に替え 旋律となり北上中/準備は整った用意はいいか?? /5つの旋律が描く風景畫のように/高速で暴走次世代メロディとなり腦內を洗腦/もう止められないプロジェクト/フルスピ一ドでインプット始動のし上がる/日本の頂上流球最高峰のMIXTUREが》(M9「DREAMING」)。

上記のアグレッシブなパートで繰り広げられるリリックのみならず、下記のようなラブソングにおいても“歌”や“歌う”といった言葉を配し、それを届けることに焦点を絞っていることから、いかにその点に注力していたかがうかがえる。

《歌をこの歌を もしもあなたが聞いているなら/分かって欲しい私の想い全てをかけて/あなたを愛してる》《歌を この歌をもしもあなたが/同じ気持ちで 聞いてくれているのなら/私を離さないで》《理解の上で成り立つ恋を/想い合う事で深まる愛を/あなたに気づいて欲しいから 私は歌う この歌を》《この歌はこの歌は永遠に愛するあなたに/捧げる歌なの/聞いてる? 伝わってる?/私があなたに対する愛を》(M7「あなた」)。

《星空の下で歌う歌は 風に吹かれ遙か彼方へ/行くあてのない 届くはずもない/この想いは空を彷徨う/ひたすら歌い続け 紛らわせる想いのちに/また歌となり/それがまた 今日のストーリーとなり/君への想いが強くなる》《この世界中で一番 あなたのことが好きなの…》(M11「さあ行こう」)。

白眉はタイトルチューンM12「Street Story」であろう。三線で沖縄音楽の矜持を示しつつ、楽器だけでなくメンバーの声もフルに使うことによって、よりバンドとしての一丸感を掲げているかのようなサウンドで、そこに乗せた歌詞だけにより力の入った印象はある。

《晴れの日も雨の日も/異なる表情みせるいつもの路上/いつも振り向けばあの場所があった/後から支えてくれる何かがあった》《ただ一つ、ただ一つ/この胸に残るものは光だけ/強く根付く木のように/この場所でこの場所で歌うだけ》《光が包むこの場所で/この歌が花となり/遮るものなど何もなく/この空にこの地に音は響く》《立ち止まる人/過ぎ去ってゆく人/そんなのはそこら中でありふれた話で/要はその場に何を残すか/またその場に来たい聴きたい/終わった後にその言葉が聞きたい/だから今日も空の下/僕らは僕らだけの音を出した》(M12「Street Story」)。

『Street Story』は正直言って演奏の粗さを隠し切れない印象もあるのだが、歌詞の熱さがそれを覆い隠しているようでも、演奏の粗さが熱を増しているようでもあって、そこは特筆すべき点ではある。
TEXT:帆苅智之
アルバム『Street Story』
2003年発表作品

<収録曲>

1.AM11:00

2.隆福丸

3.トゥータン

4.男前

5.コントロール

6.かなぶんの羽

7.あなた

8.33ナンバー

9.DREAMING

10.くも

11.さあ行こう

12.Street Story


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