『喜納昌吉&チャンプルーズ』が示した沖縄音楽という名の宝珠

2018年6月13日 / 18:00

先週6月6日、『喜納昌吉&チャンプルーズ』がアナログレコードで復刻。このまたとないタイミングで、当方でもこの邦楽ロックの名盤中の名盤を取り上げてみたい。沖縄音楽とロックの邂逅。その内容と意義と併せて、この傑作が登場した歴史的背景、のちのシーンに及ぼした影響についても触れてみよう。
源流を辿り、鉱脈を掘り起す試み

先日、取材させてもらった、とあるアーティストがこんなことを言っていた。「日本人ってゼロから1を作り出す能力はそれほどないかもしれないんですけど、1を10にする力ってめちゃめちゃあって。海外から入ってきたものを日本独自のものに進化させる──それこそゲームもそうだし、アニメもそうで。(中略)80年代のポップスって米国から入って来たファンクとかブラックミュージックの影響を受けているんですけど、全然違うものになっているじゃないですか」。確かに一理あると思った。日本の童歌や民謡など“日本古来と言われる音楽”(ここではあえてそう呼ぶ)は、西洋音楽に比べて音階が少ない上に、リズムも基本的に二拍子が多く、抑揚に乏しいとは言わないまでも派手な印象は薄い。そう考えると、ゼロから1を作り出す能力はそれほどないというのは正解なのかもしれない。

だが、現在のJ-POPはもちろんのこと、昭和の歌謡曲、フォーク、ニューミュージックにも、日本的音階に西洋的なリズムを合わせたものが多く、それで日本の音楽市場が世界屈指の規模になったのだから、すなわち1を10にしたと言える(厳密に言えば、日本古来のリズムは二拍子だけではないし、二拍子にしても独特の間で自由なリズムを作り出していることも付記しておく。念のため)。

ここからは完全に個人的な推測でしかないが──日本の大衆音楽がそうした構造だからだろうか。ある程度のキャリアのアーティストはルーツミュージックに向かう人が多いような気がする。民族音楽…とまでいかなくても、ジャズ、ブルース、ファンク、ソウル、レゲエ、スカといった、所謂血の濃い音楽に傾倒していく。昨今のコンテンポラリーR&Bもそうかもしれないし、“渋谷系”と言われたアーティストたちがレコードを漁ったのもそれに近い行為だったのかもしれない。日本語のロックの黎明期はまさにその連続だったろうし、日本の音楽シーンには、源流を辿り、鉱脈を掘り起す試みが常にあったと言える。
沖縄で発見された音楽の原石

1970年代半ば、まさに世紀の大発見と言っていいような出来事が起こった。概ね欧米にしかないと思われていた源流、鉱脈が日本で発見されたのだ。それは、それまで日本古来の音楽にはないと思われていた抑揚とリズムを兼ね備えており、とりわけその当時、日本独自のロックの追求に余念がなかったアーティストは色めき立ち、歓喜した。水源、原石の発見場所は──1972年5月15日、米国から日本へ復帰を果たしたばかりの沖縄。水源、原石とは、喜納昌吉&チャンプルーズの「ハイサイおじさん」である(当時は、喜納昌吉&喜納チャンプルーズ名義だった)。発見者は久保田麻琴。沖縄旅行の際にたまたま耳にした同曲に衝撃を受け、1976年に沖縄のレコード会社であるマルフクレコードから発売されていたシングルを購入し、同志、細野晴臣への土産としたことで歴史が動いた。

当時、ソロアルバム制作を中断していた細野は「ハイサイおじさん」を聴くことで一気に盛り上がり、自らの音源に沖縄音楽を始めとするあらゆる音楽を取り入れることに積極的になれたという。『トロピカル・ダンディー』(1975年)、『泰安洋行』(1976年)、『はらいそ』(1978年)と続く、細野の“トロピカル三部作”の制作背景にはそんなきっかけがあった。細野晴臣というアーティストが現在の音楽シーンに決定的な影響を及ぼした偉人のひとりであることは言うまでもないだろう。イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)を含む、はっぴいえんど、ティン・パン・アレー以降の氏の活動は、そのメンタル面においては喜納昌吉&チャンプルーズなくしてはあり得なかったと言っても過言ではないかもしれない。
沖縄音楽とロックとのチャンプルー

戦後日本の音楽シーンにおける巨大なインフルエンサーのひとつ「ハイサイおじさん」。アルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』のオープニングを飾るナンバーでもある。その沖縄特有の音階とリズムはもはやスタンダードと認識されているほどであろうから、これをして沖縄民謡と勘違いしている人もいるかもしれないが、ここに収められているのはロックバージョンと呼んだほうがいいものだ。久保田が細野への土産にしたという、喜納チャンプルーズ名義版はテンポが緩い。ネットで探せると思うので是非聴いてみてほしいが、比べるまでもなく、オリジナル版がゆったりとした感じであることは分かるはずだ。パンクカバーに近い…と言ったら分かってもらえるだろうか。Hi-STANDARDがカバーしたBay City Rollersの「SATURDAY NIGHT」やThe Mamas & the Papasの「CALIFORNIA DREAMIN’」。それらとそれぞれの原曲の違い──それくらいの差異がある。つまり、皆が知るアルバム版が、まさに沖縄音楽とロックの邂逅なのである。

本作は、当時沖縄では初めての16chマルチレコーダー(※註:これ、24chだったという話もある)をコザの民謡クラブ“ミカド”に持ち込んでライヴ録音されたものだという。そこに矢野誠、矢野顕子、林立夫らの演奏をダビングして完成したそうだ。あの躍動感、ダンスミュージックとしてのポップさはミクスチャー、チャンプルーの賜物だったと言える。“ウチナーポップ”の誕生であった。
女性ヴォーカルを取り込んだ 特徴的なサウンド

そのM1「ハイサイおじさん」以下、M2「うわき節」、M3「レッドおじさん」、M4「番長小」とリズミカルでポップな楽曲が続くが、M2では電子音が重ねられていたり、M4はどこかスパニッシュ的というか、カントリーミュージック的な雰囲気もあったり、まさにチャンプルー。ミディアム~スローのM5「東崎」でテンポは落ち着くが、こちらにはシンセもあしらわれている。個人的には波の効果音の被せ方がややあざとい印象を受けたが、アナログ盤はここでA面終了となるので、時代を考えればこの辺はご愛敬であろうか。

女性ヴォーカルの存在感も喜納昌吉&チャンプルーズの大きな特徴であることは間違いない。M2「うわき節」、M6「すくちな者」で見せる男女のコミカルなやりとりはとてもチャーミングだ。ゴスペルやソウルミュージックとは異なるアプローチだが、時に陽気に、時にあっけらかんと、そして時にセクシーに、沖縄の風土や文化を映したような歌声である。女性ヴォーカルは喜納の妹、喜納幸子が担当(当時は妻であった喜納友子も参加していた模様)。彼女は6歳の時にテレビ番組で沖縄民謡を歌っていたというから、伝統芸能の正当な継承者と言えるであろう。M1「ハイサイおじさん」では喜納昌吉が少年役、女性ヴォーカルがおじさん役であって、男女のコミカルのやりとりではないのだが、実はかなりヘヴィな物語が隠された歌詞であることを考えると(この辺は後述する)、女性ヴォーカルがその緩衝材にも中和剤にも、あるいは奥深さを増すことにもなっているのではないだろうか。

余談だが、その女性ヴォーカルの取り込み方はThe Bugglesの「Video Killed The Radio Star」(1979年)に雰囲気が似てる気がするのだが、喜納昌吉&チャンプルーズは欧州のニューウェイブにも影響を与えたのだろうか。
沖縄の歴史を包括した世界観

キャッチーなサビを持つM7「いちむし小ぬユンタク」、斎太郎節を取り込んだかのような独特のリズムのM8「馬車小引んちゃー」に続く、M9「島小ソング」でアルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』はフィナーレを迎える(再発盤では「東京讃美歌」と「島小ソング(シングル・ヴァージョン)」をボーナストラックとして収録)。“島小”とは沖縄の愛称。音楽評論家のピーター・バラカン氏をして「日本の歌でこれほどプロテスト性の強い歌詞を私は知らない」と言わしめたM9「島小ソング」の歌詞は以下の通り。

《忘んなよ 忘んなよ 忘んなよ ヘイヘイ 忘んなよ/島小島小島小島小 ヘーイ 島小島小島小 ヘーイ/ヘイヘイヘイヘイヘーイヘイ 忘んなよ》

《心や捨ていんなよホーイ 情や捨ていんなよホーイ/我んねぇ島小 ハーイ/島小島小島小 捨ていんなよ ホーイ ヘイ忘んなよ》

《捨ていんなよ 捨ていんなよ 捨ていんなよ ヘイへイ 捨ていんなよ/島小島小島小島小 ヘーイ 島小島小島小 ヘーイ/ヘイヘイヘイヘイヘーイヘイ 捨ていんなよ》(M9「島小ソング」)。

シンプルな歌詞だ。沖縄方言=ウチナーグチが使われているが、こうして文字面を見れば分かりにくい内容でもない。それをミディアムテンポに乗せた一定のメロディーのリフレイン、さらにコール&レスポンスでそれをつなげていく。正直言って、歌がとても上手いというわけではないのだが、それゆえに迫力があってメッセージを強く押し出している印象だ。

《ハイサイおじさん ハイサイおじさん/昨夜ぬ三合びん 小残とんな/残とら我んに分きらんな/ありあり童 いえー童/三合ビンぬあたいし 我んにんかい/残とんで言ゆんな いえー童/あんせおじさん 三合ビンし 不足やみせぇーら/一升ビン我んに 呉みせーみ》(M1「ハイサイおじさん」)。

少年と近所のおじさんとたわいもない会話を描いているM1「ハイサイおじさん」。少年は喜納本人で、おじさんも実在の人物であり、物語の背景には沖縄戦の影がある。[この「おじさん」はかつて喜納家の隣人であったが、妻が精神に異常をきたして実の娘の首を切り落とし鍋で煮るという事件を起こしたために村八分同然の身となり、以前から交友のあった喜納家に酒を無心に来るようになったのだという]([]はWikipediaより引用)。そんなM1「ハイサイおじさん」に始まり、沖縄を《忘んなよ》《捨ていんなよ》と叫ぶM9「島小ソング」で締め括るアルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』の構成からして、明らかにメッセージ性を帯びたものだ。しかし、“ウチナーポップ”ならではの明るさ、躍動感によって、ことさら政治的な抗議だけが前に出ているように感じられないのが、いいところなのだと思う。また、のちに喜納が発する《戦争よりも祭りを》というメッセージはこの時からすでに体現されていたと言える。
日本の音楽シーンへの多大なる影響

アルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』のヒット以降、沖縄音楽は邦楽シーンになくてはならないものとなったと言える。BEGIN、Cocco、夏川りみ、MONGOL800、HY、ORANGE RANGE etc. シーンのメインストリームで活躍している沖縄出身アーティストは枚挙に暇がない。直接的な沖縄音楽の影響下にあるわけではないが、沖縄アクターズスクールもまったく無関係というわけではなかろう。安室奈美恵も2000年の九州・沖縄サミットのイメージソング「NEVER END」では沖縄音階を取り入れている。

また、沖縄出身ではないアーティストでその楽曲に沖縄音楽のエッセンスを取り入れたている人たちも挙げていけばキリがない。THE BOOMの「島唄」やソウル・フラワー・ユニオンの「満月の夕」がその代表であろうし、サザンオールスターズや角松敏生の楽曲にもある。冒頭で沖縄音楽の伝道師のひとりと説明した細野晴臣は、YMOにおいてもアルバム『ソリッド・ステイト・サヴァイヴァー』収録曲「ABSOLUTE EGO DANCE」で沖縄音楽をテクノポップに昇華。そのYMOからの影響を公言しているBUCK-TICKの今井寿は、沖縄音階を自らのサウンドに取り入れて「Memento mori」を創作したが(アルバム『memento mori』収録)、ここにはYMOの「ABSOLUTE EGO DANCE」へのオマージュを捧げたサウンドが導入されており、面白い連鎖を見ることができる。沖縄音楽は間違いなく、日本古来の音楽となったと言えるだろう。
TEXT:帆苅智之
アルバム『喜納昌吉&チャンプルーズ』
1977年発表作品

<収録曲>

1.ハイサイおじさん

2.うわき節

3.レッドおじさん

4.番長小

5.東崎

6.すくちな者

7.いちむし小ぬユンタク

8.馬車小引んちゃー

9.島小ソング


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